「いま」を真空パック、ショートフィルムがつなぐ世界 別所哲也さん
取材/天野みすず
認知症の新しいイメージを広げようと開催している「なかまぁるShort Film Contest 」が今年も作品募集中です。このコンテストを共催する、ショートフィルムの総合ブランド「SHORTSHORTS」代表で俳優の別所哲也さんが、ショートフィルム(短編映画)の魅力や、ジョージ・ルーカス監督との縁などを語ってくれました。
――ショートフィルムとの出会いを教えてください。
僕が俳優として映画デビューしたきっかけが、日米合作のハリウッド映画だったこともあり、東京とロサンゼルスを行ったり来たりする機会がありました。1997年、友人に誘われ、ロサンゼルスでショートフィルムを上映する場所に行きました。10本見たのですが、作品ごとに可能性や面白さを感じて、雷に打たれたようでした。「映画は長くなくてもいいのではないか」と思いました。
若手の俳優や監督たちの最初の一歩がショートフィルムだということに気づかされ、その日の夜から興奮し続け、翌日には南カリフォルニア大学のフィルムライブラリーで、いろんなショートフィルムを一日中みました。
ジョージ・ルーカス監督が学生時代に作ったショートフィルムを見つけて、ますます魅力にとりつかれました。興奮冷めやらぬ状態で日本に帰ってきて、ショートフィルムの面白さを話すんですけど、誰にも理解してもらえなくて……。「じゃあ、試写会レベルから始めよう」と1年以上かけて準備をし、99年6月、アメリカから作品を紹介する映画祭をスタートし、もう23年になります。5年目に入ろうとした時に、東京都の共催を得て、アジアを強化しようと作ったアジア部門は18年目、兄弟映画祭の形をとっています。
「ジョージ・ルーカスには感謝してもしきれない」
――映画祭ではグランプリに「ジョージ・ルーカスアワード」が贈られるそうですね。ジョージ・ルーカス監督とのかかわりを教えてください。
「ルーカスのショートフィルムを日本で紹介したい」と送った一通のメールから始まりました。ビギナーズラックなのか、1年目はちょうど、映画「スター・ウォーズ」の公開と重なり、6月にあった映画祭の時期にルーカスが来日されていました。アメリカ大使公邸で、主にアメリカから招いたフィルムメーカーと一緒に、パーティーをやらせていただいたのですが、サプライズでご参加いただきました。
当時、ルーカスは「日本にはショートフィルムの映画祭はないのか」と驚いていました。ショートフィルムの映画祭をやること自体をすごく歓迎してくれました。あれから20数年、手紙をもらい、「ジョージ・ルーカス・アワード」と彼の名前がついたアワードを持つ世界でたった一つの映画祭に成長しました。ルーカスには感謝してもしきれないです。
――アカデミー賞公認だそうですね。その経緯を教えてください。
ハリウッドでデビューしましたし、映画祭を逆輸入する形で、「ロサンゼルスでやれたらいいね」と話していて、2002年に現地で映画祭を開きました。アメリカのアカデミー協会の方が何人かいらっしゃっていたのがきっかけで、04年に公認をいただきました。本当は10年ぐらい安定的な開催実績がないと、信頼性の点で公認されないんです。僕たちは数年にして公認をいただく異例のスピードでした。
――映画祭の代表として力を入れていることは何ですか?
最初は日本で短編映画を普及させ、面白さを伝えることでしたが、その後は、世界中のフィルムメーカーや映像作家とつながること、日本やアジアの映像作家の考え方や作品を伝えること、アジアや世界を理解すること、そして自分たちの指標で評価することでした。
よく海外の映画祭で、「日本人がどのような評価基準を持っているのか、何をよしとして、何をよくないと思っているのかわからない」と言われます。例えば、カンヌ映画祭で受賞すると手放しで喜ぶのですが、果たして自分たちの評価基準や自分たちの目で価値算定しているのかと。自らの評価発信を海外では求められるので、いわゆる評価軸として機能することがミッションでもあります。
10周年以降はデジタル化がどんどん進んで、ドローン、VR(仮想現実)やAR(拡張現実)といったxRと、様々な表現方法が加わりました。今年の映画祭では、縦型映像に特化したショートフィルムやスマートフォンで制作したショートフィルムなども紹介させていただくのですが、改めてテクノロジーの進化を伝える場所が映画祭だと思います。
また、コロナ禍で、国際的なつながりが遮断されて分断が起きるなかで、分断ではなく、わかちあい、つながっていくのが、映画祭の本質としても重要なことだなと思っています。
女性監督をフィーチャー
――女性のクリエーターを支援する活動をされていますね。
アメリカと日本を行ったり来たりするなかで、女性活躍とか、ジェンダーを越えて一緒に協力しながら作る基盤は欧米、とりわけアメリカの西海岸では根付き始めていると感じるんですけど、それでもやはり、#MeToo運動が起きる状況があり、男社会があります。
女性監督をフィーチャーし、女性の視点で表現する場をつくろうとLadies for Cinema Project(レディースフォーシネマプロジェクト)を始めました。今年で3年目を迎え、取り組みが本格化するなか、女性監督作品をオンライン配信し、剛力彩芽さんやLiLiCoさんの協力をいただいてオンライントークセッションをしました。国際的に女性監督を支援する活動をされている方ともつながっていこうと考えています。
――コロナ禍で映画館が苦境に陥っています。
映画館や映画を愛する人間としては寂しい現状です。数年前までは横浜で映画館を運営していました。3年前、映画祭20周年を機にオンライン開催にしましたが、映画館の椅子に座ってポップコーンのにおいをかぎながら、大きいスクリーンで非日常的な映画体験をするという素晴らしさはなくならないと思うんですよね。
僕は映画館をお風呂に例えるんですけど、家にも内風呂がほしいし、温泉にも行きたいじゃないですか。いろんな楽しみ方がお風呂にもあるように、家で楽しむ映画、ポータブルで楽しむショートフィルムの楽しみ方があります。僕たちも映画祭というからには、リアルな開催も今回やらせていただいて、みんなで集う場所もつくります。これも、ちょっとした非日常的体験です。
広告も心を動かすことが大事に
――マーケティングや広告などをテーマにした世界最大級のイベント「Advertising Week Asia 2021」が5月、オンライン開催されました。そのセッションで伝えたかったことを教えてください。
ショートフィルムは五感を刺激する、人と人がつながるコミュニケーションムービーだと思っています。心を動かすということが、これからの広告であったり、情報伝達に必要だと思うんです。もうスペックを語る時代は終わったというか。「ここがいいですよ」「こういう効能ですよ」というのは、ネットを見れば手に入れることができます。これからの消費行動は、自分にとって意味がある感覚、感情、共感、あるいは拒絶する時の違和感によると思います。
SDGsやソーシャルグッド、より共感度の高いストーリーテリングやエモーショナルな世界が中心になり、同じモノを買うにしても、地球も人もですが、何かの犠牲の上に成り立っているものは持っていて楽しくない、意味がないっていう感覚は世界共通になっていくと思います。児童虐待があったり、人権を無視したりしてつくられた洋服を着たくないですからね。
ショートフィルムは小さなブティックのようなものなので、時代を映しやすいんですよね。映像作家が伝えたいと思う問題意識とか社会課題とか、自分の中にある面白いと感じるものを映し出していくのですが、そのなかに女性、環境、SDGs、コロナなどが、みなさんの大きな関心事としてあるんだと思います。
――これから取り組みたいことはなんですか?
俳優としてもそうですし、映画祭を通じても、出会えた人とのご縁、国際的なご縁を育てたいです。また、ショートフィルムが世界から5000本、6000本と集まるなかで、作品が持っている一つひとつのデータ、一人ひとりの人間の物語をどう集積して社会に役立つものにできるのかというビッグデータビジネスにしていきたいと思っています。
ショートフィルムも映画も、世界の「いま」を真空パックした作品が多いので、いまの日本人の生活様式とか考え方、アジアのいろんな国の問題や考え方、世界の考え方を映し出した作品をアーカイブして、未来の子どもたちに残したい。これもデータアセットマネジメントだと思うんです。
「あの時代にこういう作品があって、こういうことを議論したんだ」「こういう風に宇宙や火星に行くことを話していて、いま火星に住んでるんだ」と、2050年とか2060年に見返して意味のあるショートフィルムのデータバンキングみたいなことをやりたいです。
*&Mの記事を転載しました。
- 別所哲也(べっしょ・てつや)
- 1965年、静岡県島田市出身。藤枝東高校、慶應義塾大学法学部を卒業。90年、日米合作映画『クライシス2050』でハリウッドデビュー。米国映画俳優組合(SAG)メンバーとなる。その後、映画・TV・舞台・ラジオ等で幅広く活躍し、第1回岩谷時子賞奨励賞、第63回横浜文化賞を受賞。99年より、日本発の国際短編映画祭「ショートショート フィルムフェスティバル & アジア」を主宰し、文化庁文化発信部門長官表彰を受賞。観光庁「VISIT JAPAN 大使」、外務省「ジャパン・ハウス」有識者諮問会議メンバーに就任。内閣府「世界で活躍し『日本』を発信する日本人」の一人に選出。ショートショート フィルムフェスティバル & アジア 2021は6月11日(金)~21日(月)まで開催。※オンライン会場は4月27日(火)~6月30日(水)。