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川村元気×阿川佐和子「なぜ今、認知症なのか」令和の家族の物語とは

6月、東京・八重洲ブックセンター本店で、映画プロデューサーで作家の川村元気さんの最新刊『百花』のトークイベントが行われた。同作品は、認知症の母と息子の“記憶”を巡る物語。旧知の仲である阿川佐和子さんと、和やかな雰囲気で対談は進んだ。

トークショーを行う川村元気さんと阿川佐和子さん
トークショーを行う川村元気さんと阿川佐和子さん

平日の午後7時スタートということもあり、仕事帰りの会社員の姿も目立つ。受付を済ませた参加者たちの多くは、そのまま川村さん、阿川さんの著書が並ぶ特設カウンターへ。文字どおり飛ぶように書籍が売れていく。席に着くなり、手にしたばかりの『百花』のページをめくる人も。参加者のなかには、まだ幼い女の子を連れた女性の姿もあった。

「川村元気さんです!」という阿川さんのかけ声で、川村さんが登場する。5月中旬に発売された『百花』はすでに10万部を突破したことが阿川さんから告げられると、会場から拍手が沸き起こった。

二人の掛け合いにうなずく参加者の一人に対し、阿川さんが「川村さんのこと好きなんですね」声を掛ける。それに対し川村さんは、「ここに来る人が僕のこと好きじゃなかったとしたら、僕は生きていけませんよね」と笑いを誘う。二人のあうんの呼吸が心地いい。

あうんの呼吸でトークを繰り広げる川村元気さんと阿川佐和子さん
あうんの呼吸でトークを繰り広げる川村元気さんと阿川佐和子さん

この日のトークイベントのテーマは「認知症と社会を考える“令和時代”の家族の物語」。『百花』は、認知症が進む母・百合子と、母一人子一人で育った息子・泉の物語だ。同僚と結婚した泉は、もうすぐ「父」になる。母子家庭で育った泉がどのようにして父親になるのか。そんな泉の物語も並行して描かれる。川村さんは認知症当事者だけでなく、母子家庭の取材も多く行ったという。

過去を忘れることを悲しいと嘆く必要はない

阿川さんは現在、認知症である91歳の母を介護している。母とのやり取りも事細かに、軽やかに語った。2015年に亡くなった父が、母に絶対服従を求めていたこと。その姿を見た幼い頃の阿川さんは、母に「遠慮なく離婚していいんだよ」と伝えていたこと。

認知症の母の介護について語る阿川佐和子さん
認知症の母の介護について語る阿川佐和子さん

それでも、いま母に「お父ちゃんはどういう人だったの?」と問うと、「ちょっと面倒くさい人だったかなー」と、さらっと答えるのだという。
「苦労してきたけれど、辛かったことを忘れてしまっている。最近は私のことも曖昧になって、『これ誰?』と聞くと、『おはなちゃん』って。『娘だよ、名前は?』と聞くと、『娘子』って」(阿川さん)
それを聞いた川村さんは、「おもしろい。いいセンスですね」。
それに対し阿川さんは、「見事な切り返しでしょ? 本当は脳みそ元気なんじゃないかって思っちゃう」と笑う。加えて、「ちょっと前のことはすぐ忘れるけれど、今のことはものすごく楽しむ。過去を忘れることを悲しい、と嘆く必要はないんじゃないかと思うようになりました」とも。

人は、消えていくはかなさに美しさを感じる

タイトルがなぜ『百花』となったのかという話題に及ぶと、川村さんは「記憶と花はすごく似ているな、と思うようになったんです」と答えた。続けて言う。
「僕、造花があまり好きではないんです。枯れないとわかった瞬間、花は魅力的でなくなる。なぜ、街には今もこんなに花屋があるのか。“失われるものだから”ということが前提にあるのではないか、と思うんです」
花火に対しても、同じような思いを抱いているという。
「LEDの花火ができても、全然ありがたくないですよね。人が“記憶”に惹かれるのは、忘れられることが前提にあり、そこに気持ちを動かされ、美しさを感じるのではないか」

認知症の人が見ている世界を作品に

川村さんはいつも小説を書く際、最初に作家の吉田修一さんに相談することも明かした。川村さんが映画『悪人』をプロデュースしたことから、二人の深い付き合いが始まった。映画の脚本と小説の違いについて、何度となく言葉を交わしたことから、川村さんも、小説を書くことの面白さに目覚めてしまったそうだ。川村さんは、いつもカット割まで決めて小説を書くという。どこで音楽が流れるかも完璧なまでに。

書店に並ぶ、川村元気さんの『百花』
書店に並ぶ、川村元気さんの『百花』

「認知症の人が何を見ているのか、それを書けたらすごく面白い小説になると思うよ」。そう吉田さんに言われ、『百花』の美しい冒頭の文章が生まれたそうだ。

阿川さんの聞く力もあって、1時間のトークの濃度がとてつもなく濃い。対談後のサイン会では、一人ではなく両者のサインを求めて列に並ぶ参加者たちも多く目にした。声掛けに気さくに返す、二人の姿が印象的だった。

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