高齢者の一人暮らしの光と影 「通い介護」で見逃しやすいトイレの失敗 紙パンツ受け入れは腹落ち感
取材・文:岩崎賢一 Sponsored by 花王「リリーフ」
厚生労働省の「2022年 国民生活基礎調査」によると、高齢者の一人暮らしは年々増加し、今や873万世帯に上っています。これは子世代による「通い介護」の増加も意味しています。「通い介護」で見逃しやすいのは、親の「トイレの失敗」やその頻度です。尿臭やシミはそのサインですが、時々訪れるだけでは気づかないこともあります。朝日新聞社なかまぁる編集部と花王「リリーフ」の共同プロジェクトでは、試行錯誤しながら紙パンツの利用を始めた利用者の家族に聞いてみました。
入院きっかけで紙パンツを利用するものの「リハビリ」終了でやめてしまう
ケース① 一人暮らしの義母を「通い介護」する三重県の女性
三重県で夫と暮らす女性(40代)は、毎月、車で5分の距離にある夫の実家で一人暮らしをする義母(80代)に、ECサイトで購入した紙パンツを届けています。昼用、夜用、尿取りパッドを買いそろえて女性の自宅に配送してもらい、これらがすっぽり隠れるぐらい大きな買い物袋に入れ、ちょっと離れた駐車場から歩いて実家の引き戸を開けるまで近所の視線に注意を払っています。これが、義母の希望だからです。
「病院を退院したときも、病院で使っていた紙パンツを持って帰るとき、『何とかカバーできないか』『大きい布はないか』って義母がいっていたぐらいです」
ECサイトで購入した紙パンツは、時には義母宅まで直接配送してもらうこともあります。そのときには中身がわからないよう、無地の段ボールで配送してもらっています。
そんな義母が紙パンツを使い始めたきっかけは2023年3月の入院。入院時、寝間着や歯ブラシ、タオル、紙パンツがセットになった「ケアサポートセット(入院セット)」の利用を勧められ、紙パンツのタイプを選ぶまでもなく、昼はパンツタイプ、夜はテープタイプの紙パンツをはいて2週間過ごしたことが始まりでした。
介護保険サービスの要介護認定の審査では、要支援1。厚生労働省の基準では、食事・排せつ・入浴などの日常生活は自分でできるものの、立ち上がりや起き上がり、歩行など部分的に支援が必要な状態のことです。ただ、義母は入院前から「トイレに間に合わなくて尿漏れする」ことを自覚していたため、閉じこもりがちになっていました。
「何か困ったことがあったら、私のスマートフォンに電話をかけてくる義母です。『週末買い物一緒に行ってくれる?』というようなことはごく普通で、『このごろひざが痛いわ』といったことも気楽にしてくれるんですが、尿失禁とか尿漏れのことになると、なかなか難しかったんだろうなあと思います」
女性が入院時に義母の家の片付けをしていると驚きました。
「敷布団には『おしっこの海のあとを示す地図』があって、ニオイはベッドパットにまでしみこんでいました。こたつ布団もおしっこのニオイがしました。衣類も尿臭がしていたと思いますが、時々訪ねるだけでは、ここまでのことに気づきませんでした」
一方、義母は入院時の紙パンツの感想は「意外と楽やわ」「安心して熟睡できるわ」でした。このまま紙パンツを上手に利用しながら今の生活を維持していくのかと思っていたところ、退院して2週間で紙パンツの利用をやめてしまったそうです。
「使い捨て」はお金がかかること、加えて体力が戻ってきたこともありました。それでも体調を崩し、1カ月おきに2度の入院が続き、その都度、紙パンツの利用と中断を繰り返す状態です。
使い捨て、ゴミ捨て、デイサービスの入浴といった義母が拒む壁を乗り越えたい
女性は、義母が紙パンツを使いたがらない理由には他にもいくつかあると感じています。
「尿を含んだ紙パンツやパッドは結構な重量になりますよね。ゴミ捨てに行くのが大変なんだと思います。ゴミの集積所は田舎なのでとても離れた場所にあります」
週1回通うデイサービスぐらいは紙パンツをはいてほしいそうですが、受け入れてもらえていません。
「デイサービスでは入浴があるので、いかにも『オムツ』感があるものをはいて行くことに羞恥心(しゅうちしん)があるようです」
実の母娘のような関係である女性にとって、「杖をついて一緒に外出できるうちに楽しい経験を増やしたい」と願っています。
「先日も市内で展覧会があったので『一緒に行こう』って声をかけたんです。チラシはすごく楽しんで見ていたんですけど、『文化会館まで車で20分だから』といったら、『ええわ、やめとくわ』と。『紙パンツはいて行けばええやん』『どうしても歩けなくなったら向こうで車いす借りたらええやん』って言ったんですけど、返事は変わりませんでした」
女性は仕事をしながら30代のころから実母の介護も父親とともにしてきた経験があり、介護に抵抗感があるわけではありません。義母が紙パンツの日常的に利用して閉じこもりがちな日々から抜け出すため、女性の挑戦は続きます。
自立した母親がうす型紙パンツを使い始めたきっかけは「介護」ではなかった
ケース② マンション一人暮らしの母親と同居を始めた岐阜県の長男
岐阜県の長男(60代)夫婦と戸建て住宅で同居する母親(80代)は、2023年5月まで200メートルほど離れたマンションで一人暮らしをしていました。
母親は5~6年前の80代前半に自分で判断し、見た目も気にならず歩きやすいうす型紙パンツを使い始めていました。
「母親は、排尿コントロールがうまくいかなくなり、『紙パンツを利用しなくてはいけないな』と自覚して自分でドラッグストアに行って買っていました。長く働いていたこともあって、外出する生活を続けたかったんでしょう」
母親は歩行に問題はありません。自立した生活が可能で認知症でもありません。そのため介護保険の要介護認定も要介護1です。長男も「介護というほどのことはしていない」という認識です。
「紙パンツ=介護」とイメージする人がまだまだ多く、紙パンツの利用が遅れた家族の中には歩きにくい厚型の紙パンツから利用を始めるケースも少なくありません。この母親は、紙パンツは「介護になったから使う」という感覚ではなく、加齢とともに「うまくいかなくなってきた排尿コントロールを補う」ものとして利用し、日常生活を維持しようと前向きに利用してきた点が注目されます。
ただ、一人暮らしの親を持つ子どもが気をつけないといけないこともあります。ほどよい距離感で生活していたところ、長男は2年ほど前、ケアマネジャーを通じて母親が通うデイサービスの介護職員から「おしっこのニオイがする」という連絡を受けました。
「マンションに行き、ベッド周りを確認すると尿のニオイがしました。それがきっかけで母親と話をして、うす型から厚型に変えてもらいました。衛生的な暮らしをしてほしいですし、周りの人に不快な思いをさせたくないですから」
体力の衰えに加え、頻尿で尿を漏らすことが多くなり、衛生上よくないと判断したため、今年5月に同居に切り替えました。今、紙パンツをドラッグストアで購入するのは長男夫婦です。
「私たち夫婦も60代。いずれ使うんだという気持ちで買っています。家族の中にトイレの困りごとがあることを他人に知られたくないという人の気持ちも分かります。そういう人はEC サイトで購入するやり方もあるんでしょうね」
くしゃみで尿漏れと「おむつは寝たきりの人がはくものだ」というギャップの乗り越え方
ケース③ 二世帯住宅で生活する東京都の親子
東京都内の下町にある二世帯住宅で暮らす長男(50代)家族と母親(80代)。2階は長男家族、1階は母親と生活空間を区別しています。母親がまず尿取りパッドを使い始めたのは、要介護1の認定を受けた直後でした。1階リビングで母親がくしゃみをしたところ尿臭がしたため、尿漏れに気づいたことからです。
「うんちだったらすぐわかるんですけど、おしっこってなかなかそこまではニオイがきつくなくて、最初は気が付かなかったんです。私たちは母親に怒ったり責めたりするわけでもなく、淡々と『おしっこ、もれちゃった?』と聞くと、母親は自分で見て『もれている』という言い方をしました」
長男の妻が、吸水パッドを購入し、布パンツやガードルと一緒に使っていました。うす型紙パンツに切り替えたのは半年後。尿1回分を吸水するうす型タイプを買ったものの、母親からは「こんなのは年寄りがするものだ」「寝たきりの人がはくものだ」となかなかはいてくれなかったという。
母親はパンツを自分で手洗いをして室内干しをしていました。その頻度が多くなり、長男夫婦はケアマネジャーに相談し、紙パンツの利用を促してもらいました。
「『紙パンツ楽ですよ』『今、うす型っていうのがあって、昔みたいにゴワゴワしませんよ』を聞いた母親が『じゃあ』といったのですぐ買いに行きました」
長男夫婦今、1階トイレには、替えの紙パンツを袋に入れて貼り紙をしています。タンスで下着を入れる引き出しにも、新しい紙パンツを2枚ぐらい入れておきます。
「これが下着の代わり、自分が使って楽だったと思ったときから、紙パンツを普通にはくようになりました」
あなたの親は大丈夫? ときどき訪ねる家族では見逃してしまうことがある
高齢者の夫婦のみの世帯や高齢者の一人暮らし世帯が増加傾向にある日本。「年を取ったら同居」という家庭は限られています。悠々自適と思われがちですが、人目に触れにくい高齢者の一人暮らしでは、家族が生活の質に注意することが大切です。その一つが頻尿、尿漏れ、尿失禁といったトイレの問題です。
一人暮らし女性の高齢者の場合、失敗をしても自分で掃除も洗濯もでき、残ったわずかな尿臭にも本人が慣れてしまい、通気性の高い家で暮らしていると、ときどき訪ねる家族は見逃してしまうことがあることが分かりました。二世代住宅であっても、ケース③の親子のように「一緒に食事をするのは正月ぐらい」という家族もあります。
親と子のそれぞれの生活を尊重したいと考える親子も多くなってきています。ケース③の親子のご自宅を訪ねると、さまざまな工夫がされていました。夜、トイレに間に合わなくて失敗しないように、人感センサーでつく照明を廊下に付けていました。リビングと廊下にはそれぞれモニターを付け、2階の長男夫婦が母親の暮らしの変化に気づきやすいようにしていました。このような機器に加え、お風呂入ったとき、紙パンツも下着を替えるのと同じようにパジャマと一緒に着替えをセットしているそうです。
「使える福祉器具や生活を支えるグッズは、絶対、早めに使い始めた方がいいと思います。もちろん、紙パンツもです」
おことわり
なかまぁる編集部と花王「リリーフ」では共同プロジェクトを実施しています。この記事で登場する方々は、6月16日~8月20日にかけて実施した「親や配偶者の尿漏れ・トイレの悩み解決に関する意識調査」の回答者の中から、追加取材にご協力いただける方にご協力いただいたものです。意識調査、追加取材ともに、花王「リリーフ」に限らず、大人用紙パンツを利用されている方に広くご協力いただきました。インタビュー内容は取材時点の状況です。