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認知症になると生命保険は解約・請求できない? トラブル事例と解決方法を紹介

認知症になると生命保険は解約・請求できない? トラブル事例と解決方法を紹介
写真/Getty Images

認知症によって判断能力が低下すると、生命保険の保険金が請求できなかったり、契約内容がわからなくなったりする可能性があります。どのような対策が適切であるかは、判断能力の低下状況によって異なるので、まずは認知症になる前から確認しておくことが大切です。本記事では、認知症によって起こりうる生命保険トラブル事例と、それに備えるための対策について、ファイナンシャルプランナーの東本隼之さんにわかりやすく解説していただきます。

認知症と生命保険に関するトラブルについて執筆してくれたのは……

東本隼之さん
東本隼之(ひがしもと・としゆき)
ファイナンシャルプランナー、マネーライター
独立系ファイナンシャルプランナーとして執筆業を中心に活動中。金融記事を中心に執筆・編集・監修を担当。税金・社会保険・資産運用・生命保険・不動産・相続分野を得意とし、自身の経験に基づいたライティングを強みとしている。難しい金融知識を初心者にわかりやすく伝えることが得意。

認知症による生命保険トラブル

厚生労働省の調査では、2025年には65歳以上の高齢者のうち約5人に1人が認知症になると見込まれており、認知症は誰もが関わりうる身近なことになりつつあります。認知症で判断能力が低下すると、日常生活や社会生活に支障をきたしてしまう可能性があります。民法では、意思能力(=契約によってどのような結果がもたらされるか理解する能力)のない状態での取引は「無効」とされるためです。このため、認知症が進んで判断能力が低下すると、各種の契約行為、不動産の名義変更(相続登記)、さまざまな法律行為ができなくなると判断されることが多くあります。なかでも、万が一の状況に備えて多くの人が加入している生命保険の手続きにおいては、以下のようなトラブルも想定されます。

  • 保険金の請求ができない
  • どの生命保険に加入しているのかわからない
  • 生命保険を解約できない
  • 不要な生命保険に加入してしまった

いずれのトラブルも家計への負担が大きくなったり、医療費や介護費が支払えなくなったりするリスクが高まるため、事前に対策をしておくことが大切です。まずは、どのようなトラブルが発生するのかを詳しく見ていきましょう。

保険内容を検討するひと、Getty Images(写真はイメージです)
Getty Images(写真はイメージです)

保険金の請求ができない

入院や手術をしたときの保険金は、被保険者(保険の対象となる人)自身が請求しなければ受け取れないケースがあります。認知症で判断能力が低下していると、請求手続きができず、最悪の場合は保険金が受け取れないことも考えられます。

入院や介護費用に備えるために加入していた生命保険から保険金が受け取れなくなると、介護費用を生活費のみでまかなうような状況になりかねません。そのような状況にならないためにも、まずは誰が保険金請求できるのかを事前に確認しておきましょう。

どの生命保険に加入しているのかわからない

保険金請求をする際には、どの生命保険に加入しているのかを確認したうえで手続きを進めなければなりません。しかし、認知症が進行すると、どこの生命保険会社でどのような保障内容となっているのか、わからなくなってしまうケースがあります。

加入している生命保険がわからなければ、保険金がいくら請求できるのか、保険料の支払いが家計に影響を与える心配はないのかを判断することが難しくなります。認知症になった後に金銭的な不安を感じないためにも、事前にどのような生命保険契約をしているのかを確認しておくことが大切です。

また、生命保険は請求しない状況が3年間続くと請求権を失ってしまうので、3年が経過する前に請求漏れがないのかを確認しておきましょう。

生命保険を解約できない

生命保険は、原則として契約者(保険会社に契約の申し込みをして保険料を支払う人)本人でなければ解約することができません。そのため、契約者が認知症となり判断能力が低下すると、生命保険が解約できなかったり、解約返戻金を受け取れなかったりすることがあります。

被保険者は、契約者に解約請求することができますが、請求相手となる契約者が認知症になっていると解約手続きを進めるのが困難です。また、契約者本人に委任状を作成してもらい、解約手続きを進めることもできますが、認知症で判断能力が低下している状態では保険会社が解約を認めてくれないケースも考えられます。

貯蓄型保険などのように、介護費用を補填するために生命保険を活用している場合は、認知症が進行する前からいざというときに解約できるよう、準備を進めておくとよいでしょう。

不要な生命保険に加入してしまった

認知症によって判断能力が低下すると、生命保険の解約や請求ができないだけでなく、不要な保険契約を結んでしまうことも考えられます。保険料分の支出が増えることとなるため、家計に大きな影響を与えてしまいかねません。

なお、認知症で意思能力がなかったと判断されれば、保険契約を無効にできる可能性があります。また、クーリングオフについて記載されている書面を受け取った日、または申込日の遅い日から8日以内であれば契約を取り消すことができるので、不要な生命保険に加入した場合は、いつ契約したのかを確かめたうえで解約できないかを確認しておきましょう。

認知症になる前にできる対策

認知症になる前であれば、指定代理請求人を指定したり、委任状を活用したりといった対策をすることができます。認知症による生命保険トラブルを起こさないためにも、可能な限り早く対策をしておきましょう。

話を聞くひと、Getty Images(写真はイメージです)
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指定代理請求人を指定しておく

生命保険には、被保険者が受取人の場合でその本人に特別な事情がある場合、代理人が保険金請求できる「指定代理請求制度」があります。特別な事情には、余命宣告を受けたり、認知症などで意思表示ができなかったりする状況が挙げられます。ただし、全ての生命保険で利用できるわけではなく、契約内容や保険会社によって対応が異なるので注意が必要です。

なお、認知症になった後では、指定代理請求制度を利用できなくなってしまうことがあるため、認知症になる前に手続きを進めておかなければなりません。指定代理請求人になれる範囲は配偶者や直系血族、3親等以内の親族などが挙げられ、生命保険会社によって異なるので、契約前に確認しておきましょう。

また、年金の受取時期が20年後といったように契約期間が長くなる場合は、指定代理請求人を定期的に見直すことが大切です。指定代理請求人が亡くなったり、離婚したりすると保険金請求ができなくなってしまう可能性があるので注意しましょう。

任意後見制度を活用する

任意後見制度とは、認知症などで判断能力が低下した人の法的な意思決定をサポートするための備えとなる制度です。任意後見制度を利用する際は、判断能力が低下する前に任意後見人を選び、任意後見契約を結ぶこととなります。

任意後見人は、任意後見契約で定められた代理権の範囲内であれば、生命保険を解約することも可能です。ただし、生命保険の解約が本人(認知症になった人)に損害を与える場合は、損害賠償トラブルに発展するケースがあるので注意が必要です。

任意後見制度には、任意後見人や代理権の範囲を自由に決められるメリットがありますが、認知症になる前に任意後見契約を結ばなければ利用できないので注意しましょう。

※任意後見制度についての詳細は、以下の記事をご参照ください。
「任意後見制度とは どんな人が使える?法定後見との違いや監督人などを解説」

委任状で手続きをする

判断能力がある状態でも、けがや病気で動けない場合は、委任状を活用して生命保険の手続きを進めることも可能です。ただし、保険金や解約返戻金を受け取る場合は、本人の意思を確認するための調査が実施されるケースがあります。

なお、保険契約者が自署できない状態であっても、委任状を偽造したり、契約者の意思確認をせずに代筆したりすることは基本的に認められていません。解約書類や委任状に記入できないときは、保険会社に相談し、所定の手続きをしたうえで代筆しましょう。

認知症になった後にできる対策

認知症によって判断能力が低下すると、任意後見制度や委任状などで対策することができなくなってしまいます。認知症になった後は、生命保険契約照会制度や法定後見制度を活用して、生命保険のトラブルを防止していきましょう。

肩にのせられた手に手を重ねるひと、Getty Images(写真はイメージです)
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生命保険契約照会制度を利用する

生命保険契約照会制度とは、一般社団法人 生命保険協会を通じて、同会に加盟する保険会社全てに対して生命保険契約の有無を一括照会できる制度です。ただし、契約内容までは通知されないので、保険契約があった場合は、該当する保険会社に自身で問い合わせなければなりません。なお、財形保険や財形年金保険、支払いが開始している年金保険などは、照会対象外となっているので注意しましょう。

生命保険契約照会制度を利用できる人(照会者)は、照会対象者(照会される人)の法定代理人や3親等以内の親族などに限定されています。照会時に必要となる書類は、照会者の状況によって異なり、医療機関が発行した診断書が必要になるケースもあります。

生命保険の加入状況は、保険証券や通帳の入出金履歴から調べることもできるので、本制度を利用する前に、どのような保険に加入しているかを確認してみるとよいでしょう。

生命保険契約照会制度(政府広報オンライン)

法定後見制度を活用する

法定後見制度とは、認知症などで判断能力が低下した人の法的な意思決定をサポートし、財産や権利を保護するための制度です。法定後見制度は、判断能力が著しく低下した人でも利用できるのが特長です。

申立人が法定後見人を推薦することもできますが、財産や権利を保護するために適していると家庭裁判所が判断した弁護士や司法書士などの専門家が選任されるケースが多いです。親族が法定後見人になると、報酬が発生しないこともありますが、専門家が選任された場合は月額2〜6万円程度の報酬の支払いが必要になります。保険金請求ができたとしても、保険金以上の報酬を支払うことになると負担が大きくなってしまうので注意しましょう。

なお、法定後見人の選任に対しては不服申し立てをすることができないので、自身で後見人を決めたい場合は、認知症で判断能力が低下する前に任意後見制度を活用することをおすすめします。

※法定後見制度についての詳細は、以下の記事をご参照ください。
法定後見制度とは 手続きや任意後見との違いなどをわかりやすく解説

まとめ

認知症によって判断能力が低下すると、生命保険の保険金請求ができなかったり、契約内容がわからなかったりするリスクが高まります。2025年に65歳以上の高齢者のうち「約5人に1人が認知症になる」と見込まれている現代では、生命保険トラブルを起こさないための事前準備が大切です。

認知症になった後は、任意後見制度や委任状などの対策ができなくなってしまうので、より多くの選択肢から最適な方法を選ぶためにも、可能な限り早く対策をすることが重要です。

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