認知症ケア専門士とは?受験資格や難易度、取得するメリットを紹介
取材/中寺暁子
認知症ケア専門士は、認知症の症状がある人に対して適切なケアができる人材を育成するための資格です。資格を取得するメリットや認定試験の受験資格、難易度について、認知症ケア専門士を認定している「一般社団法人 日本認知症ケア学会」理事の奥山惠理子さんに解説していただきました。
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- 認知症ケア専門士とは
- 認知症ケア専門士の資格を取得するには?
- 介護福祉士やヘルパー、看護師とのかけ合わせもおすすめ
- 認知症ケア専門士を取得するメリット
- 認知症ケア専門士を取得する際の注意点
- 認知症ケア専門士の勉強方法
- 認知症ケア専門士資格の今後
認知症ケア専門士とは
認知症ケア専門士は、一般社団法人日本認知症ケア学会が認定する民間資格です。認知症ケアに対する優れた学識と高度な技術、および倫理観を備えた専門技術士を養成し、日本の認知症ケア技術の向上や保健福祉に貢献することを目的として設けられました。第1回の認定試験は2005年に実施され、現在(2023年6月)32,319人の認知症ケア専門士が全国にいます。
求められる職場
認知症ケア専門士は、特養(特別養護老人ホーム)や老健(介護老人保健施設)などの介護保険施設はもちろん、有料老人ホーム、グループホーム、デイサービスなど高齢者施設で活かすことができる資格です。また、資格取得者のなかには、医師や看護師、理学療法士などの医療従事者、精神保健福祉士、社会福祉士などもいて、介護だけではなく、医療や福祉の場でも活躍することが期待できます。ホームヘルパーや訪問看護師、訪問リハビリなど、近年ニーズが高まっている在宅ケアの現場でも活躍されています。高齢者の5人に1人が認知症になると言われる今、高齢者と関わることが多い職場であれば幅広く、認知症ケア専門士の資格が役立つといえます。
役割や仕事内容
介護、医療、福祉などの場で、認知症ケアのプロフェッショナルとして、認知症に関するさまざまな専門知識や技術を伝えることができます。認知症の人への対応に困ったり、悩んだりしている同僚の介護職員やホームヘルパー、家族からの相談にアドバイスしたり、主治医に伝えて医療機関の橋渡し役を担ったりすることができるのです。
具体的には、認知症の人とのコミュニケーションのとり方、声がけの仕方のほか、専門医を受診すべきかどうかといった相談に対して、適切なアドバイスをすることができます。
近年は、家族がケアマネジャーやホームヘルパーの事業所に対して、「認知症に詳しい人に担当してほしい」「認知症ケア専門士のいる施設を紹介してほしい」と要望するケースも増えているようです。身近な専門職が認知症に詳しいということは、家族にとって大きな安心感につながっているといえます。
認知症ケア専門士の資格を取得するには?
認知症ケア専門士の資格を取得するには、認定試験を受けて、合格する必要があります。受験資格や試験の内容、難易度について紹介します。
受験資格
認定試験の受験資格は、認知症ケアに関する施設、団体、機関において、試験実施年の3月31日より過去10年間において3年以上の認知症ケアの実務経験があることです。職種や職務内容については制限はありません。「認知症ケア准専門士」の資格であれば、認知症ケアの実務経験がない人、もしくは実務経験が3年未満の人でも受験可能です。認知症ケア准専門士の資格があると、認知症ケア専門士の一次試験が免除されます。
取得難易度
2022年に実施された第18回試験では、受験者数3,666人のうち、合格者数は1,967人、合格率は53.7%でした。過去の試験をみても、だいたい50%前後の合格率となっています。実務経験があっても半数は不合格となるわけですから、比較的難しい試験といえます。しかし公式テキストである「認知症ケア標準テキスト」をしっかり勉強して、認知症のことを理解していれば、合格する可能性は高くなります。実務経験があり、認知症のことを理解できているつもりでも、頭の中で知識を整理できていないことがあります。改めてテキストで学ぶことで、知識を整理できたり、最新の情報を得られたりするため、合不合に関わらず、学んだことは現場で役立つはずです。
試験内容
WEB上で第一次の筆記試験を受け、合格すると論述式の第二次試験を受けられます。第一次の試験分野は「認知症ケア標準テキスト」に準じた内容で、次の4分野があり、それぞれ合格する必要があります。各分野の合格有効期間は5年間です。
①認知症ケアの基礎
認知症の人の推移と現状や医学的特徴、心理的特徴、社会的環境、チームケア、認知症予防など
②認知症ケアの実際Ⅰ:総論
認知症の人とのコミュニケーション、在宅支援、施設支援、医療支援など
③認知症ケアの実際Ⅱ:各論
ケア技術、BPSDとそのケア、薬物療法、非薬物療法、終末期ケアなど
④認知症ケアにおける社会資源
相談窓口、地域での支えなど
第二次試験は、認知症ケアの事例に対する論述です。断片的な知識ではなく、認知症の人に対する倫理的な配慮やどのように意思を尊重するのかといったことなどが問われます。
受験料は、第一次試験は、3,000円×受験分野数(4分野で12,000円)、第二次試験は8,000円です。また、受験者は「受験の手引」(1,000円)を購入する必要があるほか、標準テキストを購入する場合は、さらに費用がかかります。
介護福祉士やヘルパー、看護師とのかけ合わせもおすすめ
認知症ケア専門士が保有している資格をみると最も多いのが、介護福祉士です。次に介護支援専門員(ケアマネジャー)、ヘルパー、看護師と続きます。最近は看護師や理学療法士、作業療法士など医療従事者も認知症の人と接する機会が増え、資格を取得する人が増えている傾向があります。入院患者への認知症予防という観点からも資格を取得するメリットがあるといえます。
認知症ケア専門士を取得するメリット
認知症ケア専門士の認定試験に合格するには、たとえ実務経験があったとしても勉強が必要で受験費用もかかります。認知症ケア専門士を取得することには、どのようなメリットがあるのでしょうか。
待遇や給料アップのチャンス
認知症ケア専門士は民間資格のため、必ずしも待遇や給料がアップするわけではありません。しかし、認知症の人の割合が増えている今、高齢者施設や医療機関でも、認知症の人への対応によって評判が変わってきます。このため、事業所や施設によっては認知症ケア専門士の資格があると、基礎給与に加算がある場合もあります。また、受験費用を負担してくれたり、認定試験に合格した場合に祝い金が出たりするケースもあります。資格を取得したのに、待遇や給料アップがない場合は、自分で交渉してみるのも1つの方法かもしれません。
キャリアアップも可能
認知症ケア専門士を求人の条件としている場合もあり、転職できる施設や事業所、病院の幅が広がる可能性があります。日本認知症ケア学会では、認知症の人が安心して暮らすための人材の育成や地域福祉などを推進する団体を「認定機関」として認定しホームページで公開しています。この制度は認知症ケア専門士が2名以上在籍していることが認定の条件の1つとなっています。
また、認知症ケア専門士の資格を取得しているということは、自分の時間とお金を使って、認知症ケアと向き合った証でもあります。採用の選考の際にも認知症ケア専門士を取得していることは、武器になるといえるでしょう。
現場で的確な判断ができるようになる
資格を取得するために勉強をすると、認知症ケアについての知識が整理されるため、実際の現場でどうするべきかといった判断がつきやすく、結果的に仕事の負担が減ることも期待できます。
認知症ケア専門士を取得する際の注意点
資格取得の際に、事前に知っておきたいルールなどについて紹介します。
5年ごとの更新が必要になる
医療の進歩や社会環境の変化に合わせて質の高いケアを提供するために、認知症ケア専門士の資格は、5年ごとの更新が義務付けられています。更新手続きを行わなかった場合、資格は失われます。更新申請するには、10,000円の手数料がかかるほか、5年の間に講座への参加、論文投稿などによって30単位以上の専門士単位を取得しなければなりません。30単位に届かなかった場合は、更新保留申請を行うことで、1年間は更新期間の延長が可能になります。申請期間内に更新保留申請を行わなかった場合は資格を失効するので要注意です。また、1年間延長した場合、次の認定期間は4年間になります。
更新が義務付けられているからこそ、認知症ケア専門士の資格が最新の知識や技術を習得している証にもなるのです。そのための学習の機会は多く、最近はオンラインセミナーも活発に開催されています。自分の立場に合わせた研修の機会を選ぶことも可能です。研修会は学会ホームページに掲載されています。
認知症専門ケア加算の対象にならない
認知症ケアについて学べる研修として国が定め、各自治体が実施している「認知症介護実践者研修」があります。認知症ケア専門士のように認定試験があるわけではなく、カリキュラムをすべて修了することで、資格を取得することができます。認知症介護実践者研修は、施設や事業所によっては修了者の配置義務があるほか、「認知症専門ケア加算」を算定できます。
一方、認知症ケア専門士は配置義務や認知症専門ケア加算はありませんが、個人あるいは施設や事業所の評価があがるということにつながります。
認知症ケア専門士の勉強方法
認知症ケア専門士の認定試験に合格するには、どのような勉強が必要なのか説明します。
テキストや問題集を活用する
第一次試験は、認知症ケア学会が制作している「認知症ケア標準テキスト」の第1~4巻に準じた内容で出題されるため、これらを活用して勉強するのが基本となります。過去問題集は販売されていませんが、市販の予想問題集などはあるので、活用するのもいいでしょう。第二次試験は認知症ケア事例集である「認知症ケア標準テキスト」第5巻が、参考になります。
テキストを読み込むことも大事ですが、現場で起きていることをその都度テキストを使って調べると、記憶に残りやすくなります。
対策講座を受講する
認知症ケア学会で開催している、オンラインの受験対策講座(参加費15,000円)を受講するのも1つの方法です。テキストをもとにポイントを絞った講義を期間内であれば自分の都合に合わせて受けられるので、働きながらでも効率的に学ぶことができます。また、各都道府県の認知症ケア専門士会が、独自に対策講座を実施している場合もあります。
認知症ケア専門士資格の今後
認知症ケア専門士の資格が設けられてから、18年。認知症ケアのニーズが高まるなか、今後どのような役割が期待できるでしょうか。
さらにステップアップも可能
認知症ケア専門士の上級資格として「認知症ケア上級専門士」があります。ケアチームにおけるリーダーや地域のアドバイザーとして活躍することが期待され、取得するとさらなるステップアップが望めます。受験資格は認知症ケア専門士としての経験が3年以上あること等です。できるだけ早く上級専門士の資格を取得したいという人は、認知症ケア専門士としての経験を積みつつ、上級専門士を目指して試験勉強を始めるのがおすすめです。
専門士会が全国組織に
認知症ケア専門士会は、2023年6月に全国組織になりました。さまざまな職種の人が集まる全国的な職能団体として1つになることで、意見の吸い上げや発信、情報交換などができるようになることが期待されています。認知症ケア専門士資格の普及や専門士への教育機会は、地域によって差があるのが現状ですが、今後は連携していくことで地域差をなくしていくことも望まれます。
まとめ
認知症ケア専門士は、公的資格ではないので、取得することで給料や待遇がアップしたり、転職に有利になったりすることが確約されているわけではありません。しかし、認定試験の勉強そのものが、自分のスキルアップにつながり、利用者に対してより適切なケアができるようになります。また、認定試験の難度が比較的高いこと、5年ごとに更新が義務付けられていることなどから、資格に対する信頼性は高く、施設や事業所によっては優遇されたり給料アップにつながったりすることもあります。介護福祉士や看護師などの資格と掛け合わせることもできるので、キャリアを広げるためにも取得を検討してはいかがでしょうか。
認知症ケア専門士について解説してくれたのは……
- 奥山惠理子(おくやま・えりこ)
- 一般社団法人 日本認知症ケア学会理事。博士(リハビリテーション科学)。1980年、藤田保健衛生大学卒業。医療法人社団哲明会・奥山クリニックデイケアセンター長などを経て、2009年に認知症ケアと認知症予防に取り組む(株)浜松人間科学研究所を創設。2015年、聖クリストファー大大学院後期博士課程修了。静岡県認知症ケア専門士会会長。日本認知症ケア学会東海地域部会部会長。上級認知症ケア専門士、主任介護支援専門員、精神保健福祉士、臨床検査技師、認知症介護指導者。