「つや子さん」WATASHI 戸﨑美和が撮る当事者
戸﨑美和
写真家であり社会福祉士でもある戸﨑美和さんが、当事者の一瞬を切り取りました。どのようにファインダーをのぞいて、どういうタイミングでシャッターを切ったのでしょう。その内側の世界は?
つや子さんは、私に「なんで結婚しないのよー」とか「あらー、してみなさい」と、結婚の良さをかなりの頻度で説き、とうとう「結婚してみようかな」と思わせてくれた恩人です。いまなら、その気持ちがわかるような。笑
良妻賢母を絵に描いたようなつや子さんには多くを学びました。野菜のヘタのとりかた、掃除の仕方、他者へのさりげない配慮、干し柿の吊るし方。
わたしにまったく欠けているもの全てを持っている人。笑って「なんとかなるのよー」「大丈夫よー」「ここに来なさい」と背中を擦ってくれました。笑い飛ばすことが薬になることを教えてくれたのもつや子さんです。一歩下がって人を立てるその方法は、熟練技としか思えません。
ほかにも、手をいつも動かすことの大切さ、家事を丁寧に行うこと、笑うこと――。改めて、日々を丁寧に生きることを考えさせてくれます。
そんなつや子さんの、まっすぐな眼差しが撮りたかった。きれいな顔のシワや手のシワを褒めても、「やぁね、バアさんだから」って謙遜して笑われました。
夕方に差し掛かり洗濯物を畳んでいると、窓からキレイな光が。いまだ! 急いで背景紙だけセットしました。
「大したもの撮れないよ」
シャイなつや子さんはフッと笑ったあと、目を閉じてまたこちらを見ました。けどそのとき、わたしは一瞬、存在を消せたような、環境の一部になったような感覚になりました。つや子さんもわたしの向こう側を見つめているような感じ。自然に呼吸をするみたいにシャッターが切れました。出会って5年目の写真です。
戸﨑美和さんが、撮影中に交わしたキラリと光る“コトバ”を集めました。
「つや子さん」のコトバ
「ほら、そんなことしてないで、ここキレイにしなさい。こっちに来なさい」(カメラを向けたとき)
「まぁ、まぁ、なんとかなるよ」(洗濯物の山の前で、数人が言い合いをしている)
「お父さんは厳しいひとでね、こんなことしてたら怒られちゃう。笑」(ソファで半分横になっている)
「夕飯どうするの? 早くしなさい」(夕方の光をみながら優しい声で)