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認知症を知りたい人に「マンガ 認知症」 編集長オススメ

マンガ認知症(ちくま新書)の書影。マンガ: ニコ・ニコルソン(宮城県出身のマンガ家・イラストレーター)、監修:佐藤 眞一(大阪大学大学院人間科学研究科臨床死生学・老年行動学研究分野教授、医学博士)

漫画家ニコと母は、アルツハイマー型認知症になった祖母の在宅介護に疲れ果てた。涙に暮れる2人の前に突然、ひょろりとしたメガネ男が現れて「そのお悩み頂戴(ちょうだい)します! 介護は知ることで楽になる」と叫ぶ。

こんな風に始まる認知症解説本、漫画を交え親しみやすい。謎のメガネ男は高齢者の心理を研究するサトー先生で、とても分かりやすく認知症の人の「心の中」を解説していくのだ。本人たちがいかに孤独を感じ、不安と闘っているかと。

私は認知症に特化した朝日新聞社のウェブサイト「なかまぁる」の編集に携わり、認知症のご本人や介護家族、専門職の話をうかがう機会が多い。この界隈(かいわい)で最近、「確かさ」という言葉がはやっている。認知症医療の第一人者・長谷川和夫さんが自らの認知症を公表し、「生きている上での確かさが少なくなってきた」と語ったからだ。

自分が自分であることへの確かさが揺らぐ。これほど大きな不安があるだろうか。

この「本人の視点」を社会が重視するようになったのは2000年代以降だ。「ボケて何も分からない」という誤解と偏見は今も根強く、本書でもニコの母が「本人はすぐ忘れちゃえるし楽でいい」と吐き捨てる。

だがサトー先生と語り合ううちにニコと母は祖母に共感し始める。しっかり者で家族に苦労させまいと働き抜いた経験があるからこそ、財布が見当たらなければ「盗まれた」と動揺し、毎日のように5合の米を炊いてしまう。繰り返される行動の向こうに、祖母の人生が見える。

強調したいのは、本人の尊重と介護家族の負担軽減は両立しうる、ということだ。もちろん苦労や葛藤は雲散霧消しない。だが、本人の心を理解することは家族にも変化を及ぼす。

残念ながら今の医療は認知症を予防できない。正しい知識を得ることで、誰もが「認知症になっても大丈夫」と思えるようになれたら。そんな筆者の思いにも強く共感する。=朝日新聞2021年3月27日掲載

    ◇

ちくま新書・968円=10刷6万1千部。2020年6月刊。読者からの疑問に答えた「番外編 どうして『ありがとう』と言ってくれないの?」もWebちくまで配信されている。

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