法定後見制度とは 手続きや任意後見との違いなどをわかりやすく解説
加齢や認知症などによって、判断能力は低下していくものです。そのようになったときでも、ご本人の財産を守れるようにとつくられた仕組みが「法定後見制度」です。残っている判断能力の程度に応じて、「成年後見」「保佐」「補助」という3種類の制度が用意されていますので、ご本人の状況に応じて申立てを行うことが大切です。後見制度や相続などに詳しい阿部由羅弁護士に、必要な手続きや費用、任意後見制度との違いなどについても詳しく解説していただきます。
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・法定後見制度とは?
・法定後見制度と任意後見制度の違い
・成年後見人・保佐人・補助人の役割と権限
・成年後見人・保佐人・補助人になれる人
・法定後見制度を利用する手続きの流れ
・法定後見制度の利用にかかる費用
・法定後見制度の利用を終了するには
・法定後見制度に関するよくある質問
法定後見制度について執筆してくださったのは……
- 阿部由羅(あべ・ゆら)
- ゆら総合法律事務所 代表弁護士
西村あさひ法律事務所・外資系金融機関法務部を経て現職。ベンチャー企業のサポート・不動産・金融法務・相続などを得意とする。その他、一般民事から企業法務まで幅広く取り扱う。各種webメディアにおける法律関連記事の執筆にも注力している。東京大学法学部卒業・東京大学法科大学院修了。趣味はオセロ(全国大会優勝経験あり)、囲碁、将棋。
法定後見制度とは?
法定後見制度とは、判断能力が低下した人の法的な意思決定を助け、財産や権利を保護するための制度です。法定後見制度には成年後見・保佐・補助の3種類があり、残っている判断能力の程度に応じて利用できる制度が異なります。
判断能力低下の程度がもっとも著しい人が使えるのが、成年後見です。次いで保佐となり、補助は判断能力が相当程度残っている方でも利用できる場合があります。
法定後見制度と任意後見制度の違い
法定後見制度と同じく、判断能力が低下した人の財産や権利を保護するための制度として「任意後見制度」があります。両者は目的を共通にしていますが、利用する際の手続きや、後見人等の権限内容などが異なっています。
法定後見と任意後見は、いずれも家庭裁判所の審判により開始されます。ただし任意後見に限っては、本人に判断能力が残っている段階で、事前に任意後見人との間で契約を締結しておかなければなりません。
また法定後見の場合、成年後見人等の権限内容は民法で決まっているか、または家庭裁判所の審判により定められます。これに対して任意後見の場合、任意後見人の権限は契約で定めます。
成年後見人・保佐人・補助人の役割と権限
法定後見制度には、本人の判断能力低下の程度が大きい順に、成年後見・保佐・補助の3種類があります。
本人の判断能力が低ければ低いほど、サポート役に大きな権限を与えて、本人の財産や権利を積極的に保護させるべきです。そのため、サポート役となる成年後見人・保佐人・補助人の権限には、以下のような差が設けられています。
- (1)代理権の有無・範囲
成年後見人には、本人の財産に関するすべての法律行為についての代理権が与えられています。
これに対して、保佐人・補助人には原則として代理権がありませんが、家庭裁判所が審判により、特定の法律行為について代理権を付与する場合があります。
(2)同意権の有無・範囲
保佐人には、民法13条1項所定の行為※すべてについて同意権が与えられており、本人が当該行為をするためには保佐人の同意を得なければなりません。
これに対して、補助人には原則として同意権がありませんが、家庭裁判所が審判により、民法13条1項所定の行為のうち特定の法律行為について同意権を付与する場合があります。
(成年後見人には包括的な代理権があるため、同意権は不要)
(3)取消権の有無・範囲
成年後見人には、本人による日常生活に関するもの以外の行為全般についての取消権が与えられています。また、保佐人には、民法13条1項所定の行為すべてについて取消権が与えられています。
これに対して、補助人には原則として取消権がありませんが、家庭裁判所が審判により、民法13条1項所定の行為のうち特定の法律行為について取消権を付与する場合があります。
※民法13条1項所定の行為:以下の行為
・元本の領収、利用
・借財、保証
・不動産その他重要な財産に関する権利の取得、喪失を目的とする行為
・訴訟行為
・贈与、和解、仲裁合意
・相続の承認、放棄、遺産分割
・贈与の申込みの拒絶、遺贈の放棄、負担付贈与の申込みの承諾、負担付遺贈の承認。
・新築、改築、増築、大修繕
・賃貸借(短期賃貸借を除く)
・上記各行為を、制限行為能力者の法定代理人としてすること
成年後見を利用できる人
成年後見を利用できるのは、「精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況」にある方です(民法7条)。
自分の行為の結果を全く理解できない程度に、判断能力の低下が進行した方が成年後見の対象となります。
保佐を利用できる人
保佐を利用できるのは、「精神上の障害により事理を弁識する能力が著しく不十分」である方です(民法11条)。
成年後見よりは判断能力低下の進行が浅いものの、重要な取引を一人で行うことはできない状態の方が保佐の対象となります。
補助を利用できる人
補助を利用できるのは、「精神上の障害により事理を弁識する能力が不十分」である方です(民法11条)。
保佐よりもさらに判断能力低下の進行度が浅く、身の回りのことはほとんど一人でできるような方でも、幅広く補助の対象となります。
成年後見人・保佐人・補助人になれる人
成年後見人・保佐人・補助人は、家庭裁判所の審判によって選任されます。
申立人は、家庭裁判所に対して候補者を推薦することが可能です。親族や弁護士などの専門家を推薦するケースが多いですが、法人を推薦することもできます。
ただし、推薦された人が必ず選任されるとは限りません。あくまでも本人の財産や権利を保護する観点から適任であるかどうかを、家庭裁判所が個別に判断することになります。
なお、以下の欠格事由のいずれかに該当する方は、成年後見人・保佐人・補助人になることができません(民法847条、876条の2第2項、876条の7第2項)。
- <欠格事由>
(1)未成年者
(2)家庭裁判所で免ぜられた法定代理人・保佐人・補助人
(3)破産者
(4)本人に対して訴訟をしている者・した者、およびその配偶者・直系血族
(5)行方の知れない者
法定後見制度を利用する手続きの流れ
判断能力が低下した家族などについて、成年後見・保佐・補助を開始する際の手続きの流れは、大まかに以下のとおりです。
後見等の要否を判断
成年後見・保佐・補助が開始されると、本人の行為能力は制限されます。つまり、契約などの法律行為をする際、本人が一人で決断できなくなるということです。常に成年後見人等のサポートが必要となることには、不便な面もあります。
その一方で、本人の判断能力が低下している場合には、成年後見・保佐・補助の開始は、財産や権利を守るうえで有効な対策となるでしょう。
法定後見制度のメリット・デメリットを総合的に考慮して、成年後見・保佐・補助の開始が必要かどうかをご検討ください。
家庭裁判所に対する申立て
法定後見制度を利用するには、家庭裁判所に対して後見開始・保佐開始・補助開始の審判を申し立てる必要があります。
- <申立人>
以下のいずれかの方
・本人
・配偶者
・四親等内の親族
・後見人(成年後見の場合は未成年後見人)
・後見監督人(成年後見の場合は未成年後見監督人)
・保佐人(成年後見、補助のみ)
・保佐監督人(成年後見、補助のみ)
・補助人(成年後見、保佐のみ)
・補助監督人(成年後見、保佐のみ)
・検察官
・任意後見受任者、任意後見人、任意後見監督人(任意後見契約が登記されている場合のみ)
※補助の場合に限り、本人以外が申し立てる場合は本人の同意が必要(民法15条2項)
<申立先>
本人の住所地の家庭裁判所
<必要書類>
・申立書
・申立手数料
・登記手数料
・郵便切手
・戸籍謄本,住民票
・成年後見に関する登記事項証明書
・診断書
など
申立ての方法がわからない場合は、家庭裁判所の窓口または弁護士などの専門家へご相談ください。
家庭裁判所による審判
後見開始・保佐開始・補助開始の審判申立てを受理した家庭裁判所は、本人から事情を聞いたり、判断能力についての鑑定を行ったりして、成年後見・保佐・補助を開始すべきかどうか判断します。
また、成年後見人・保佐人・補助人として推薦された候補者につき、本人の親族から意見を聞くなどして、適任かどうかを判断します。
家庭裁判所が成年後見・保佐・補助を必要と判断した場合、もっとも適任と思われる人を成年後見人・保佐人・補助人に選任したうえで、開始の審判を行います。
その後は、実際に成年後見人・保佐人・補助人が、その権限を行使して本人による法律行為をサポートします。
法定後見制度の利用にかかる費用
法定後見制度の利用には、家庭裁判所に対する審判申立ての費用と、成年後見人・保佐人・補助人に支払う報酬の負担が発生します。
家庭裁判所に対する審判申立ての費用
家庭裁判所に対して後見開始・保佐開始・補助開始の審判を申し立てる際の費用は、以下のとおりです。
また、申立ての対応を弁護士などの専門家に依頼する場合、別途依頼費用が発生します。
成年後見人等に支払う報酬
成年後見人・保佐人・補助人の報酬は、これらの者および本人の資力その他の事情を考慮して、家庭裁判所が個別に定めます(民法862条、876条の5第2項、876条の10第1項)。
標準的には、月額2万円から6万円程度の報酬が定められるケースが多いです。
参考:成年後見人等の報酬額のめやす|東京家庭裁判所・東京家庭裁判所立川支部
法定後見制度の利用を終了するには
成年後見・保佐・補助の利用を終了するには、家庭裁判所に対して審判の取消しを申し立てる必要があります(民法10条、14条、18条)。申立人になれるのは、後見開始・保佐開始・補助開始の審判の申立人になれる人と同じです。
家庭裁判所は、本人の判断能力が回復し、成年後見・保佐・補助の開始要件に該当しなくなったと判断した場合に限り、審判を取り消して成年後見・保佐・補助を終了させます。
また、成年後見人・保佐人・補助人に不正な行為、著しい不行跡その他任務に適しない事由があるときは、本人・本人の親族・検察官などが、家庭裁判所に対して解任を請求できます(民法846条、876条の2第2項、876条の7第2項)。
法定後見制度に関するよくある質問
最後に、法定後見制度に関して、本人や家族が疑問に思いがちなポイントへの回答をまとめました。
Q:法定後見制度の利用可否を判断する方法は?
A:法定後見制度を利用できるかどうか、あるいは成年後見・保佐・補助のいずれを申し立てるべきかについては、本人の状態を観察して判断しなければなりません。
明確な基準はないため難しいところですが、医師や弁護士など、専門家の意見を聞きながら判断するのがよいでしょう。
Q:成年後見人等に財産を使い込まれるリスクはないか?
A:成年後見人などが権限を悪用し、本人の財産を使い込んでしまう事例は、残念ながらしばしば報告されています。
成年後見人・保佐人・補助人を推薦する際には、「財産を託しても後悔はない」と信頼できる人を慎重に選んでください。
Q:成年後見人等の報酬が支払えなくなったらどうなるのか?
A:報酬が支払えなくなっても、成年後見・保佐・補助が終了するわけではありません。
ただし、報酬の支払いを命ずる判決などの債務名義を取得すれば、成年後見人・保佐人・補助人は、本人の財産に対する強制執行を申し立てることができます。