アルツハイマー病と睡眠の意外な関係 認知症の予防は、まず質の高い眠りから
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超高齢社会を迎え、老後も働き続けていたいという人も、のんびりと暮らしたいという人も、心身ともに健康であり続けたいものです。現代医療はさまざまな健康の不安をやわらげてくれますが、依然として怖さを感じる人も多いのが「認知症」。確実な治療方法がいまだに見付かっておらず、一度かかると完治が難しいことから、本人や家族にとって大きな不安の種になっています。
一般社団法人 日本認知症予防協会が監修した「認知症オレンジブック」によると、認知症の予防に効果的な方法は「頭の運動」「身体の運動」「食生活の習慣」「質の良い睡眠」の4種類。その中でも、自分ではコントロールするのが難しい睡眠への注目が集まっています。
国立長寿医療研究センター脳神経内科部の横井克典医師が同協会に寄稿した論文「認知症予防は まず睡眠の見直しから ~夜の休息が拓く予防対策~」から、認知症と睡眠の深い関係について読み解いてみました。
睡眠に問題がある人にアルツハイマー病の発症リスク
厚生労働省の研究班が今年5月8日に公表した報告書によると、2022年における認知症の患者数は443万2千人と推計されています。
これは高齢者の8人に1人が認知症であることを意味します。また、認知症の予備軍とされる軽度認知障害(MCI)の患者は558万5千人おり、これを合わせると高齢者の約28%が認知症またはその予備軍に該当します。
2030年には認知症の患者数は523万1千人、MCIが593万1千人と合計は高齢者の3割を超え、今後も数十年にわたり増え続けると報告されています。
論文で横井医師がまず指摘するのは、認知症の3分の2を占めるとされるアルツハイマー病(アルツハイマー型認知症)と睡眠障害の関係性。もの忘れを中心にゆっくりと進行するアルツハイマー病は、タンパク質の一種であるアミロイドβやタウが脳内に蓄積することが関連すると考えられています。記憶障害が現れる数十年前からアミロイドβ、次いでタウの蓄積が始まり、約10年以上遅れて脳萎縮、その後に認知機能低下が始まると言われています[1]。
最近になって、アルツハイマー病の発症や、アミロイドβ、タウの両タンパク質の蓄積には、睡眠が関連していると言われるようになりました[2][3]。たとえば、睡眠に問題がある人は、アルツハイマー病の発症のリスクが高いことや、実際にアミロイドβやタウの蓄積を起こしやすいことがわかっています。
さらに、体内時計のリズムが崩れている人や、日中の強い眠気がある人は、認知症を発症するリスクが高いこと、アルツハイマー病を悪化させることもわかっています[4][5][6]。
認知症患者の71%に不眠症などの症状
認知症の患者では、睡眠障害を起こしやすいことも知られており、Arvid Rongve医学博士らの報告によると、認知症患者の71%に睡眠障害の症状が見られました。軽度の認知症患者では、不眠症(29.9%)、睡眠中の下肢けいれん(24.1%)、日中の過度の眠気(22.6%)、むずむず足(20.7%)、夜間の寝言や睡眠中の動き(18.5%)などが報告されています[7]。
また、睡眠障害は、気持ちの落ち込みや不安とも関係しています[7]。これらは、体内時計の乱れが影響を与えていると言われています。体内時計が乱れていると、夜の睡眠の問題だけではなく、朝は元気が出ない、長い昼寝をしてしまう、夜になると活動的になるといった生活リズムの乱れが顕著になることがあるので、このような症状に気づいたら注意が必要です。
これらの睡眠障害は、認知症の周辺症状(興奮、外出中に道に迷うなど)の出現リスクを高めると言われており、注意が必要です[8]。昼夜逆転した生活も問題になりやすい症状かと思われます。
睡眠障害を改善する生活習慣と薬剤
アルツハイマー病などの認知症と睡眠障害には、お互いに関係性のあることがわかりました。それでは、認知症発症のリスクを減らしたい人は、睡眠障害とどう向き合えば良いのでしょうか。
「日中の頭や身体の運動、正しい食生活と併せて、質の良い睡眠が必要です。十分な睡眠時間を確保することで、日中の活動性を保ち、アミロイドβやタウの蓄積のリスク、認知症の発症の可能性を減らすことができます」
と横井先生はアドバイスしています。
このアドバイスは、認知症を発症した患者さんにも同様で、脳が活性化した状態を保つことで、進行予防に重要であるとも言及されています。
さらに、良質な睡眠時間を取るための生活習慣について、「体内時計を整えることが重要」として、以下のようなポイントを挙げています。
・決まった時間に睡眠をとる習慣をつけること
・朝に太陽の光を浴びるようにすること
・夜ふかしを控えること
・寝る前の食事や入浴、運動を控えること
・就寝前に大量の飲酒や喫煙を避けること
・寝る前にTVやスマホを見るのを控えること
・夕方17時以降の緑茶やコーヒーといったカフェイン入りの飲料を避けること
・その他(自分に合った枕にすることや、アロマの試みなど)
生活習慣の改善だけでは難しい場合には、薬剤の内服が有効なこともあります。その際に注意しなければいけないこととして、従来の睡眠薬はふらつきや翌朝への眠気の持ち越しといった副作用、なかなかやめられなくなる依存性があると言われています。特に高齢者では、転倒の原因にもなるので注意が必要です。
最近では、新しいタイプの睡眠薬も登場しています。ふらつきや依存性の少ないオレキシン系と呼ばれる睡眠薬は、高齢者での主流になってきています。また、体内時計を整える効果が期待されるメラトニン関連の薬剤も登場しており、副作用の少なさと相まって徐々に広がってきています。これらを用いたり、複数を組み合わせたりすることで、一人ひとりにあった睡眠障害を改善する方法を見つけることが大切です。
睡眠の悩みには適切な治療やアドバイスを
睡眠は脳が唯一休める時間であり、脳のメンテナンスや記憶の整理・定着などに重要な役割を果たしていると考えられています。不眠や日中の眠気などで悩んでいる方は、生活習慣の改善だけでなく、医療機関を受診することでより効果的な対策が得られるかもしれません。適切な治療やアドバイスを受け、それを実践することで症状が改善することも期待できます。
もの忘れなどの認知症状がある方は、ぜひご自身の睡眠の状態を確認してみてください。なかなか寝つけない、夜ふかしをしてしまうなどのお悩みが伴うのであれば、迷わずに受診していただくのも有効な手段です。
注釈
[1]R.J. Bateman, C. Xiong, T.L.S. Benzinger, A.M. Fagan, A. Goate, N.C. Fox, D.S. Marcus, N.J. Cairns, X. Xie, T.M. Blazey, D.M. Holtzman, A. Santacruz, V. Buckles, A. Oliver, K. Moulder, P.S. Aisen, B. Ghetti, W.E. Klunk, E. McDade, R.N. Martins, C.L. Masters, R. Mayeux, J.M. Ringman, M.N. Rossor, P.R. Schofield, R.A. Sperling, S. Salloway, J.C. Morris, Clinical and Biomarker Changes in Dominantly Inherited Alzheimer’s Disease, N. Engl. J. Med. 367 (2012) 795–804.
https://doi.org/10.1056/NEJMoa1202753
[2]Y. Wen, S. Schwartz, A.R. Borenstein, Y. Wu, D. Morgan, W.M. Anderson, Sleep , Cognitive impairment , and Alzheimer ’ s disease : A Systematic Review and Meta-Analysis, Sleep. 40 (2017) 1–18.
[3]S.M. Romanella, D. Roe, E. Tatti, D. Cappon, R. Paciorek, E. Testani, A. Rossi, S. Rossi, E. Santarnecchi, The Sleep Side of Aging and Alzheimer’s Disease, Sleep Med. 77 (2021) 209–225.
https://doi.org/10.1016/j.sleep.2020.05.029
[4]G.J. Tranah, T. Blackwell, K.L. Stone, S. Ancoli-Israel, M.L. Paudel, K.E. Ensrud, J.A. Cauley, S. Redline, T.A. Hillier, S.R. Cummings, K. Yaffe, Circadian activity rhythms and risk of incident dementia and mild cognitive impairment in older women, Ann. Neurol. 70 (2011) 722–732.
https://doi.org/10.1002/ana.22468
[5]Y. Leng, E.S. Musiek, K. Hu, F.P. Cappuccio, K. Yaffe, Association between circadian rhythms and neurodegenerative diseases, Lancet Neurol. 18 (2019) 307–318.
https://doi.org/10.1016/S1474-4422(18)30461-7
[6]K. Astara, A. Tsimpolis, K. Kalafatakis, G.D. Vavougios, G. Xiromerisiou, E. Dardiotis, N.G. Christodoulou, M.T. Samara, A.S. Lappas, Sleep Disorders and Alzheimer’s Disease pathophysiology: the role of the Glymphatic System. A Scoping Review, Mech. Ageing Dev. 217 (2023) 111899.
https://doi.org/10.1016/j.mad.2023.111899
[7]A. Rongve, B.F. Boeve, D. Aarsland, Frequency and Correlates of Caregiver‐Reported Sleep Disturbances in a Sample of Persons with Early Dementia, J. Am. Geriatr. Soc. 58 (2010) 480–486.
https://doi.org/10.1111/j.1532-5415.2010.02733.x
[8]Q.P. Zhou, L. Jung, K.C. Richards, The management of sleep and circadian disturbance in patients with dementia, Curr. Neurol. Neurosci. Rep. 12 (2012) 193–204.
https://doi.org/10.1007/s11910-012-0249-8