「認知症になってからも新しい挑戦はできる」 趣味の発信や商品開発参画でアクティブな毎日を
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「認知症になっても、それぞれできること、やりたいことがあり、希望を持って自分らしく暮らし続けることができる」。こうした新しい認知症観のもと、市民公開講座「認知症の人とその家族がおだやかな毎日を過ごすために」が、7月12日、丸ビルホール(東京・丸の内)で開催されました。認知症の人や介護者、医師、自治体、それぞれの立場から、前向きな取り組み事例が紹介されました。
第二部に登壇したのは、「とうきょう認知症希望大使」を務める飯塚正義さんと、その生活を支える妻の道代さん。介護の専門家として認知症の人の支援に従事する柴山延子さんのサポートを得ながら、お二人なりの認知症への向き合い方と今の思いを語りました。
講演2「認知症の私が、今だからこそ伝えたいこと」
公益社団法人 認知症の人と家族の会 東京都支部
一般社団法人 日本認知症本人ワーキンググループ正会員
飯塚正義さん(とうきょう認知症希望大使)と道代さんご夫妻
社会福祉法人 新生寿会 きのこ地域連携室
介護福祉士・若年認知症専門員
柴山延子さん
一級建築士として働く61歳でまさかの診断
飯塚正義(以下、正義)さんが早期の若年性アルツハイマー型認知症と診断されたのは、建築系の業界団体に勤務していた61歳の頃。歩いている時に自転車と接触して搬送され、病院で検査を受けたことがきっかけでした。
飯塚道代(以下、道代) 当時、本人には全く自覚がなかったのですが、私たち家族は、その半年ほど前から少し異変を感じていました。物忘れもあったし、仕事からボロ雑巾のようにクタクタで帰ってきたり、ネクタイが結べずに何回もやり直していたり。今思えば、早期に発見できて良かったのかもしれません。
長年一級建築士として活躍してきた正義さんには思いもよらない病名でしたが、理系であいまいなことが嫌いな性分もあって、本を読んだり講演を聞きに行ったり、アルツハイマー型認知症について自分で調べました。その結果、やはり自分は認知症だと確信し、失意で家にこもる日々を送ります。その状況を変えたのは、道代さんの行動でした。
道代 病院でソーシャルワーカーからもらったプリントに東京都千代田区の本人ミーティング「実桜(みお)の会」の案内がありました。若年性アルツハイマー型認知症の当事者の方もいると書かれており、どんなものか全く分からないながらも、夫を誘って行ってみました。
喫茶店を会場に、認知症の当事者同士と家族同士がそれぞれ、コーヒーやスイーツを楽しみながら語り合う会でした。「病気の人が集まるのだから、暗い雰囲気なのでは」という正義さんの予想とは違い、皆がにこにこと笑顔で話しています。他の家族と気兼ねなく話せた道代さんにとっても、居心地の良い場でした。
人とのつながりで、商品開発に参画も
道代 実桜の会がとても良かったので、自分たちの暮らす地域にも同じような場が欲しいと江東区役所の人に話したところ、2025年から江東区でも本人ミーティングが開始されました。今はそれらの会を含め、区内外の複数の交流会に定期的に参加しています。
本人ミーティングは、認知症の本人同士が自分の体験や希望、必要としていることなどを語り合い、暮らしに必要なことを地域に伝えていくための集まりです。自治体や地域包括支援センター、医療機関、社会福祉協議会、NPOなどさまざまな組織が開催しています。多様な人とつながることで、二人の活動範囲はぐんと広がりました。
道代 夫は写真撮影を趣味にしています。撮った写真を皆さんに見ていただいているうちに、公共の場に展示させてもらうことも増えました。写真のタイトルは夫が自分で考えています。
さらに、経済産業省が推進する「オレンジイノベーション・プロジェクト」という、認知症の本人がサービスの開発プロセスに参画し、企業とともに新しい製品やサービスをつくる取り組みに参加。腕時計型の“徒歩ナビゲーション”の実証実験で5日間の試用を担当しました。
道代 認知症になると新しいことはできないのでは、と思われがちですが、夫はこのプロジェクトへの参加を楽しみ、商品化されたらぜひ使いたい、と期待に胸を膨らませています。
困りごとには工夫で対処、人生を楽しむ
イベント参加、写真撮影とアクティブな飯塚さんですが、認知症の症状により困ることもあります。その対処法も語られました。
道代 一人の時に道を尋ねようとしても誰も立ち止まってくれなかったので、リュックにヘルプマークをつけるようにしています。また、道路上の影や黒い部分が穴に見えてしまったり段差が平面に見えたりして、怖いと感じることがあるそうです。そんな時は、ゆっくり、確かめながら歩いています。
持ち物は黒っぽいものだと他人のものと区別がつかなくなるので、視認性の高い色にしています。カメラの取り出しやすさも大事です。本人のこだわりを尊重するため、主に自分で選んだものを使っていますね。
最後に、正義さん自身の言葉で、思うことを語ってくれました。
正義 認知症は、誰がなってもおかしくない病気です。慌てないように心の備えをしていれば、過剰に恐れることはないと思います。物事を理解するのに時間がかかったり簡単だったことができなくなったりするとがっかりしますが、私の本質的なところは変わっていません。努力や工夫をすれば、まだまだできることはあります。認知症があってもなくても人生は一度きり、楽しまなければ損だと思います。
(資料・出典)
東京都『「とうきょう認知症希望大使」を任命』
厚生労働省『認知症のわたしたちが集い、語り合う、やさしいまちをいっしょにつくろう』
江東区『若年性認知症の方の交流会』
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