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突然、親のために紙パンツを買うことに 「入院時に便利なタイプ」から「自宅での生活がしやすいタイプ」へ

イメージ(イラスト・ゆぜゆきこ)

親にはできるだけトイレは自立していてほしいと願う子どもが多くいます。ただ、骨盤底筋の緩みや前立腺の病気、頻尿などで大人用紙パンツを日常的に利用する高齢者も多くいます。この紙パンツの利用には、代表的にいくつかの入り口があります。ただ、住み慣れた自宅で暮らす在宅介護を望む家庭が多い中、使用する紙パンツのタイプが適切ではないのかもしれないと感じている家族もいます。朝日新聞社なかまぁる編集部と花王「リリーフ」の共同プロジェクトでは、試行錯誤しながら紙パンツの利用を始めた利用者の家族に聞いてみました。

「もし私がはくのならどれがいいかな」と考えてみてタイプを変えた

ケース① 車で30分の義母を介護する北海道の女性

北海道の女性(60代)は、車で30分ほどの距離で一人暮らしをする義母(90代)の「通い介護」をしています。義母は、丁寧なケアマネジャーや訪問介護のヘルパーなどに支えられ、要介護1でも住み慣れた家で暮らし続けることができています。義母は自分で歩いてトイレに行くことができますが、尿漏れする機会が増え、今は大人用紙パンツを利用しています。こうしたものを使いながら、週4回はデイサービスで外出するのが日課になっています。

義母が紙パンツを使うきっかけは、数年前、骨折で入院した際、病院側に「紙パンツと尿取りパッドを準備してください」といわれ、使い始めたときです。

「入院がきっかけだったので、義母から『嫌だ』といわれることはありませんでした」

紙パンツや尿取りパッドのタイプの選択も、病院で利用するタイプを聞き、病院内の売店で購入しました。退院後も、3年ほどその流れで厚型の紙パンツを使っていました。

「当時はあまり考えないで買っていました」

現在は、脚の付け根の両サイドが薄い、うす型紙パンツを利用していますが、その転機は、ホームセンターやドラッグストアで購入するこの女性が自分ごととして考えたことからでした。

「もし私がはくのならどれがいいかなと思ったので。もしかしたら、うす型じゃなくて、分厚いタイプをはいていれば横から尿が漏れることがなくて済むかもしれないのですけど、自分だったらそんな分厚いタイプは避けたいと思いました。ジーパンをはけないじゃないですか。(起きた状態での)生活がしにくいということです」

何げなく病院で使っていた紙パンツがいいのだろうと考えていたものの、自宅での生活がベースになり、在宅介護をする家族の視点が「入院時に便利なタイプ」から「自宅での生活がしやすいタイプ」に変わってきたということです。

「動きやすく、ズボンをはいていてもゴワゴワしないか 。もし自分だったらと考えて、ピンクのうす型紙パンツなら私もはきたいなと思ったので、それを買いました。その後、行きつけのホームセンターでその商品を見かけなくなったので、家族で『今度どうする?』と相談し、『じゃあこの薄々がいいな』と思って今のタイプに落ち着いています。ヘルパーさんからも連絡がないので、現在のタイプが義母に合っているのでしょう」

ヘルパーなどのサポートを受けながら、自分で、ご飯を食べられる、歯磨きができる、顔を洗える、トイレに行ける状態なので、使用する枚数も1日1~2枚、多いときでも3~4枚で生活できているそうです。女性は義母の生活を支えながら、自分たち夫婦も60代であることから「私も5年ぐらいの間には、くしゃみで尿漏れしてしまうようなことが絶対起こるだろうなと思うので、お試し用があれば準備しておきたいです」と考え始めているそうです。

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気づいたらその都度紙パンツを交換 それなら「うす型」でもいいかもしれない

ケース② サ高住から在宅復帰した父親と暮らす神奈川県の長女

神奈川県に父娘の二人暮らしをする父親(80代)は、新型コロナウイルス感染症の流行が収まってきたころ、長女(50代)の希望でサービス付き高齢者住宅(サ高住)から現在のアパートに在宅復帰しました。介護保険での要介護認定は、要介護2。認知症でもあります。ベッドサイドにポータブルトイレを置き、利用する生活をしています。紙パンツの利用を始めたのは、4年間過ごしたサ高住でした。

「サ高住にいるとき、利用していた介護サービスの職員さんから『失禁が始まりましたよ』『普通の布パンツに付ける吸水パッドを使っていいですか?』と提案してもらったのが初めてです。ただ、水洗トイレにパッドを流して詰まらせてしまったことがあってから紙パンツになりました。5回用です。食堂に行く以外はベッドで過ごす時間が長かったためのようです」

入居していたサ高住は、いくつものサ高住を持つ事業者だったことから、父親もドラッグストアでは売っていない業務用の紙パンツを使うようになりました。在宅復帰した今、インターネットで見つけ、購入を続けています。

「一度、ドラッグストアで売っている紙パンツを使ったこともありました。ただ、かゆみがあって元のものに戻しました」

ただ、長女は今、在宅復帰した後も、昼間、5回用の厚型の紙パンツと3回分の尿取りパッドでいいのか、と考えることもあるそうです。

「一番は、本人が動ける状態を保ちたいと考えています。だからうす型でもいいとは思うんです。今も5回用だからといってそこまで放置しているわけではないんです。気づいたら必ず替えています。本人がポータブルトイレに座るような場合は、必ず『ごめんね』っていって汚れを確認しています」

一方、ゴワゴワしたパッドを外してしまい、寝具がぬれてしまうこともあります。長女は、どのタイプが適切なのか、紙パンツと尿取りパッドを、昼と夜の組み合わせを変えながら、父親の状態の変化に合わせるように試行錯誤しています。デイサービスに行くだけでなく、時々、湘南を親子2人でドライブできる日々が続くことを願っています。

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父親の「どんどん歩けるようにリハビリを頑張りたい」という気持ちを後押ししたい

ケース③ 神奈川県で暮らす両親を「通い介護」する埼玉県の次女

埼玉県に住む次女(50代)は、千葉県で暮らす長女と交代で、神奈川県内のマンションで暮らす80代の両親を「通い介護」しています。両親ともに介護保険の要介護認定は要支援2。こうした老老世帯は増加傾向にあり、夫婦で介助しながら近居の子世代が時折通って生活サポートをする介護スタイルも定着してきています。

母親は持病を抱えて閉じこもりがちになっていたことから、父親は自分が母親の生活を支えているという気概を持って暮らしていました。そのような中、2023年6月末、父親がインターホンに出ようとしたところ意識を失い、救急搬送されました。脱水症状で回復次第、自宅に戻りましたが、倒れたときに失禁してしまったことから紙パンツを利用するようになったそうです。

「父親は母親に代わって近くのスーパーに買い物に行っていました。足腰を弱くしてはいけないと考え、無理をしてでも毎日1~2時間くらいの散歩は続けていました。最近、実家に行ったときも『今後もどんどん歩けるようになりたいからリハビリとかも頑張りたい』といって紙パンツを前向きに利用していました」

両親は近年増えている高齢者のみ世帯(老老世帯)のため、父親にとっては、母親の介護を自分が担ってきたという責任感があるからです。だから、今もリハビリに前向きに取り組む声が聞こえてきます。

一方、1カ月に1~2回、姉と交代で両親のマンションを訪れる次女にとって、紙パンツの購入は突然のことでした。

「家族にとって緊急時。目に付いたものを選んでしまい、回数が目に入って、それが歩きやすいうす型なのか判断がつかないところがありました。どういうタイプが今の父親に合うのか分からないのが悩みどころです。最適なタイプが分かったら、インターネットで購入して両親の家に配達してもらうようにしたいと考えています」

イメージ(イラスト・ゆぜゆきこ)

尿漏れも転倒も筋力低下が影響 できるだけ筋肉を落とさない生活に必要なこと

古屋聡医師のアドバイス

紙パンツはどうしても「安心」のために厚型タイプを使いがちです。しかし、その分、モコモコして動きにくい面があります。

在宅医として多くの高齢者を訪問診療し、東日本大震災後、継続して宮城県気仙沼市に通って高齢者の訪問を続けてきている古屋聡医師に尋ねると、こう教えてくれました。

「歩く力、食べる力は入院するとすぐ落ちてしまいます。筋力が落ちるからです。歩くことを続けている、食べることを続けているから維持できています」

今まで動けていた人たちも、コロナ禍で外に出なくなったり、動かなくなったりすれば、足腰が弱り、転倒しやすくなります。膀胱(ぼうこう)にたまった尿を保持しておく力は筋肉の力です。その筋力が弱くなると、ちょっとしたことで尿が漏れてしまうことが起こるようになるという。それが外に出たくなくなるということにつながってしまうことがあるという。

「健康寿命を維持していくためには、食べること、歩くことと同様に、人と会い続けること、しゃべり続けることへのサポートが大切です。『人と会ったときに失敗したら嫌だな』みたいな排せつの不安は、強力にサポートしていく必要があると思います。紙パンツも、もっと歩きやすくなるといいですよね」

現在、実家で母親の介護をしながら訪問診療を続けている古屋聡医師

古屋聡(ふるや・さとし)

山梨市立牧丘病院 医師
1962年、山梨県生まれ。自治医科大学卒業。2006年から山梨市立牧丘病院に勤務。08~17年は院長。現在は訪問診療を中心に行っている。東日本大震災から台風災害まで被災地の医療をサポートする災害医療にも仲間の医療関係者とともに力を注ぎ、通称「ふるふる隊」のリーダーとして知られる。フレイル予防や口腔ケアの大切さを多職種連携の中で実践している。

おことわり

なかまぁる編集部と花王「リリーフ」では共同プロジェクトを実施しています。この記事で登場する方々は、6月16日~8月20日にかけて実施した「親や配偶者の尿漏れ・トイレの悩み解決に関する意識調査」の回答者の中から、追加取材にご協力いただける方にご協力いただいたものです。意識調査、追加取材ともに、花王「リリーフ」に限らず、大人用紙パンツを利用されている方に広くご協力いただきました。インタビュー内容は取材時点の状況です。

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