「認知症になったら運転はしちゃダメ」は、本当に正しい?

 

「認知症と診断されたら運転しちゃダメなんだって。どう思う?」

身近にいる20代~50代の10人に聞いてみました。

その返答は……言葉は違えども、内容はほぼ同じ。「当然だろ?」もしくは「仕方がないよね」のいずれかでした。

でも、本当にそうなのでしょうか?

 

20173月施行の改正道路交通法は、高齢ドライバーの認知機能低下に焦点を当てたものでした。

75歳以上の人は、3年に一度の免許更新時に認知機能検査を受ける必要があります。その結果によって第1分類(認知症の恐れがある)、第2分類(認知機能低下の恐れがある)、第3分類(低下の恐れなし)のいずれかに判定されますが、今回の改正で第1分類と認定された人には医療機関の受診が義務付けられました。そこで認知症と診断された場合、都道府県の公安委員会によって免許停止・取り消しとなります。

以前から、認知症と診断されれば運転は原則として禁止されてはいたのですが、この法改正によってその数は、当初想定されたほどではありませんが増えています。

 

法改正の背景には、高齢者による事故の増加があります。でも、事故を起こす高齢者は認知症、もしくは認知機能が低下している人ばかりなのでしょうか。

警察庁に問い合わせると、「事故を起こした人が認知症か否かのデータはない」とのこと。ただし前述の分類での統計はあります。死亡事故を起こした75歳以上の高齢者のうち、前述の第1分類は7.2%、第2分類は42.2%、第3分類は50.6%。つまり、死亡事故を起こした高齢者の約半数は、認知機能の低下のない人なのです。

運転能力を見ずに免許をとりあげていいの?

実際、「認知症だから一律に免許停止にするのはおかしいのではないか」という声はあちこちで上がっています。たとえば日本精神神経学会は、「認知症と危険な運転との因果関係はあきらかではない」との声明を出しています。

同学会理事でもある慶應義塾大学医学部精神神経科の三村將教授は言います。

「どんな病気でも、問題なく運転できる状態の人もいれば、できない人もいます。もちろん重度の認知症であれば難しいですが、軽度であれば認知症でも問題なく運転できる人もいます。一方で、MCI(軽度認知障害)でも運転が危ない人もいるでしょう。その確認もせず『認知症だから』で一律に免許をとりあげるのは問題ではないでしょうか」

 

海外はどうなのでしょう。多くの国では実車による再試験制度を設けており、認知症であっても「運転可能」と判断された場合には運転する権利が保障されます。

たとえばオーストラリアのビクトリア州では、医師の意見書のほかに、作業療法士による運転評価が必要です。約60分間運転の様子を確認し、そこに過去の違反歴などを合わせて総合的に判断しています。なかには、「自宅から半径何キロ以内まで」「日中のみ」などの条件つきで認められることもあるそうです。

前出の三村教授は、日本の現制度もこのような見直しが必要だと話します。ただ日本の場合、すべての高齢者に実車テストをおこなう態勢を組むのは難しいのが現実のよう。

「初期の認知症やMCIの場合、注意力や判断力の検査をしたうえで『運転に問題はない』『運転するのは危険』『その中間』に分類し、中間群については実車やシミュレーターで詳しく検査し、評価していくような形にするのがよいのでは」(三村教授)

認知症なんだから運転は危険――そんな思いこみだけで、認知症の人たちの運転の楽しさ、移動の便利さなどを奪っているのだとすれば、とても残念なことです。


三村先生お顔写真
三村 將(みむら・まさる)

慶應義塾大学医学部精神神経科学教室教授。同大精神・神経科助手、米国留学、東京歯科大学市川総合病院講師、昭和大学准教授などを経て現職。専門は神経心理学、老年精神医学、認知リハビリテーション。

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