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「自分の生き方は自分で決めたい」後見制度に権利を奪われたアメリカ人女性

フィリス・エレン・ファンクはブロンクスのパークチェスターというエリアで育ち、その後マウント・バーノンに移った。優秀な生徒だったファンクは旅することに強く憧れた。ときおり、うつになる時期があった。女優になりたいと思ったが、枕営業から娘を守るためと言ってあきらめさせようとする父親に脅され、ジャーナリズムの道に進んだ。「編集部に取り入るための“枕営業”だってあるのに、父は信じようとはしませんでした」。ファンクはユダヤ系の大手出版社の編集者から、身体の関係を要求されたことをにおわせた。彼女のキャリアを妨害し、傷つけた人たちの名前を挙げた。それが会話のテーマだった。

「彼女は妄想などしていませんよ」と兄弟のマイケルは言った。「自分の意見もしっかり言うことができますから」

友人達は、父親に女優の道を認めてもらえなかったことを、ファンクがずっと引きずっていると考えた。ファンクは名の通った出版社とも仕事をしたが、それが年収5000~6000ドルを超えるキャリアにつながることはなかった。

収入の30%に設定されたファンクの家賃は、月97ドルにまで落ち込んだことがあった。

「彼女はほぼいつもというくらい、父親の文句を言っていました」ファンクと共にジャーナリズムを学び、その後ABCニュースのプロデューサーとなった友人、モートン・フレイシュナーは振り返る。

ファンクは旅して書き、を繰り返した。旅の途中で集めたものを部屋に持ち込み、次の旅のための資料を集めて部屋に持ち込んだ。隣の店でスキューバダイビングの器具を買った。編み物のための毛糸も買った。2004年、建物の管理者は物の溜め込みを理由として、ファンクを部屋から立ち退かせようとしたが、ファンクの両親の援助によって部屋は片付けられた。

30年以上にわたりファンクの隣人であり友人でもあるビル・ランブレット(81)は、ファンクが散らかすのは害のない奇癖だととりあわない。「彼女の部屋が汚いのはいつものこと。小銭が床に転がってるし、服はあちこちに脱ぎ捨ててある。ゴミを溜め込んでいるわけじゃない。何だって床に放り出すのが癖なんだ」

ランブレットは8月の裁判所での協議に同行した。ランブレット自身、ファンクよりも高齢の女性の後見人になったことが一度あったが、ファンクにはそれほどの保護観察は必要ないと考えた。協議でケリー裁判官はファンクを「才気あふれる女性」と評しつつ、後見人を付けることについては「船はもう出航した」と表現した。

成年保護サービスが代償にしたこと

ケリー裁判官は、これは後見人が必要かどうかを再び審議する場ではないと前置きしつつ、新たに後見人となったチャールズ・バルブーティと何か問題があれば言うようにファンクに伝えた。再審には理由開示命令の申請書の提出が必要です、それは前回も説明しましたね、とケリー裁判官は念を押した。協議が始まるとさっそくファンクは再審について話し出した。話の脱線は連鎖のように続いた。ケリー裁判官に止められても、ファンクは何事もなかったかのように再び話し始めた。

「お願いですからその話はやめてください。私が扱うどの案件よりも長い時間を、あなたに費やしているのです」ケリー裁判官はそう伝えると、次の案件の審議のためにファンクとの協議を終了した。

ランブレットは言う。「彼女は頭がしっかりしていて、知的で、自分のことは自分でだいたいできる。話もすぐ本題に入ることはないんだ。悪い人間なんかじゃない。ただとても孤独なんだ。口うるさい性格というやつさ」

部屋の外では、ファンクがバルブーティに食ってかかっていた。

「薬代が必要なんですよ」

「請求書を送ってくれれば、私が払います」

それはできない、とファンクは言った。「薬は飲まない」から、という単純な理由だ。

話は行き詰っていた。それでも、バルブーティは1時間当たり250ドル、そばで傍観していた高齢者ケアマネージャーのシェイラ・オブライエンは、1時間150ドルに加え、コネチカットとの移動中は1時間75ドルを請求する。

裁判官はファンクの部屋を整理するため、ホームヘルパーの派遣を命じた。週2回、4時間ずつだ。ファンクが雇いたかったのは掃除サービスだった。ファンクは派遣されたヘルパーを部屋に入れることをしばしば拒んだ。これは不従順な行為とみなされ、後見人が引き続き必要だという理由にされた。

「あなたのために事がうまく運ぶことを願っています」とケリー裁判官はファンクに言った。「あなたが望んでいないことだとは分かっています。うまく行くよう、あなたも協力してください」

市の成年保護サービスに電話したのがあなただとしたら、あなたは正しいことをしたのだろうか。

最初の介入で、栄養失調と脱水状態から救い出すことはできた。裁判所の判断で、立ち退きは保留され、部屋が散らからないような援助も受けられるようになった。

しかし、何を代償に?

個人が「間違う権利」をどう保証する?

ファンクにとって、この一連の過程は彼女の自由に対する暴行だった。身体に暴行を受けたこともある。11月の審問の日、ファンクはベッドから出ることを拒否した。後見人のジル・ペレスは力づくで問題を解決しようとした。

何が起こったのかは、論争中だ。

ファンクの言い分では、ペレスは彼女をベッドから引きずり降ろし、その際ファンクの頭を何度も壁にぶつけた。そして寝間着のままのファンクをエレベーターまで引きずって連れて行ったという。その日の法廷でケリー裁判官は、ファンクの身なりが乱れ、反応もないことに言及した。「ファンクさん、今日のあなたはいつもと様子が違うようですね」

ペレスにこの件についてコメントを求めたが、返答はなかった。法廷でペレスは、「今日ここまで連れてくるのはかなりの大仕事だった」と発言した。ファンクは何も言わなかった。

医療補助スタッフのネイサン・ヴィラーダは、市の立ち入り以来、ファンクの部屋の片付けを手伝い、病院に付き添うなどしてきた。ペレスには荒っぽいところはあるが、ファンクが言うように暴力的ではないと言った。「ファンクさんの精神状態が非常に悪いときに起こったことです」とヴィラーダは説明した。「ファンクさんは下品な言葉を何度も叫び、ペレスさんに対して攻撃的な動きをやめませんでした。そのため、ペレスさんはファンクさんの手をつかみました。するとファンクさんはますます攻撃的になりました。ペレスさんはファンクさんが動かないよう、本棚に向かってファンクさんを押しつけました。たたきつけたのではありません。個人的な意見ですが、あのような接触の仕方は不要だったと思います。ファンクさんは「助けて、レイプされる」と叫び出しました。ペレスさんは廊下までファンクさんを押しながら連れて行きました。床を引きずることはありませんでした」

友人のヤンジは、その時電話をかけてきたファンクから、何が起こったのかを聞いた。ファンクは「暴行を受けた」と話していた。「彼女は泣いていました」

時がたつにつれ、この時の出来事をファンクは諸問題の根源と考えるようになった。裁判所による介入はそれが何であろうと、援助ではなく有害なものと考えた。あのときあのように手荒に扱われなければ、その日の法廷を上の空で過ごすことはなかった。上の空で過ごしていなければ、後見人は不要であると裁判官を説得できていたはずだ、という理論である。

ファンクはまた、成年保護サービスのソーシャルワーカーがファンクを誘惑しようとし、不適切に触られたと主張した。ヴィラーダと彼のガールフレンドが盗みをはたらいたとも言った。彼女の訴えが妥当かどうかは別にしても、ファンクが酷く苦しんでいることは明らかな事実だ。

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ペレスから後見人を引き継いだバルブーティは、彼女の訴えにはまだ目を通していないと言った。それは警察の仕事で、自分はもうその仕事はしていないと述べた(バルブーティは2011年に引退するまで、ブロンクス区の警部だった)。「出頭を命じたり、尋問して権利の告知をしたり、という行為は、後見人の私にはとうてい許されないものです」

いまいましいだけの制度なのかもしれない。フロリダ州の下院議員クロード・ペッパーは、後見制度を「アメリカ市民に対して課すことが許されている民事罰の中で、死刑を除き最も厳しい刑罰が、後見制度だ」と評した。

ある日のこと、部屋にいたファンクは、予定されていたケアマネージャーのオブライエンとホームアテンダントの訪問を拒否しようとした。

ファンクは訪ねてきた二人をあからさまな侮辱で出迎えた。ホームアテンダントは床に広がるしわくちゃの敷物を指さして言った。転倒すると危ないからと、前にも話したでしょう。ファンクは部屋を違う目で見ていた。彼女にとって、部屋はこれまでの旅の記録なのだ。

敷物の一枚一枚に意味がある、とファンクは言う。「それぞれに、思い出があります」

刑務所に入れられたわけではなくとも、ファンクにとっては四方を壁に囲まれ逃げ場を失ったも同然だ。彼女の投資口座に、いくらか金は残っているのだろうか? それは裁判所さえ知らない。後見人だけが入手できる情報だから。

裁判所から指定された週150ドルの生活費を渡すのをバルブーティはよく忘れる、とファンクは訴える。駐車場や車の保険、電話やインターネットの代金の支払いが遅れ、補足的医療保険は期限が切れてしまった。法廷でバルブーティは、ファンクが請求書を渡そうとしなかったので支払いができなかったと裁判官に説明した。

ファンクは言う。バルブーティと請求書の件で言い争っているほうが、自分で支払いを済ますより時間がかかっているように思う。それでなくても、請求書は面倒で時間がかかるのに。

バルブーティは、後見制度は間違った見方をされていると言う。後見人の権限には制限があり、裁判所の指示を超えることはない。ニューヨーク州には後見人が楽に金を手に入れられないようにする法律もある。もし後見人からの請求が年間7万5000ドルを超えた場合、その後見人は、翌年は別の人物の後見人になることはできないというルールだ。

「後見人になるのは、誰かの分身になることだと思われていますが、それは誤解です。現実はそうではありません。裁判所からこうしろ、と命じられたことしかできないのです。私はこのような仕事が好きです。だれかの助けになり、その人の人生を変えられる可能性があると思っています」

あなた自身がファンクの立場だったら、どこかに身を隠したいと思ったときにそれが許されるべきだとは思わないだろうか。散らかしっぱなしの部屋はどうだろう? 物書きが調べ物にいろいろ必要なのだということは、理解してもらえないのだろうか? 部屋を追い出されたとしても、ファンクにはどこかで再スタートする資金があった。だが、そのような持ち合わせがない人々に対しても、裁判所は立ち退きを命じる。

あなたがケリー裁判官だったらどうしただろう? ファンクを無力で無防備な状態に置くべきと決めた裁判官に、あなたはなりたいだろうか?

バルブーティは、後見制度をめぐる問題は複雑だと言う。

「自分で決断する権利はだれもが与えられるべきです。たとえ、あなたや私や裁判官が、それは良い決定ではないと思っても、です。政府が個人の代わりに決断をするべきではありません。ある程度の範囲で、個人には間違う権利も許されるべきです」

その程度はどう決めるのか。それはバルブーティもわからなかった。

後見制度から抜け出すための闘い

ファンクは自分の生活がしたいだけだと言う。もうすぐ80歳になるファンクは、残りの人生を後見制度から抜け出すための闘いで過ごすことになるのだろうかと危惧する。だからなおさら、闘いに力が入るのだ。

ファンクは自宅での保護観察下に置かれた。

12月初旬、ファンクは理由開示命令の書類をまだ書いている途中だった。それは簡潔にこう始まっていた。「私はただ、自分の生活を取り戻したいだけなのです。希望を再び抱く機会、夢を再び見る機会を望んでいます。残りの人生を、生きがいのあるものに、満たされたものにしたいのです。すでに多くのことが、正しくない方法で、おそらく不法に、台無しにされてしまいました。そして何よりもまず、そのような行為は思いやりを欠き、自己中心的な、意味のないものでした」

15ページ分を書き終えたが、まだ書くことはたくさん残っているそうだ。いま進めているところだから、とファンクは言った。(抄訳)

John Leland
© 2018 The New York Times ニューヨーク・タイムズ

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