紙パンツを親が受け入れた瞬間 3家族のテクニック トイレ介助・洗濯のストレスから子世代も解放
取材・文:岩崎賢一 Sponsored by 花王「リリーフ」
せきやくしゃみによる「ちょい漏れ」や残尿で、自分の意思に反して下着をぬらしてしまうことは高齢者にとって珍しいことではありません。家族にとっても、着替え、洗濯、掃除がストレスにつながります。「紙パンツをはいたら」と促しても親に拒まれないためには、どうしたらいいのでしょうか。朝日新聞社なかまぁる編集部と花王「リリーフ」の共同プロジェクトでは、試行錯誤しながら紙パンツの利用を始めた家族に聞いてみました。
リモートワークで深刻さに気づいた80代母親のトイレ問題
ケース① 宮城県内で同居する母親の介護をする長女
宮城県内で母親(80代)と同居する長女(50代)は、新型コロナウイルス感染症の流行のため、ワークスタイルが自宅でのリモートワーク中心に変わったことで、母親の尿漏れが気になり始めました。
「それまでは通勤していたので、朝夕しか母親と顔を合わせない生活では気づきにくかったと思います」
母親はデイサービスに通う際、当初は普通の布パンツでした。その後、トイレで下着の上げ下げをする際、「あれ? パンツがぬれているな」と尿漏れが気になるようになり、吸水パッド付きの布パンツに切り替えていました。長女は、デイサービスの職員から「(尿漏れの)失敗があると着替えなきゃいけないし、周りの目もあるから、紙パンツを常時使うのはどうでしょう」と持ちかけられても、母親のトイレの自立を維持しようと考え、紙パンツの利用を控えていました。
「母親は夜間に尿漏れをしても自分で着替えて汚れた衣類を専用バケツに入れてくれていました。『母親の洗濯が増えるだけだから、まあいいか』と思って過ごしていました」
2ステップで紙パンツのスムーズな利用開始ができた
紙パンツの利用を始めるきっかけは2度ありました。
1度目は、病院に診察してもらいに行くときや車での遠出のときです。
「時間が読めないときは布パンツだとまずいので、このときだけ紙パンツを使うようにしていきました」
そして日常的に紙パンツを使い始めるきっかけは、コロナ禍を受け仕事が通勤ではなく、自宅でのリモートワークに変わったことからです。
「コロナ禍が続き、母も感染しないように外出制限をして家の中にいる日々が続いていた中で、だんだんと尿漏れなどの頻度が多くなってきました。洗濯物が増えるだけでなく、家の中のいろいろなところが尿でぬれます。この回数が多くなり、私のリモートワークでの仕事に支障が出てきました。そこで『昼間、家にいるとき、紙パンツにしようか』と母に声をかけたんです。『これ、はこう』って」
通院や遠出、デイサービスのイベントのときに、少しずつ紙パンツの利用を始めていたことから、母親も「別にいいよ」と理解してくれたそうです。
「『トイレに行きたいときに行けないかも』というときを利用し、少しずつ紙パンツに慣れていくことが大事だと思いました。デイサービスでは入浴もあるので、母親も恥ずかしいのでしょう。だから下着のように見える色のついた2回吸収のうす型紙パンツを買うようにしています。夜は吸水回数が多い厚型に使い分けています」
ドラッグストアであまり見かけないピンクやブルーの紙パンツはどこに?
ただ、母親の代わりに紙パンツをドラッグストアに買いに行く長女も気になることがあります。下着に近いうす型や下着のような色がついた紙パンツの品ぞろえは、「介護用おむつ」と表示された売り場には少ないのが現状です。
「私は『ドラッグストアに行けば分かるのかな?』という感覚で紙パンツを買いに行ったので、1時間ぐらい棚の前でパッケージの裏面を読みながら何が違うのか考えてしまいました。色がついた紙パンツも置いてあったのは1種類だけ。親に合うのはどれか、インターネットで調べてから行けばいいのでしょうね」
「ちょい漏れ」から始めた方が紙パンツ利用開始は楽かもしれない
ケース② 千葉県内で同居する義父を介護する女性
千葉県内の郊外で暮らす女性(60代)は、義父(90代)と暮らしています。2023年4月、義母(90代)が突然亡くなるまでは、両親の生活空間が2階で階段の昇降もできるうえ、義母が義父の身の回りの世話をしていたので、義父のトイレの問題はあまり気にしないで過ごせていました。
ところが今春、義母が亡くなる直前に受けた要介護認定の審査を義父も一緒に受けてみたところ、要介護1だと判明しました。
「自分で何事もできていたように見えていたんですよね。(尿は)たいした量もでないようですが、尿意が気になるのか、トイレに頻繁に行って、おしっこをチョロチョロ出しているようです。この『ちょい漏れ』で、トイレの床や下着、洋服を汚しちゃうんです。それで紙パンツを薦めました」
自宅や外出先で失禁してしまったことはまだありません。それでも紙パンツを薦めた理由を女性に尋ねると本音で話してくれました。
「汚れたパンツを洗濯する私のストレスが減るためです」
「ちょっと拍子抜けしたぐらいですが、すぐ受け入れてくれました。『ちょい漏れ』からうす型の紙パンツを利用した生活に慣れていった方がお互い楽かもしれません」
義父は紙パンツを日常的に使うようになり、今は週2回、デイサービスに通っています。
「デイに行くと若い職員の人たちに会うことが楽しいようです。今は近くに住む夫の姉も定期的に様子を見に来てくれて、時々、ショッピングセンターに行っています。外出先でのトイレの心配も問題ありません」
「寝たきりにならないために使うもの」というイメージに変えた
ケース③ 新潟県内で同居する母親を介護する元看護師の長女
新潟県で母親(80代)と同居する長女(60代)は、母親が介護とは程遠い70代半ばの時点でうす型の紙パンツを薦めました。
「女性は50代や60代から尿漏れの悩みを抱えています。吸水パッドを使っていても漏れてしまうこともあるんです。パンツがぬれているままでいるのも気持ち悪いですよね。それで『紙パンツも良いんじゃない』と背中を押しました」
母親も当初はこの世代に多い、テープタイプの紙パンツを想像したそうです。昭和時代、子育てで経験したイメージが強く残っているからです。
「それは寝たきりの人用の紙おむつだから。今は普通のパンツみたいに履けるいいものが出ているらしいから使ってみよう」
長女はこんな言葉をかけ、最初は試供品で試しばきをしたそうです。
「『とてもいい』という感想でした。尿漏れしてもぬれている感じがしないので気持ちよくいられるんでしょうね。母親から『じゃあ、大袋で買って』といわれたほどです」
看護師でもある長女が早い段階からうす型紙パンツを薦めたのは、皮膚のトラブルが気になったからです。
「吸水パッドが(足の付け根に)当たっている部分が赤くなってきて『かゆい』といってきました。尿かぶれの始まりでした。それが悪化すると大変なので、歩きやすいうす型の紙パンツにした方がいいといいました」
「親子で日常生活が楽になるなら使わない手はない」と発想を転換
ケース①とケース③の親子も、母親に紙パンツを薦める際、形状が下着の形に近く、ピンクの色がついている紙パンツを使っていました。できないことが増えて布パンツから紙パンツに切り替えるというニュアンスではなく、材質が紙に変わり、洗濯ではなく使い捨てになるという違いがあるだけで、親子が生活しやすくなるというニュアンスで伝えていました。
どんなタイプも共通して紙パンツは「ムレる」「ゴワゴワする」といったイメージを持っている人も少なくありません。こうした壁を乗り越えるため、説得ではなく、親子で試供品や少量パックではき心地を試す「お試し」から入ったケース③の親子のような人もいます。
ケース①やケース②の家族のように、「介護の洗濯」は洗濯回数が増え、ニオイも気になることから大きなストレスになっています。こうした介護する側の理由も正直に話して折り合うため、トイレの自立の「補助グッズ」的な感覚で下着に近いうす型の紙パンツの利用から少しずつ慣れていくことも一つの道のようです。
ケース②の女性は、こう考えるように変わったそうです。
「『できることなら紙パンツを使わないでいたい』と、親も子も思っているから使わざるを得なくなったときに問題になるんだと思います。現在の紙パンツは高機能ですし、漏れもしにくい。使うことでそれぞれの日常生活が楽になるなら使わない手はないよねと思います」
おことわり
なかまぁる編集部と花王「リリーフ」では共同プロジェクトを実施しています。この記事で登場する方々は、6月16日~8月20日にかけて実施した「親や配偶者の尿漏れ・トイレの悩み解決に関する意識調査」の回答者の中から、追加取材にご協力いただける方にご協力いただいたものです。意識調査、追加取材ともに、花王「リリーフ」に限らず、大人用紙パンツを利用されている方に広くご協力いただきました。インタビュー内容は取材時点の状況です。