親の運転免許返納 代理申請やメリット 親との話し合い方をアドバイス

高齢ドライバーの事故が多発していることを受けて、1988年から導入されている運転免許の自主返納制度。自分や親の運転に不安を感じた時、高齢ドライバーの事故のニュースを見た時、自主返納を考える人は多いでしょう。手続きのほか、受けられる特典や支援、返納後の生活について紹介します。

運転免許の自主返納について解説してくれたのは……

上村直人(かみむら・なおと)
高知大学医学部神経精神科学教室講師 1997年高知医科大学大学院医学研究科修了。2009年、国内で初めて立ち上げられた認知症高齢者の運転問題と権利擁護に関する研究班に参加。以来、認知症高齢者の運転について、医学的な視点から研究を重ねている。日本精神神経学会専門医・指導医、日本老年精神医学会専門医・指導医、精神保健指定医。

高齢者の事故について

高齢ドライバーが増加し、75歳以上で運転免許を持っている人は、十数年前と比べると約2倍に増えています*。高齢ドライバーによる交通事故は、ニュースでもしばしば取り上げられるようになっています。事故原因として多いのが、ハンドル操作のミス、そしてブレーキとアクセルの踏み違いです。

警察庁では高齢ドライバーの事故対策として、2022年5月13日に改正道路交通法を施行。75歳以上で過去3年間一定の違反歴があるドライバーには、免許更新時に「運転技能検査」(実車試験)が義務付けられます。そのほか、運転が不安な高齢ドライバーが申請できる「サポカー限定免許」(衝突被害軽減ブレーキなどを搭載した安全運転サポート車に限り運転できる免許)、介護の専門職などが運転に不安がある高齢ドライバーを警察に通報した場合に、違反や事故がなくても診断書を提出させることができる、といった内容が加わります。

今後、高齢ドライバーの事故対策は、より強化されていくというわけです。

令和2年交通安全白書(全文)(内閣府)

運転免許の自主返納への意識

なかまぁるが、2021年10~11月に実施した「親の運転免許返納に関するアンケート」(回答者182人)によると、「高齢になった親に運転免許を返納してもらいたいですか?」という質問に対して、半数近くが「すでに返納」と回答。「いずれは返納」が20%、「5年以内に返納してもらいたい」が12%、「1年以内に返納してもらいたい」が10%という結果に。まだ返納していない人でも、多くの人が数年以内に返納を考えていることがわかりました。

高齢になった親の運転免許返納について、「すでに返納」と回答したのは半数近く。「1年以内に返納してもらいたい」という人も10%いました。(%は、小数点以下を四捨五入しています)【高齢になった親に運転免許を返納してもらいたいですか?】すでに返納47% いずれは返納20% 5年以内に12% 1年以内に10% 返納する必要はない7% 10年以内に4%
高齢になった親の運転免許返納について、「すでに返納」と回答したのは半数近く。「1年以内に返納してもらいたい」という人も10%いました。(%は、小数点以下を四捨五入しています)

一方で「返納してもらいたい」と思っている人でも、実際に話し合いができているのは約4割にとどまりました。「免許返納の障壁となる要因は何だと思いますか?」と複数回答で聞いたところ「生活に必要な移動ができなくなること」(回答数150)が最も多く、「移動に関する公的な支援制度が不十分であること」(109)、「親の楽しみを奪うことになること」(92)「親のプライド」(84)、「仕事ができなくなること」(39)が続きました。

知っておきたい運転経歴証明書、運転免許返納特典について

運転免許証を有効期間内に返却すると、公的な身分証明書として使用できる「運転経歴証明書」の交付を受けることができます。また、運転経歴証明書を持っていると、バスやタクシーの運賃割引など、地域によってさまざまな特典が受けられます。

運転経歴証明書とは? 

公的な身分証明書にもなる運転免許証。返納してしまうと、身分証明書がなくなってしまうといった懸念などがあり、現在は免許証を自主返納すると公的な本人確認書類として使用できる「運転経歴証明書」の交付が受けられます。2012年4月1日以降に交付された運転経歴証明書は、本人確認書類として永年利用できます。すでに運転免許証を失効している人でも、失効した日から5年以内であれば運転経歴証明書の交付申請が可能です。

自治体によっては運転免許返納特典や支援制度も

運転免許を返納しても移動に困らないように、自治体などでは地域の実情に応じて、さまざまな支援制度を導入しています。バスやタクシーの運賃割引など移動に関する支援のほか、宿泊施設や観光スポットなどの料金割引、デパートや小売店の購入代金の割引など、さまざまな特典や支援制度があります。

免許証の自主返納の仕方

実際に自主返納をする際には、どこでどのような手続きが必要なのでしょうか。詳しくは各都道府県の警察署、運転免許センター、運転免許試験場に確認が必要ですが、ここでは一般的な方法を紹介します。

申請場所

住所地を管轄する運転免許センター、運転免許試験場または、警察署です。

必要な書類

運転免許証を持参し、申請場所に用意してある「運転免許取消申請書」とともに提出します。免許返納に関する手続きは無料です。

運転経歴証明書の発行を同時に行う場合

免許返納と同時に運転経歴証明書の交付申請ができます。自主返納もしくは、免許証失効から5年以上経過している人、交通違反などにより免許が失効になった人は、申請できません。

交付申請には、運転免許証のほか、申請窓口に用意してある「運転経歴証明書交付申請書」と手数料(1000円 ※ 異なる都道府県もある)、申請用写真が必要です。申請用写真は、申請場所によってはその場で撮影できます。

免許証を紛失した場合や免許返納と別日に申請する場合は、そのほかに本人確認書類が必要です。

運転経歴証明書は、即日交付される場合と後日交付になる場合があり、申請場所などによって異なります。

代理任意による申請方法

本人が病気などで申請できない場合、代理人による申請が可能です。本人の3親等以内の親族、成年後見人、施設に入居している場合は施設の管理者などが代理で申請できます。

代理人申請の場合に必要な書類

本人が申請する場合に必要な書類に加えて、代理人の身分証明書、運転免許センターや警察署に用意してある委任状が必要です。

運転経歴証明書について

運転経歴証明書の有効期限や紛失した場合の方法について紹介します。

有効期限はあるのか

有効期限はなく、永年使用できます。ただし、2012年3月31日以前に交付された「旧運転経歴証明書」の場合、公的な本人確認書類としては使用できません。手続きすれば現行の証明書に切り替えることができます。

注意したいのは、運転経歴証明書は顔写真付きで運転免許証と似ていることもあり、認知症の人が運転免許証を持っていると誤解して、実際に運転をしてしまうケースがあることです。認知症の人が運転経歴証明書を所持する場合には、家族や周囲の人が気を付けるようにしましょう。

紛失や引っ越し等があった場合はどうする?

紛失した場合は、運転免許センターなどで再交付申請が可能です。手数料や申請用写真、本人確認書類が必要です。

また、住所変更などがある場合は、速やかに変更を届け出る必要があります。新住所地の運転免許センターや警察署で手続きできます。届け出る際には、新住所を確認できるものが必要です。

支援制度・支援特典について

運転に不安がある高齢ドライバーが、自主的に免許証を返納しやすいように、自治体などでは地域の実情に応じた支援制度、支援特典を導入しています。多くは、運転経歴証明書を所持している65歳以上の人が対象になります。

移動に関する支援例

交通系についての支援としては、運転経歴証明書を所持していると、バスやタクシー、鉄道の運賃割引、交通系ICカードの交付といった支援例があります。そのほか、食材配達利用料金の割引、電動車イス購入料金の割引などがあります。

生活に関する支援例

地域によって、美術館や飲食店、宿泊料金、観光スポットの料金割引、メガネや補聴器など実用品の割引などの支援例があります。

支援制度・支援特典の調べ方

警察庁では、一般社団法人全日本指定自動車教習所協会連合会と連携して、同連合会のウェブサイト「高齢運転者支援サイト」に都道府県別の支援施策を具体的に掲載しています。住まいの地域にどのような支援があるのか、チェックしておくといいでしょう。

親に免許返納してほしいけれどどうすれば

なかまぁるのアンケートでは、親に免許返納してほしいけれど、実際には話し合いができていない人が多いという実情が明らかになりました。親が納得したうえで自ら免許を返納してもらうためには、どのように話し合いを進めればいいのでしょうか。

親に免許返納をすすめる前に考えてほしいこと

いきなり免許返納を促すのではなく、まず本人にとっての運転の意味や免許を手放したくない理由を考えてみてください。

移動手段として必要であれば、代わりの交通機関を確認したり、家族や友人などで代わりに運転してくれる人を見つけたりしておく必要があります。

また、運転が社会的役割だと考えている場合もあります。例えば、車で孫を保育園まで送迎することが自分の役割だと考えていた場合、その役割を失うことは自分の存在価値を失うことになってしまいます。そうならないように、別の形で家族の一員としての役割を担ってもらえるよう、「家で孫と遊んでくれるだけで助かる」などと、伝えておくことが大事です。

運転が楽しみや生きがいであれば、それに代わるものを探せるように家族がサポートしましょう。趣味や生きがいを見つけるために、介護保険サービスを使ってデイサービスに通う、地域で開催されている趣味の講座や娯楽の場に参加するといったことを提案してはいかがでしょうか。

免許証は一度自主返納すると、それを取り消すことはできません。再度免許を取得する場合は、適正試験、学科試験、技能試験を受験し、合格する必要があります。

認知症だと思っていたら実際には難聴で、補聴器を使って聞こえを改善したら認知機能には正常だったというケースもあります。自主返納については、慎重に検討してほしいと思います。

こう話したら、の事例

免許返納を話し合うきっかけとして、家族がやりがちなのが、高齢ドライバーが起こした事故のニュースの話を持ちだすことです。「最近高齢ドライバーの事故が多いから、お父さんも高齢だし、そろそろ……」といった導入だと、「自分は大丈夫だから」と聞く耳をもってもらえないかもしれません。大切なのは、親を心配している気持ちをストレートに伝えることです。「お父さんのことを大事に思っているからこそ、心配している」というように、子どもの立場からの素直な気持ちを伝えるのがおすすめです。

それでも難しい場合は、かかりつけ医から伝えてもらうといった方法もあります。また、警察や運転免許試験場などでは、運転に不安がある人やその家族への相談窓口を設けています。こうした場で相談するのも1つの方法です。

実際の運転能力をチェックすることも話し合うきっかけになるでしょう。
※こちらの記事「高齢ドライバーの危機は『運転行動チェックリスト』で家族が確認」にチェックリストがあります。

支援制度について伝え、その後の生活をシミュレーションしよう

免許を返納して運転経歴証明書を取得すると、さまざまな支援が受けられることを知るのも免許返納のきっかけになるかもしれません。さらに車のない生活がどのようなものになるのか、事前にシミュレーションしておくことも大事です。

車がないことによって、生活はどのように変わるのか。確認したいのが本人の「医・食・住・友・労」です。「医」は医療、「食」は食事、「住」は住まい、「友」は友人関係、「労」は役割です。病院にかかっているのか、1日3回の食事はどう確保しているのか、安心できる住まいはあるか、頼れる友人や知人はいるか、ボランティアや地域活動など社会の中でどのような役割を担っているのか、といったことです。これらは高齢者の生活がうまくいっているかどうかの目安になります。車がなくなることで「医・食・住・友・労」がどう変化するのか、考えておく必要があります。

免許返納後に注意したいこと

免許を手放したあとに気を付けたいのが、うつ状態になることです。運転に役割や生きがいを感じていた人は、それを突然奪われることで、会社を突然解雇されたのと同じようなショックを受けます。食欲がない、眠れない、いつもボーっとしているといったうつ状態の症状があれば、かかりつけ医に相談しましょう。アルコールの量が増えたといったケースも要注意です。

そうならないようにするためにも、免許返納後半年間くらいは、家族の運転でドライブに連れ出すなど、なるべく外出を減らさない工夫をしてほしいと思います。

親が遠方に住んでいて、外に連れ出すのが難しい場合は、こまめに電話などで連絡をとって「医・食・住・友・労」を確認するといいでしょう。例えば「車がないから病院に行くのが面倒で、最近かかっていない」といったことであれば問題です。

「医・食・住・友・労」については、免許返納に関わらず、高齢者が生活を送るうえで大事な要素です。免許返納をその先の生活を考えるきっかけにしてほしいと思います。

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