高齢ドライバーの危機は「運転行動チェックリスト」で家族が確認
取材/神 素子
高齢になっても運転を続けたい人、あるいは運転しなくては生活できない人が多くいます。「何歳くらいまでなら大丈夫?」と迷う声も聞かれますが、高齢者運転の研究に長く携わる高知大学医学部講師の上村直人さんは「年齢よりも運転時の行動を見ましょう」と話します。さて、その行動とは?
- 上村直人(かみむら・なおと)
- 高知大学医学部神経精神科学教室講師。2009年、国内で初めて立ち上げられた認知症高齢者の運転問題と権利擁護に関する研究班に参加。以来、認知症高齢者の運転について、医学的な視点から研究を重ねている。
高齢者の運転免許の更新は、記憶力より運転能力をみるべき
「現在の日本の法律では、認知症と診断されたら即免許取り消しです。しかし、認知症があってもごく初期であれば、安全に運転できる人もいます。認知症がなくても事故を起こす高齢者もいます。免許を返納するか否かは、その人の運転能力を判断しなくてはいけません」
と上村直人さんは言います。
2019年12月、警察庁は高齢ドライバーの事故対策の一環として、一定の違反や事故歴のある人の免許更新時に、実際に車を運転することで運転能力をみる「実車試験」を導入することを決めました。自動ブレーキなどの安全機能のついたサポートカー限定免許の導入も進めており、実施はともに2022年を目指しているそうです。
これに対して上村さんは「ようやく、という印象ですが」としつつ、「記憶力や認知機能で運転能力を判断するより、実際の運転で確認するほうがはるかに客観的です。実際に事故を起こす高齢者の半数は認知症ではないのですから」と話します。
しかし、実車試験が導入されるのはまだまだ先。高齢者の家族としては、現在の運転能力を知って、不安を解消したい気持ちもあります。
それに対して上村さんは、家族が高齢者の車に同乗しつつ、運転能力をチェックすることを勧めています。
これは、運転において必要な記憶力、理解力、注意力、集中力、空間認知能力、感情コントロール力などを見るテストです。1~10の項目のうち、ひとつもチェックが入らない場合には「運転能力に問題なし」と判断することができると言います。一方、複数のチェックが入った場合には、医療機関や警察などに相談することを上村さんは勧めます。
なかでも、6の「交通環境への注意力」と10の「車間距離の維持」に問題がある場合は要注意。交通事故を起こす危険性が極めて高いという調査結果があるのだそうです。
「のちに認知症と診断された人で、診断される以前に運転歴がある人を聞き取り調査しました。その結果、6と10の両方の項目に当てはまった人全員が、過去になんらかの交通事故を起こしていることがわかっています」
そのほかの項目は、いくつ以上だと危険というラインを決めることはできないそうですが、「運転に必要な能力が低下している可能性があります。このチェックテストを、家族で話し合うきっかけにしてほしい」と上村さんは考えています。
認知症だけではない、問題運転の原因
チェックテストで当てはまる人は、必ずしも認知症だけではないそうです。
「たとえば、注意欠陥多動性障害(ADHD)です。これは発達障害のひとつで、注意力が散漫、衝動性を押さえられないなどの傾向があるため、運転で事故を起こしやすいと指摘されています。発達障害というと『子どもの障害』と思うかもしれませんが、発達障害のまま成人する人も多く、高齢になってその傾向がますます強くなることもあります。とくにいまの高齢者の子ども時代に発達障害という言葉はありませんでしたから、見過ごされているケースは非常に多いと思います」
ほかにも糖尿病の人は運転中に血糖値が変動して眠くなるなど、運転面での危険性も指摘されているそうです。
しかし現実には、いったん運転免許を取得してしまうと、このような人たちが運転能力を検査されることはありません。だからこそ「実車試験」の意味が大きいというわけです。
「私は『認知症であれば、何が何でも運転免許は返納すべき』と考えてはいません。初期の段階であり、運転能力が十分にあれば運転する資格はあると思います。
しかし、『認知症の予防のために運転すべき』とも思いません。ましてや、『運転すれば認知症の進行が止められる』『出歩かないと認知症になってしまう』と、運転に不安を感じながらも運転を続けるのは言語道断です。
いまの日本は、国を挙げて『認知症予防ブーム』になっています。予防も大事かもしれませんが、国は高齢者が自分で車を運転しなくても生活できる地域づくりを進めてほしい。現在は自治体まかせですが、国家主導で動くべきテーマではないかと私は考えています」