なかまぁるSFC応援ソングは介護ラップ 回想法から生まれた新曲

なかまぁるは、認知症フレンドリーな取り組みが社会にさらに広がっていくことを目指して、「なかまぁるShort Film Contest 2020」を開催中です。公式応援ソングは介護ラップユニットQOLの「オールウェイズ」です
新曲「オールウェイズ」の誕生秘話を話してくれたQOLのshow-kさん(左上)と大八さん(右上)、及川佑介監督(下)

今年、「なかまぁるShort Film Contest 2020」の公式応援ソングとなった「オールウェイズ」。歌うのは、介護ラップユニット・QOL(キューオーエル)です。認知症をテーマに曲を作る際、「回想法」からヒントを得たとshow-k(ショック)さんと大八(だいはち)さんは話します。昔話やなじみのある物に触れる心理療法から着想を得た新曲。ミュージックビデオ(MV)の撮影と編集を担当した及川佑介監督の3人に、制作秘話を聞きました。

曲のテーマの着想は、1枚の「回想新聞」

QOLの7作目となる「オールウェイズ」。なかまぁるショートフィルムの応援歌としてまずテーマ設定を考えた際、ヒントになったのはshow-kさんが在宅ケアマネージャーとして働いている時の出来事でした。あるデイサービスが、回想新聞社が発行している「回想新聞」を毎月購読。昭和時代のニュースや出来事が、一般的な新聞と同じサイズの1枚の裏表に印刷されています。

「デイサービスの利用者の方が『こういうこともあったなぁ』と過去を振り返りながら読んでいると聞きました。認知療法の一環で『回想法』というものがあり、曲のテーマに良いのではと、大八にすぐに連絡をしました」(show-kさん)

show-kさんから連絡を受けた大八さんは、すぐさまサビの歌詞を作りました。言葉が浮かんできたのは、入院する母親の元へお見舞いに行った時でした。脳に腫瘍(しゅよう)があり、記憶が残らない病気を患っていた母の症状が「認知症とかぶった」と大八さんは言います。

「母と話をする中で、『昔住んでいたところに帰りたい』と言われたことがありました。そこで、その場所まで車を走らせて写真を撮り、その写真を見せると自然と会話が弾んで。母と接する時は新しい話題を振るのではなく、昔の記憶に寄り添うことをしました。そうすると、その場がハッピーになるんですね」(大八さん)

大八さんが作ったサビと前半部分を元に、show-kさんが残りのパートを完成させ「オールウェイズ」は生まれました。

9月は世界アルツハイマー月間(World Alzheimer
タイトル「Always」の文字は、及川監督の直筆。「印字より雰囲気が合うと思ったので」と及川監督(MV『オールウェイズ』より抜粋)

MV出演者にも「回想」を喚起

これまでもQOLの曲のMVを手掛けてきた及川監督は、初めて「オールウェイズ」を聞いた時のことをこう振り返ります。
「ちょうど季節が夏に入る時期だったので、爽やかな、気持ちの良い曲だなと思いました。懐かしい風景にも合う、自然な曲だなと」

撮影に入る前、新曲のテーマは「回想」だということ、そしてなぜそのテーマを選んだかなどについてQOLの2人と2時間ほど意見交換をしました。その時、初めて「回想法」という療法があることを、及川監督は知ったと言います。

「『回想法』を映像で説明するのは難しいと思いました。その代わり、自然な流れの中で、回想をテーマに表現できたらと考えました。ドラマのような作られた映像ではなく、撮影協力をしてくれる人の素顔を撮りたいと思ったんです。

MV内には、様々な人が登場します。冒頭、緑豊かな公園で、サックスを吹く80代の男性。ボケ防止にサックスを吹いていると話すこの男性は、実はプロのサックス演奏者であり、QOL共通の知人です。いつも練習場所に使っている、思い入れのある公園を舞台に撮影をしました。

「撮影の日は、雨が降りそうで降らない空模様でした。1年後、このMVを見た時『この時の天気は』といった具合に、登場してくださった皆さんにとっても、振り返りの機会となったらいいなと思っています」(及川監督)

認知療法の一環である「回想法」をテーマにしたQOLのラップは、認知症フレンドリーな取り組みが社会にさらに広がっていくことを目指して開催中の「なかまぁるShort Film Contest 2020」の公式応援ソングです。回想新聞社が発行している「回想新聞」から着想を得たそうです
プロのサックス演奏者の小泉昇さん。MVの中では、将棋を指す80代男性も登場。「集中している人の顔を撮りたかった」と及川監督(MV『オールウェイズ』より抜粋)

MVで「見たことがある」風景を生み出した

さらに、もう一つ、ある要素がMVの中にあります。3分36秒の映像の中で、中間地点を起点に、映像が「逆戻り」をしていきます。元々、この構成で撮影をしようと思っていたと話す及川監督は「歌詞の中の“巻き戻し”というフレーズが印象的でした。映像を逆再生することで、一度『見たことがある』という風景を生み出しました」と言います。逆再生の映像を通して、視聴者にも「回想」を体験できる工夫がおり込まれています。

「MVを初めて見た時、感動しました! 音楽のみを聴くより、映像と一緒に見聞きした方が僕たちの伝えたいことが自然と入ってくると感じました」と大八さん。

これまでのMVでは、曲に合わせて歌っているように見せる「リップシンク」という手法を取っていましたが、今回は敢えて取り入れませんでした。それは登場人物たちが際立っているからです。
「MVの中で出てくるスナックで、手作り弁当の販売を手伝ったこともあるんです。将棋を指すおじいさんは40年来の常連客だったり、スナックの『ママ』の息子さんが昼食を食べに来たりと、個々のストーリーが描かれています。撮影場所に使った公園や飲食店、夜道など場面ごとに区切って見ても、面白いと思います」(大八さん)

9月は世界アルツハイマー月間(World Alzheimer
「MVの見どころの一つは『ママ』の髪型。撮影日、『何もしてないのよ』と言いつつ、バッチリと決まっていて、気合を感じました!」とshow-kさん(MV『オールウェイズ』より抜粋)

介護において「家族にしかできないこと」

取材日の数日前、参加したケアマネージャーの研修で印象的な話があったとshow-kさんが話をしてくれました。家族が介護するのが当たり前になり、介護者も家族のことを社会資源として捉えてしまう。その考え方に、疑問を持ったと言います。

「介護において、家族にしかできないことってあると思うんですね。在宅介護の形として、食事や排泄(はいせつ)などの援助はプロに任せて、家族は愛情を注ぐことが理想なのではと思いました。認知症の症状が重度になればなるほど、コミュニケーションを取るのは難しくなります。そんな時、難しく考えずに、本人が現役時代に活躍していた時などの昔話をしてださい。それによって、本人が考えていることを言葉にすることができたら、気持ちが和らぐし、脳にも良い刺激になります。そういった意味で、回想することは介護において役立つと思っています」(show-kさん)

“どの瞬間瞬間でも思い出すメロディー
この瞬間瞬間はじけるのが気持ち
グッド・フィーリング あの日に 巻き戻し“

3人の思いを知った上で聞く「オールウェイズ」は、以前より感じ方が異なるかもしれません。今後も新たな活動を計画中のQOLと及川監督。これからも介護や認知症ケアの現場において、一石を投じていきそうです。

■「オールウェイズ」MV

音源はこちらで配信しています。

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