若年性アルツハイマーの母と、旅する

認知症になっても母は母 韓国の仲間へ届け、私の思い

フリーアナウンサーの岩佐まりです。重度のアルツハイマーの母と一緒に参加した「認知症の人と家族の会」の韓国研修ツアーの様子を報告します。実は10年前、母がアルツハイマーと分かったときに、思い出をつくろうと2人旅をしたのが、韓国でした。さて今回は、どんな旅になるでしょうか。
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学術大会に参加、日韓の違いを考える

韓国到着早々、頭を切るけがをしてしまった母ですが、その後は特に痛みを訴えることもなく、翌日のプログラムへ一緒に参加できることになりました。10月5日は、韓国痴呆協会と、日本の「認知症の人と家族の会」が主催して、ソウル汝矣島(ヨイド)の全経連会館で日韓共同痴呆学術大会2018が開かれました。

日本と韓国それぞれの発表を聞きに訪れたみなさんの熱意で、会場の空気は張り詰めていました。若年性認知症についての学術研究や、家族の思い、高齢者の社会参加など、幅広い内容がプログラムに予定されています。韓国メディアの取材も入り、現地からも多くの関心が寄せられていると感じました。

韓国痴呆協会の会長ウ・ジョイイン氏、そして日本の「家族の会」代表理事鈴木森夫氏による開会の挨拶から始まり、午前中は認知症の中でも65歳未満で発症する若年性認知症に焦点をあて、韓国・日本それぞれから学術的な発表がありました。

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韓国からは若年性認知症患者数や医学的な研究発表があり、日本からは若年性認知症の支援体制が国レベルで始まっていることの発表がありました。この発表を聴いて、日韓の大きな違いを感じたのは、この支援体制です。

現在の韓国は、私の母のように重度の認知症になれば施設や病院に入る人が多いようです。
そのためか、会場にも母のような重度の認知症の参加者は見当たりませんでした。10年ほど前までは、日本もそうだったと思います。でも今は、認知症になってもできるだけ仕事を続け、住み慣れた地域で支援を受けながら幸せに生きていこうという社会になりつつあります。

緊張のスピーチ 今でも気づく「母の愛」伝えたかった

この後に登壇された、日本の若年性認知症の当事者で現在も仕事を続けておられる丹野智文さんが、「できることを奪わないでください」と大きな声で訴えてくださったことは、認知症のご本人の気持ちを伝えるいい機会になったことと思います。

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私も「若年性アルツハイマーの母と生きる」というテーマでスピーチをさせていただきました。認知症になっても母は母であること、重度化した今でも母からの愛に気づくこと、介護生活はマイナスなことばかりではなかったことを伝えたかったのです。

とはいえ、学術大会という厳粛な場で、一番前の席で娘のスピーチも聞かずに寝ている母の姿が会場の皆さんの目にどう映ったのか、そして「それでも母が大好き」と語った私の言葉をどのように受け取られたのか、機会があれば聞いてみたいものです。

韓国はこれから急激に高齢化が進んでいく国です。そのスピードは日本よりも早いと言われています。今はまだ日本と比べると認知症支援体制が少ないと感じましたが、韓国は親や高齢者ら、目上の人をとても大切にする国です。それは言葉遣いひとつをとっても一目瞭然で、今後、介護の分野がどのように進展していくのか楽しみです。韓国と日本がそれぞれの良さを学び合える学術大会であったと思います。

夕食会でお母さんの目をとらえたのは!?

日本と韓国で共に認知症について考える交流は、時間を惜しむようにスケジュールがびっしりと詰まっていました。その夜に開かれた日韓交流夕食会には、韓国・日本の認知症の方やそのご家族・支援者ら、多くの方が集まり、美味しいお食事とともに楽しい時間を過ごしました。

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楽器の演奏や歌など、韓国の文化に触れるとともに、私が実際に、韓国の認知症の方やご家族と会話ができたのも、この機会でした。ある韓国のご家族から、「いいスピーチだった、これからも連絡を取りたい」と握手を求められ、連絡先を交換しました。その方の奥様はきっと、私の母と同じアルツハイマー型の認知症と思われます。まだまだ受け答えもしっかりされておられましたが、時折、不穏になる症状は昔の母を見ているようでした。国は違えど病気は同じで、その進行と向き合っていく家族の苦悩も同じです。生活スタイルも言葉もわからないけれど、私たちが交わした握手には「これからも共に頑張ろう」と通じ合うものがありました。

そんななか、母は男前を発見していました。獲物を捕らえた目をしています。

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その視線の先には・・・学術大会でスピーチをしてくださった丹野さん。

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実は丹野さんとは、私のブログを通して随分前にメッセージのやり取りをしたことがありました。お会いしたのは今回が初めてでしたが、丹野さんはそれ以来、私のブログを読んでくださっている読者様であることを知りました。母と同じ病気である丹野さんに、先を行く母の姿がどう映っているのか不安でもありますが、家族の絆は変わらないし、こうして海外旅行もできる、何よりも母が私を幸せにしてくれていることが伝わっていればいいなと思います。

日本と韓国の多くの支援者に囲まれ、多くの人の手を借り、国を問わず感じた優しさ。

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私たち日本人を温かく迎え入れてくださり、盛大なおもてなしをしてくださった韓国の皆さまに感謝して、夕食会の最後には「認知症の人と家族の会」のメンバー全員で「アリラン」を歌いました。何度もみんなで練習を重ねた歌です。すると韓国痴呆協会の皆さんからは「上を向いて歩こう」の歌がプレゼントされました。お互いの国の歌を歌っただけのことと思われるかもしれませんが、私は感動して胸が熱くなりました。

ただ認知症について学びあっただけではなく、ここに友好関係が新たに生まれ、ともに力を合わせて、よりよい認知症社会を作っていこうという意思が溢れていました。

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岩佐さんの親子旅、フィナーレへ

【岩佐まりさんの記事はこちらにも】

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