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小規模多機能型居宅介護とは 対象者や利用料、メリット、デメリットまで

小規模多機能型居宅介護とは?

住み慣れた地域でさまざまなサービスを受けながら暮らせる「地域密着型サービス」。その1つが、通所を基本に宿泊や訪問介護のサービスを利用できる「小規模多機能型居宅介護」です。サービスの内容や入所の条件、費用、ほかのサービスとの違いなどについて専門家にうかがいました。

小規模多機能型居宅介護について解説してくれたのは……

ケアタウン総合研究所代表 高室成幸さん
高室成幸(たかむろ・しげゆき)
ケアタウン総合研究所代表
1958年京都市生まれ。日本福祉大学社会福祉学部卒業。介護支援専門員や地域包括支援センター職員・施設の管理者層から民生児童委員まで幅広い層を対象に研修を行う。監修に『介護の「困った」「知りたい」がわかる本』(宝島社)、『最新介護保険の基本と仕組みがよ~くわかる本 第8版』(秀和システム)、共著に『介護予防ケアプラン』(日総研出版)、著書に『地域ケア会議コーディネートブック』(第一法規出版)など多数。

小規模多機能型居宅介護とは

家庭的環境を大切にした小規模施設に日帰りで通う「通所介護(通い、デイサービス)」を基本に、状況に応じて「宿泊(お泊まり)」、「訪問介護」が利用できる小規模多機能型居宅介護。2006年の介護保険制度改正によって創設された「地域密着型サービス」の1つで、介護が必要になってもできる限り住み慣れた地域で暮らすことを目的としています。

小規模多機能型居宅介護は、「通所介護(通い、デイサービス)」、「宿泊(お泊まり)」「訪問介護」の3つのサービスが同じ事業所で受けられます。

小規模多機能型居宅介護の利用対象者

小規模多機能型居宅介護は、どのような条件の人が利用できるのでしょうか。利用対象者について紹介します。

「要介護」「要支援」ともに1以上と認定された人

利用できるのは、65歳以上で要介護認定(要介護15)を受けた人、または40歳から64歳で特定疾病による要介護認定を受けている人です。要支援12の人は、介護予防サービスとして利用できます。

要支援1、2の人は地域密着型介護予防サービスの「介護予防小規模多機能型居宅介護」が利用可能

要支援12の人は、「介護予防小規模多機能型居宅介護」の対象となります。介護予防を目的として、小規模多機能型居宅介護のサービスを利用できます。

市区町村に「住民票」があることが条件

小規模多機能型居宅介護は、できる限り住み慣れた地域で暮らすことを目的とした「地域密着型サービス」の1つです。原則として、住民票がある市区町村以外の事業所は利用できません。

小規模多機能型居宅介護での3つのサービス

最大の特徴は、「通所介護(通い、デイサービス)」、「宿泊(お泊まり)」「訪問介護」の3つのサービスを同じ事業所で受けられることです。どのサービスを利用しても、なじみのスタッフによるケアが受けられます。それぞれのサービスについて説明します。

通所サービス

中心となるサービスは、日帰りの通所介護(通い、デイサービス)です。できる限り自宅で自立した生活をできるように、入浴、食事、排せつなどの介護や心身機能を維持するためのトレーニングが受けられます。介護家族の負担を軽減するという役割もあります。

宿泊サービス

同居する家族が短期間不在になるときや病気になったとき、介護ストレスの軽減など、状況に応じてお泊まりできるサービス「短期入所生活介護(ショートステイ)」が利用できます。

訪問サービス

なじみのスタッフが自宅に訪問して、生活上の支援や服薬管理などを行います。短時間の訪問や緊急時の訪問など、柔軟な対応が可能です。

利用費用

費用は要介護度別のサービス費のほか、食事をする場合は食費、お泊まりをする場合は宿泊費がかかります。

費用の考え方

基本となる利用料は、他の介護サービスのように回数や時間に関わらず、月ごとの定額です。ただし食費、宿泊費、おむつ代のほか、特別な加算サービスを利用した場合には、別途費用がかかります。

利用基本料金

基本となる1カ月定額の利用料は、次のように決められています。食費、宿泊費、おむつ代などは別途費用が発生します。

基本となる1カ月定額の利用料。食費、宿泊費、おむつ代などは別途費用が発生します。

03_指定居宅サービスに要する費用の額の算定に関する基準等の一部を改正する告示 (mhlw.go.jp)
P235、介護予防はP325

また、やむを得ない緊急の場合など、一定の要件を満たした場合に登録者以外の人でも短期(714日)で利用できる「短期利用居宅介護」もあり、その場合の1日の自己負担額(1割負担)は以下のとおりです。

要支援1423
要支援2529
要介護1570
要介護2638
要介護3707
要介護4774
要介護5840

定額料金以外にかかる費用

利用する事業所によって「サービス提供体制強化加算」や「介護職員処遇改善加算」などが追加され、サービス費の自己負担額が異なることがあります。また、認知症の行動・心理症状によって在宅での生活が困難で緊急でサービスを利用した場合(認知症行動・心理症状緊急対応加算)など、追加のサービスを受けた場合はサービス費に加算され自己負担額が増えます。
そのほか、食費、宿泊費、おむつ代なども別途かかります。

利用費用 通所を利用したAさんのケース

●要介護3の人が通所サービスだけを月に21回利用した場合の1カ月費用例(1割負担)

要介護3の人が通所サービスだけを月に21回利用した場合の1カ月費用例(1割負担)。サービス費2万2283円、食費1万500円(500円×21回)、おむつ代など500円、合計3万3283円。

※ サービス費は、同一建物以外の人

通所と宿泊を利用したBさんのケース

●要介護4の人が通所サービスを月に15回、宿泊サービスを月に2回利用した場合の1カ月費用例(1割負担)

要介護4の人が通所サービスを月に15回、宿泊サービスを月に2回利用した場合の1カ月費用例(1割負担)。サービス費2万4593円、食費7500円(500円×15回)、宿泊費6000円(3000円×2回)、おむつ代など500円、合計3万8593円。

※ サービス費は、同一建物以外の人

利用の流れ

利用登録が必要です。1つの事業所の登録利用定員は29名以下と決められているため、まずは担当のケアマネジャーや地域包括支援センターに相談し、地域の小規模多機能型居宅介護を紹介してもらいます。見学や面談のうえ事業所と契約を結び、事業所のケアマネジャーがケアプランを作成したら利用できます。

小規模多機能の使い方

さまざまな介護保険サービスがあるなかで、小規模多機能型居宅介護はどのような人に向いているのでしょうか。たとえば――。

利用ケース Aさんの場合
初期の認知症であるAさん(女性、81歳)は夫と二人暮らし。日中はデイサービスを利用していましたが、夜間に落ち着きがなくなることがあり、夫も睡眠不足が続いて負担が大きくなっていました。ケアマネジャーにショートステイの利用をすすめられましたが、全く知らない人ばかりのところに夜間預けるのは不安ということもあり、小規模多機能型居宅介護を利用することに。はじめのうちは通いのサービスを利用し、ある程度スタッフに慣れてからお泊まりできるようになったので、夫も安心して預けることができました。
利用ケース Bさんの場合
一人暮らしのBさん(男性、83歳)は、近所づきあいがなく家で引きこもりがちに。足腰も悪くなってきたため、家族が心配してデイサービスの見学に連れて行きましたが「あんな幼稚園みたいなところに行きたくない」と拒否。大勢で同じレクリエーションをするのがいやだとのことで、少人数でそれぞれが自由に過ごせる小規模多機能型居宅介護の見学に行ったところ気に入り、事業所に登録して利用開始。自分らしくマイペースで過ごせています。
利用ケース Cさんの場合
息子と二人暮らしをしている認知症のCさん(男性、85歳)。日中は1人になるので、訪問介護のサービスを利用していましたが、毎回同じホームヘルパーが来るわけではなく、初めてのスタッフが来ると怒鳴りつけるようになってしまいました。そこでスタッフが変わらない小規模多機能型居宅介護を利用。何回か訪問介護を利用し、スタッフに慣れてきたところで通所でも利用し、ほかの利用者との交流も楽しむようになりました。訪問介護と通所のサービスを組み合わせ、本人が望む暮らしを送れています。
日中は1人で過ごしているCさん。初めてのヘルパーが来ると怒鳴りつけるように。スタッフが変わらない小規模多機能型居宅介護を利用し、ほかの利用者との交流も楽しむようになりました
日中は1人で過ごしているCさん。初めてのヘルパーが来ると怒鳴りつけるように。スタッフが変わらない小規模多機能型居宅介護を利用し、ほかの利用者との交流も楽しむようになりました

他施設との比較

小規模多機能型居宅介護は「通所介護(通い、デイサービス)」、「宿泊(お泊まり)」「訪問介護」の3つのサービスを受けられますが、これらはそれぞれの事業所で単独でサービスを受けることもできます。単独のサービスと小規模多機能型居宅介護でのサービスとの違いを説明します。

通所介護(デイサービス)との違い

通所介護(通い、デイサービス)の1日の利用定員は35人ですが、小規模多機能型居宅介護の通所介護(通い、デイサービス)の定員は118人以下です。少人数なので、利用者やスタッフと関係を築きやすい傾向があります。また、デイサービスは1日のプログラムがある程度決められているのに対して、小規模多機能型居宅介護は比較的自由度が高く、自分のペースを維持しつつ過ごせます。

短期入所(ショートステイサービス)との違い

短期間施設に入所し、介護や支援を受けられる短期入所生活介護(ショートステイ)。特別養護老人ホームや介護老人保健施設などが受け入れています。連続利用日数は30日までと決められており、短期間のためスタッフや利用者との人間関係を築きにくい面があります。小規模多機能型居宅介護は、通いのサービスと同じ施設にお泊まりでき、スタッフも同じなので慣れている環境の中で過ごせます。

訪問介護(ホームヘルプ)との違い

ホームヘルパーが自宅で介護や生活のサポートをしてくれる訪問介護。ヘルパーが訪問する時間やケアの内容はケアプランで決められています。また、毎回同じヘルパーが訪問するわけではありません。小規模多機能型居宅介護の場合、通いと同じスタッフが訪問し、時間やケアの内容に関しては比較的柔軟な対応が可能です。

看護小規模多機能型居宅介護もある

「通所介護(通い、デイサービス)」、「宿泊(お泊まり)」「訪問介護」のサービスに加えて、看護師などによる「訪問看護」を組み合わせたサービスが「看護小規模多機能型居宅介護」です。介護と看護の一体的なサービスを受けられ、要介護度が高い人や医療面でのサポートが必要な人でも、できるだけ自宅を中心とした生活が送れます。

小規模多機能型居宅介護の人員基準

スタッフについては、人員配置の基準が次のように決められています。

事業所に必要な人員基準

小規模多機能型居宅介護の職員には、管理者、介護に従事する人、介護支援専門員(ケアマネジャー)が配置されています。事業所の代表者は、認知症の介護従事経験があり、認知症介護実践者研修および「認知症対応型サービス事業管理者研修」を修了している必要があります。

小規模多機能型居宅介護の介護従事者

介護に従事する職員は、日中の通所サービスは利用者3人に対して1人以上、訪問サービスを実施する職員は1人以上の配置が基準です。夜間は夜勤を1人、宿直を1人以上配置することが基準ですが、宿泊サービスを利用する人がいない場合は、夜勤職員は不要です。また、夜間対応ができる体制が整っていれば、宿直職員は必ずしも事業所内にいる必要はありません。

小規模多機能型居宅介護のケアマネジャー

「小規模多機能型サービス等計画作成担当者研修」を修了した介護支援専門員(ケアマネジャー)を1人以上配置する必要があります。小規模多機能型居宅介護のサービスは、所属のケアマネジャーが作成するケアプランに沿って実施されます。

小規模多機能型居宅介護の看護師

介護に従事する職員のうち、1人以上は看護師または准看護師を配置する必要があります。

小規模多機能型居宅介護の管理者

管理者になる条件は、3年以上の認知症介護従事経験があり、「認知症対応型サービス事業管理者研修」を修了した人で、常勤、専従の職員です。
※ 本体とは別のサテライト型小規模多機能型居宅介護事業所の場合、一部は本体との兼務が可能です

小規模多機能型居宅介護の施設設備

小規模多機能型居宅介護は、少人数で家庭的な雰囲気を求められることから、空き家となっていた民家や既存の宿舎を改装した施設が多いのが特徴です。施設設備には次のような基準があります。

利用者と地域住民の交流機会が確保される地域に設置

小規模多機能型居宅介護は、活動状況について協議、報告、評価を行う「運営推進会議」を定期的に開催することが義務付けられています。会議には、地域住民の代表者が参加し、地域と連携した行事なども開催されます。このため、住宅地など地域住民との交流が確保される地域に設置されている必要があります。

居間・食堂の間取り

居間や食堂は、機能を十分に発揮できる十分な広さが基準です。

宿泊室の間取り

4.5畳以上でプライベートが確保できる間取りが必要です。

必要に応じて相談室や事務スペースなどを確保

台所や浴室、トイレなど、生活や非常災害時に欠かせない設備のほか、必要に応じて相談室や事務スペースを確保します。

メリット

小規模多機能型居宅介護のサービスには、どのようなメリットがあるのでしょうか。

スタッフと信頼関係を築ける

1つの事業所の登録利用定員が29人以下、「通所介護(通い、デイサービス)」は118人以下、「宿泊(お泊まり)」は19人以下なので、利用者が比較的少人数です。サービスごとにスタッフを固定せず、同じスタッフが「通所介護(通い、デイサービス」は118人以下、「宿泊(お泊まり)」「訪問介護」を担当するので、安心感のある一体化したケアを受けられます。急な相談にも柔軟に対応してもらいやすく、特に環境の変化が苦手な認知症の人にとって、メリットが大きいといえます。

「通所」「宿泊」「訪問」の3つのサービス

1つの事業所と契約するだけで、通所介護(通い、デイサービス)を基本に、短期間のおとまりや自宅への訪問介護も組み合わせることができます。デイサービスを利用してそのままお泊まりしたり、自宅に送ってもらったあとにそのまま訪問介護のサービスを受けたりすることも可能です。

状況に合わせて利用できる

単独の訪問介護やデイサービスは、ケアプランによって利用時間や回数が決められています。一方で小規模多機能型居宅介護の場合は、必要なタイミングで必要な分だけサービスを受けられます。急に宿泊サービスを利用したいという場合であっても、定員に空きがあれば調整してもらうことができます。さらに短時間でのスポット利用(午前中だけ、昼食を食べるだけ、午後だけなど)にも対応できます。

月額定額制

基本となるサービス費については、利用時間や回数に関わらず、月ごとの定額費用が設定されています。このため、費用を気にすることなく利用できます。

デメリット

さまざまなメリットがある小規模多機能型居宅介護ですが、デメリットはどんな点でしょうか。

自治体に住民票がないと利用できない

地域密着型サービスの1つなので、住民票がある地域の事業所以外は利用できません。評判がいい事業所は利用者の定着率が高くなりやすく、登録利用定員が満員で利用できないという傾向があります。

定員があるので利用できないサービスがある

通いのサービスは118人以下、泊まりのサービスは19人以下の定員があります。利用したいタイミングで定員が埋まっている場合、利用できません。

ケアマネジャーを変更しなければならない

利用する場合は、小規模多機能型居宅介護の事業所に所属するケアマネジャーがケアプランを作成します。すでに担当のケアマネジャーがいる場合は、変更する必要があります。また、宿泊や訪問介護だけほかの事業所を利用するなど、事業所の併用はできません。

場合によっては費用が高くなる

基本のサービス費は月ごとの定額制のため、利用頻度が低いと割高に感じることもあります。

スタッフとの相性が合わない場合に担当を変更してもらいにくい

少人数の環境の中で同じスタッフが3つのサービスを担当するため、スタッフと相性が合わない場合などは居心地が悪い状態が続いてしまいます。そうならないためにも、利用登録をする前に試しに利用するなどして、事業所の雰囲気や本人とスタッフとの相性を確認しておくことをおすすめします。

 

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