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編集長、取材中!

新連載「編集長、取材中!」デザインの力で社会課題を解決?(前編)

筧裕介さん

高齢化の進行とともに認知症の人が増える中で、認知症になっても暮らしやすい「認知症フレンドリー社会」の実現が求められています。実現に向けてどう取り組んでいけばいいのか、「デザイン」という視点からさまざまな社会課題の解決に挑んできたイシュープラスデザイン代表の筧裕介さんに、松浦祐子なまかぁる編集長がお話を伺いました。

――筧さんはこれまで震災、自殺、児童虐待、子育て、まちづくりなどいくつもの社会課題をデザインの力で解決するプロジェクトに取り組み、認知症に関してもさまざまな活動を実践していらっしゃいます。認知症をテーマに活動しようと思ったきっかけを教えてください

デザインは、人の認知機能に働きかけてモノや情報と人との関係をより良くしていく行為なので、もともと認知症は関心を持っていました。プロジェクトとして最初にかかわったのは7~8年前です。

熊本で認知症専門の介護施設を運営している方とたまたま知り合い、その施設で3~4カ月間ほどリサーチや実験プロジェクトをやらせていただきました。認知機能に障害を抱えることで暮らしにくくなり、周囲にネガティブな影響を与えていく――活動する中で認知症になることでご本人と周囲の人が抱える課題が見えてきて、言葉を選ばずに言うと、認知症は面白いテーマだなと。

ただそのときは認知症の方と施設スタッフが対話できる場を作るといった、ちょっとしたプロトタイプまではやりましたが、その先に広げることはしませんでした。

筧裕介さん

――なぜ広げようと思わなかったのでしょうか

医療や福祉、その地域にかかわっていない僕らが勝手に何かをやったところで、課題の解決に至るような大きな動きは作れそうもないと思いました。手がけたものが社会で使われないと、意味がありませんから。

それから5年ほど経った頃、当時「認知症未来共創ハブ」という産学官連携プラットフォームを立ち上げようとしていた慶應義塾大学教授の堀田聰子さんにお目にかかる機会がありました。別のプロジェクトの報告会を兼ねた食事会のような席でしたが、食事に手も付けずに認知症について語っていらっしゃった。堀田さんはすでにアカデミックなアプローチや行政とのコネクション、地域での活動などを始めていて、その活動を世の中にもっと広げていこうとしていたんですね。自分たちだけでは限界があるけれど、そういった素晴らしい活動をしている方々と一緒なら、何か新しいチャレンジができるのではないかと感じました。

――筧さんも認知症未来共創ハブの一員となって、チャレンジが始まったわけですね。始めてみて、何か驚いたことや気づきはありましたか?

プロジェクトの一環で認知症の方たちにインタビューをする中で、「当事者がどのような認知機能障害を抱えていて、それにともなってどのような困りごとが生じているのか」ということが見えてきました。もっと知りたくなり、体系的に整理されているものがあるはずだと一覧のようなものを探したのですが、医療者や介護者の視点で「こういう問題行動があって、これにどう対処するか」というものしかない。つまり認知症の方が自分の状態をきちんと把握したり、それを踏まえてどう生活するかを考えたりするためにまとめたものがなかった。「ご本人はやらないし、できない」と思い込んでいるから、認知症の方の視点に立ったものが出てこないんですね。

ところが認知症の方にお話を聞くと、できることはやり続けたいし、取り上げないでほしいと思っていらっしゃる。それは認知症がある・なしに関わらず、誰でも思っていることですよね。認知症とともに暮らす方でも、自分ができることとできないことが明確にわかっていて、できないことはテクノロジーや周りの力を借りながらやっている方もおられます。

――周囲は、認知症の方の世界を見ようともしないで決めつけてしまいがちですよね

身近な家族でもそうでしょう。認知症の当事者の丹野智文さんに象徴的なお話を伺ったことがあります。

ご主人がレビー小体型認知症というご夫婦なんですが、奥様が丹野さんに「夫が汚れた帽子を家の中でもかぶって手放そうとしない。不衛生だけど洗濯することもできなくて困っている」と相談に来たそうです。丹野さんがご主人に理由を尋ねてみると、「垂れ下がっている木のようなものから頭を守るためにいつも帽子をかぶっているんだ」と。木のようなものは実際には存在していませんが、レビー小体型認知症の特徴的な症状でもある「幻視」によって彼には見えている。だから頭を守るためにずっと帽子をかぶるのは、彼にとって当然の行動なわけです。

筧裕介さん

そのときに痛感したのは、認知症の方に見えている世界はご本人以外の周りの人、特にすごく近くにいる家族や医療・介護従事者は同じように見えていないということ。認知症の方が見えている景色を、ご本人の視点で世の中に伝えたいと思って、WEBサイト「認知症世界の歩き方」という連載を始めました。

――「認知症世界の歩き方」では認知症のある方約100人をインタビューし、そこから明らかになった44個の心身機能障害を、「記憶のトラブル」「五感のトラブル」「時間・空間のトラブル」「注意・手続きのトラブル」の4つに分類されています

医学書に中核症状や周辺症状として書かれているものだけではなく、ご本人から伺った暮らしの中での困りごとを整理し、その困りごとを引き起こしていると考えられる心身のトラブルを「44の心身機能障害」としました。たとえば「細かい色の違いを識別できない」とか「慣れ親しんだ手続きを実行できない」というように、生活の中で起こる困りごとの背景には、いろいろな理由があるんですよね。

「認知症世界の歩き方」では、認知症の方が生活の中で経験するさまざまな出来事を「認知症世界を旅する」というストーリー仕立てにしています。44個の心身機能障害の中にもいくつか共通項があって、それを13のストーリーに昇華させていきました。

――認知症世界を旅する人のスケッチと旅行記で紹介していくスタイルで、楽しみながら読み進めることができますね

エッセー風とかいろいろ試してみたものの、なんか面白くない。旅スタイルにすることで、行ったことがない場所を旅した時に感じる驚きとか、違う世界を体験する喜びや面白さみたいなものを認知症の世界で表現できるのではと思いました。デザインは美しさや楽しさがあって初めて気持ちが動かされ、伝わりにくいことを伝えることができるものですからね。

後編につづく

※「認知症世界の歩き方」の制作にかかわった青木佑さんの記事「認知症フレンドリーな社会へ 当事者と旅する世界 青木佑さん×DIALOG学生部」もどうぞ。

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