「三川泰子さん&一夫さん」WATASHI 戸﨑美和が撮る当事者
戸﨑美和
写真家であり社会福祉士でもある戸﨑美和さんが、当事者の一瞬を切り取りました。どのようにファインダーをのぞいて、どういうタイミングでシャッターを切ったのでしょう。その内側の世界は?
三川さんの存在は、「注文をまちがえる料理店」の映像をみて知っていました。ピアノとチェロ、夫婦で演奏かぁ。音の調和というか、暮らしのなかに当たり前に音楽がある豊穣な時間を見せられて、コトバを無くしたことを思い出しました。
季節が本格的に春へと変わる、気圧の乱高下のなかのその日。曇天。
普段使っている生ピアノと電子ピアノの違い、指が触れた時のタッチの差……。表現する側にとってはわずかな違いも重要であることを痛感させられました。
夫である一夫さんがそっとチェロを置き、鍵盤に指を添えた瞬間、泰子さんの眉が微妙に動いたのを見ました。
「そうじゃないのよ。違うのよ」聞こえるか聞こえないかの小さな声からは、ピアニストとしてのプライドが全身から溢れ出ていました。
“欲しい、音と、違う”
今日は撮れないかもしれない。そう覚悟しながらも、最初から最後まで目を離さないでいることだけ決めました。
音が旋律にならなかった時間、そこを抜けた途端、表情が変わりました。
1分間だけもらえるかも!! シャッターを切りました。7枚撮ったなかの1枚。
戸﨑美和さんが、撮影中に交わしたキラリと光る“コトバ”を集めました。
「泰子さん」のコトバ
「ピアノ? 好きよ。だけど大変よ」
「毎日、練習するのよ。簡単じゃないわよ」
「やっぱり楽しまなきゃね。自分が、よ!」
「ハンサム? どこにいるの?」(一夫さんを笑顔で見ながら、茶目っ気たっぷりの笑顔で)