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サッカーチームも認知症フレンドリー。イギリスの町で世界を変える取り組み

イアン・シェリフさん

イギリスの南西部にあるプリマス市は、世界に先駆けて『認知症フレンドリーコミュニティ(Dementia Friendly Community:認知症の人にやさしいまちづくり)』の思想を取り入れ、成功したことで注目されています。そのキーパーソンが、イアン・シェリフさん。プリマス大学の認知症学術パートナーシップリーダーです。同じくイギリスで、ブリクストン・イェーラム地区認知症フレンドリーコミュニティ代表を務めるリズ・ヒッチンスさんと共に、お話をお聞きしました。

――シェリフさんが活動を始めたのはいつですか?

シェリフ「私は2008年の終わりから、認知症フレンドリーの活動をジョージ・ジアーチ先生と始めました。『認知症の人を変えることはできないけれども、コミュニティを変えて、認知症の人たちの暮らしを変えることはできる』とプロジェクトを進めました」

――イギリスは認知症に対して非常に精力的、組織的なアプローチを取っていますね。

シェリフ「ほかの国とは違って首相の肝いりという形で、政策に認知症対策が取り入れられ、政府の支援も厚くなっています。2010年に全国的な認知症アクション連盟(NDAA)を、プリマス市では2011年にローカルな認知症アクション連盟(PDAA)を創設しました。これによって認知症の人にやさしいまちづくりが進みました」

――プリマス市は今や世界的に知られる“認知症の人にやさしいまち”になりました。今どのようなまちになっているのか、教えてもらえますか。

シェリフ「例えば、バス会社は認知症フレンドリーカードの仕組みをつくりました。そのカードには『私は認知症なので、私が座るまでバスは発車させないでください』『6番のバス停で止まってください』などと書いてあり、認知症の人がそのカードをバスの運転手さんに見せるとサポートを受けられます。市では、認知症の人にGPSを渡し、たとえ迷子になってもすぐに発見できるレスキューチームもつくられました。
ラジオ局BBCデボンでは、毎週日曜に認知症の人が自分の日常について話す番組が始まりました。また世界で初めて、認知症フレンドリーなサッカーチームもつくりました。認知症の人を試合観戦に招待したり、チームの栄養士やトレーナーの知識を認知症のケアに活用したりする試みです。
今や、まちには約1万2千人の認知症サポーターと、数百人のキャラバンメイトがいます。DFCをつくるうえで非常に重要なのは、持続可能なものにすることです」

プリマスで、認知症の人にやさしいまちづくりが進んだ3つ理由について話すリズ・ヒッチンスさん
プリマスで、認知症の人にやさしいまちづくりが進んだ3つ理由について話すリズ・ヒッチンスさん

ヒッチンス「なぜプリマスでまちづくりが進んだかというと、3つ理由があります。イアンのような信念の強い人がいたこと、コーディネーターに報酬を支払い、責任ある仕事としてまちづくりの推進を任せたこと、そしてコミュニティや組織の支援があるということだと思います」

――持続可能なものにするために、どのような工夫をすればいいでしょうか?

シェリフ「活動を始めたころは、認知症の人や介護者が何か活動をしても、コミュニティ全体には十分に浸透しませんでした。だから、DFCの取り組みはコミュニティにとって重要な課題であるとみんなに理解してもらい、コミュニティ主導で取り組まれるようにしていかなければいけないと思ったんです。また、国や地方政府に関わってもらうことも重要です。政策の中で、ヘルスケアやソーシャルケアの一部に認知症が組み込まれれば、継続的に活動していくことができます」

ヒッチンス「私は、適応性と柔軟性が大事だと思います。認知症の人を理解して、それに合わせてコミュニティや組織を変えていきます。その中心にあるのは必ず、認知症の人のニーズです。6~7年前、メモリーカフェ(認知症カフェ)での、認知症の人たちの居場所を拠点にした交流が盛んでしたが、私たちはそうではなくて、コミュニティにいる人たちが関わるようにしてきました。そのような人が認知症の人と深く関われば、偏見や孤立がない状況になっていくからです。例えば月に一度、合唱団のようにみんなで一緒に歌を歌ったり、一緒にお茶を飲んだりしています。今では、どの人が認知症の人でどの人がそうではないのか分からないほどです」

自分は何ができるかをぜひ考えてみてほしいと語る、イアン・シェリフさん
自分は何ができるかをぜひ考えてみてほしいと語る、イアン・シェリフさん

――最近イギリス政府の主導で、国内の空港がすべて検査されたそうですね。

シェリフ「認知症、自閉症、精神疾患、発達障害などを持つ人にとって使いやすい空港になっているかどうか、検査されました。6カ月にわたって全空港を検査して、もし基準を満たしていない項目がみつかれば、改善しなければいけません。こういったことを実施したのはイギリスが世界で初めてです。
認知症の人には、必要があればアシスタントを用意したり、保安検査場を通るときに認知症にフレンドリーな対応をしたり、搭乗前に静かな環境を用意したりして、心置きなく旅行ができるようにしています。今は国際航空業界学会の会議を通じて、世界中の航空会社が認知症の人たちにやさしいサービスを提供できるように取り組んでいるところです。
日本は、世界のなかでも突出して85歳以上の人が多い国になり、これからもっと高齢化が進んでいきます。そうなったとき、誰が介護やケアをするのかという課題が出てくると思います。文化人類学者のマーガレット・ミードは『小さな少人数のグループの人たちが世界を変えることができる』と言っています。自分は何ができるかをぜひ考えてみてほしいと思います」

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