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介護の働き方改革 適性やライフスタイルに合わせて働ける職場づくりを提案

シニア世代にとって働きやすい職場は、若い世代から子育て世代にとっても働きやすかった――。
全国に介護事業所を展開する株式会社ソラスト(東京)では、介護職員の業務と周辺業務のみを行う介護助手のような職種や業務の切り分けという手法をせずに、多様な世代が活躍できる職場を実現しています。コロナ禍で異業種からの転職希望者も多く集まってきています。ソラスト人材採用部介護人材採用課ディレクターの遠藤由美子さんに、人が集まり、長く働ける職場づくりについて聞いてみました。

課題:スタッフに定着してもらうためにはどうしたらいいのか

介護イノベーター:遠藤由美子さん(えんどう・ゆみこ)
大学卒業後、広告代理店に入社。人材採用領域で約20年間「人が働く」という分野を担当。その後、高齢化が進展する日本で重要な役割を担う介護業界の採用活動に取り組みたいとの思いから、2015年に株式会社ソラストに入社。現在、人材採用部介護人材採用課ディレクターとしてシニア世代の採用にも携わる。

スタッフの3割近くを60歳以上が占める

遠藤由美子さんが考える、アクティブシニアの活用ためのポイントは次の五つです。

  1. 募集業務とマッチングすれば採用を検討し、その人にふさわしい業務配置を本人へ提案する
  2. 就業に関する不安や心配を払拭するような情報を発信し、介護現場の「見える化」を図る
  3. 独り立ちするまで先輩スタッフがマンツーマンで指導するなど安心して仕事が覚えられる体制を構築する
  4. 体力的にハンディがある方は、こまめな声かけやシフト調整など、各事業所でできること考えて、配慮する
  5. 働く意欲を高めるためにポイント付与などのインセンティブ制度を導入する

医療事務や介護、保育サービスを展開するソラストは、施設サービスから通所・訪問サービスまでグループ全体で650カ所(2021年12月末時点)余りの介護事業所を全国で運営しています。介護現場で働くスタッフはドライバーを含めると約4800人おり、そのうち60歳以上のスタッフは約1500人と全体の3割近くを占めています。

「高齢者の暮らしを支える介護サービスの種類は実に多様で、現場によって欲しい人材は異なります。業務の内容がバラエティーに富んでいる分、シニア世代も働きやすいという特徴があります。当社では、シニア世代であっても募集している業務とマッチングすれば採用を検討し、その人にふさわしい介護現場で活躍してもらうことを基本方針としています。また、何歳になってもチャレンジする機会を創出することはシニア世代の介護予防にも役立ち、健康寿命の延伸にも貢献すると考えています」

介護の現場で働くことへの不安を払拭する募集手法

介護の現場での人手不足の要因の一つとして、介護事業所内の多様な業務が外から見えにくく、そのため「自分に務まるのか」という不安につながってしまっている側面があります。ソラストではシニア世代の方々が介護の仕事に就くうえでの不安や心配なことを調査し、そのデータをもとにその不安や心配を払拭するような内容の募集案内を発信しています。

例えば、自社の求人サイトでは、訪問介護なら1日のスケジュールについて訪問件数を含めて具体的に示し、移動手段は車なのか自転車なのかも明記します。また、職場の人間関係を心配する人も多いので、スタッフの集合写真や動画を掲載し、視覚的な情報も提供しています。

さらにハローワークだけでなく、国や自治体が運営している高齢者の就労に特化した媒体や民間企業が運営する各種求人媒体なども活用しながら、多様な世代の募集に力を入れています。

運動会を企画し、利用者とコミュニケーションをとるスタッフ

適性を見極め、それに応じた介護現場に配属

ソラストでは、シニア世代のスタッフに対しても現役世代と「同等の戦力」として期待しています。そのため、食事の配膳・下膳、お茶出し、掃除といった周辺業務をあえて切り分けず、すべて生活の支援の中に含めています。また、これまでの経験や希望、適性によっては身体介護も担当してもらうことがあります。

「現役と同等にシニア世代の人たちに活躍してもらうためには、一人ひとりの適性を見極め、それに応じた介護現場に配属することが大切です。同時に、介護の現場で働くうえでの不安や心配をくみ取り、サポート体制を充実して働きやすい職場にしていくことが肝心です」

近年、業務の効率化を図るためにパソコンやタブレット端末による事務処理が一般化してきています。シニアの方々の中にはこうした操作が苦手で事務処理能力の不安を抱える人も少なくありません。そこで、ソラストでは各事業所の管理者がマンツーマンで時間をかけてパソコンやタブレット端末の使い方を教えています。

また、介護業界で初めて働く場合は、現役世代と同様にシニア世代の方々にも自治体の制度を活用して初任者研修を受講してもらうほか、社内でもキャリアセンターが中心となってeラーニング制度による体系的な研修をしています。介護職未経験の方には、世代にかかわらず、独り立ちするまで先輩スタッフがマンツーマンで指導するエルダー制度を導入しているので、シニア世代も安心して仕事が覚えられる環境を整えています。

何でも言い合い、助け合える関係性を築く

各事業所でも多様な世代が働きやすい職場づくりに熱心に取り組んでいます。東京都江東区亀戸にある小規模多機能型居宅介護「天神あやめ」ではドライバーを含む介護スタッフ17人のうち60歳以上のスタッフが11人(常勤職員2人、非常勤職員9人)います。

スタッフの定着を高めるうえで管理者の及川浩子さんが、とりわけ腐心してきたのは「何でも言い合える雰囲気づくり」です。「人の役に立ちたい」という思いや「ありがとうと言われることがうれしい」といったやりがいがあっても実際の介護現場では苦労も多く、一人で抱え込まず、スタッフ全員で助け合うことの大切さを伝えてきました。

「人生経験の豊かなシニア世代が多いと、若手スタッフはいつでも相談に乗ってもらえるよさもあり、それが何でも言い合える雰囲気づくりに役立っています」

一方、体力的なハンディがあるシニアスタッフには、「今日の調子はどう?」「疲れていない?」などこまめに声かけすることを続けてきました。シフトを組む際には若手スタッフとシニアスタッフをペアにするといった配慮もしています。

「訪問介護では若手がシニアに代わって遠い場所を引き受けてくれたり、逆に体格のよい利用者さんの入浴介助をしていると若手をシニアのスタッフがサポートしてくれたりしています。フォローし合える関係性の構築が大切です」

働く意欲を高めるためにインセンティブ制度

生産年齢人口が減少する中、介護人材を確保するためには、多様な人材を受け入れて定着率を高めていくことが不可欠だと指摘します。世代によって介護の仕事に就くことへの不安は違う部分がありますが、シニア世代にとって働きやすい職場は、他の世代にとっても働きやすいはずと考えています。

そこでソラストでは、働きやすい職場を目指して「働き方改革」に取り組み、配慮と工夫を凝らしてきています。

「働きやすさを決定づけるのは、第一に職場の風通しや人間関係の良さなので、コミュニケーションづくりに注力しています。例えば、各事業所では普段面と向かって言いにくい感謝の言葉などを専用のメッセージカードに書き込んで交換することをしています。また、各地で定期的なミーティングを開催しています。本社経営陣と現場スタッフが意見交換できる場を設け、そこで拾い上げた意見をもとに働き方に対するサポートを強化しています」

スタッフの働く意欲を高めるためにインセンティブ制度も導入しました。評価基準(提案、目標達成、上長申請など)に応じてポイントを付与される仕組みで、貯まったポイントは日用品から旅行まで約1万以上のアイテムと交換できます。

仕事の継続と生涯キャリアの実現を支援

ICT(情報通信技術)の活用も積極的に推進しています。通所介護に特化した介護記録システムを独自に構築し、各事業所で運用を開始しました。

「情報を電子化することでミスが減り、スタッフの業務効率も大幅に向上しました。これにより利用者さんに接する時間が増え、お互いの満足度も高まっています。ご家族との情報共有も電子化によって簡便に行えるようになり、より充実したものになりました」

スタッフの約9割が女性であるため、仕事と家庭の両立支援にも注力しています。育児、介護中のスタッフに対する「短時間勤務/時差勤務制度」では制度利用期間の上限を撤廃し、「育児・介護の負担が解消されるまで」としています。また、出産・育児、介護のために退職しても6年以内であれば復職できる「ウエルカムバック制度」もあります。

「家庭の事情等に捉われない柔軟な働き方を可能にすることで、仕事の継続と生涯キャリアの実現を支援していきたいと考えています」

「コロナ禍の影響により飲食業界をはじめ異業種からの転職者が増えています。また、子育て中のお母さんたちのパート希望者も多いです。世代、そして常勤・非常勤にかかわらず、その人のライフスタイルやライフステージに合わせて職場や働き方を自由に選択できる環境を用意することが、多様な人材が集まり、長く働いてくれる定着につながっていくのです」

スタッフは多様な利用者を理解しながらサポートしている

 

小山真一郎さんからのメッセージ

長く働くためには一人で頑張り過ぎないこと

小山真一郎さん(こやま・しんいちろう)
61歳。出版業界を中心に複数の職業を経験した後、介護業界に転職。人材派遣会社の紹介により2018年から「天神あやめ」で非常勤職員として働き始める。キャリアアップを図り、20年2月より常勤職員。
小山真一郎さん

前職の会社が倒産し、仕事を探していて面白いと思ったのが介護の仕事でした。「ありがとう」と無条件に感謝される職業は他にあまり見当たらないし、亡くなった母親の介護を十分にできなかったことも動機の一つになったかもしれません。また、対人関係の仕事に就きたいという思いもありました。住宅ローンが残っていて働かなければならない状況でしたが、この仕事を選んだ理由は「収入がすべて」というわけではなかったのです。

人材派遣会社で面接を受けたものの「即戦力が欲しい」と断られたので、初任者研修制度を受講し、資格を取ってから現在勤務する株式会社ソラストを紹介してもらいました。自宅から近い職場を希望したら、自転車で5分の場所にある「天神あやめ」を紹介され、面接を受け、ここに勤めることになりました。

人生で培ってきたスキルを介護の現場で活用できるようになってきたという小山さん

小規模多機能型居宅介護では、通い、泊まり、訪問介護の各サービスを提供しています。最初から週5日×8時間のフルタイムで働き始めましたが、非常勤職員だったので日勤のみで、通いと訪問介護を担当しました。泊まりの夜勤や入浴介助をするようになったのは常勤職員になってからです。介護経験や介護技術に応じて業務内容がレベルアップしていく仕組みは働いていて安心です。

食事の支度などの家事は日常的にしていたので、それほど抵抗はありませんでしたが、介護の仕事は想像していたよりも大変でした。利用者さんの身体機能を最大限に生かしてQOLを高められるようにサポートすることが大切です。利用者さんの動きを見守ることも多く、精神的に辛いこともありますが、接客の経験が役立って利用者さんにうまく対応することができています。これまでの人生で培ってきたスキルをどんどん持ち込んだ方が良い介護や支援ができると考えるようになりました。

運動会で、ボールをリレーするゲームを見守る小山さん

長く働くためのポイントは、一人で頑張り過ぎないこと。できないことは「できない」と伝えて、職場の仲間に助けてもらうことが肝心です。ここにはフォローし合える環境があるから、私だけでなくトライアル就労で入ってきたシニアの人たちも続いています。週1回程度であれば心身の負担も少ないし、楽しく働けると思います。おこずかい稼ぎにもなり、シニア世代にはおすすめです。何よりもお年寄りに対する視点が変わり、普段の生活の中でも優しく接するようになれたことは得難いことでした。

▼介護の現場で働き続けられる理由と条件

  • 介護技術に応じた業務を担当できる
  • 過去の経験やスキルを活かせる
  • 一緒に働く仲間と助け合える環境がある
  • 自宅から近くて通いやすい

株式会社ソラスト

1965年、日本初の医療事務教育機関として創業(代表取締役社長CEO・藤河芳一)。その後、診療報酬請求事務をはじめ、医療機関の医療事務全般を受託するようになり、1999年には介護分野、2002年には保育分野へと事業領域を拡大する。2021年3月末現在、全国で約3万人のスタッフ(約9割が女性)が医療事務、介護、保育の仕事に従事する。

小規模多機能型居宅介護「天神あやめ」

2011年7月設立(施設長・及川浩子)。東京都江東区内に4カ所しかない小規模多機能型居宅介護の一つとして区南部地域をカバーする。建物も小規模でアットホームな雰囲気を大事にしており、認知症の高齢者も安心して利用している。通いや泊まりのほか訪問も随時実施している。定員:登録29人、通い15人、泊まり5人。利用者の平均年齢は84歳。要介護度の平均は2.4。職員数は17人。

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