サービスの受け手がいない「実家の茶の間・紫竹」 助け合いから始まった非行事型スタイル
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~通いの場からの便り~ 実家の茶の間・紫竹(新潟市東区)
高齢者の居場所「地域の茶の間」は今、全国各地で取り組まれている通いの場の一つです。「地域の茶の間」をいち早く始めたのが、現在、新潟市と地域包括ケア推進モデルハウス「実家の茶の間・紫竹」を協働で運営している任意団体「実家の茶の間」代表の河田珪子さん(76)です。原点は、助けてほしいと始めた「有償の助け合い」です。河田さんが「介護の予防のための『地域の茶の間』ではなく、結果的に介護予防になる」と考える理由や「紫竹」の運営のポイントについて聞きました。
ポイントチェック
- 高齢者、障害者、外国人、子育て中の親子、病気療養中の人たちが垣根なく集える場
- 手助けする人と手助けを受ける人に分けない
- 「いない人の話をしない」など誰でも気持ち良く参加できるルールをつくる
- 「当番」は参加者との何げない会話の中からその人の「出番」作りをする
- 後継者を心配するのではなく、歩いていける地域に多くの「地域の茶の間」があればいいという逆転の発想
「地域の茶の間」の原点はご近所同士の助け合い再構築
河田さんが介護離職して家族と離れて大阪から新潟に移り住んだのは、1989年です。知り合いもいない中で、「自分だけで家族介護ができるのだろうか?」と不安に思ったそうです。介護保険制度ができる2000年より10年以上前のことです。そこで河田さんが地域で始めたのが「有償の助け合い」でした。そこでの経験が今も脳裏に刻まれています。
「高齢者のご自宅に行ったらストーブもつけずに布団の中で寝ていました。『こっちの方が暖かいから』と。なぜだろうと聞いてみたところ、当時の私にとっては意外な言葉が返ってきました。『うちのもんに迷惑を掛けたくない』。つまり、留守番や草取りもできなくなってしまったので、これ以上、家族に自分のためにお金を使わせたくない、ということでした。後日、通院介助の帰りに私の事務所を見てみたいというので寄ったのが、地域の茶の間の原点です」
高齢者だけでなく、障害者、外国人、子育て中の親子、病気療養中の人たちが、事務所に集まってくるようになりました。ある日、高齢者から「お弁当を持って来て良いですか?」と尋ねられるようになりました。1993年に財団法人新潟市福祉公社が設立されると、有償の助け合いは自主事業として参画し、総合福祉会館3階に事務所を置くと、そこが「居場所」となって50人ほどの人が集うようになり、会員は2001年には2870人に達したそうです。
「その後も定年退職した男性など社会貢献をしたいという人が100人近く協力してくれるようになりました。安否確認をかねた夕食配食を始めると、1年目、自宅で3人の方が亡くなられているのを見つけました。それぞれが暮らす地域に居場所があって、ご近所同士で助け合いができる関係を再構築していくことが重要と気づかされました」
河田さんのノウハウを「見える化」して横展開促す
河田さんが取り組むスタイルは、非行事型であると同時に様々な立場の人たちが多様性を認め合いながら助け合う目指すべき社会像を体現しています。この特徴は2003年から10年間運営した「うちの実家」や、現在「実家の茶の間・紫竹」にも引き継がれている重要なコンセプトです。
「紫竹」を紹介するWebのチラシには、大きな字で「サービスの受け手は1人もいない」と書かれています。決められたプログラムに参加するのではなく、空き家の民家を改装することで実家の茶の間のような安心できる生活空間を再現し、そこでそれぞれのペースで思い思いのことをして過ごすというスタイルです。ご近所の人たちを中心に20代後半~80代後半までの「手上げ方式の当番」をしたいという方が40人ほどいますが、利用者とスタッフを区別する印象を与えるエプロンはしていません。「手助けする人と手助けを受ける人に分けないことが一番大事」と強調します。
協働事業として「紫竹」に関わる新潟市は、このモデルハウスを通じてノウハウの「見える化」に取り組んでいます。市が補助金を支出するだけでも約500カ所ある「地域の茶の間」の運営者に横展開するためです。また、市では「茶の間の学校」を年2回(2020年は1回)開催しています。「『地域の茶の間』を一から作るところから関わることができ、気軽に誰でも始めてみようかなといった気持を醸成する効果があります」(河田さん)というメリットがあります。
「紫竹」は、新潟市から河田さんへ「うちの実家」を再現することで「見える化」できないかという相談があり、協働事業として始まりました。「紫竹」のコストは、家賃、光熱水費、電話代を市が負担し、参加費、バザー収益、労力寄付、寄付金、物品寄付などで運営費を拠出しています。協働で運営する形をとる理由について、新潟市福祉部地域包括ケア推進課の長谷川啓さんはこう説明します。
「協働事業にすることで上下関係ではなくなります。市としても住民主体の取り組み、河田さんという実践者が表に立つことで、行政の弱い部分を補ってくれています」
うわさ話の井戸端会議にしないためのルール作り
「紫竹」には、細かな決まりごとが壁に貼ってあります。
- どなたが来られても「あの人だれ!!」という目をしない
- プライバシーを聞き出さない
- その場にいない人の話をしない(ほめることを含めて)
決まりごとは「うちの実家」から続くものですが、河田さんが理由を説明してくれました。
「実家の茶の間・紫竹の説明会を開き、多くの方に参加していただきました。ところが実際に始めてみると、ほとんどの方がお見えになりませんでした。後日、理由を尋ねてみると、高齢者が回覧板を見ていないことと同時に、参加するとご近所さんには知られたくないことを話してしまうのではないかという家族の懸念があることが分かりました」
地域の保育園や学校とつながり、子どもと高齢者らの交流の場にするようにしたり、決まりごとを作ったりすることで誰でも気兼ねなく参加できる環境づくりに取り組んできました。
「高齢者は情報弱者の人が多いです。回覧版を回したから、インターネットに情報をアップしたから、といっても必要な人に伝わりません。例えば、地域の病院や薬局の待合室にチラシを貼り出してもらうといったことなども必要です」
「仲良しクラブで開いていても、活動は点にとどまり面になっていきません。最初は嫌われても、誰でも気軽に立ち寄れるようにするためには決まりごとが必要です」
非行事型の「紫竹」ですが、「当番」には「出番づくり」という重要な役割があります。参加者とのさりげない会話から、その人の人生経験や持っている力、やりたいことを引き出すことです。
「個人の選択を大切にしています。囲碁をやりたい、習字をやりたい、ミシンを使用したい、本を読みたい、というように人によって違います。『紫竹』ではこういう道具や家具は、地域の人たちが使っていた愛着あるものを寄付してもらっています。この居場所が地域の宝になってほしいのです」
介護予防のためにあるのではなく結果的に介護予防に
新型コロナウイルス感染症対策として、「紫竹」は市内で感染者が確認されていない2020年2月25日の段階でいったん休止を決めました。
「密になった空間で、食事も取り皿を使っていて、みんなが輪になって話したり笑ったりすることもあります。県内の『地域の茶の間』も、私たちの動向を注視していたからです」
同時に、新たな行動も起こしました。
「密にならず、感染対策を十分していれば『紫竹』に来ても問題はありません。そこで私に加えて『当番』の人たちで、休止中はこれまでの参加者に『元気ですか?』『困ったことはありませんか?』と電話をしていきました」
市は「地域の茶の間」が再開するための感染対策のためのガイドラインを公表するなどして側面支援をしています。
- 午前と午後の各2時間ずつに分けて開催する
- 菓子は個包装のあめのみを個別に提供する
- 昼食を出さない
こうしたポイントを取り込んだ独自のルールをつくり、「紫竹」は6月1日から再開しています。休止前までは、毎回50人前後の参加者がいましたが、現在は20~25人です。
河田さんが始めた「地域の茶の間」づくりは、今、全国に広がっています。視察に来た人たちから多く寄せられた質問が、後継者です。ただ、河田さんはこう話します。
「後継者で悩むより、歩いて行ける範囲に多様な地域の茶の間ができることを願って動いてきました」
効果についてもこう話します。
「『紫竹』に行って自分の居場所、役割が見つかれば、日常生活にも張りが出てきます。身だしなみに気をつけたり、次は何をしようかと考えるようになったりします。だんだん元気になってきます。だからこそ、『紫竹』は介護予防のためにあるのではなく、結果的に介護予防となっているという居場所なのです」
- 実家の茶の間・紫竹
- 新潟市東区にある任意団体「実家の茶の間」と新潟市が協働で立ち上げた基幹型地域包括ケア推進モデルハウス。基幹型は市内1カ所で、ここを中心に市内に約500カ所以上ある「地域の茶の間」にノウハウを横展開している。地域の空き家問題解決の一助にもなっており、住み慣れた地域の民家を借り受け、参加者含めて自分たちが持つ力や経験を出し合い、補い合いながら改装から取り組んでいる。
- 「実家の茶の間・紫竹」に関する情報はこちら。
おことわり
記事は2021年2月2日にオンライン取材したものです。新型コロナウイルス感染症の流行状況によって活動内容が変わることがあります。
「地域がいきいき 集まろう!通いの場 厚生労働省」
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