専門家が伝授「運動や知識、早めの相談でフレイル予防、認知症のリスクを下げる」

65歳以上の高齢者が4人に1人を占める「長生き時代」を迎えた日本。誰もが介護について自分ゴトとして考える必要が出てきています。2019年11月16日(土)、「朝日 健康+医療フォーラム Extra―人生100年時代をまなぶ―」が、ザ・グランドホール(東京都港区港南 品川グランドセントラルタワー3F)で開催されました。その中から「長生き時代に役立つ介護の備え」の講演1と講演2の採録をお届けします。

講演1 専門家と学ぶ、自分でできる介護への備え

島田裕之氏
島田裕之氏(国立立長寿医療研究センター 老年学・社会科学研究センター センター長)

しまだ・ひろゆき/国立長寿医療研究センター 老年学・社会科学研究センター センター長
2003年北里大学大学院博士課程を修了(リハビリテーション医学)。東京都老人総合研究所研究員、Prince of Wales Medical Research Institute(Sydney,Australia)客員研究員、日本学術振興会特別研究員、東京都健康長寿医療センター研究所を経て、現在は国立長寿医療研究センターに所属。名古屋大学、信州大学大学院、同志社大学の客員教授を併任。専門領域はリハビリテーション医学、老年学。

■要介護になる原因の多くは加齢に伴って進行する

現在、要介護になる原因の1位は認知症です(図1)。認知症は、最初は記憶が少し悪くなって日常生活が少し困ることから始まりますが、最後の段階では寝たきりになります。2位は脳血管疾患(脳卒中)です。3位の高齢による衰弱は大きな病気はないのに、だんだん足腰が弱くなって歩けなくなる状態です。転倒から起こる骨折、特に大腿骨頸部骨折を起こすと多くの人が寝たきり状態になります。関節疾患の中では特に多いのが変形性膝関節症で、歩くと膝が痛むのであまり活動しなくなり、どんどん体の状態が悪くなります。

図1 65歳以上の介護が必要になったおもな原因(島田裕之氏講演スライドより)
図1 65歳以上の介護が必要になったおもな原因(島田裕之氏講演スライドより)

要介護になる原因は、脳の病気(認知症と脳血管疾患)が3分の1、体の弱りに起因した原因(高齢による衰弱、骨折・転倒、関節疾患)が3分の1、その他が3分の1に大体分けられます。もう1つの分類は、脳卒中のような病気と、加齢に伴って起こってくる現象です。関節疾患は加齢と共に関節がだんだんすり減ってきて起こります。骨折も背景には加齢に伴う骨粗鬆症があります。認知症も、多くの場合は長い時間をかけて徐々に機能が低下していきます。こうした加齢に伴って起きてくる問題を「老年症候群」と呼びます。この老年症候群が要介護状態の大きな引き金になっていることがわかっています。

島田裕之氏

老年症候群は生活習慣病の予防と同じように、できるだけ早期に把握して、早期に対処していくことが基本です。老年症候群は、偏った食事習慣、運動不足、知的活動・社会活動をしないなど、不健全な生活スタイルにより危険性が増大しますが、そうした生活スタイルを変更すると、年齢に関係なく、比較的短時間で改善するという特徴を持っています。
ただ、生活スタイルの変更は、病院で処方された薬を飲んでおしまいということではありませんから、本人が能動的・自発的に取り組む姿勢をもつことが非常に重要になります。

■フレイルの予防には筋トレを

高齢者の虚弱は「フレイル」とも呼ばれます。フレイルを予防するために役立つのが筋トレです。筋肉、特に弱化が早い足の筋肉を保持する必要があるのです。足の筋肉を鍛えるときは筋肉の名前も覚えて、今この筋肉を鍛えているということを自覚しながらやるとよいでしょう(図2)。これらの筋肉を万遍なく鍛えてください。

図2 足の筋肉の名前(島田裕之氏講演スライドより)
図2 足の筋肉の名前(島田裕之氏講演スライドより)

たとえば、椅子に座って、背もたれに寄りかからずに膝を伸ばすと、大腿四頭筋が鍛えられます。弱くなると歩きがふらついてくる中殿筋を鍛えるには、立って足を横に上げます。つま先をそろえてから上げると中殿筋に力が入るのがわかるはずです。こうした筋トレを無理のない範囲で1日10回ほどやってみてください。
筋トレと同時に、ウォーキングなどの有酸素運動も大事です。こちらはフレイル予防というよりは、脳卒中や心疾患、認知症予防に有効です。

筋トレについて語る島田裕之氏

■転倒・骨折の危険性を減らす対策は?

転倒・骨折も問題です。一番重篤な骨折である大腿骨頸部骨折のおよそ95%は転倒が原因です。転ぶ理由は3つあり、①体力低下など身体的要因、②滑りやすい雪道など環境的要因、③そのとき急いでいて転んでしまったなどの活動要因です。この中の1つでも抑えることができれば転倒の危険性を格段に減らせます。たとえば体力の低下があれば筋トレをする、家の中が雑然としていて転びやすい環境であればそれを是正する、できるだけ急がずに歩けるように時間に余裕を持って活動するなどです。

多くの方が島田裕之氏の講演に耳を傾ける

転倒に強く影響する危険因子としては、認知機能の低下、向精神薬の服用、視覚機能障害、身体機能障害、障害物があります。一方、転倒を減らすには、太極拳や歩行練習、バランス練習などの運動、神経の反応性をよくする効果があるビタミンDの摂取、睡眠薬の中止、心臓の悪い人では心臓ペースメーカー手術、目が悪い人では白内障手術などによる視力補正が有効との知見が得られています。手すりを付けるなどの家屋調整でも転倒リスクが減ります。さらに、運動と視力補正、運動と家屋調整、視力補正と家屋調整、これら全部やったときを比較すると、全部やったときが一番転倒予防によいこともわかっています。

■認知症予防に必要なことがわかってきた

認知症は今後さらに患者数が増えることが予想されることから、今年6月、政府は「認知症施策推進大綱」を採択し、認知症との共生と予防を2つの柱として集中的に取り組んでいくことを表明しました。認知症との共生は、認知症になった人ができるだけ希望を損ねることなく、地域の中で生き生きと暮らせる社会をつくってこうというものです。
認知症予防は、必要なことがだいぶわかってきました。残念ながらまだ認知症の発症を完全に抑制する薬はなく、せいぜいできるのは認知症の発症を遅らせることです。でも、数年でも先送りすることができれば大きな意味があります。
認知症予防のための方法は、米国の科学アカデミーなどいくつかの権威ある機関からも示されています。最近は、世界保健機関(WHO)から「認知症予防ガイドライン」が出されました(図3)。その中で特に強調されているのが運動習慣です。比較的短期間で効果が出やすいとされます。

図3 WHO認知症予防ガイドライン(島田裕之氏講演スライドより)
図3 WHO認知症予防ガイドライン(島田裕之氏講演スライドより)

私たちの臨床試験の結果でも、10カ月間、週1回の運動を続けた人は、運動していない人に比べ、認知症検査のさまざまな項目が低くならず保持されていました。記憶や言語機能は上がり、脳の萎縮は抑えられていました。運動習慣をきちんと身につければ、少なくとも一部の認知機能は向上し、脳の萎縮も抑えることができそうです。
認知症に関しては、決定的に「これがいい」というものはありません。今できるベストプラクティスは、よいとされることをたくさん実行することです。生活習慣病の管理、身体活動、健康的な食習慣(魚、肉をバランスよく食べ、オリーブオイルを使用する地中海食がよいといわれます)、頭を使うような脳トレ、みんなと楽しくおしゃべりするなどの活動をできるだけ多く取り入れましょう。

島田裕之氏

こうした活動を始めるにはきっかけが必要です。まずは、自分は今介護予防が必要な状態か、そうではないかを知ることが大切です。そのための簡単なチェックリストがインターネットにもたくさん出ています。テストをして、認知機能が少し低下してきたように見えたら、認知症予防のための取り組みを積極的におこなってほしいと思います。

講演2 もしも要介護になったら~知っていますか? 役立つ介護の基礎知識

吉田千晴氏
吉田千晴氏(京橋おとしより相談センター 社会福祉士/精神保健福祉士)

よしだ・ちはる/京橋おとしより相談センター長 
病院での医療ソーシャルワーカーを経て、京橋おとしより相談センターの管理者。社会福祉士、精神保健福祉士。

■最初の相談窓口、地域包括支援センター

私が勤務しているのは地域包括支援センターです。ここは高齢者の総合的な相談窓口で、介護については外せない場所です。なにか困ったことがあったら、最初の相談窓口になる場所と覚えておいてください。
地域包括支援センターの名前を決めるのは自治体なので、中央区では「おとしより相談センター」と名乗っています。ほかにもいろいろな名前があります。自分が住んでいる市区町村にはこうした相談センターがどこにあるか、どんな名前なのかを知りたいときは、インターネットで調べることが可能ですし、区役所や市役所に行けば教えてくれます。

※地域包括支援センターについて(吉田千晴氏スライドより)
※地域包括支援センターについて(吉田千晴氏スライドより)

地域包括支援センターは最初の相談窓口ということで、介護が必要になったらどうしよう、親が入院したがどうしたらいいのだろう、自分でお金の管理ができなくなった、施設に入りたいがどんな施設があるのだろう、地方にいる親を引き取ろうと思うなど、さまざまな相談を無料で受けています。時間の制限もなく、長い人では2~3時間も話を伺うことがあります。社会福祉士、主任介護支援専門員(ケアマネジャー)、介護福祉専門員、保健師または看護師などさまざまな職種がおり、どんな相談にも対応できるようになっています。また、消防署、警察署、民生委員、コンビニ、マンションの管理会社など各所と連携しており、たとえばコンビニの店員さんから「いつも来ているお客さんの姿が見えない」などと情報が寄せられることもあります。

■介護予防で、元気なうちから相談を!

70代の一人暮らしの男性。とくに大きな病気やケガもなく、毎朝ラジオ体操を続けています。今は元気だが、今後何かあったら心配、遠くに住んでいる娘夫婦も一人暮らしを心配しているとのことで、一緒にラジオ体操をしている友人から、本人の了解を得た上で私たちのところに連絡がありました。
早速、自宅に電話して訪問したところ、本当にお元気で、ヘルパーさんに来てもらう必要はない状態でした。大事なのは、今の健康を維持することです。ラジオ体操以外は家にいるということでしたので、地域にある運動教室などでできるだけ健康を保ち、人とつながる機会を増やすことを提案しました。一人暮らしで料理をつくるのも面倒ということでしたので、配食サービスも提案し、利用してもらうことになりました。

吉田千晴氏

ここでのポイントは、元気なうちから相談場所があることを知っていただくことです。そして、元気なうちから人生の終わりをどこで迎えたいか、家か病院か施設かなどを考えておく。もちろん、途中で考えが変わっても構いません。元気なうちから自分はどうやって残りの人生を生きていこうかを考えておくことが大事なのです。
地域には健康のヒントがいろいろあります。定期的な通院(区民健診)で健康を維持しておくとともに、元気なときから主治医をつくっておくことが大切です。また、地域には数百円で運動ができたり、誰かと一緒に食事ができたりする気軽に交流できる場や、介護予防講座などがあります。人とのつながりをつくるためにも、そういう教室や講座をぜひ利用してください。

■要介護になっても介護サービスを利用して一人暮らしが可能

病気の影響で病院に通うことが難しくなった、脳梗塞で入院して退院後は1人でお風呂に入るのが大変になったなど、いわゆる介護が必要になったときは、介護保険があります。申請して等級(要支援1~要介護5の7段階)がつくと、デイサービスや訪問介護、訪問リハビリ、ショートステイなどさまざまな介護サービスが受けられます。

※介護保険の認定を受ける(吉田千晴氏スライドより)
※介護保険の認定を受ける(吉田千晴氏スライドより)

私が関わっている男性は要介護2で、1人で暮らしています。認知症があるので日時の約束ができなかったり、もの忘れがあったりする状態です。金銭管理もできず、足も悪くて1人では歩けません。それでも一人暮らしを続けています。病院にはヘルパーさんが付き添い、体調は訪問看護師さんに診てもらい、薬の飲み忘れがないようにヘルパーさんや訪問薬剤師さんに協力してもらっています。成年後見制度を利用し、金銭は後見人に管理してもらっています。もともと人懐っこいので、近所の人にも見守られて生活しています。
また97歳の女性は入退院を繰り返し、要介護5でほぼ寝たきりの状態です。彼女も介護サービスを利用し、病院の先生といろいろ相談しながら、何とか家で一人暮らしをしています。ですから、要介護になっても1人で考え込んだり、家族で抱え込んだりせず、地域包括支援センターなどで相談し、いろいろな制度を活用してほしいと思います。要介護になったからといって、全部の生活ができなくなるわけではないのです。

多くの観客の前で登壇する吉田千晴氏

介護が必要になったときのポイントは、

  • 本人や家族だけで抱え込まない
  • 相談場所がある
  • いろいろな制度がある
  • 主治医は大事
  • 人や地域とのつながりは大事

介護は24時間、365日続きます。どうぞ自分や家族だけで抱え込まないでください。介護はみんなで支えていくものだと思っていますので、ぜひいろいろな制度や地域の相談員を活用してください。私たちはそのためにいます。

●協賛企業からお役立ちデバイス

排泄予測デバイス「DFree」
人には聞きにくいシモの健康について

草西栄氏
草西栄氏(トリプル・ダブリュー・ジャパン株式会社/日本コンチネンス協会認定 排泄ケア専門員)

多くの老若男女にヒアリングしたアンケート結果で、97%が将来シモのことで悩みたくないと答えました。その一方で、60歳以上では78%がシモの問題で悩んでいました。人生100年時代ということで、寿命はどんどん延びており、60歳以上の方は残り40年間シモの問題と付き合っていかなければなりません。
尿に関して一般的な正常な状態のリストです(表1)。この正常値からあまりにも外れすぎている方がいたら、ぜひ最寄りの医療機関を受診してください。
おしっこの問題はすごくシンプルです。ためる機能と出す機能がしっかりできているのか、できていないかを認識していただくと、自身の排泄の立ち位置がわかります。ただ、それを判断するのはなかなか難しい。それを実現したのが排泄予測デバイスです。おしっこのたまり具合を「見える化」して、トイレのタイミングを知らせてくれます。

表1 草西栄氏講演スライドより
表1 草西栄氏講演スライドより

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