埼玉県すごくね?国に先がけ全数調査 見えた本音 ヤングケアラー調査隊
最近、さまざまなメディアで「ヤングケアラー」と呼ばれる子どもたちがよく取り上げられています。でもぶっちゃけ、どのような存在なのか聞かれたら、あなたは即答できますか? 認知症だった祖父母の介護を7年間続けてきたゆずこが、いろいろな人たちに話を聞いてひもときます。名付けて「ヤングケアラー調査隊」。一人だけどな!
国より先に動いた埼玉県!
全国初のヤングケアラーの大規模実態調査、その担当者を直撃してみた!
今、埼玉県では、ヤングケアラーを含む“ケアラー支援”の動きがとても活発になっています。たとえば、2020年に全国初の、ケアラー(介護する人)を社会全体で支えていく「ケアラー支援条例」が埼玉県議会で制定されました。その対象には、18歳未満を対象としたヤングケアラーも含まれています。そして具体的な支援策や方針を定める計画策定の一つとして、県内すべての高校2年生を対象にヤングケアラーの実態調査を行いました。この規模のヤングケアラーの実態調査は、実は日本で初めての試みです。
その後、2021年4月に、国が初となるヤングケアラーの全国調査を公表し、新聞やテレビなどメディアでも一斉に取り上げられました(詳しくはこの連載の第1回を見てネ♪)。その調査を踏まえて、国は「早期把握」や「相談支援」、そして「家事育児支援」「介護サービスの提供」など、大きく4つの支援策をまとめました。
つまり、埼玉県は国を動かしたと言っても過言ではなく……冷静に考えて、結構すごくないですか?
だってどこよりも早く大規模なヤングケアラーの実態調査をして、条例作っちゃって、さらに国まで動かしちゃった(?)んですよ?
ただ同時にすごく気になるのが、なんで埼玉なんだろう?ということ。どの記事や番組を見ても、埼玉県の結果を公表したり分析しているものは多いのですが、「なぜ埼玉?」にツッコミを入れているものが見当たらないから不思議。気になったら即突撃、直撃。あわよくば、あまり知られていない調査の裏側も聞いてみたい。全国初のケアラー条例(ヤングケアラー含む)の制定や実態調査の核となって動いている、埼玉県の地域包括ケア課のみなさん、なんかもう、まとめて教えてくださ~い!
「はい(笑)。埼玉県は、少し前まで『(年齢が)若い県』と言われていたんです。でも、ここ5年ほどで、全国でもトップクラスのスピードで75歳以上の後期高齢者の方が急増しています。そして、条例ができる以前の2016年頃から『(ケアが必要な)高齢者の方が増えるなら、ケアする人の数も負担も増える。ヤングケアラーと呼ばれる子どもたちも含め、これは今後絶対にケアラーの支援が必要になる』と感じるようになり、ケアする側の人々を対象にした支援やサポートが検討されはじめたんです。
具体的な動きとしては、ケアラー支援の必要性を訴えていた民間団体の方々にお話を聞いたり、2017年から地域包括支援センターの職員向けの研修を行ったりしました。埼玉県議会の県議団の皆さんがプロジェクトチームを作って、検討を重ねたりもしました。そんな流れがあったからこそ、条例の制定に繋がったのだと思います」(地域包括ケア課 石井悠史さん)
早くから「ケアする人をケア(支援・サポート)することの大切さ」に気付き、その必要性を訴えてきたのですね……やっぱりすごいぞ、埼玉県。
誰かに話したいけど話せない。「普通の子」でいたい
ヤングケラーの大規模な実態調査の結果、埼玉県内の高校2年生の4.1%、およそ25人に1人がヤングケアラーであることが分かりました。結果を見た率直な感想は……?
「けっして少なくはないですよね。たとえば、<ケアにかける時間>は40.4%の子どもたちが『1時間未満』と答えていますが、一方で6時間~8時間、または8時間以上もケアにかけている子どもたちも存在します。<学校生活への影響>という設問では、『影響なし』が41.9%でしたが、それに続いて多かったのが『孤独を感じる(19.1%)』『ストレスを感じている(17.4%)』という声です。
よく聞くのは、『周りの友だちに話しても分かってもらえない』『しらけちゃう』『学校生活にケアの話を持ち込みたくない』という意見です。
さらに<悩みを話せる人がいるかどうか>という質問に対しては、『いない』という回答は25.4%です。およそ3割の子どもたちが、不安や悩みを誰にも打ち明けられずひとりで抱え込んでしまっていると思うと、非常に心が痛みます」(石井さん)
調査票の自由記述の欄に、こんなことを書いたお子さんもいたそうです。
- 突然ヤングケアラーが大変だとか、支援が必要と言われても、本当に大変な人はできるだけそっとしておいてほしいと思う。学校でヤングケアラーという人が自分たちの周りにいるということを教えるのは良いことだとは思うがそれによってへんに気をつかわれたりすると息抜きの場である学校までも失ってしまう。それでもヤングケアラーを手助けしたいならば正しい知識を広めていってほしい。
- (原文ママ)※
- ※『埼玉県ケアラー支援計画のためのヤングケアラー実態調査結果』より、一部抜粋(2021年2月16日更新)
- https://www.pref.saitama.lg.jp/a0609/chiikihoukatukea/jittaityousa.html
わたくしゆずこも、元当事者として、この気持ちめっちゃ分かります。
ストレスがたまって本当にケアとは無縁の世界に行きたいとき、想像力を駆使して脳内で別の人生を想像して、空想の世界を楽しんでいたっけ……
調査票に書かれた、揺れ動く子どもたちの思い
この調査を実際に担当した石井さんは、設問の“ある結果”にも注目しました。
「先ほど、<学校生活への影響>の回答として『影響なし』と答えた子どもたちが41.9%で一番多かったとお伝えしましたよね。でも、調査の対象はみな“思春期の子どもたち”です。私たち担当の職員のほか、ケアラーの支援策や調査内容を考えてくださる有識者の方々からも、『思春期ならではの周囲への強がりなども考慮する必要がある』という意見が多く出ました。そして、『影響なし』と回答した子どもたちの数を鵜呑みにするのではなく、悩みや困りごとなど、そちらの方に重きを置いて支援の政策を考えるべきだと。本当にその通りだと思います」
回収した調査票の用紙は、なんと段ボール箱およそ140箱分もあったとか。集計は専門の業者さんや別の部署の助っ人も加わり
ましたが、核となる担当職員は、石井さんを含めてたったの3人だけ。マスコミに調査結果をせっつかれながらも、一枚一枚、子どもたちがつづった思いを丁寧に読み込まれたそうです。
「実は、調査票の最初の問い<自身がヤングケアラーだと思うか>に対して、『いいえ』と答えた子どもたちの中に、質問が進むにつれて『実はケアをしている』と回答したり、自由記述欄にケアの状況を書いたりするケースがありました。調査票に子どもたちの揺れ動く心がすごく表れていました」
背景にある、子どもたちの不安や悩み。発表されている調査結果の数字だけ見ても、ぜったいに分かりませんでした。直撃してよかったです。まじで。
「あはは。そう言っていただけて嬉しいです。埼玉県の取り組みが『国を動かした』と言ってくださる方も多いのですが、私たちは偉くもないし、すごくもありません。本来であれば、国やすべての自治体で区別なく支援が実施されるべきだと思っています。埼玉県としても、ヤングケアラーを含めたケアラー全般の方々に、より必要な支援が届くような体制をどう構築していくか、引き続き検討を進めていきたいと思います」
ゆっくり、でも確実に。今、ヤングケアラーを取り巻く環境が変わりはじめようとしている。そんな雰囲気をビンビンに感じる取材でした。
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