編集長、取材中!

デザインの力で社会課題を解決?(後編)書籍は発売直後に増刷決定

筧裕介さん

「デザイン」という視点からさまざまな社会課題の解決に挑んでいるイシュープラスデザイン代表の筧裕介さん。書籍化した「認知症世界の歩き方」は発売後すぐに増刷が決まり、大きな反響があるようです。インタビュー後編は、今後について伺いました。
前編から読む

――WEB連載から始まった「認知症世界の歩き方」は、2021年9月に書籍化されました。本をどんなふうに活用してもらいたいですか?

認知症に直面しているご本人はもちろんのこと、家族や事業者、医療、介護にかかわる方に認知症を正しく理解してもらって、ご本人と周囲の方とのコミュニケーションをより良いものにするツールとして使っていただければうれしいですね。そして認知症に対する社会全体の理解が進むことで、むやみに恐れたり偏見を持ったりということがなくなっていけばいい。

また、団塊の世代を中心にした認知症予備軍とも言える方たちに認知症について理解を深めてもらうことで、認知機能が低下した状態になったとしても暮らしやすい社会をつくることに近づけるのではないかと思います。周囲の環境が与える影響は大きく、良い環境で暮らし続けられるようになれば症状は進行しにくくなると言われていますから、社会保障みたいなものも含めて社会全体に貢献できることもあるんじゃないかと思っています。

『認知症世界の歩き方』筧裕介・著(ライツ社)

――認知症フレンドリー社会の実現を進めていくことにもつながりますか?

そうですね。僕は当初、企業にアプローチする方が速いかなと思っていたんです。これだけ高齢化が進んでいるので、認知症にかかわるプロジェクトは 結構企業のニーズがあるんじゃないかと。ところがびっくりするくらいニーズがなかった(笑)。 認知症フレンドリーなデザインを考えたいと思ってくれる企業はほとんどありません。むしろ市民側がこの領域に対してすごく関心をもてるような動きを作る方が速いんじゃないかな。そこにチャレンジしたいと思っています。

――自治体はどうでしょう

自治体がかわることはもちろん大事ですが、それだけでできることは限られていますよね、この領域は。自治体をひっくり返すには、途方もなく労力がかかります。本来、自治体というのは社会全体でムーブメントが起きて初めて動き、暮らしやすい地域を作っていく。社会の要請がない中で、たまたま熱心な担当者が頑張ってやっているだけではすごくしんどい。その担当者がいなくなるとゼロに戻るみたいなこともよくありますから。

――今後、認知症フレンドリー社会を実現して行くためにデザインはどうかかわっていけるのか、夢も含めて筧さんがやっていきたいことを教えてください

イシュープラスデザインは2008年に「震災のためにデザインは何ができるか」からスタートしました。当時は社会課題や地域課題にデザインがかかわっていくといったアプローチの仕方はなかなか理解してもらえませんでしたが、10年以上が経った今はかなり理解が進んだように思います。

とはいえ、医療や介護、福祉、認知症といった領域ではまだまだ限定的。デザインの世界にいる人から見るとこの領域は正直よくわからなくて、私たちのこのプロジェクトも、「不思議なことを始めたね」と言われることもあります。でもデザインに携わる人たちが医療・介護・福祉の領域に興味を持ってくれて、実際にものを作ったり情報を発信したり商品開発をしたりすれば、社会は変わっていく。世界中に「人の認知機能にかかわる認知症の課題は、デザイナーやエンジニアも解決できるものなんだ!」と思ってもらえるようになることを期待しています。

筧裕介さん

それからもう一つ。医療や介護関係の方たちにも「面白いね」と、関心を持ってもらうことも必要です。「認知症世界の歩き方」にしても、この本を読んだことで医師の考え方や介護者の視点が変わるということにアプローチができないと、チャレンジする意味がありません。

「医師でもない人が何をやっているの」という人もいるでしょう。でも今までの感触だと、強く関心を寄せてくださる医師や介護職の人たちもたくさんいます。今までと異なる視点を取り入れた人たちから医療や介護の世界が少しずつ変わっていって、デザインや商品開発をやっている人たちの変化、さらに市民側の認知症に対する理解が重なっていけば、新たな動きが出てくるかもしれません。だからこの本が世に出ることでどんな反応があるのか、怖い反面、とても楽しみでもあります。

――この本を読んで認知症について深く学ぼうとする人が増えていく。そんな入り口になることを期待しています。書籍の次も考えていらっしゃいますか?;

書籍だけではなかなか届かないので、より広くいろいろな人に知ってもらうために「認知症世界の歩き方Play!」という体験型のゲームコンテンツを制作し、ワークショップを通じて認知症に関する知識を深めてもらうチャレンジを各地で始めています。多くの地域でこのプログラムが実践され様々な立場の方に参加してもらうことで、認知症の世界を楽しく知り、より関心を持ってくれる人たちが増え、次のアクションにつながっていければいいなと思っています。

――本日はありがとうございました

※ 「認知症世界の歩き方」の制作にかかわった青木佑さんの記事「認知症フレンドリーな社会へ 当事者と旅する世界 青木佑さん×DIALOG学生部」もどうぞ。

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