介護予防・日常生活支援総合事業(総合事業)とは 対象者、利用の流れについて詳しく解説
介護保険制度がスタートしたのが2000年。介護を必要とする人が適切なサービスを受けられるようになっただけでなく、要支援の人が要介護状態にならないようにと「介護予防事業」も重視されてきました。2015年に「介護予防・日常生活支援総合事業」へと移行した介護予防事業は、従来とどのように変わったのでしょうか。対象となる人や利用の流れといった違いについて、厚生労働省で地域包括ケアシステムの構築などに携わった宮島俊彦さんにうかがいました。
介護予防・日常生活支援総合事業(総合事業)について解説してくれたのは……
- 宮島俊彦(みやじま・としひこ)
- 兵庫県立大学客員教授
1977年3月東京大学教養学部教養学科卒、同年4月厚生省入省。95年保険局医療課保険医療企画調査室長。2001年国民健康保険課長、2005年大臣官房審議官(医療保険、医政担当)、2006年大臣官房総括審議官を歴任し、2008年から2012年まで厚生労働省老健局長を務める。著書に『地域包括ケアの展望』(社会保険研究所)。2018年から現職。日本製薬団体連合会理事長
介護予防・日常生活支援総合事業(総合事業)とは
高齢者が住み慣れた地域で安心して暮らし続けられるように、市町村が中心となって地域全体で介護予防や生活支援をおこなう事業のこと。略称の「総合事業」とも呼ばれます。介護予防については、身体機能の維持、向上だけではなく、高齢者自身が地域や家庭の中で何らかの役割を担いながら生活することも目的としています。
また、要支援者だけではなく、要支援状態になるおそれがある高齢者も対象とし、介護予防や生活支援を切れ目なく提供できることが特徴です。
総合事業は2015年、介護保険の一部改正で創設され、17年4月から市町村でサービスが開始されています。それまで要支援1、2の人を対象に全国一律の基準で実施されていた「訪問介護」「通所介護」の介護予防サービスが総合事業に移行し、市町村ごとの基準で実施されることになったのです。
導入背景
高齢者だけで暮らす世帯が増え、「要介護認定を受けるほどではないけれど、何かしらの支援を必要とする高齢者」も増加しています。
介護の必要度が低い人にとっては、訪問介護や通所介護よりも買い物や掃除などの生活支援、地域で開催される「体操教室」や「サロン」に参加するほうがニーズが高いケースもあります。
そこで市町村が主体となり、既存の介護事業所だけではなく、NPO、民間企業、ボランティアなど地域の多様な主体を活用し、高齢者のニーズに合わせてさまざまなサービスを提供できるように、介護予防事業が見直されたのです。
総合事業の利用条件
総合事業は、訪問型サービスや通所型サービスなどを利用できる「介護予防・生活支援サービス事業」と、介護予防に取り組む「一般介護予防事業」の2つに大きく分けられ、それぞれ対象者が異なります。
【介護予防・生活支援サービス事業】
要支援1、2の人、または基本チェックリスト(心身の状況を確認するツール)の結果、生活機能の低下がみられた人
【一般介護予防事業】
65歳以上のすべての人
「介護予防・生活支援サービス事業」の内容
「介護予防・生活支援サービス事業」の具体的なサービス内容を紹介します。
訪問型サービス
従来の訪問介護士(ホームヘルパー)による身体介護や生活支援のほか、事業所のスタッフや住民、NPOなどがおこなう掃除、洗濯、ゴミ出しなどの生活支援、自宅での保健師などによる体力の改善に向けた相談指導(3~6カ月)など多様なサービスが含まれます。
通所型サービス
従来の通所介護(デイサービス)と同様のサービスのほか、事業所のスタッフや住民、NPOなどが運動や体操、レクリエーションなどの活動をおこなう通いの場、市町村の保健や医療の専門職による運動器の機能向上や栄養改善などのプログラム実施(3~6カ月)など、多様なサービスが含まれます。
その他の生活支援サービス
栄養改善を目的とした配食、住民ボランティアなどがおこなう見守り、訪問型サービスや通所型サービスと一体化した生活支援などがあります。
【介護予防ケアマネジメント】
地域包括支援センターが、利用者の心身の状況に応じて介護予防ケアプランを作成。ケアプランに基づいた介護予防サービスを利用できます。
「一般介護予防事業」のサービス内容
65歳以上のすべての人が対象となる「一般介護予防事業」の具体的なサービス内容を紹介します。
65歳以上の人が受けられる一般介護予防事業のサービス
健康維持や向上を目的とした事業で、運動器の機能を向上する体操教室やフレイル予防教室、口腔機能低下を予防する教室、文化講座など、地域で開催しているさまざまな教室、講座に参加することができます。
従来のサービスとの主な違い
総合事業は、従来の介護予防サービスから移行した事業です。従来のサービスとの違いについて説明します。
市町村による事業の運営
従来は全国一律の介護保険サービスの1つという位置づけでしたが、総合事業は市町村が主体となって実施します。運営基準や利用料などは、市町村が地域の実情に合わせて独自に設定します。
地域の人的資源・社会資源の活用
介護予防サービスは通所介護、訪問介護が中心で、主に介護事業所がサービスを提供してきました。総合事業ではNPO、民間企業、ボランティアなど地域の多様な主体を活用して、高齢者を支援します。高齢者自身が支援する側に回ることもあり、地域のさまざまな人材に活躍の場が広がっています。
利用者のニーズに合った柔軟な対応が可能
総合事業は、要支援認定を受けた人と65歳以上のすべての高齢者が対象になります。高齢者といっても介護保険を利用するほどではないけれど何らかの支援を必要としている人、社会参加の意欲が強くサービスの担い手として地域に貢献したいと考えている人などさまざまです。総合事業では、ニーズに合わせて多様なサービスを選択することが可能です。
リハビリテーション専門職などの関与
地域における介護予防の取り組みを強化する「地域リハビリテーション活動支援事業」があります。具体的には、通所介護、訪問介護、地域ケア会議(地域包括支援センターや市町村が主催し、医療や介護など地域の多職種が参加する会議)、サロンなど、住民が運営する通いの場への、リハビリテーション専門職の関与を推進しています。
利用費
介護予防・生活支援サービス事業
市町村によって異なります。近くの地域包括支援センターで確認できるほか、市町村のホームページで公開している場合もあります。介護保険サービスと同様に利用者負担額は1割で、所得が一定以上の場合は2割、または3割負担です。
一般介護予防事業
サービス内容によって異なり、無料や「お茶代」のみなどケースもあります。近くの地域包括支援センターで確認できるほか、ホームページで公開している市町村もあります。
利用の流れ
総合事業のサービスを受けるための流れを説明します。
ステップ1:地域包括支援センターまたは市町村の窓口に相談する
近くの地域包括支援センターや市町村の窓口で、総合事業を利用するか、要介護認定を受けるかといったことについて相談します。
ステップ2:「基本チェックリスト」を実施、もしくは要介護認定を申請
明らかに要介護認定を申請したほうがいい場合、または訪問型サービスや通所型サービス以外(福祉用具貸与や訪問リハビリテーションなど)を希望する場合などは、要介護認定を申請します。それ以外の場合は「基本チェックリスト」で心身の機能が低下していないかどうかを確認します。基本チェックリストは、日常生活関連動作、運動器の機能、口腔機能、栄養状態、精神面の状態などを確認する全25項目の簡単なテストです。
ステップ3:「介護予防・生活支援サービス事業」の対象者になる
基本チェックリストの結果は、その場で出ることもあります。生活機能の低下がみられた場合は、「介護予防・生活支援サービス事業」の対象者となります。結果によっては要介護認定の申請を検討する場合もあります。生活機能の低下がみられなかった場合は、「一般介護予防事業」のサービスを案内してもらいます。
ステップ4:地域包括支援センターでケアプランを作成してもらう
基本チェックリストで事業対象者となった場合は、地域包括支援センターに介護予防ケアマネジメントの依頼書を提出し、面接をおこない、希望なども伝えたうえでケアプランを作成してもらいます。
ステップ5:「介護予防・生活支援サービス事業」の利用開始
ケアプランに基づいたサービスの利用を開始します。
総合事業のメリット・デメリット
介護予防事業から総合事業への移行にあたっては、さまざまな議論がありました。総合事業のメリットやデメリットについて説明します。
メリット
【高齢者のニーズに合わせた多様なサービスを利用できる】
サービスの主体が介護事業所だけではなく、NPO、民間企業、ボランティアなどに広がり、高齢者のニーズに合わせてさまざまなサービスを提供できるようになりました。また、地域の多様な人材の活躍の場も広がっています。
【サービスを利用するハードルが下がった】
通所サービスや訪問サービスを利用するには、要介護認定を申請して、要支援認定を受ける必要がありましたが、基本チェックリストにより手続きが簡単になり、サービスを利用できるようになるまでの期間も短縮されました。
【住民が主体となる地域の支え合いづくりを促進】
多様なサービスの中には、住民が主体となるものもあり、地域で支え合う仕組みをつくりやすくなっています。
デメリット
【住んでいる地域によってサービスの内容や利用料に差がある】
市町村によってサービスの内容が異なるため、自分が希望するサービスを受けられない場合があります。
【事業者にとっては報酬設定を低く抑えられる場合もある】
総合事業の予算枠は市町村ごとに決まっています。市町村によっては全国一律の場合よりも事業者の報酬設定が低く抑えられる場合もあります。
【全国的なデータベースを構築しにくい】
介護予防は、どのような介護予防サービスをどのくらい受けたら要介護状態に進まなかったか、認知症を発症しなかったかといった評価が重要です。しかし総合事業のサービスは市町村に委ねられているため、全国で統一したデータベースをつくることが難しいのが現状です。