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介護の裏ワザ、これってどうよ?

認知症のばーちゃん、ご近所で孫自慢が止まらない♪ これって介護の裏技?

青山ゆずこです! 祖父母がそろって認知症になり、ヤングケアラーとして7年間介護しました。壮絶な日々も独学の“ゆずこ流介護”で乗り切ったけれど、今思えばあれでよかったのか……? 専門家に解説してもらいました!

「ほぉー、これをあんたが・・・ほぉー」「てれますがな」

ばーちゃんにとっては、孫はとんでもない職業に

「家族の文句を、親戚中に電話をかけて言いふらしてしまう」という前回の話も大変でしたが、今回は反対に「孫のことをもの凄く褒めまくる」という悩みです。「そんなの、嬉しいことでしょう?」と思われました……?

当時わたしは、ばーちゃんの家に住みながら、雑誌の記者・ライターとして不定期で都内に通っていました。取材が重なって長い間どうしても帰れないときは、母やオバに連絡して祖父母の様子を見てもらいます。ちなみに、基本的にオバや遠方に住んでいる母、わたしの三人体制でそれぞれおおまかなシフトを作って、チームとして介護に臨んでいます。

署名記事として自分のフルネームが掲載された雑誌が発売される度に、ばーちゃんやじーちゃんにそれを見せると、それまで会話もままならない状態だったのに、
「ゆずこはたいしたもんだねえ」「有名人だね」と、ほんの小さい記事でも笑みを浮かべて喜んでくれるのです。私も二人の笑った顔がすごく嬉しくて、懐かしくて。名前が掲載されるとすぐに、ちょっと自慢げに二人に見せ続けていました。
そしてある日、驚きの事件(?)が起こりました。

どうしよう!孫の自慢が止まらない!

ある日、ばーちゃんがふらっと外に出て行ったので、ちょっと心配になりあとを付けてみると……。
「うちの孫はねえ、テレビで歌って踊れる新聞記者で、売れっ子の小説家の大先生なんですよ!」と、わざわざ一軒ずつ回って、とんでもない内容を自慢しまくっているじゃありませんか。見せていた署名記事が、ばーちゃんの中で拡大解釈されたのでしょうか。しかし、聞けば聞くほど謎の職業で、とにかく怪しすぎる。でも、嬉しそうに話して回っているばーちゃんを見ていると、嬉しい気分がなんだかこっちにまで伝染したので、もう気が済むまでご近所さんを回ってもらうことにしました。そして時間差でわたしが訂正して回ることに。

はじめましてこんにちは・・・歌っておどれる新聞記者兼、小説家です・・・※イメージです・・・

そのときにじーちゃんばーちゃんの認知症の現状を併せてお話し、「ご迷惑おかけしてすみません。実はこうこう、こんな状態で……何かあったら相談させていただいてもいいですか?」とちゃっかり頼ってしまう。そんなことを繰り返していました。

地域を上手に巻き込んで、相談できる人を作る大切さ

「認知症の人と家族の会」全国本部の副代表理事であり、『認知症の9大法則 50症状と対応策』(法研)の著者、川崎幸クリニック院長の杉山孝博先生は、この「近所中に孫の自慢をしまくる」一連の行動をこう分析します。

「我々は身内の自慢をすごく言いたくても、『露骨だったり言い過ぎると、角が立ってしまうかもしれない』とセーブしますよね。ただ、認知症の人は素直に表現します。そこで無理に否定したり、近所を回るのをやめさせたりしないこと。良いことなのに、『自分を否定された』と暴走してしまう可能性もあります。例えば、記憶障害で起こった出来事そのものはあいまいでも、感情の世界はしっかりと残されている“感情残像の法則”というものがあります。抱いた感情は、感情の波として長い時間残る。だからゆずこさんのように、あとからフォローするくらいがちょうどいいのです。

そして、訂正ついでにおばーさんやおじーさんのことをご近所にお話ししたのも良かったですね。ご近所の方々に理解してもらうのはすごく大事なことです。ご自身の心理状態もそうですが、何かあったら悩みを相談したり、援助の手をたくさん借りられるからです。隠さずに、オープンに。それが長続きのする介護の秘訣です」

……わたしゆずこ、テレビで歌って踊れる新聞記者、そして売れっ子作家を目指して、今後はもっと奮闘します!

杉山孝博・川崎幸クリニック院長
杉山孝博先生
川崎幸クリニック院長。認知症の人と家族の会の全国本部の副代表理事であり、神奈川県支部の代表を務める。著書に『認知症の9大法則 50症状と対応策』(法研)、その他多数。

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