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\祝!書籍化/連載「認知症、はじめました。」著者にあれこれ聞きました

連載「認知症、はじめました。」のあさとひわさんが、なかまぁるに書き下ろしてくれました
連載「認知症、はじめました。」のあさとひわさんが、なかまぁるに書き下ろしてくれました

なかまぁるで人気連載中の「認知症、はじめました。」が、6月7日に出版されました。タイトルは『ねぼけノート 認知症はじめました』と書籍オリジナルに変わります。
レビー小体型認知症と診断された父親を中心に、母親と娘である作者のあさとひわさんの実体験を描いたこの作品。症状にとまどう父親の姿や介護の現実がリアルに描かれる一方、ほっこりとする作風が魅力で、書籍化を望む声も少なくありませんでした。
この作品が生まれた背景やご両親との向き合い方について、あさとさんにお話をうかがいました。

「親がいつかは」という予感はあったけれど…

──認知症になる前のお父さんとあさとさんの関係は、どのような感じだったのでしょうか。

我が家は昔から「仲良し家族」ではなく、父とは仲が悪いとまでは言えないけれどちょっとよそよそしさがある感じ。私が社会人になって一人暮らしをするようになってからも、その距離感は変わらないままでした。ただ20代後半になると母が「結婚はまだか」と、帰省するたびに圧力をかけるようになって。それが本当に嫌で、1時間半で行ける距離にもかかわらず、実家から足が遠のいていました。帰省は年に1~2回という状況が数年続いていたときに、母から「父さんの様子がおかしいんだわ」と連絡が来たんですね。

なかまぁるの人気連載「認知症、はじめました。」の第1話では、ある日、「父さんの様子がおかしいんだわ」と母から電話を受けます。ここから、認知症になった父とのお話が始まります
連載「認知症、はじめました。」の第1話から

──お父さんが認知症だとわかったとき、どう感じましたか。

こんな日がいつかは来るだろうというぼんやりした予感はあって、母から電話をもらったときは「きたか」と。すごろくの中に「親がぼける」というマスがあって、そこにピタリと当たってしまった感じです。すごくショックで、感情がなくなったというか……。ただ予感があったわりには何の準備もしていなかったので、母の電話を受けてからあわててインターネットで認知症のことを調べ、翌日私も病院に付き添いました。

なかまぁるの人気連載漫画「認知症、はじめました。」。書籍タイトルは『ねぼけノート 認知症はじめました』と新しくつけられました。編集中の朝日新聞出版にお邪魔しました
『ねぼけノート 認知症はじめました』を編集中の朝日新聞出版にお邪魔しました

──そこからあさとさんは実家に通うことが増え、お父さんと向き合う日々が始まります。この日々が、連載「認知症、はじめました。」のもとになっているそうですね。なぜ漫画を描いてみようと思ったのですか。

父の様子は日々変わっていくんですよね。認知症の人と間近で接するのは初めてですから、「へぇー」「こういうふうになるんだ」と思うことがたくさんあって。「どんなことがあったのか忘れないように書き留めておこう」という軽い気持ちでした。私自身、観察ノートとして漫画を描くことで、ちょっと引いた位置で父を見て、少しずつ父の認知症を受け入れられたのかもしれません。

あさとひわさんの人気連載マンガ「認知症、はじめました。」の書籍編集風景。完成間近の表紙とカバーと帯です。あさとさんは、この表紙の“父さん”のイラストを一発OKで描き上げたそうです
完成間近の表紙とカバー、帯。あさとさんは、この“父さん”のイラストを一発OKで描き上げたそう

認知症になったからこそ生まれた家族の時間

──連載することになった時は、なかまぁるの読者に向けて、描き方を工夫したところはありますか。

私は、介護や認知症に対して知識も経験もない、まるきりの「初心者」でした。介護に興味のある人だけでなく、「介護が始まりそうで気が重い」とか、「いずれ介護に向き合わなきゃならない気がするけど、現実的に直視したくない」という人でも抵抗なく読めるものにしたかったです。
もちろん父と向き合っている中で大変なことは多く、母にイライラさせられることもしょっちゅうあります。でも大変なことをそのまま大変だと描いても、意外性がないというか、あえて漫画にする醍醐味に欠けるような気がしたんですね。私にとって面白い部分は、介護の大変さよりも「予想外の発見」のほうだったので、その視点で描いてみたいと思いました。

なかまぁるは、認知症の人たちが仲間と一緒に、自分らしい暮らしを続けていくためのウェブメディアです。連載「認知症、はじめました。」では読めない描き下ろしも掲載されている書籍『ねぼけノート 認知症はじめました』の編集風景。原稿に、修正などを書き加えていきます
『ねぼけノート 認知症はじめました』には、なかまぁるでは読めない描き下ろしも掲載されています

──お父さんが認知症になったことで、お父さんとあさとさんの関係に変化はありましたか。

一緒にいる時間は増えましたが、変わったとまでは言えないかな。ただ、ずっと疎遠にしていたんですが、通院に付き添うようになって家族3人で出かけるようになりました。帰りにカフェでお茶を飲んだり、肩を並べて歩いたり……。父が認知症にならなければ、こんな機会は持てなかっただろうなと思います。
母との関係は変わりましたね。「父」という共通の話題があるので、今日お父さんはこんな様子だったとか、介護サービスをどうするとか、話す時間が増えました。今は「父を支える同志」みたいな感じでしょうか。

なかまぁるであさとひわさんが連載している「認知症、はじめました。」の1コマです。「お茶をのんでいこう」とレビー小体型認知症の父に誘われて、「いいけど」と返すあさとさん。家族3人でカフェへ行きました
連載「認知症、はじめました。」から、家族3人でカフェへ行った時の1コマ

──あさとさんご自身が変わったと感じることはありますか。

いろいろあります。まず「ものの見え方」ですね。今まではデイサービスの送迎車とか居宅介護の車の存在を意識することはありませんでしたが、今は自然に目に入ってくる。認知症や介護に限ったことではないですが、何かを知ることでアンテナが敏感になるというか、それに関する情報が目に入りやすくなるんだと気づきました。体格のいい人を見ると、「私がこの人を介護するのは大変だろうな」と思うことも。たまたま見かけた全然知らない人ですけどね(笑)。
最近は、自分も認知症になるのかなと思うことがあります。これまでは介護をする側の目線でしたが、年を重ねるにつれて、自分も当事者になる可能性があるんだなと。なので、自分の血縁だけではない「緩やかな横のつながり」があればいいなと思うんですよね。年をとっても同年代の友人のような感覚でいられて、会いたいと思ったときに会える自由な関係というか。
じゃあ、友だちをつくるとか何か始めているのかというと、「そうは言ってもね……」となってしまって、なかなか重い腰を上げられていません(笑)。

──連載が書籍化されることで、さらに多くの方があさとさんの漫画を目にすることになりますね。

大した経験もないのに介護を語るのはおこがましいのですが……。介護しなくて済むならそれに越したことはないでしょうが、認知症になった父と向き合って、全部のできごとがつらくて嫌だったかというと、いいこともありました。父の意外な一面を発見したり、気付きがあったり。多くはないかもしれないけれど、「その『ちょっとしたいいこと』を大事にしてもいいのかな」という思いを込めて、漫画を描きました。
家族の関係性も、介護に対する考え方も人それぞれ。「ああ、こんな家もあるんだ」「こういう見方もできるんだな」と、気楽に読んでいただければと思っています。

あさとひわさんの書籍『ねぼけノート 認知症はじめました』に掲載されている描き下ろしの1コマ。レビー小体型認知症の父を見て、「これが天然もののボケ…。マンガになりそう」と作者のあさとさんが考えています
『ねぼけノート 認知症はじめました』に掲載されている描き下ろしの1コマ
■書籍紹介
『ねぼけノート 認知症はじめました』あさとひわ(朝日新聞出版)

都会で働く著者が、親の介護に関わるようになって、はじめて気づいた夫婦や家族の関係を8コマ漫画に切り取っていく。無邪気な言動を繰り返す父との日々は、大変だけど、クスッと笑えて愛おしい。
1210円(税込)、2021年6月7日発売

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