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近所に声をかけてくれる人がいるだけで安心 普段の暮らし方が将来の備えになる

トークセッションの様子。左から、松本一生先生、柴山延子さん、飯塚正義さん、飯塚道代さん、水野義之さん
トークセッションの様子。左から、松本一生先生、柴山延子さん、飯塚正義さん、飯塚道代さん、水野義之さん

「認知症になっても、それぞれできること、やりたいことがあり、希望を持って自分らしく暮らし続けることができる」。こうした新しい認知症観のもと、市民公開講座「認知症の人とその家族がおだやかな毎日を過ごすために」が、7月12日、丸ビルホール(東京・丸の内)で開催されました。認知症の人や介護者、医師、自治体、それぞれの立場から、前向きな取り組み事例が紹介されました。

イベントの最後にはこの日の登壇者全員によるトークセッションが行われました。事前に参加者から寄せられた、認知症に関する悩みや質問に答えるかたちで、意見が交わされました。

トークセッション「認知症に関する悩み事にどう向き合い、どう対処するか」

医療法人圓生会 松本診療所(ものわすれクリニック)院長
松本一生先生

公益社団法人 認知症の人と家族の会 東京都支部
一般社団法人 日本認知症本人ワーキンググループ 正会員
飯塚正義さん(とうきょう認知症希望大使)と道代さんご夫妻

社会福祉法人 新生寿会 きのこ地域連携室
介護福祉士・若年認知症専門員
柴山延子さん

大和市 あんしん福祉部 人生100年推進課 認知症施策推進係 係長
水野義之さん

Q . 認知症と診断された母が、ときどき落ち込んだ様子で「私、おかしくなっちゃったみたい」「生きていても楽しくない」というようなことを口にします。私自身もそのような母の姿を見てどう関わればいいか分からず不安を感じています。

飯塚道代(以下、道代) 夫もその日その日で様子が変わるので、ネガティブな時もあります。昔は「そんなことないでしょう」と叱咤(しった)激励していたこともありますが、そればかりだと本人を追い詰めて、つらくなってしまう時もあるようです。最近は、あまり余計なことを言わずに、「うん、うん、そうね、そうだね」と聞くことが多いです。

飯塚正義(以下、正義) 私は、新鮮な気持ちで生活できています。一方で妻は全部覚えているので嫌だろうなと思うものの、放っておいてくれというわけにもいかない。なるべく「がっかり」を楽しいことに変えられるようにと日々考えています。

道代 ずっと二人で家にいると煮詰まるので、「外に行こうよ!」とカメラを持ってどんどん出かけるようにしているんです。

水野義之(以下、水野) 相談者は、そういった悩みを口にできる場がないのではと想像します。ご本人やご家族の相談を受けていて思うのですが、近所の人でも友達でもいいので、不安を伝えてみたらどうでしょう。そこにすばらしいアドバイスがなくても、共感してくれる人がいるだけで半歩でも一歩でも、進める気がします。

道代 私も最初はなかなか夫が認知症だと言えませんでした。でも、夫が「恥ずかしくないからオープンにする」という考えだったので開示したんです。そうしたら、応援してくれる人があちこちにいることが分かって気が楽になりました。
本人ミーティングや交流会には、先輩の人たちもいるのでアイデアがもらえます。

松本一生(以下、松本) 臆することなく相談ができれば、一歩踏み出せるかもしれませんね。

Q . 認知症の家族に対してつい強い口調で接してしまい、あとから後悔してしまいます。このような自分の気持ちと、どのように向き合えばよいのでしょうか。

松本 家族でも100%受け入れられるはずはないですからね、道代さんも時には本音が出てしまうこともあるのではないですか?

松本一生先生
松本一生先生

道代 余裕がない時はイライラした受け答えになってしまうことがあります。そして後で自分の言葉を後悔することも。これは失敗だったな、こういうふうに言っちゃいけなかったな、と分かったことは言わないようにしています。

例えば、バスに乗っていて「次、降りるよ」と言ったら、夫はその言い方は命令されているようだからやめてくれと言うんです。じゃあどうすればいいかと言うと「次降りましょう」と。自分から行動したと思えるような声かけなら納得するようです。ですから、本人がどういう言い方をしてほしいかを聞くのも一つの方法ではないでしょうか。

水野 強い口調になるのは誰にでもあることなので、自覚したら受け止めて次に生かしたいですね。その後悔の気持ちも、怒りがあったことも、自分で一回認識して、そこから自分はどう接するべきかを考えていくしかないと思います。

松本 ケアを受ける側もする側も、お互いに相手を許すことがあると思います。つい感情的になったあとで後悔する、それを、そんなにダメなことと捉えなくてもいいのではないかなと思います。

Q . 認知症の母の「物がなくなった」「誰かがいる」といった訴えに対し、事実を説明するとけんかになってしまいます。聞き流そうとすると、今度は話を聞いてないと怒られます。本人と家族の間で見えているものにズレがある時、どのように本人と関わればいいのでしょうか。

松本 私たちが幻覚とか妄想と呼ぶ、いわゆる行動心理症状(BPSD)は、頭から否定してしまうと本人はすごく傷つきますよね。かといって、全部受け止めてしまうと、その「なくなった」「誰かいる」という体験が本人の中で消えないので、本当に難しいと思います。

道代 うちも物がなくなったというのは頻繁にあります。夫は、「目の前から消えてなくなった」という言い方をするんです。「ここにあるよ」といって指さすと、「急にその物が出てきた感じで怖い」と言います。視野が狭くなっているんだと思います。

ですから「何言っているの、ここにあるじゃない」という対応をするのではなく、認知症だとそういうこともあるんだなと知っておけば、対処できることもあります。

飯塚道代さん
飯塚道代さん

松本 認知症の症状について正しい情報を知っておくことは大きな力になりますね。

水野 本人の言っていることは、その人にとっては事実なので、一旦受け止めてみましょう。いきなり「そんなことないよ」と否定するのではなく、はい、そうなんだ、と一回クッションをはさむ。それから事実を説明すると、本人の反応も違ってくると思います。

Q . 遠方で認知症と診断された母が一人暮らしをしています。仕事を続けたいのですが、これからの母の生活を考えたら自分が仕事を辞めて介護をした方が良いのか、悩んでいます。どのような支援やサービスを使えば両立することができるでしょうか。

水野 介護離職の問題ですね。私は、今仕事をしているのであれば辞めない方がいいと思います。お母さんのことが心配だとは思いますが、介護する家族にはその人の人生があるわけなので、お金の問題でその人が立ちいかなくなると、共倒れになります。

松本 私も日々の診療の中で、そんな悩みをたくさんの人から受けてきました。その度に、自分の中で介護の部分を保ちながらも仕事の部分は必ず残すように、と言い続けています。

水野 介護保険は、家族だけに担わせないよう、介護を社会化するためにできた制度です。皆さんは保険料を払っているわけですから、使わない手はありません。また、近所の人にサポートをお願いするのも、割り切ってやった方がいいと思います。お母さんの住んでいる地域で提供されているインフォーマルなサービスなども利用してください。

水野義之さん
水野義之さん

松本 私自身、昼は診察をして、午後3時からは介護者、という生活をしてきました。それぞれに大事な側面があるので、両立できる世の中であるといいなと思います。

Q . 誰もが認知症になる可能性がある中で、自分自身が認知症になったとしても安心して暮らしていくためには、日々どのような過ごし方や関わりが大切でしょうか。また、社会や地域にはどのような支えが必要だと思いますか。

正義 私は、近隣で名前を知っているくらいの人と、通りかかった時に「こんにちは、いい天気ですね」とあいさつを交わせる、そんな関係がいいなと思います。直接、困ったことを相談するというほどではなくても、そういう人があちらにもこちらにもいる、その状態が暮らしをなんとなく温かくしてくれるんです。特に利害関係もなく「具合はどうですか」と言ってくれるだけで、ご近所さんのパワーをもらえると思います。

飯塚正義さん
飯塚正義さん

道代 私たちはマンションに住んでいるのですが、何年か前に自治会にお願いし、マンション内で「認知症サポーター養成講座」をやってもらったんです。50人弱集まった中で夫も話をして、認知症のことを正しく知ってもらいました。そうすると、周りも目を配ってくれたり、「あそこにいましたよ」と声をかけてくれたり、皆さんに緩やかに見てもらえるようになって、安心が増えました。

水野 地域包括ケアそのものですね。市役所に相談して得られる支援だけではなく、常に近くにいる誰かは貴重な存在です。

日頃から周囲との関係がうまくいっていない人は、認知症になった時に問題が難しくなりやすい傾向があります。飯塚さんご夫妻のように、ゆるやかに見守ってもらえるくらいの関係性を保っておくことは大事だと思います。

松本 普段、飯塚ご夫妻をサポートされている柴山さんは、お二人に対してどんな印象をお持ちですか。

柴山 正義さんが徒歩ナビゲーションの商品開発に関わって、すごく楽しいとおっしゃっていたのが記憶に残っています。本人と家族の日頃からの経験が何かに役立つ、そういう時代になったなあと感じています。

柴山延子さん
柴山延子さん

松本 時代は少しずつ変わってきているんですよね。課題にぶつかっても、いろいろな選択肢がある。治療や薬についてもそうです。しっかりと情報を得て、本人も家族も納得するような選択をしていくことが重要だと思うので、今日のような話も生かしていただけるとうれしいです。

医療法人圓生会 松本診療所(ものわすれクリニック)院長 松本一生 先生
「認知症は諦めないことが大事」 地域で当事者と介護者の見守りを
講演1「認知症の人や家族の安心とは」
公益社団法人 認知症の人と家族の会 東京都支部、一般社団法人 日本認知症本人ワーキンググループ正会員 飯塚正義さん(とうきょう認知症希望大使、中)と道代さん(右)ご夫妻、社会福祉法人 新生寿会 きのこ地域連携室、介護福祉士・若年認知症専門員 柴山延子さん(左)
「認知症になってからも新しい挑戦はできる」 趣味の発信や商品開発参画でアクティブな毎日を
講演2「認知症の私が、今だからこそ伝えたいこと」
大和市 あんしん福祉部 人生100年推進課 認知症施策推進係 係長 水野義之さん
新しい認知症観に基づき「まちづくり」を推進 対話から生まれた条例が認知症施策の核になる
講演3「本人、家族、地域と創る認知症とともに歩むまち」
「認知症ケア支援VR」の体験会の様子
「認知症ケア支援VR」の体験会

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