全国5千カ所以上「地域包括支援センター」を専門家がやさしく解説
取材/中寺暁子
高齢者や高齢者を支える人にとって心強い存在が、地域包括支援センターです。すべての市区町村に設置されている相談機関で、どんな困りごとでもワンストップで聞いてもらうことができます。その役割や利用の仕方などについて紹介します。
地域包括支援センターについて解説してくれたのは……
- 結城康博(ゆうき・やすひろ)
- 淑徳大学総合福祉学部社会福祉学科教授
1992年淑徳大学社会福祉学部卒業。99年法政大学大学院社会科学研究科修士課程(経済学専攻)修了、2004年法政大学大学院社会科学研究科博士課程(政治学専攻)修了。介護職やケアマネジャー、地域包括支援センター職員として介護系の仕事に10年間従事。現在は経済学や政治学をベースに介護と医療を中心とした社会保障政策の研究に従事する。著書に『介護職がいなくなる ケアの現場で何が起きているのか』(岩波書店)、共著に『わかりやすい社会保障制度』(ぎょうせい)などがある。
地域包括支援センターとは
地域包括支援センターは、すべての市区町村に設置されている行政機関で、住民にとって身近な存在です。しかし、利用したことがない人も多いのではないでしょうか。どのような施設なのか、概要を紹介します。
高齢者の総合窓口
地域包括支援センターは、すべての市区町村に設置された、高齢者のための総合相談窓口です。住民が住み慣れた地域で心身の健康を保持し、安定した生活を送るために、さまざまな支援を行っています。
地域によって名称が異なります
「地域包括支援センター」という名称は、「地域包括ケアシステム」がもとになっています。地域包括ケアシステムは、地域の特性に応じて、住まい、医療、介護、予防、生活支援が一体的に提供されるシステムのことで、地域包括支援センターは、その中心となる施設のためこのような名称がつけられています。
しかし、高齢者の総合的な相談窓口であることがわかりにくいことから、よりわかりやすい名称や住民になじみのある言葉を使った名称などに変えている自治体も多くあります。その場合、「高齢者あんしんセンター」「高齢者総合相談センター」など「高齢者」、「相談」、「あんしん」といった言葉が入っていることが多いようです。
近所にある施設が実は地域包括支援センターだったということもあるので、自分が住んでいる地域の名称は、確認しておくといいでしょう。探し方は後述します。
誰が運営しているの?
運営の主体は市区町村、もしくは市区町村から委託を受けた法人(社会福祉法人、社会福祉協議会、医療法人、社団法人など)です。市区町村の直営が約3割、委託が約7割の割合です。
利用者にとっては、直営と委託とで大きな違いはありません。ただし、直営に比べて委託はさまざまな職種のスタッフがいる、臨機応変に対応できるといった傾向があります。一方、直営は、役所と直結しているのでさまざまな手続きがスピーディーにできるといった傾向があるようです。
利用料はかかるの?
利用料は無料なので、気軽に相談できます。相談内容によって紹介されたサービスを利用する際には、費用がかかることもあります。
地域包括支援センターの役割
地域包括支援センターでは、主に4つの業務を実施しています。
具体的な役割1「総合的な相談支援」
住民のさまざまな相談を幅広く受けつけ、制度の垣根にとらわれない支援を行います。相談内容に応じて医療機関や保健所、行政機関、民生委員などと連携し、必要なサービスや制度が利用できるように援助します。
事例:高齢で一人暮らしのAさんと同じマンションに住む住民から、「最近Aさんがマンション内をウロウロしていて様子がおかしい」と地域包括支援センターに連絡がありました。職員がAさんの自宅を訪問して話を聞いたところ、外出先から帰宅すると、自分の部屋がわからなくなってしまうとのこと。ほかにも認知症のような症状があったため、「認知症初期集中支援チーム(*)」につなげました。
*認知症初期集中支援チーム
医療や介護の専門職が、認知症が疑われる人や認知症の人、その家族に早期に関わるために結成したチーム。できるだけ住み慣れた地域で暮らし続けるために、包括的、集中的(おおむね6カ月間)に支援する。
具体的な役割2「権利擁護」
高齢者に対する虐待の防止や早期発見、権利擁護のための支援を行います。金銭の管理ができなくなった高齢者に対しては、成年後見制度の活用などを促します。
事例:初期の認知症で、お金に不安を感じているBさん。自立した生活はできていますが、銀行から引き出したお金がすぐになくなってしまいます。地域包括支援センターに相談したところ、社会福祉協議会が実施している「日常生活自立支援事業」の利用をすすめられました。自宅を訪問した生活支援員に支援計画を立ててもらったうえで、日常生活に必要なお金の管理や預金通帳の保管をしてもらえることになり、お金に対する不安がなくなりました。
具体的な役割3「包括的・継続的ケアマネジメント支援」
高齢者が地域において、長期にわたり安心して暮らしていけるようにするため、医療機関やケアマネジャーが連携して支援を行います。医療や介護などの多職種が協働し、高齢者の個別課題の解決を図る「地域ケア会議」を主催するほか、ケアマネジャーへの個別相談や指導、支援が困難な事例に対する指導や助言も行います。
事例:地域包括支援センターの主任ケアマネジャー(ケアマネジャーの指導や育成を担当)が、地域の居宅介護支援事業所のケアマネジャーを集めて、定期的に勉強会を実施。地域の介護施設などに関する情報交換などの場にもなっています。
具体的な役割4「介護予防ケアマネジメント」
要支援・要介護状態になる可能性のある人を対象に、個別に介護予防ケアプランを作成し、生活改善のための相談や支援を行います。
事例:骨折して入院したのを機に、退院後も引きこもりがちになったCさん。それまでは地域活動にも積極的に参加していて社交的だったため、家族が心配して地域包括支援センターに相談。本人や家族と面接して課題を分析し、目標や具体策を決定、介護予防ケアプランを作成しました。ケアプランに基づいて再び地域活動に参加することを目標に、できるだけ家事やリハビリに取り組むようにしました。
認知症でも使えるの?
認知症に関するさまざまな相談も受けつけています。認知症の専門的な医療機関である「認知症疾患医療センター」や医療系、介護・福祉系の専門職が初期支援を行う「認知症初期集中支援チーム(*)」につなげる窓口となります。介護が必要になった際には、介護保険サービスの利用をサポートします。
また、「親に認知症の疑いがあるけれど、本人が受診をいやがる」「認知症の妻の介護に疲れた」といった家族からの相談にも対応しています。対処法についてアドバイスしたり、必要なサービスにつなげてくれるほか、社会福祉士や看護師、保健師などの専門職が受診に付き添ったり、自宅を訪問してくれたりすることもあります。
地域包括支援センターとはどこにある?
市区町村に1カ所以上は設置されている地域包括支援センター。どこのセンターを利用すればいいのか、探し方などについて紹介します。
全国5000カ所以上
全国に5351カ所が設置されている地域包括支援センター(令和3年4月。厚生労働省老健局認知症施策・地域介護推進課調べ)。人口2~3万人の日常生活圏域に1カ所設置されていて、住まいによって担当の地域包括支援センターが決められています。
住民の利便を考慮し、地域包括支援センターとつなげるための「ブランチ」と呼ばれる窓口を設置している地域もあります。
近くの地域包括支援センターの探し方
厚生労働省のホームページ「全国の地域包括支援センター」の一覧から探すことができます。
もしくは、市区町村のホームページや広報誌などでも確認できます。電話で確認したい場合は、役所の高齢福祉課が窓口となります。
設置場所はさまざまで、地域の保健センターや市民センターのほか、総合病院や介護施設に併設されているケースもあります。
利用者
地域包括支援センターを利用する人の条件について紹介します。
対象地域に住んでいる65歳以上の人、もしくは高齢者支援の活動に関わる人
次の2つの条件を満たしていれば、誰でも利用できます。
- 65歳以上の人、もしくはその家族や介護、支援を行っている人
- 利用する地域包括支援センターが管轄する地域に、65歳以上の本人が住んでいる
地域の高齢者虐待の早期発見の窓口でもあります
地域包括支援センターは、高齢者虐待の通報、相談の窓口でもあります。虐待の疑いがある場合は、地域包括支援センターと市区町村とで速やかに事実確認、安全確認を行っていきます。
「要支援」の人は介護予防ケアプランの作成
介護保険サービスを申請した結果、要支援1、2と認定された場合、地域包括支援センターに所属するケアマネジャーが「介護予防サービス計画(介護予防ケアプラン)」を作成します。
家族などが代理で連絡する場合
遠方に住んでいる家族が本人について相談したり、代理で連絡したりする場合は、相談者である家族が住む地域ではなく、本人が住む地域の地域包括支援センターが担当になります。
地域包括支援センターに在籍する専門家
高齢者の総合的な相談に応じるため、介護や福祉に関するさまざまな専門家が在籍しています。
高齢者の総合窓口として機能するため、さまざまな専門家が在籍
原則として主任ケアマネジャー、社会福祉士、保健師がそれぞれ1人以上配置されています。ただし人口規模に応じて、このうち1人もしくは2人の場合もあります。
また、それぞれの配置が難しい場合は、これらの職に準ずる専門職も認められています。例えば、保健師の配置が難しい場合は、地域ケア、地域保健などに関する経験がある看護師が配置されます。社会福祉士の配置が難しい場合は福祉事務所での経験やケアマネジャーとしての経験があり、さらに高齢者の保健福祉に関する相談援助業務に従事した経験などがあれば、社会福祉士に準ずる者として認められます。
主任ケアマネジャー
ケアマネジャー(介護支援専門員)は、要支援者または要介護者からの相談に応じ、心身の状況に合わせた適切なサービスを利用できるよう、ケアプラン(介護サービス計画)を作成する専門職です。また、市区町村やサービス業者など関係機関との連絡調整も担当します。主任ケアマネジャーは、ケアマネジャーの上位資格で、ケアマネジャーをまとめる役割も担います。
社会福祉士
社会福祉専門職の国家資格であり、福祉の相談援助に関する専門知識や技術をもっています。心理的、身体的、経済的困難を持つ人の相談を受け、医療機関や介護施設、必要な制度につなぎます。
保健師
地域の住民の保健指導や健康管理を行う職種です。高齢者の自宅を訪問し、聞き取り調査を行ったり、相談に応じたりすることもあります。
利用までの流れ
地域包括支援センターは、予約や事前の準備などは必要ありません。初めて利用する場合はハードルが高く感じるかもしれませんが、ささいな相談であったり、情報を集めたりするだけでもいいので、気軽にふらっと立ち寄ってみましょう。電話での相談も受けつけているほか、土日や夜間も窓口を開設している場合もあります。
対応に不安を覚えたら
地域包括支援センターの設置主体は、市区町村です。対応に不安を覚えたら、役所の高齢福祉課、もしくは介護保険課に相談しましょう。
地域包括支援センターの歴史と背景
2005年に介護保険制度が見直されたのに伴い、2006年に創設された地域包括支援センター。設置の背景や現状などについて紹介します。
医療や介護ニーズの高まりを見越して設立
地域包括支援センターは、2005年に介護保険制度が見直されたことで設置が定められました。2015年にベビーブーム世代が65歳以上となり、2025年には高齢者人口がピークになること、それに伴って認知症の人が増えていくこと、さらに高齢者の一人暮らしが増えることなどが予測されたことが背景にあります。例えば介護を必要としているのにサービスを受けられない人が増えるほか、老老介護などが問題として挙げられ、医療や介護の整備が急務となったのです。そこで確立されたのが「地域包括ケアシステム」です。
地域包括ケアシステムについて
地域包括ケアシステムとは、重度な要介護状態となっても、住み慣れた地域で自分らしい暮らしを人生の最後まで続けることができるよう、住まい・医療・介護・予防・生活支援を地域の特性に合わせて、一体的に支援、サービスを提供する体制のことです。団塊の世代が75歳以上となる2025年を目途に、構築していくことを目指しています。
地域包括支援センターは、地域包括ケアシステムを一体的に実施する中核的期間として位置づけられています。
抱えている課題
創設当初は、気軽に相談に訪れることができる窓口といった役割でスタートしました。しかし、認知症の人や一人暮らし、もしくは高齢者の二人暮らしが増えたことで、職員が外に出て困っている高齢者を見つけ出さなければならないという状況が多くなっています。ゴミ屋敷、高齢者に対するネグレクトや虐待といった問題も深刻です。支援が必要な人を掘り起こしていく作業は、人手や時間がかかります。「業務量が過大」「業務量に対する職員数の不足」といった地域包括支援センターが抱える課題が、ますます大きくなっているのです。
チームオレンジと地域包括支援センターの関係
「チームオレンジ」とは、認知症サポーター(*2)などが支援チームをつくり、認知症の人やその家族のニーズに合った具体的な支援につなぐ仕組みのことです。認知症の人もチームに参加することができます。
地域包括支援センターはチームづくりをすすめるなど、さまざまな場面でチームオレンジと連携しています。例えば本人や家族からの相談に対して、ニーズに応じてチームオレンジとつないだり、逆にチームオレンジが認知症の人の声を聞き、それを地域包括支援センターに集めたり、一体的に認知症の人を支えています。
*2認知症サポーター 認知症サポーター養成講座を修了し、認知症に関する正しい知識をもって、地域で認知症の人やその家族をサポートする役割を担う人