誰が利用できる?「リフィル処方箋」条件やメリットなどを専門家が解説
取材/中寺暁子
2022年4月から導入された「リフィル処方箋」。医師の判断によって、診察を受けなくても処方箋をくり返し使用できるという、患者にとっては便利な制度です。利用の条件やメリット、注意点などについて、専門家にうかがいました。
リフィル処方箋について解説してくれたのは……
- 堀里子(ほり・さとこ)
- 慶應義塾大学薬学部薬学科医薬品情報学講座教授
1997年東京大学薬学部薬学科卒、99年東京大学大学院薬学系研究科生命薬学専攻修了。東京大学医学部附属病院薬剤部、東北大学大学院薬学研究科、東京大学大学院情報学環・同大学院薬学系研究科を経て、2018年から現職。現在、薬局を対象に「リフィル処方箋の実態調査」を実施している。
リフィル処方箋とは
患者の症状が安定していて、医師が可能と判断すれば、3回まで繰り返し使用できる処方箋のこと。2022年4月に導入された、薬の新しい受け取り方です。2回目以降は医師の診察を受けずに薬を受け取れるので、患者にとっては通院の負担が軽くなります。多くの薬が対象となりますが、投薬量に制限がある薬や湿布薬はリフィル処方箋を発行できません。
海外ではすでに導入している国が多く、アメリカでは1951年から導入されています。
リフィル処方箋導入のねらい
リフィル処方箋は、世界的にみるとすでに定着している国も多く、日本でも長年、導入について議論されてきました。導入されるとどのようなことが見込まれるのでしょうか。
リフィル処方箋導入で見込まれること
リフィル処方箋を利用する患者の主なニーズとしては、通院負担の軽減が挙げられます。多忙で通院の時間が取りづらい働き世代の患者などでは、リフィル処方箋の利用により服薬中断などのリスクも減らせる可能性があります。また、リフィル処方箋の利用により受診頻度を一部の患者で減らすことで、外来の混雑緩和や医師らの業務負担軽減にもつながることが見込まれます。
通院の回数が減るため医療費負担の軽減にもつながり、政府の推計によるとリフィル処方箋の導入による再診の効率化で、0.1%の医療費の効率化も見込まれています。
また、リフィル処方箋の導入では、医師と薬剤師の連携や薬局のかかりつけ機能の強化が重要です。薬局では調剤の機械化などによって業務が効率化され、すでに「対物業務」から「対人業務」への転換が進んでいます。リフィル処方箋の制度では、薬剤師は患者に対して服薬状況や体調、症状の確認をするほか、必要に応じて受診を勧めたり医師に情報提供したりするなど、服薬管理・指導を強化することが求められます。リフィル処方箋によって、薬局・薬剤師の専門性がより発揮されることが期待されます。
リフィル処方箋の利用条件
リフィル処方箋は、どのような場合に利用できるのでしょうか。利用の条件について説明します。
症状が安定していること
症状が安定している患者について、薬剤師と適切な連携を図ることで、一定期間内に処方箋の反復利用が可能であると医師が判断した場合に利用できます。このため、対象となるのは、生活習慣病をはじめとした慢性疾患の患者などで、症状が安定している人です。
リフィルできる上限は3回まで
リフィル処方箋を利用できる上限は3回です。1回あたりの投薬期間や総投薬期間については、医師が患者の病状などをふまえて医学的に判断します。
利用できない薬もある
新薬、向精神薬、麻薬といった、投薬量に限度が定められている医薬品や湿布薬は、リフィル処方箋を利用できません。その他の薬については明確な決まりはなく、リフィル処方箋で処方されるかどうかは医師の判断によります。
処方箋の有効期間がある
初回は通常の場合と同じく、処方箋交付の日を含めて4日以内、2回目以降は原則として、調剤予定日の前後7日以内が有効期間となります。有効期間が過ぎた場合は医療機関を受診して処方箋を発行してもらう必要があります。
誰が使えるの?
リフィル処方箋を利用できるのは、どのような人でしょうか。
医師が「リフィル可」と判断すること
診察によって症状が安定していて、しばらく通院を控えても問題ないと医師が判断した場合に利用できます。その場合、医師が処方箋の用紙の「リフィル可」欄にレ点を記入します。
症状が安定している慢性疾患の人
対象となる疾患(病気)は、長期間にわたって症状が安定している生活習慣病などの慢性疾患が想定されています。
どこで使えるの?
リフィル処方箋はどの薬局に提出すればいいのでしょうか。薬局の選択について紹介します。
できれば同じ薬局で調剤してもらう
リフィル処方箋は、薬剤師が患者の服薬状況や体調などを継続的に確認することが重要です。このため、同じ薬局で調剤してもらうことが推奨されています。服薬情報を一元的・継続的に把握してくれて相談しやすい身近なかかりつけの薬局・薬剤師をもち、対応してもらうと安心です。
費用
リフィル処方箋を発行してもらうには別途費用が発生するのでしょうか。費用について説明します。
診療費が減る分、トータルでかかる費用は安くなる
リフィル処方箋の発行自体には別途費用は発生しません。また、2回目以降は医療機関を受診する必要がないので、診療費はかかりません。リフィル処方箋を3回使用したとすると、2回分の診療費がかからない分、トータルで患者が払う費用は安くなります。
利用の流れ
リフィル処方箋を利用する場合の流れについて説明します。
医療機関を受診する
医療機関を受診して、リフィル処方箋を発行してもらいます。長期間、症状が安定していることが条件のため、通院中の医療機関で発行してもらうのがスムーズです。リフィル処方箋は、医師側から提案する場合と患者側から希望する場合があります。希望する場合は医師に相談してみましょう。
リフィル処方箋を4日以内に薬局へ
1回目の薬の受け取りは、通常の処方箋と同様です。処方箋が交付された日を含めて4日以内に薬局へ行き、お薬手帳とともに薬剤師に提出し、調剤してもらいます。医師が決めた1回あたりの投薬期間をもとに、薬剤師が処方箋に次回の調剤予定日を記入します。
リフィル処方箋を自宅に保管する
リフィル処方箋は1枚の用紙を繰り返し使用するので、1回目に調剤してもらったあとも自宅に保管しておく必要があります。紛失した場合は、医療機関を再び受診しなければなりません。保管が不安な人は、薬局に依頼して預かっておいてもらうことも可能です。
2回目以降は指定された日の前後7日以内に薬局へ
2回目以降は、調剤予定日の前後7日以内に薬局へ行き、リフィル処方箋とお薬手帳を提出し、調剤してもらいます。例えば調剤予定日が9月7日だとすると、その日を含まない前後7日間、8月31日から9月14日までが有効期間です。このため比較的、自分のタイミングに合わせて、薬局に行くことができます。
有効期間を過ぎた場合は、医療機関を受診する必要があります。心配な人は、調剤予定日が近づいたら電話連絡をしてもらうように薬局に頼んでおくとよいでしょう。
また、有効期間内であっても薬剤師が患者の体調の変化や副作用の発生などを確認した場合、調剤せずに医療機関への受診を勧めるとともに、医師への情報提供がおこなわれます。
リフィル回数、期間が終了したら、1回目と同様に医療機関を受診します。
分割調剤との違い
リフィル処方箋が導入される以前から「分割調剤」という制度が導入されていました。リフィル処方箋とはどのように異なるのでしょうか。
分割調剤とは
リフィル処方箋の導入が検討される以前から導入されていたのが分割調剤です。
分割調剤の利用シーン
分割調剤には3種類あります。
- 14日を超える処方で薬剤の保存が難しい等の場合
- 初めて後発医薬品を使用する場合
- 医師の指示による場合(患者の症状は安定しているものの服薬管理が難しい場合など)
1と2は通常の処方箋で薬剤師の判断でも実施が可能です(ただし、医師への連絡は必要)。3はリフィル処方箋の仕組みと類似していて、医師の判断で3回を限度に分割での薬剤交付が可能ですが、処方箋は分割回数分の処方箋と分割指示の処方箋が必要です。
リフィル処方箋のメリット
リフィル処方箋には、どのようなメリットがあるのでしょうか。
リフィル処方箋のメリット
- 通院にかかる時間負担が軽減する
- 医療費を抑えられる
- 2回目以降の場合、薬を受け取る日は比較的自由に決められる
- 近所にかかりつけの薬局をもちやすくなり、薬剤師に体調や健康管理のことなど、気軽に相談しやすくなる
リフィル処方箋のデメリット
リフィル処方箋にはどのようなデメリットがあるでしょうか。
デメリット
基本的に患者側のデメリットはない制度ですが、医師の診察を受けて安心したいという人にとっては、不安な面もあるかもしれません。リフィル処方箋が交付されている期間中でも症状変化などがあれば医療機関を受診できますし、薬局でもフォローアップしてもらえます。
その他のデメリット
処方箋の「リフィル可」のレ点を入れられるのは医師だけです。偽造を防止するため、リフィル欄に手書きの記載があった場合は、薬局側で医療機関に確認するといった対策がとられています。