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新しい認知症観に基づき「まちづくり」を推進 対話から生まれた条例が認知症施策の核になる

大和市 あんしん福祉部 人生100年推進課 認知症施策推進係 係長 水野義之さん
大和市 あんしん福祉部 人生100年推進課 認知症施策推進係 係長 水野義之さん

「認知症になっても、それぞれできること、やりたいことがあり、希望を持って自分らしく暮らし続けることができる」。こうした新しい認知症観のもと、市民公開講座「認知症の人とその家族がおだやかな毎日を過ごすために」が、7月12日、丸ビルホール(東京・丸の内)で開催されました。認知症の人や介護者、医師、自治体、それぞれの立場から、前向きな取り組み事例が紹介されました。

神奈川県大和市は2021年に「大和市認知症1万人時代条例」を制定しています。市役所で認知症施策の推進を担う、水野義之さんの講演をご紹介します。

講演3「本人、家族、地域と創る認知症とともに歩むまち」

大和市 あんしん福祉部 人生100年推進課 認知症施策推進係 係長
水野義之さん

誤解や偏見を解くのは「コミュニケーション」

皆さんは、もし隣に住むご高齢の方が認知症と診断されたら、何を考えますか? 市役所への相談でよくあるのは「火の始末が心配」「ゴミ屋敷になっているかも」「一人暮らしは無理では」というようなものです。

しかしそれは隣の家で火事を起こしそうな様子や片付けないゴミを実際に見たのではなく、多くの場合、想像で訴えているだけなのです。

それらの根拠のない心配事は、気づかぬうちに抱いている認知症への偏見や誤解です。そういう私も、認知症の人の自宅を訪問した際に、「家の中がきれいだな」と考えている自分に気づきました。“認知症の人は片付けられない”という思い込みがあったのです。

近年、認知症施策の中で強調されているのが、「新しい認知症観」です。これは、「認知症になったら何もできなくなるのではなく、認知症になってからも、一人ひとりが個人としてできること・やりたいことがあり、住み慣れた地域で仲間などとつながりながら、希望を持って自分らしく暮らし続けることができる」という考え方です。

この考え方を浸透させるには、偏見や誤解をなくしていかなければなりません。私たち行政の人間を始め、みんなが認知症の人に向き合い、十分なコミュニケーションをとっていくことが、古い認知症観を変えていくと考えています。

大和市では、2016年に「認知症1万人時代に備えるまち やまと」宣言を制定しました。そして、2021年には「大和市認知症1万人時代条例」を施行しています。

この条例の策定にあたり、私たちが重要視したのは、認知症の人との対話です。新しい認知症観に立ち、「認知症の人は自分の気持ちを正しく話すことができない」と決めつけず、一人の尊厳ある個人として捉える。暮らしに何が必要なのか、どんなふうに暮らしたいのかを直接聞くことから始めたのです。

直接聞くことで、取り組みへの考え方が変わった

認知症の50人以上の方々からの聞き取りや意見交換を行うと、喜怒哀楽の豊かな、率直な声を聞くことができました。

例えば、「一人暮らしをしていると寂しく、皆さんとお話しして笑って元気に生きたい」「人の役に立つことをやりたい。周りがやらせてくれないのが寂しい」という意見がありました。少しずつうまくいかないことが増えているのを自覚している人にも、こんなことをしたいという希望が当たり前にあるのです。

「認知症ケアパス」というガイドブックに関する意見交換では、字が多い、色が多すぎるなど、たくさんの指摘を受けました。本人が手に取って難なく読めるものでなければならないのに、介護者目線で作っていたことに気づきました。そこで、シンプルなデザインにして文字量を抑え、情報量も制限しました。

また、行方不明対策に使われる「GPSシューズ」の体験会の際、ある認知症の人が「この靴があれば安心して外出できそうだ」と発言しました。それを聞いて、これは介護者のためだけではなく、本人の外出も支援するものだと認識が変わったのです。

認知症になってから初めてスイミングスクールに参加した人の話も聞けました。その方は参加をとても楽しんでいて、周りに認知症だと伝えても対応が変わらなかったことを教えてくれました。私は、そのチャレンジする姿と、周囲の関わり方に感銘を受けました。

こうした体験を通して、認知症の人との良い関係性が大和市全体に広がってほしいという思いが強まりました。これらの対話が、条例策定のベースになったのです。

対話から生まれた活動で、地域の好循環を

水野義之さん

大和市では、講演や専門職向けの研修、市民講座、企業の製品開発など、認知症の人にご協力いただく場を設けています。また、「本人相談員」というピアサポート制度※2をつくったところ、認知症の本人だけでなくその家族が相談に来るなど、想定外の活用も見られています。

※2…当事者の経験を生かして、同じ悩みを抱える人の相談相手になること

さらに、動画も制作しました。認知症に関する活動を多くの市民に知ってもらい、新しい認知症観への理解を深めることが目的です。

こうした動画を通じて、認知症の人の思いや暮らしを知ることは、偏見や誤解を手放すことだけでなく、その人自身の将来に対する悲観や不安も和らげると考えています。そして、認知機能の低下にもきちんと備えられると思います。

この好循環を、認知症との接点が多くない市民も一緒に地域で回していくことで、落ち着いた素敵なまちができていくと考えています。大和市では、本人が望む形で暮らしを継続できるよう、今後もそうした施策を進めていきます。

医療法人圓生会 松本診療所(ものわすれクリニック)院長 松本一生 先生
「認知症は諦めないことが大事」 地域で当事者と介護者の見守りを
講演1「認知症の人や家族の安心とは」
公益社団法人 認知症の人と家族の会 東京都支部、一般社団法人 日本認知症本人ワーキンググループ正会員 飯塚正義さん(とうきょう認知症希望大使、中)と道代さん(右)ご夫妻、社会福祉法人 新生寿会 きのこ地域連携室、介護福祉士・若年認知症専門員 柴山延子さん(左)
「認知症になってからも新しい挑戦はできる」 趣味の発信や商品開発参画でアクティブな毎日を
講演2「認知症の私が、今だからこそ伝えたいこと」
トークセッションの様子。左から、松本一生先生、柴山延子さん、飯塚正義さん、飯塚道代さん、水野義之さん
近所に声をかけてくれる人がいるだけで安心 普段の暮らし方が将来の備えになる
トークセッション「認知症に関する悩み事にどう向き合い、どう対処するか」
「認知症ケア支援VR」の体験会の様子
「認知症ケア支援VR」の体験会

「第2回 認知症の人とその家族が おだやかな毎日を過ごすために」 の一覧へ

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この特集について

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