家族なのにお金をおろせない!?親の認知症、介護のお金をどう確保する?
編集協力/Power News 編集部
親が亡くなると、故人名義の口座が凍結され、たとえ家族でもお金の出し入れができなくなります。これと同じように、認知症でも「口座凍結」の可能性があるのをご存じですか?
誰かが亡くなったときに行われる「口座凍結」は、相続財産を守り、遺産相続のトラブルを防ぐのが目的です。金融機関は、口座の名義人が亡くなったという連絡を受けると、その時点で口座を凍結。遺産分割が終わるまで原則として入出金できません。また、送金や自動引き落としも一切できなくなります。
では、認知症の場合の「口座凍結」とはどのようなものでしょうか。介護に詳しいファイナンシャルプランナー(FP)の柳澤美由紀さんは、次のように解説します。
「これもやはり、財産を守るための仕組みです。ご本人の意思に反して、勝手にお金を引き出されたり、横領されたり……といったトラブルを防ぐために、金融機関が口座をストップします。
口座が凍結されると、入出金は一切できなくなります。ただし、亡くなったときの口座凍結とは異なり、『引き落とし』については凍結の対象外。たとえば、公共料金や毎月の住宅ローンなどについてはこれまでどおり引き落とされるので、あわてて名義変更する必要はありません」
凍結されてしまった場合も諦めずに、金融機関に相談を
すでに設定された自動引き落としに支障はなくても、新たにお金を引き出せなくなるのは大問題です。介護をしている家族の側からすると、本人のために必要なはずの生活費や医療費、介護費などが引き出せず、頭を抱えることにもなりかねません。
親の急な入院でまとまった金額が必要になったらどうするか。さらには、いよいよ介護施設に入所しようというときに大金が必要になったらどうするか。今後の親の生活や介護に支障が生じる可能性も出てきます。
もちろん、認知症だと診断されてすぐに口座が使えなくなるわけではありません。
口座が凍結されるのは、あくまでも「判断能力が低下し、意思表示ができなくなっている」と金融機関が判断したとき。逆に言えば、「認知症だと診断されても、しっかり意思表示ができていれば、これまでどおり金融機関との取引が可能」(柳澤さん)ですが、いつ“そのとき”がくるかもわかりません。
もしも口座が凍結されてしまったら、まずなにをすればいいのか——。FP資格を持つ介護・暮らしジャーナリストの太田差惠子さんが、こうアドバイスします。
「介護経験者たちに聞くと、地方銀行や信用金庫では、まだ融通がきくという話も耳にします。認知症の親を施設に入れるためにまとまった費用が必要になったとき、地元の支店長が最後の最後に支店長決裁で手続きしてくれた、とか。まずは、口座が凍結されてしまった場合もあきらめずに金融機関に相談してみたほうがいいですね」
凍結された口座を解除してもらうには?
もっとも、どこまで対応してもらえるかは未知数です。また、交渉がうまくいき、預貯金の一部を引き出せたとしても、口座の凍結が解除されるわけではないそう。では、どうすれば、再び預貯金を引き出せるようになるのでしょうか。
「まず、口座名義人の住所地にある家庭裁判所に、法定後見制度の利用申し立ての手続きをする必要があります。家庭裁判所の審査を経て、成年後見人が選任されます。この成年後見人が金融機関で手続きをすることによって、口座が“解凍”されます」(太田さん)
「成年後見関係事件の概況」(最高裁判所事務総局家庭局)によると、2018年の申し立て件数は前年より2.3%多い3万6549件。審理期間は案件によって異なり、約半数は審理に1カ月以上かかっていました。つまり、それなりの“期間”をみたほうがよさそうです。
一方、費用面では、「自分たちで申し立てをした場合は通常、実費として1万円ほどかかります。弁護士などに申し立てを依頼することもできますが、その場合は20万円プラス実費程度の費用が発生します」(太田さん)。
さらに、司法書士や弁護士などが成年後見人になれば、当然ながら報酬が発生します。それは財産額に応じて家庭裁判所が報酬額を決め、本人の財産から支払われることになります。
口座の“解凍”にはデメリットも
ただし、この制度は決して万能ではありません。
「成年後見制度はあくまでも、判断力が低下した人の財産を守る仕組みですから、介護の実情と合わない部分も少なくありません。たとえば、親族は後見人に立候補はできるものの、必ずしも選ばれるとは限らない。かつて親族後見人による横領事件が多発したことから、最近は司法書士や弁護士などの専門職が任命されるケースが増えているようです。
なにかと手続きが煩雑な上、家庭裁判所への定期的な収支報告義務や、専門職への報酬といった負担も生じる。いったんスタートしたら、途中でやめられないというデメリットもあります」(太田さん)
つまり、万が一、口座が凍結されたとしても、法定後見制度を使えば“解凍”が可能。これは家族にとって心強いことですが、反面、さまざまなデメリットを考えると楽観視できません。
早め早めの行動が重要
「法定後見はあくまでも最後の手段と考え、その前にできることをやっておいたほうがいいですね」と太田さんは言います。
本人の意思表示ができなくなる前にやっておくべきこと。たとえば、「定期預金の解約」もそのひとつです。
「普通預金であれば、親からキャッシュカードを預かり、子どもが代わりに引き出すこともできますが、定期預金は本人以外解約できません。入院や施設入居のためにまとまったお金が必要になったときに困らないよう、本人が窓口で手続きできるうちに定期預金は解約し、普通預金に移しておくことをおすすめします」(太田さん)
親が高齢の場合、そもそもキャッシュカードを持っていないケースも珍しくありません。一度作ってはみたものの、なくしてしまったり、暗証番号を忘れていたりすることも。そうなると、キャッシュカードの発行・再発行にしろ、暗証番号の再設定にしろ、本人が窓口で意思表示をするのが必須となります。
ひとつだけハッキリしていることは、早め早めに行動を起こすことが重要、ということです。