高齢化率27%超の町を癒やす歌声 成功の鍵はふらり感
取材/石川美香子 撮影/上溝恭香
名古屋発、参加者が育てる認知症カフェ
名古屋市中村区にある偕行会城西病院の認知症カフェ「ほっとカフェじょうさい」。元は車椅子置き場だったという病院入口の小さなスペースに、毎回20名以上が所狭しと椅子を並べます。当カフェの最大の特徴は、平日は毎日開催し、週4日の音楽療法と週2日の運動療法を開催しているということ。参加費無料で予約も不要。終了後のコーヒー1杯とお菓子代あわせて100円のみがかかります。通院されている方や地域の方が気軽に立ち寄れるというのがポイントです。
「デイサービスのようにこの日この時間に、という制限がないことが気楽な交流の場としては大事かもしれません」と話すのは看護部の澤田真紀副部長です。
病院のある中村区は高齢化率が27.4%と、市内でも高率な地域。澤田副部長は、病院周辺には一人暮らしの高齢世帯も多く、一日中家にこもりきりでどこにも出かけない人も多いといいます。そんなときに、ふらりと立ち寄れて交流できる場所があることが大切なのだそうです。
また、院内の総合相談窓口を担当する高野洋子所長は、「カフェに来られる約4割のかたが当院の診察券を持っていないんです。安全のためにお名前と住所は最初にお知らせいただいて、一応、名簿は作っています」と話します。
参加者には、自由にその日の感想などを記入できる『私ノート』があります。参加者と病院スタッフとの交流の工夫です。参加者の家族が病院を訪れた際、日ごろの様子を伝えるために見せるほか、ノートに書かれた参加者の文字の変化で、スタッフが認知症の発症に気づくという役割もあるといいます。
「認知症が進んでくると文字がうまく書けなくなったり、落ち着いてしっかりとした図形が書けなくなります。そうした兆しがみられた場合は、ご本人やご家族にかかりつけの病院への受診を勧めています」(澤田副部長)。
澤田副部長によると、当カフェでは「認知症の人とそのご家族が安心できる場」「地域の方が認知症やそのケアについて知る場」「専門のスタッフと出会い、新しい発見をする場」「自分が認知症になったときに安心して利用できる憩いの場」といった4つの想いを大切にしているといいます。病院内にあるため、万一のときの対応やすぐに医療相談ができることも、立ち寄る場所としては安心なようです。
参加者にはスタンプカードが渡され、参加のたびにスタンプが押されます。30個のスタンプが押されたカードが7枚たまると、名古屋市が65歳以上の市民に発行するバスICカード「敬老パス」の入る「パスケース」のプレゼントも。参加意欲をそそります。
「参加者の中には、『こういったカフェのあり方を広めたい』と自発的にボランティア活動をして、別の地区の認知症カフェでやり方を教えてくる方もいます。皆さんの元気にむしろ私たち職員の方が活力をもらえます」(高野所長)
音楽療法のほか、週に2日開催する運動療法では、参加者の生活の質を向上させる取り組みも行っています。
音楽療法は、日本音楽療法学会によると「音楽のもつ生理的、心理的、社会的働きを用いて、心身の障害の回復、機能の維持改善、生活の質の向上、行動の変容などに向けて、音楽を意図的、計画的に使用すること」と定義しています。
当カフェでも、音楽療法士が参加者と音楽を楽しみながらもさりげなく参加者たちの様子をチェックし、元気がなさそうなら声をかけたりしているといいます。そうすることで、うつやひきこもり状態だった方も毎日参加できるようになったり、物忘れが心配な方のなかには、「私がおかしかったら、遠慮なく言ってね」と音楽療法士に言う方もいるそうです。
病院スタッフ、音楽のチカラも相まって、心和むひとときが今日も参加者たちによってつながり続けます。