認知症の症状 家族の対応方法 若年性認知症を専門家が徹底解説

認知症と診断されると、本人だけでなく家族や親しい人たちもとまどい、不安に駆られます。認知症の症状と上手に付き合いながら安心して生活するために、知っておきたい知識やポイントを公益財団法人浅香山病院の釜江和恵先生に伺いました。

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認知症の症状、家族の対応方法、若年性認知症について解説してくれるのは……

釜江和恵医師
釜江和恵(かまえ・かずえ)医師
公益財団法人浅香山病院精神科部長・認知症疾患医療センター長
1997年愛媛大学医学部医学科卒。98年同大大学院入学(神経精神医学)。2002年同大附属病院神経科精神科を経て、同年6月公益財団法人浅香山病院精神科。09年10月から現職。大阪大学大学院連合小児発達学研究科行動神経学・神経精神医学寄附講座特任講師(非常勤)。医学博士(精神医学)精神保健指定医。認知症の鑑別診断、BPSDの治療、若年性認知症支援を行っている。

認知症には進行ステージがある

認知症は原因となる病気によっていくつかの種類があり、症状の現れ方や進行の速さも違います。それぞれ初期から中期、後期という段階をたどり、発症初期にできるだけ早く治療やケアを始めると、進行は長くゆっくりしたものになります。認知症で最も多いタイプのアルツハイマー型認知症では、例えば70歳で発症した場合、概ね10年から15年のプロセスを経て終末期を迎えるのが一般的です。発症年齢がさらに高くなると途中で別の病気も重なることが多くなり、認知症だけの経過の見通しは立てにくくなります。

原因になる病気により初期の症状が違う

認知症になるといったいどんな症状が現れるのでしょう。よくみられる症状を認知症のタイプ別に解説します。

【アルツハイマー型認知症】

もっとも多いタイプの認知症です。新しいことを覚えるのが苦手になり、次第に日付や時間などがあいまいになっていきます。ご本人は自身の変化に気づきつつも「まさか」という葛藤を抱えるように。ご家族は「あれっ? 以前と違う」と感じることが多くなります。
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【血管性認知症】

アルツハイマー型に次いで多いタイプで、脳梗塞や脳出血など、脳の血管に障害が起きたことで発症する認知症です。障害が起きた脳の場所によって症状が異なります。初期は意欲の低下や気分の落ち込み、段取りが悪くなる等の変化が見られます。
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【レビー小体型認知症】

レビー小体というたんぱく質が脳にたまることで起きる認知症です。発症する数年前から、大声で寝言を言ったり眠ったまま暴れるなどの「レム睡眠行動障害」が出ることがあります。そこにはないものが本当にあるように見える「幻視」も現れます。
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【前頭側頭型認知症】

脳の前頭葉と側頭葉が萎縮して起きる認知症です。衝動や感情が抑えられないといった行動が現れやすくなります。普通、人前では言わないようなことを平気で言ったり、こだわりが強くなって同じ時間に同じことを繰り返したりなどの症状も見られます。
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手足を動かしにくいなどの運動機能の障害は、レビー小体型認知症や血管性認知症の場合は初期に見られますが、アルツハイマー型認知症や前頭側頭型認知症は、かなり進行した後に見られます。
もの忘れなどの記憶障害は、レビー小体型認知症や前頭側頭型認知症の初期にはあまり現れません。

家族の関心が低いと発症しても気づきにくい

最も重要なのは、発症のサインに早く気づき、早く診断をつけることです。早い段階で治療をスタートできますし、何より私たち専門職と一緒に今後の困難を見通しながら、より良い生活を作り上げていけるからです。
ある程度進行してから初診を受けると、ご本人が認知症であることを認めにくくなっていて、その後のスムーズな診療につながるまで時間がかかることもあります。

一方、家族が初診で「本人のもの忘れが始まったのは最近だ」と説明されても、脳の画像や対面による検査から、何年も前からもの忘れなどの症状が現れていたことが明白なケースもあります。ご本人に対する家族の関心の度合いは、その後の症状や進行の速さにも影響するようです。

生活の場で専門職から介護の知識と知恵を学ぼう

困っている症状=課題の大半は日常生活の中で生じます。だから課題は人それぞれ違うのです。大切なのは“より豊かな生活をどう送るか”という視点から対応法を考えていくことです。

そこで出番となるのが専門職。訪問看護師、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士など各エキスパートが、診察室ではなくご本人の生活の場を訪問し、病気の様子を評価して、生活の質と社会とのつながりを確保するためにリハビリや自立への援助を行います。
条件が合えば介護保険や医療保険が使えるようになります。その保険で「介護保険サービス」を利用するために、市区町村の窓口で要介護認定の申請手続きをしてください。中学校区域に1カ所ある地域包括支援センター(高齢者などの介護・医療・福祉・健康にまつわるよろず相談所)にも足を運んで、専門職の人的資源について尋ねてみるのもよいでしょう。

【主な専門職】

言語聴覚士:話す、聞く、食べる、のみ込むことが難しい人のリハビリを行う

作業療法士:生活に関わるすべての活動(作業)を通して心身のリハビリを行う

理学療法士:身体機能の回復・維持のためにリハビリを行う

訪問看護師:自宅を訪問して看護を行う

ご本人もご家族も“初経験”の連続です。私たち専門職は、たくさんの患者さんと家族をみているので、蓄積されたさまざまなパターンの中からアドバイスができます。わからないことばかりで不安になることも多いでしょう。そんな時は専門職からいろいろ学んでみてください。
また、ショートステイ(短期入所生活介護)やデイサービスなどといった介護保険のサービスを、レスパイト(家族介護者の休養)の目的で利用されるケースも多くあります。もちろん家族の負担を軽くするのは大切ですが、そのためだけに介護保険を使うのは宝の持ちぐされかもしれません。さまざまな専門職のサービスを上手に利用して、より質の高い生活をつくりあげてほしいと思います。

お風呂拒否は「ビールが待ってますよ」で解決することも

では、専門職は個々の家庭によって異なる日常のシーンを、どのようにみてどのように援助をするのでしょうか。2つのケースをみてみましょう。

【ケースA】
家族が話しかけても認知症ご本人の口から言葉が出てこなくなりました。そこでケアマネジャーに相談し、言語聴覚士に訪問リハビリを依頼しました。ご本人は言葉を理解しづらいのか、それとも理解できるが言いたいことを言えないのでしょうか。言語聴覚士は症状がどのように起きているかを検査しながらきめ細かく評価・確認していきます。

ご本人の苦手なことの要因を掘り下げてから、訓練をスタート。最大の課題は家族とどう意思疎通を図り、理解しあえるかです。言語聴覚士は家族とご本人の関わり合い方も見ながら適宜アドバイスをしてくれます。

【ケースB】
入浴の時間に「お風呂ですよ」と言っても知らんぷり。手を引っ張って浴室へ連れて行こうとすると怒りだす。そんな時、桶やタオルを見せて促すと「ああ、お風呂ね」と理解して素直になる場合もあります。あるいは「お風呂から上がったらビールが待ってますよ」と声をかけると機嫌よくお風呂に入る場合も。

暮らし全体を丁寧に見ている訪問看護師や作業療法士、介護専門職などであれば、ご本人の嗜好や生活の仕方を考えながら、ポンと膝を打つようなさまざまなアイデアを提案してくれるでしょう。

環境の調節が症状改善のカギ

前述したように、レビー小体型認知症の人の中には見えないものが見える「幻視」、見間違いをする「錯視」を経験している人が多くいます。例えばフローリングの木目が人の目に見えて怖いという錯視があった場合、どう対応すればいいのでしょうか。精神科で錯視を抑える薬を出してもらおうと考えることもあるかもしれません。でもその前に、理学療法士や作業療法士などのリハビリ専門職が訪問して部屋を確認すれば「床に無地のカーペットを敷いて木目を隠す」というアイデアがすぐに出されます。認知症の症状は、環境を調節することで解決の糸口をつかめることが多いのです。

専門職(作業療法士等)は、家族だけでは気づきにくい環境を整えてくれる。恥ずかしがらず生活の場をちゃんと見てもらうほうが良いアドバイスをもらえて安心だ
専門職(作業療法士等)は、家族だけでは気づきにくい環境を整えてくれる。恥ずかしがらず生活の場をちゃんと見てもらうほうが良いアドバイスをもらえて安心だ

進行してからの介護の心構え(中期〜後期)

中期から後期になると、多くの場面で介助が必要になります。食事では、のみ込む機能が低下して飲食物や唾液が気管に入る誤嚥性(ごえんせい)の肺炎を起こしやすくなります。
誤嚥を防いで安全に食事をするためには、料理にとろみを付けるなど食品の形態を工夫したり、正しい姿勢で食事をしたりすることが大切です。実際に使用する食卓などで言語聴覚士に指導してもらうといいでしょう。
認知症が進むと、トイレの場所がわからなくなったり、自分で下着を下ろせなくなったりなど、排泄がスムーズに行えない場面が増えます。オムツが必要になる場合もあるので、使い始めるタイミングやご本人に合った着け方を訪問看護師などの専門職に教えてもらいましょう。上手にオムツを着ければ違和感なく快適に過ごせます。
認知症後期になると、特に入浴は介助に体力が要るため、デイサービスやホームヘルパーの訪問による入浴介助を利用するといいでしょう。

訪問看護師は、点滴など医療的な処置だけでなく栄養管理を含めて生活のお世話もしますので、あらゆる場面で頼りになる存在です。
生活環境が整ってこそ余裕が生まれ、ご本人と介護する人のお互いを思いやる気持ちが強まると思います。

若年性認知症に不可欠な早い診断、早い支援

認知症を65歳未満で発症した場合に、若年性認知症と呼ばれます。最近では比較的早い時期に異変に気づき、早期に診断を受ける人が増えました。現役世代が多く、仕事でミスが続き、ご本人は「おかしい」と悩みますが、認知症だとは思わずに疲れやストレスのせいにして放置してしまうケースも少なくありません。ご家族や周りにいる人たちは「そのくらい大丈夫」などとなぐさめず、早めの受診を勧めてください。仕事を続けたり、経済的な支援制度を利用するためにも早期の診断は不可欠です。

高齢者の認知症より進行が速いことが多く、なかには発症から4~5年で後期に移る人もいます。中期までは認知機能が低下しても体は元気なので、スポーツや趣味、ボランティアなどの活動を行えば、気分転換やストレスの発散ができます。ご本人が達成感や充実感を得られる機会をつくってください。

40歳から介護保険サービスを利用できますが、若年性認知症の人は、デイサービスなどの施設に通っても他の利用者のほとんどが高齢なので雰囲気になじめないことも多く、本人に適した居場所が見つけにくいかもしれません。でも若年性認知症対応のデイサービスや本人交流会・家族会などが各地に立ち上がっています。当事者同士で交流を深めながら認知症の啓発活動に意欲を燃やし、生きがいを持って暮らす人も増えています。

若年性認知症の相談窓口を一部紹介します。どんな制度や支援があり、どう利用できるのか、問い合わせてみてください。

「地域包括支援センター」お住まいの市区町村の福祉窓口へ
「公益社団法人認知症の人と家族の会」 https://www.alzheimer.or.jp/
「若年認知症サポートセンター」 http://jn-support.com/
「若年性認知症コールセンター」 電話:0800-100-2707

目を向けていただきたいのが、若年性認知症ご本人のお子さんです。親が認知症になったことをどう受け止めればいいかわからず、悩んでいるかもしれません。家族と一緒に医師の説明を聞いて認知症を理解してもらい、みんなで前向きな時間の過ごし方ができるようにコミュニケーションを図ってください。

家族で医師の説明を聞けば、絆を深めるチャンスになることも。「さまざまな支援があるので、うまく活用していきましょう」
家族で医師の説明を聞けば、絆を深めるチャンスになることも

早い段階から将来の介護や治療法を話し合う

認知症を発症したら、将来に備えて医療や介護をどうしたいか、ご本人が元気な時に家族で少しずつ話し合っておくといいでしょう。万一、がんが見つかったら治療はどうするか。食べ物がのみ込めなくなったら胃ろうにするのかしないのか。どこで生活して誰にどうケアされたいのか。
医療や介護のサービスを開始すると、さまざまな専門職が情報の共有や課題の解決をするために連携し、本人の意思を尊重するケアの体制をご家族とともに作り上げていきます。
ご本人とご家族が心豊かな生活を送れるよう、応援団がスタンバイしていることを忘れないでください。

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