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若年性認知症「楽しいと死んでしまいたい時も」~私たちを知ってください(下)

43歳で若年性認知症と診断された、さとうみきさん(左)。明るい道へと先導したのが、39歳で若年性認知症と診断された丹野智文さん(右)でした。9月21日は世界アルツハイマーデー(World Alzheimer's Day)です。なかまぁるでは世界アルツハイマーデー、世界アルツハイマー月間(World Alzheimer's Month)の特集をご覧いただけます
さとうみきさん(左・45)、丹野智文さん(46)

43歳で若年性認知症と診断された、さとうみきさん。明るい道へと先導したのが、39歳で若年性認知症と診断された丹野智文さんでした。前回に引き続き、お2人に認知症当事者としての思いを語っていただきました。

さとうみきさん

1975年生まれ、東京都在住。大学病院や電気メーカーで秘書として働いた後、25歳で結婚し出産。専業主婦として過ごしていた2018年秋、認知症を扱ったテレビドラマがきっかけで自ら認知症を疑い、年末に認知症専門医を受診。19年1月、若年性アルツハイマー型認知症と診断された。認知症と向き合い葛藤する日々を経て、現在は当事者同士のサポート活動のほか少しずつ講演活動も行いながら、夫と高校生の息子、2匹の犬とともに暮らしている。

丹野智文さん

1974年生まれ、仙台市在住。自動車販売会社に勤めていた39歳の時、若年性アルツハイマー型認知症と診断される。2015年、認知症当事者の相談窓口「おれんじドア」を開設。国際アルツハイマー病協会(ADI)国際会議に参加するなど、国内外で積極的に講演活動をしている。なかまぁる特別プロデューサー。

拭い去れないモヤモヤ

――今のみきさんにとって一番の不安は?

さとうみきさん(以下みき) やはり家族のことですね。認知症の症状が進行していったら、一人っ子で高校生の息子や多忙な主人はどうするんだろうとか、息子の将来を見届けられるかなとか……。「これ」といった不安だけでなく、漠然とした不安も大きい。たとえば今日、自分が何に対して落ち込んだのか考えてもわからなくて、気持ちがモヤモヤしてしまう。

モヤモヤは自分だけなのかなと思っていたんですが、「DAYS!BLGはちおうじ」(東京都町八王子市にあるデイサービス)のメンバーさんの中にも、「診断から何年も経っているのにモヤモヤした気持ちが拭い切れない」という方がいらっしゃる。きっと周囲の人が「大丈夫」と言ってくださっても、このモヤモヤを拭い去るのは難しいと思う。だから不安そうにしているメンバーさんには「なんかモヤモヤしますよね」と声をかけることもあります。私の声かけで救われるかどうかはわからないけれど、私自身もその方に寄り添い、共感することで得るものがあるように思います。

43歳で若年性認知症と診断された、さとうみきさん。一番の不安を聞かれ、「やはり家族のことですね。認知症の症状が進行していったら、一人っ子で高校生の息子や多忙な主人はどうするんだろうとか、息子の将来を見届けられるかなとか……」と答えました

――それは丹野さんも通ってきた道ですか?

丹野智文さん(以下丹野) 当事者同士が話をするのは、相手を元気にさせるだけでなく、自分自身も元気に奮い立たせる意味もある。自分に今、不安があったとしても、ああみんなも同じなんだと安心できます。不安を忘れられる時間を増やしていくことも大事。楽しいことをやっている間は、不安を忘れられるから。

みき 楽しいことがあると、逆に楽しい時間がいつまで続くのかと怖いくらい悲しくなって、このまま死んでしまいたくなる時があります。楽しさと不安とのギャップで、心のバランスを保つのがとても苦しい。進行する前に心が壊れてしまいそうで。
何年もかけて徐々に進行する苦しみはきっと本人にしかわからないし、不安を不安と感じられる今が、一番つらい時期なのかもしれません。失敗した時にやはり落ち込みます。そして「これが認知症なんだなぁ……」と改めて感じます。

丹野 不安は完全に取り除くことはできないけど、やわらげることはできると思う。それにはどうすればいいかをみんなで一緒に考えていけばいいんじゃないかな。

39歳で若年性認知症と診断された丹野智文さんは、「当事者同士が話をするのは、相手を元気にさせるだけでなく、自分自身も元気に奮い立たせる意味もある」と話します

つながることで「人間らしい自分」を取り戻せた

――みきさんは今、「DAYS!BLGはちおうじ」でお仕事をしてらっしゃるんですよね。どのようなお仕事ですか?

みき メンバーさんと一緒に地域広報誌に広告を折り込んでポスティングしたり、洗車などで体を動かしたり。時にはメンバーさんのサポートもしています。
生活のリズムが整いましたね。今まで午後に起きるような生活でした。それが朝早く起きてお化粧して出かけて、地元に帰ったらスーパーでお買い物をして夕食の支度をして。前の状態からは考えられないくらい。BLGは人とのつながりの場でもあるけれど、「人間らしい自分」を取り戻させてくれた場のような気がします。
講演活動も少しずつ始めました。SNSを通じてさまざまな地域の方と交流する中で、地域ごとに認知症の支援に違いがありすぎると感じました。同じ認知症でも若年期ならではの悩みもある中で、これまで自分が得られた気付きを少しでも生かすことができればと思いますし、不安を抱えた方に寄り添いたいと思う。国や社会を変えたいとか、大きなことを考えているわけではないんです。それからもう一つ、私は比較的早い段階で認知症と診断されているので、初期段階の正直な気持ちを伝えたいという思いもあります。

――初期の気持ちというのは、診断からサポートにつながるまでの空白の時間をどうするかということですよね?

みき スムーズにサポートにつながればいいですが、特に高齢者や、ネット検索が難しい人はなかなかつながらない。
これは本人の同意が得られた場合の話ですが、医療機関で診断されたら間を置かずに行政や家族の集いとつながってサポートを受けたり、逆に情報の一覧をすぐに提供していただいたりなど、そんなシステムがあれば空白の時間のモヤモヤや孤独が解消されるのではないかと思うんです。

丹野 私が「おれんじドア(当事者のための、もの忘れ総合相談窓口)を作ったのも、診断直後にどこかにつなげるための入り口になればという思いからだったんだよね。ただ、なんでもかんでも介護保険サービスにはつなげたくないと思っていたの。もちろん介護保険サービスが必要な人もいるけど、症状が軽くて必要ない人もいるし、本人が行きたくない場合もある。できるだけ今までの生活をそのまま続けていくにはどうすればいいのか、そんな視点で必要な情報やサポートにつなげていければと考えています。

ありのままの自分を大切に

みき 私はまだ診断後1年半だから、丹野さんのところまで行きついていないんですよね。正直なところ、認知症に対しての知識や活動がまだよくわかっていないうちから人前で発言するなんて失礼なんじゃないかという思いがあります。

丹野 認知症のことを知りすぎていないほうが素の自分が出せるし、自分の言葉で話すことができるんじゃないかな。格好いいことを言う必要なんてなくて、今、みきさんに起きていることをありのままに伝えることが一番大切だよ。会場に来た100人のうち、1人でも笑顔になってくれればいいと考えてみて。
私も24時間365日笑顔ではいられないけれど、今は自分の笑顔を見て当事者が元気になってくれるなら人前では笑っていようと思っています。でもそう思えるようになるまでには7年くらいかかりました。講演会の真っ最中に泣いたことも何回もあります。そういうこともあったうえで今がある。ある当事者に初めて会ったとき、「丹野さんはまぶしすぎる。イキイキしすぎてて私には無理」と言われたことがあるんです。でも会って3回目で、その人も私みたいに元気になっていましたからね(笑)。

39歳で若年性認知症と診断された丹野智文さん(左)と、43歳で若年性認知症と診断された、さとうみきさん。丹野さんはおれんじドア(当事者のための、もの忘れ総合相談窓口)を運営しています

――最近はテレビなどでも認知症がたびたび取り上げられるようになりました。みきさんは世の中の認知症の受け止め方についてどう感じていますか? 誤解されていると思ったことはありますか?

みき 認知症を対象にした保険のCMで「予防」とうたっているのを見て、違和感を抱いていたんです。「みきさん、予防しなかったから認知症になったの?」と思われてしまうのかなって。いつか当事者の意見として伝えたいと思っていた矢先に、別の保険会社のCMで、予防ではなく「備え」という言葉で表現しているのを見て、ぞくぞくっとしました。正しいことを発信している保険会社は初めてだと思いました。
Facebookでも問題提起をしたことがあります。CMはたった15秒で伝えなければいけないから制限はあるけれど、認知症について社会の理解が進んでいるとは言えない中で、間違って伝わってしまったら、それはとても怖いですよね。

――国際アルツハイマー協会の、今年のアルツハイマー月間のキャッチフレーズは「認知症のことを話そう」です。認知症がもっと多くの人の「自分事」になるように正しい情報を伝えていきたいし、認知症は一人ひとり違う。多様性があることも多くの人に知ってほしい。みきさんは、自分らしい生き方ってどんな風にしていきたいと思いますか。

みき 診断を受けて間もない、不安を持っている当事者に寄り添っていけたら。小さい頃から親や周囲の人に「みきは人の面倒を見るのが好きだよね」と言われてきたので、今DAYS!BLGでサポートなどをしているのは楽しいし、自分に合っているんですよね。

――当事者だからこそ、伝えたいことはありますか?

みき 先日、炎天下で困っていた認知症の方に気づいて声をかけたことがあったんです。私が通る前にも歩行者はたくさんいて、みなさんその方を見て「なにかおかしい」と気づいているのに、コロナ禍ということもあってか、声をかけられないんですよね。認知症に限ったことではないけれど、もう少し自分以外の人に目を向けてほしい。そういう社会であってほしいと思っています。

丹野 「安心して認知症になれる社会」になるといいよね。私は、良くも悪くも環境が当事者を変えると思っています。環境が良ければ進行しても幸せに暮らせる。その環境は周りから与えられるものではなく自分で作り出すもの。みきさんが私に会いたいと思って行動してくれたように、本人も一歩踏み出そうと勇気を出さなければ変わらない。でもその一歩を踏み出せるように助けてくれるのはみなさんだし、つながって一緒に活動してくれるのもみなさんなんですよね。

39歳で若年性認知症と診断された丹野智文さん(左)と、43歳で若年性認知症と診断された、さとうみきさん。世の中・社会の認知症の受け止め方についてどう感じているのかを語りました

衣装協力/United Arrows スタイリスト/浅井友見 ヘアメイク/土橋大輔

前回:「本当に認知症ですか?」という言葉の罪~私たちを知ってください(上)を読む

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