高齢者の話し相手にロボットを使うメリットは?おすすめの使い方を解説
取材/中寺暁子
人工知能(AI)技術の向上など、テクノロジーの進化によって、身近な存在になってきたロボット。特に言葉や動きによって人と交流ができるコミュニケーションロボットは、介護現場や一人暮らしの高齢者に役立つとして、注目されています。コミュニケーションロボットの開発や研究に携わる専門家に、使用するメリットや選び方についてうかがいました。
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高齢者向けコミュニケーションロボットについて解説してくれたのは……
- 大和信夫(やまと・のぶお)
- 北陸先端科学技術大学院大学先端科学技術研究科博士後期課程在籍
防衛大学校理工学部卒業。2007年経済産業省「日本ものづくり大賞優秀賞」受賞、13年日本機械学会教育賞受賞。ヴイストン株式会社代表取締役社長。一般社団法人i-RooBo Network Forum副会長。
- 神田陽治(こうだ・ようじ)
- 北陸先端科学技術大学院大学先端科学技術研究科(知識科学系)教授
86年、東京大学工学博士。富士通研究所、富士通を経て2011年より現職。北陸先端科学技術大学院大学先端科学技術研究科長、副学長。知識科学、サービス科学、価値創造の研究に従事。
コミュニケーションロボットとは
ロボットには、大きく分けると工場など生産環境において、人の作業の代替としての役割がある「産業用ロボット」と、家事や介護など日常生活を支援する役割があるロボットがあります。日常生活を支援するロボットは「パートナーロボット」とも呼ばれ、その中に含まれるのが「コミュニケーションロボット」です。会話や動きによって、人と交流を持つことができる特徴があります。
高齢者の話し相手にコミュニケーションロボットを使うメリット
コミュニケーションロボットは、家庭ではペットの代わりになって人を癒やしたり、エンターテインメントの世界では人を楽しませたりすることができます。では、高齢者にとっては、どのようなメリットがあるのでしょうか。
【介護施設で】介護者の負担を軽減する
介護施設で働く介護者は、時間的に余裕がないことが多く、被介護者となる高齢者との会話に時間を取られるとほかの作業が進みません。たとえ数分程度であっても高齢者がコミュニケーションロボットと関わる時間ができれば、その分介護者に時間的な余裕ができ、負担が軽減します。
また、介護者にとって大きな負担となるのが、認知症高齢者の暴言や暴行、ひとり歩きなどのBPSD(行動・心理症状)です。認知症の人は認知機能が低下しても脳の情動を司る部分の機能は、比較的維持されることがわかっています。コミュニケーションロボットとの触れ合いが認知症の人の感情に働きかけることで、BPSDの軽減、さらには介護者の負担軽減につながることが期待されています。
ただし、場合によってはコミュニケーションロボットの導入が、介護者にとって心理的ストレスになったり、作業の負担が増えたりする面もあることが報告されています。例えば操作が難しく高齢者がうまく扱えないと、そばで操作をサポートする必要があります。また、高額なロボットだと、高齢者が落として壊してしまうのではないかと常に心配することになり、心理的ストレスになるというわけです。介護者の負担にならないロボットについては、後述します。
【一人暮らし家庭で】高齢者の孤独感を和らげる
一人暮らしの高齢者は増加傾向にあり、内閣府の調査によると、2020年の65歳以上の男女それぞれの人口に占める割合は男性15.0%、女性22.1%で、今後も増加することが見込まれています。高齢者の一人暮らしで問題になることの1つは、人と交流する機会が少なくなりやすいことです。社会的孤立は、要介護の手前の状態であるフレイルを加速させる要素であり、認知症の発症リスクを高める一因でもあります。コミュニケーションロボットが高齢者の話し相手になったり、ペットの代わりになったりすることで高齢者の孤独感を和らげることも、さまざまな実証実験から明らかになっています。
高齢者向けコミュニケーションロボットを選ぶポイント
コミュニケーションロボットには、形状や機能によってさまざまな種類があります。高齢者が使用する場合、どのようなコミュニケーションロボットを選べばいいのでしょうか。選択する際のポイントを紹介します。
形状
コミュニケーションロボットの形状は、大きく分けると人間型、動物型のほか、無機質な球型や円柱型のものもあります。人間型には、人のような外観で、中には2本の足で歩行ができるものや、赤ちゃんを模したものなどがあります。好みは人によって分かれるところなので、使用する高齢者に合わせて選ぶことが大切です。孤独感を和らげることが目的であれば、「抱っこ」するなどして高齢者のパーソナルスペースに入り込めて、言葉以外の交流ができる赤ちゃん型、動物型が向いているかもしれません。
なお、認知症高齢者に関しては、「赤ちゃんを模した人形のほうが動物型ロボットよりも受け入れ、注意を払い、積極的に関わる」「認知症高齢者はクマのぬいぐるみよりも赤ちゃん人形を好む」といった海外の研究報告があります。また、赤ちゃんを模した人形を利用する人形療法は、認知症高齢者のBPSDを軽減するといった報告もあります。さらに笑う、泣くといった発話機能がある赤ちゃん型ロボットは、人の情動に働きかけることから、認知症の人であっても記憶に残りやすく、愛着を持ちやすいといったことが考えられます。
また、加齢に伴って感覚機能は低下していきますが、指先の触覚はほかの感覚に比べて高齢になっても低下しにくいと言われています。このため、触ると気持ちがいいなど、触覚を重視して選ぶこともポイントです。
機能
コミュニケーションロボットには、例えば次のような機能があり、商品によって搭載されている機能が異なります。認知機能や介護度など使用する高齢者のニーズのほか、介護施設で使用するのか、家庭で使用するのかなど、使用する場に合わせて選択します。
- 発話機能(感情表現などの音声を再生できる)
- 音声認識機能(人間が発した音声に反応できる)
- 見守り機能(見守りセンサーが搭載され、リアルタイムの安全確認のほか、転倒につながる予兆動作を検知できるタイプもある)
- お知らせ機能(服薬などのスケジュールを設定すると通知される)
- 脳トレ・ゲーム機能(脳トレやゲームが搭載されていて脳の活性化につながる)
前述した通り、ロボットを選択する際には、介護者に心理的負担が生じないものを選ぶという視点も大切です。高額なもの、操作が難しいもの、被介護者となる高齢者や認知症の人が落としたり投げたりしたときに壊れやすいものは、介護者が常時見守る必要があり、心理的負担が大きくなります。介護者の負担軽減を考えると、比較的安価である、操作が簡単、耐久性があるといったことが条件となります。
価格
コミュニケーションロボットは、搭載されている機能によって、価格に大きな幅があります。機能や性能が高くなれば当然費用も高くなるので、ロボットを選ぶ際には、まずはどの程度の予算を準備できるのかを確認することが大切です。
※コミュニケーションロボットが高額で購入できない場合、自治体によっては介護施設などの法人を対象に補助金を利用できるよう制度を設けているところもあります。補助対象となるロボットの種類は、自治体によって異なります。
ロボット・セラピーの効果とは?
心理療法の1つとして注目されている「ロボット・セラピー」。コミュニケーションロボットが、高齢者だけではなく周囲の人たちにも心理的効果をもたらすことが明らかになってきています。
癒やしの効果が周りにも波及
コミュニケーションロボットを継続して利用するためには、被介護者だけではなく介護者側もロボットとの関係を構築することが重要です。介護施設で赤ちゃん型のコミュニケーションロボットを使用した実験では、利用者がロボットと対話をしている姿を見るだけで「癒やされた」「うれしかった」といった声があり、ストレス軽減につながったということも明らかになっています。介護者にとって、被介護者の笑顔はストレスを緩和する大きな要素なのです。
介護の未来を変える?コミュニケーションロボット
これからのコミュニケーションロボットに求められている大きな要素は、言語を使った情報量の多い会話です。世界的にさまざまなコミュニケーションロボットが開発され、その一部が商品化されていますが、対話能力については人間がストレスなく使用できるというレベルには至っていませんでした。しかし近年、AI技術が急速に進化し、さらに対話に特化した言語モデル「ChatGPT」(チャットGPT)の登場によって、ロボットとストレスなく対話することが実現可能になってきました。会話をすることは認知症の予防や進行を抑えることにもつながります。さらにロボットであれば、何時間でも高齢者の話し相手になることができます。
今後は、高齢者が理解しやすい話し方をしてくれるロボットも登場するでしょう。高齢者の話し方、話す内容などによって、ロボットが認知機能の低下などを早期に検知するといったことも可能になるかもしれません。言語・非言語を組み合わせたコミュニケーションで高齢者、認知症高齢者のQOL(生活の質)向上に寄与するロボットの登場は、いよいよ間近に迫っていると言えます。
まとめ
コミュニケーションロボットは、被介護者となる高齢者、介護者、どちらにとってもメリットが期待できます。ただし、使用するロボットによっては、介護者の負担が増すこともあるので、どちらにもメリットが得られるように選ぶことが大事です。テクノロジーの進化によって、コミュニケーションロボットに期待される役割はますます大きくなっています。