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白内障と認知症の関係を専門家が徹底解説 目もアンチエイジングを

こころがける 白内障

高齢になれば、誰でもしわやシミができたり、耳が遠くなったり、目が見えにくくなったりするなどの現象が起こります。いずれも気になる症状ですが、生活に支障が出ることのひとつが「目の老化」。加えて、認知機能に影響を与えるとわかっているのが「白内障」です。白内障と認知機能の関係について研究している、筑波大学医学医療系眼科の大鹿哲郎教授にお話をうかがいました。

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白内障と認知機能の関係について解説してくれるのは……

大鹿哲郎医師
大鹿哲郎(おおしか・てつろう)医師
筑波大学医学医療系眼科 教授
1985年東京大学医学部卒業。95年東京大学医学部講師、97年Louisiana State University, Visiting Assistant Professor、98年東京大学医学部助教授を経て、2002年から現職。17年から日本眼科学会理事長。

白内障の手術をすると認知機能が改善する

目には、カメラのレンズのような働きをする「水晶体」があります。水晶体を通して取り込んだ光(映像)を、いわばフィルムのような存在の「網膜」に映すことで“見える”状態になります。
この水晶体が老化現象で濁ってしまうのが白内障です。症状は人によって異なりますが、初期症状ではまぶしく感じる、目がかすむ、ものが二重に見える、階段の段差が見えづらい、靴下の左右を間違えるといった不便さを感じるようになります。

白内障は50代で37~54%、60代では66〜83%、70代以上だと84〜97%、80歳以上ではなんとほぼ100%発症します。高齢になったら避けては通れない病気といえますが、手術で濁った水晶体を取り除き、代わりに眼内レンズを取り付けることで視力を回復させることができます。
実は最近の研究で、白内障の手術をすると認知機能やうつ症状などが改善することが明らかになっています。

白内障になると網膜にはっきりした像が映らなくなるため、視覚からの刺激が少なくなります。脳に送られる情報も激減し、それが記憶や理解、学習などの認知機能の低下を引き起こしているのではないかと考えられています。
片目だけ白内障になった場合は、もう片方の目で網膜に像を映せているので認知機能の低下は見られません。両目ともに白内障になった場合のみ、QOL(生活の質)の低下、うつ状態、認知機能の低下が見られるようになります。

加齢によって起こる目の病気には緑内障や加齢黄斑変性もありますが、これらの病気では白内障のときのような認知機能の低下は見られません。緑内障は視野が狭くなる病気、加齢黄斑変性はモノが歪んで見える病気ですが、どちらにしても網膜に像が映らなくなるわけではないので、認知機能の低下には至らないのだと考えられています。

目の構造と白内障の原理。左のイラストは正常な目。透明な水晶体は光を十分に通し、網膜に像を映す。白内障は水晶体がにごり、網膜に像を映せなくなる。
正常な目は透明な水晶体が光を十分に通し、網膜に像を映す(左)。白内障は水晶体がにごり、網膜に像を映せなくなる

白内障と認知機能、体内時計との関係

目が見えづらくなると歩くのも不自由になり、気持ちもふさぎがちになるので口数も少なくなってしまいます。目が見えないので部屋も散らかりがちです。その様子が、はたから見ると認知症の症状のように思えることがあります。

ご家族から認知症だと思われていた患者さんが、白内障の手術をしたらスタスタと歩き出し、身の回りのこともしっかりできるようになったという例があります。目が見えづらいから行動が制限されていただけだったんですね。また、白内障の手術をした患者さんと外来で久しぶりに再会したら、きれいにお化粧をしておしゃれになっていることに驚いたこともあります。目が見えづらいと身なりにも構わなくなってしまうということでしょう。
しかし白内障の手術では、あくまでも認知機能が改善されるだけで、認知症と診断された人の症状がよくなるわけではありません。

白内障になると、水晶体が濁るため光が網膜に届きにくくなります。その結果、睡眠ホルモンの「メラトニン」が正常に分泌されず、不眠になることもあります。それがうつ状態や認知機能低下につながるとも考えられているのです。
人間には生体リズムがあり、約25時間周期の体内時計によって各器官や細胞は動いています。地球の自転は約24時間周期ですから約1時間のズレが生じますが、そのズレは、日中に太陽光を浴びることでリセットできます。

 「うつ、不安、暴力/精神神経科、もの忘れ、どこにいるの分からない/脳神経内科」

アンチエイジングが白内障予防につながる

白内障の予防のためには、まず紫外線に当たりすぎないこと。皮膚に強い紫外線が当たると真っ赤に日焼けするように、目も大きなダメージを受けています。サングラスをかけるなどの工夫をするといいでしょう。また、喫煙は肺だけでなく目にも悪い影響を与え、白内障を引き起こすリスクが高くなるので避けましょう。

白内障は老化現象の1つですから、アンチエイジングを心がけることが予防につながります。適度な運動と十分な睡眠、バランスの取れた食事を心がけてください。白内障の予防には、ビタミンCの豊富な野菜やくだもの、ルテインを多く含むホウレンソウやブロッコリー、DHAを多く含む魚類を取るといいでしょう。
夜寝る前にパソコンやスマホなどを見ると、太陽光と同じような強いブルーライトを浴びることになり、体内時計が狂ってしまいます。夜間は休息の時間だと心得て、ゆったりと過ごしましょう。

ものが見えづらくなったら眼科に行って検査してもらうことが大切です。緑内障や加齢黄斑変性の場合には、手遅れになることもあります。白内障の手術は進歩し、日帰りで行う病院も増えています。手術をすればよくなる病気ですから、怖がらずに眼科を受診してほしいと思います。

また、認知症の人が白内障の手術をすると、目が見えやすくなることでQOLが上がる効果が期待できます。初期の認知症の方でしたら部分麻酔で手術ができます。
認知症が進んでいる場合は全身麻酔が必要になるかもしれませんが、目が見えないというのは非常に不便な状態です。本人の状況と相談して決める必要がありますので、まずは眼科にご相談ください。

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