介護老人保健施設(老健)とは? 図解付きで専門家がわかりやすく解説します
更新日 取材/中寺暁子
介護保険サービスで利用可能な公的施設の1つが「介護老人保健施設」、略して「老健(ろうけん)」です。サービスの内容や入所の条件、費用、ほかの公的施設との違いなどについて専門家にうかがいました。
介護老人保健施設について解説してくれたのは……
- 高室成幸(たかむろ・しげゆき)
- ケアタウン総合研究所代表
1958年京都生まれ。日本福祉大学社会福祉学部卒業。介護支援専門員や地域包括支援センター職員・施設の管理者層から民生児童委員まで幅広い層を対象に研修を行う。監修に『介護の「困った」「知りたい」がわかる本』(宝島社)、共著に『介護予防ケアプラン』(日総研出版)、著書に『地域ケア会議コーディネートブック』(第一法規出版)など多数。
介護老人保健施設(略称、老健)とは
介護を受けながら心身機能の維持、回復を図り、在宅復帰を目指すことを目的とした施設。略して「老健(ろうけん)」と呼ばれます。医療ケアやリハビリのサービスが充実しているのが特徴で、入所期間は原則的に3カ月以内と定められています。対象となるのは、要介護1以上の認定を受けた65歳以上で、病状が安定していて入院の必要がない人です。
介護老人保健施設の利用対象者
介護老人保健施設に入所するには、どのような条件が必要なのでしょうか。利用対象者について紹介します。
要介護1以上で65歳以上
要介護認定(要介護1~5)を受けた65歳以上の人で、病状が安定していて入院治療の必要がなく、リハビリを必要としている人が入所できます。要支援1、2の人は利用できません。
40歳から64歳の特定疾病による要介護認定を受けている人
40歳から64歳であっても、16の特定疾病によって要介護認定を受けていれば利用できます。
認知症の人も入所できる
要介護1以上であれば、認知症の人も入所できます。認知症専門棟を設置するなど、認知症ケアに力を入れている施設もあります。
介護老人保健施設でのケア内容
医療ケアとリハビリのサービスが中心です。多職種が連携して、利用者の生活を支援します。
手厚い医療ケア
医師や看護師が常駐し、さらに看護師の夜勤がある施設では、喀たん吸引や経管栄養など手厚い医療ケアも受けられます。医師は定期的な診察によって病気の管理を行うほか、入所者の状態が悪化したときには、施設内で可能な範囲の治療も行います。看護師は医師の指示のもと、利用者に対する日常的な医療行為をし、適切な看護ケアを実施します。
リハビリ
理学療法士、作業療法士、言語聴覚士といったリハビリの専門職が、心身機能の維持・回復を目指して利用者のリハビリを指導します。在宅復帰が目的なので、自宅の住環境と日常生活を想定した実用的な訓練を受けられます。
介護
介護職員が移動、食事、入浴など、日常生活の世話を必要に応じて行います。
栄養管理
栄養状態の維持、向上のために栄養士が食事に関する指導を行います。
生活支援サービス
居室の掃除、洗濯、買い物といった生活支援サービスがありますが、受けられるサービスは施設によって異なります。
施設設備
生活スペースである施設の設備について紹介します。
基本は共有で個人の設備はほとんどない
基本的に居室や生活設備は共有となっていて、個人用の設備はほとんどありません。ユニット型の場合、1つのユニットに対して共有スペースがあるのが一般的です。
居室
居室のタイプは、従来型個室、多床室、ユニット型個室、ユニット型個室的多床室があります。
多床室……定員2~4人の居室で、1部屋に定員分のベッドが並んでいます。
ユニット型……定員2~4人の居室で、1部屋に定員分のベッドが並んでいます。
ユニット型個室的多床室……完全な個室ではなく、多床室を間仕切りで区切った「半個室」を指します。
共有スペース
機能訓練室、食堂、浴室、洗面所、診察室、レクリエーションルーム、トイレ、調理室、洗濯室などがあります。老健は特に機能訓練室が充実しているのが特徴です。
介護老人保健施設の費用
介護保険の施設サービスを利用できるため、費用は比較的安く抑えられます。具体的な費用例について紹介します。
入居一時金などの初期費用は不要
かかる費用は月額費用だけで、入居一時金などの初期費用は必要ありません。
介護保険が適用されるため自己負担は1~3割
利用にかかる費用は「施設サービス費」「居住費・食費」「日常生活費(理美容代など)」に分けられます。このうち、施設サービス費は介護保険を利用できるので、自己負担は原則1割、一定以上所得者の場合は2~3割となります。
施設サービスを利用した場合の費用例
施設サービス費は、要介護度のほか、施設の形態、居室の種類、職員の配置などによっても異なります。
介護保険施設サービス費(1日につき。1割負担の場合)
ユニット型介護保険施設サービス費(1日につき。1割負担の場合)
※ 在宅強化型とは、在宅復帰率、ベッド回転率などが一定の条件を満たした施設
※ ユニット型とは、少人数のグループを1つのユニットとしてケアする介護スタイルのことを指します
※ 介護報酬改定(2021年)(100ページあたり)
食費と居住費
食費と居住費については、施設によって費用に大きな差が出ないように、基準となる金額が定められています。
食費の基準費用額
1445円(1日)
居住費の基準費用額
1カ月にかかる費用の例
要介護3の人が基本型施設のユニット型個室的多床室に30日間入所した場合の費用例(1割負担)
要介護3の人が基本型施設の多床室に30日間入所した場合の費用例(1割負担)
減免措置の活用
食費や居住費に関しては、所得に応じて減免措置(特定入居者介護サービス費)が設けられています。所得によって段階的に負担限度額が設けられていて、負担限度額を超えた分が支給される仕組みです。制度を利用する際は市区町村に申し込む必要があります。自治体によっては独自の減免措置を導入している場合もあります。
生活保護を受給していても入所できる
生活保護を受給している人でも入所可能です。減免措置を活用すれば、生活保護の支給内で利用できます。
介護老人保健施設の選び方
介護老人保健施設の入所期間は限られていますが、よりよい状態での在宅復帰を目指すためにも、施設選びは慎重にしたいものです。選び方のポイントを紹介します。
在宅復帰率や看取りの方針を確認する
介護老人保健施設は、在宅復帰を目的としています。施設が目的を達成できているかどうかを確認する目安の1つとなるのが、在宅復帰率です。ただし、入所者がどういう病状で入所したかによっても左右されるので、「在宅復帰率が低い=いい施設ではない」とは言えません。あくまで目安の1つと考えましょう。
在宅復帰を目指す施設ですが、医療体制が整っていることもあり、看取りも可能です。ただし、積極的に行っている施設、必要に応じて行っている施設、看取りは行わない施設など方針はさまざまです。入所前に確認しておきましょう。
リハビリやレクリエーションの内容を確認する
2018年に施行された介護保険法改正により、老健は「在宅復帰」だけでなく「在宅生活支援」の機能についても評価されるようになりました。これにより、自宅の住空間を想定したリハビリができる施設や、在宅復帰後の生活もサポートしてくれるような施設が増えています。入所中、一時的に自宅に戻るなど、段階的に在宅復帰を進められる施設もあります。
また、身体的なリハビリだけでなく、認知症の人が自宅に戻っても自立した生活ができるように、生活の工夫などについてアドバイスするといった認知症ケアに力を入れている施設もあります。認知症の人は、認知症ケアの内容や実績について確認することをおすすめします。
レクリエーションの内容はさまざまで、施設によって特色があります。本人の好みもあるので、どのようなレクレーションを実施しているか確認しておきましょう。
利用申し込みの流れ
入所したい老健があっても、すぐに入所できるとは限りません。ここでは利用申し込みの流れについて紹介します。施設によって多少の差があるので、事前に各施設に確認しましょう。
介護認定を受ける
入所するには、要介護1以上の認定を受ける必要があります。まずは役所に要介護認定の申請をして、要介護度を判定してもらいます。申請から認定までは1カ月程度かかるので、できるだけ早く申請しておくことが大切です。
※ 要介護認定について、詳しくはこちらにも
「要介護認定とは? 8区分の詳細と介護保険、申請の流れについて専門家が解説」
入所申し込みと面談
施設に直接、申し込みをします。申し込みについては担当のケアマネジャーや病院のソーシャルワーカーに相談するとスムーズです。申し込み後は、施設のスタッフと本人、家族との面談があり、身体的な状況や医療ケアの必要性などについて共有します。
書類提出と入所判定
施設利用申込書、主治医の診療情報提供書などを用意し、施設に提出。書類や面談の内容をもとに入所の可否が判定されます。
契約・入所
入所可能と判定されたら、入所契約を交わし入所日について決定します。老健は入所期間が限られていることから、特別養護老人ホーム(特養)などに比べてベッド回転率が高く、比較的入所しやすい傾向があります。
介護老人保健施設と特別養護老人ホームの違い
介護保険を利用できる公的な介護施設には、特別養護老人ホーム(特養)もありますが、役割や対象となる人、サービスの内容などは老健とは異なります。両者の違いについて、説明します。
介護老人保健施設(老健・ろうけん)
特別養護老人ホーム(特養・とくよう)
特養との違い
老健は在宅復帰を目指して短期間入所する施設であるのに対して、特養は自宅で生活するのが難しい人が介護を受けながら長期的に生活することを目的とします。老健は医師が常駐していますが、特養の場合は常駐しているわけではないので、重篤な身体疾患がある人は利用できません。
介護老人保健施設と特別養護老人ホームの比較
老健の人員配置
スタッフが連携して質の高いサービスを提供するために、介護施設には人員配置基準が設けられています。老健の人員配置について紹介します。
介護・看護職員は入所者3人につき1人
医師は常勤が1人以上、介護・看護職員は入居者3人に対して1人以上、そのうち看護職員は7分の2以上が基準となります。薬剤師は入居者300人に対して1人を標準に、実情に応じた人数が配置されます。また、入所者が適切な介護サービスを受けられるようにケアプランを作成したり、入居者と事業所の橋渡しを担ったりするケアマネジャー(介護支援専門員)は、入所者100人に対して1人を標準に配置されます。
介護・医療以外でも手厚い人員体制
介護、医療以外のスタッフも充実しています。栄養士は入所定員100人以上の施設の場合、1人以上配置されます。入所者やその家族からの相談を受けたり、入所者の様子を家族に伝えたりする役割がある生活支援員は、1人以上配置され、入所者100人に対して1人が標準になります。
介護老人保健施設はリハビリ専門スタッフがいることが特徴
リハビリの専門スタッフである理学療法士、作業療法士または言語聴覚士は、入所者100人に対して1人以上が基準となります。
メリット
高齢者向け施設は近年、選択肢が広がり、どこを選ぶか迷うものです。老健にはどのようなメリットがあるのでしょうか。
要介護1から入所できる
特養は原則として要介護3以上が入所の条件となりますが、老健は要介護1、2の人でも入所できます。
機能訓練が充実
リハビリ職員の配置が義務付けられていて、作業療法士、理学療法士、言語聴覚士によって、歩行訓練や体力向上、日常動作、発話訓練、のみ込み訓練など個人の状態に合わせたリハビリサービスが受けられます。在宅復帰を目指すため、自宅での生活を想定した実用的なトレーニングを受けられるのが特徴です。退所後もリハビリのほか、住宅改修や福祉用具のアドバイスを受けられる施設もあります。
費用が比較的安い
介護保険を利用できるので、自己負担は1~3割となります。初期費用は不要で、所得によっては食費などに対して減免措置が適用されます。
手厚い医療ケア
常勤の医師、看護師が配置されているため、喀たん吸引や経管栄養などを含め、日常的に必要な医療を受けられます。また、診察代や薬代など医療にかかる費用は、施設側が負担します。このため、高額な医療費が必要になる人は入所できない場合もあります。
デメリット
老健のデメリットについて紹介します。
入所期間が限定的
入所期間は原則的に3カ月です。ただし、3カ月経っても自宅に復帰するのが難しい場合は、延長することもできます。近年は短期入所も利用しつつ、状態によって老健と自宅を往復するような方法で利用するケースも増えてきています。
生活支援サービスは少ない
定期的な居室の清掃はありますが、洗濯や買い物などはサービスに含まれていないこともあります。
プライバシーの確保が難しい
多床室の場合は費用を抑えられますが、1部屋に2人~4人が共同で生活するため、プライバシーの確保が難しくなります。
イベントやレクが少なめ
リハビリが中心となり、期間も限定的なのでイベントやレクリエーションが少ない傾向があります。一方で、さまざまなレクリエーションをとり入れたり、地域住民と積極的に交流したりする施設もあります。