住民同士のつながり生かし、大規模マンションを明るく楽しい安住の地に
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~通いの場からの便り~ 毛馬コーポゆうゆうクラブ(大阪府大阪市)
同時期に入居した住民が一斉に高齢化することで、近隣地域に比べて高齢化率や独居率が高まる傾向は、高度経済成長期に建てられた多くの大規模マンション・団地に共通した課題です。大阪市都島(みやこじま)区の「毛馬(けま)コーポ」では、今後の生活や医療・介護に不安を抱えるシニア住民たちが、お互いに助け合うためのグループ「ゆうゆうクラブ」を結成し、各種サークルや勉強会などを通し、安心して暮らせるマンションづくりを進めています。関係者に運営のポイントを聞いてみました。
ポイントチェック
- 高齢化が進む大規模マンションの住民が生活課題を共有
- 古くからある緩いつながりをベースに活動
- シニア住民主体の取り組みを複数の専門職がサポート
- 大学生、高校生の住民もボランティアで参加
- オンライン集会やSNSなどコロナ禍で新しいつながりづくりが進む
老後を楽しく過ごすための仲間づくりからスタート
大阪市都島区は市の北東部に位置する比較的小さな区です。三方を川に囲まれ、明治時代から産業地として発展し、戦後はその跡地に大規模住宅群が形成されました。区内はいわゆる小学校区である九つの連合町会に区切られ、「毛馬コーポ」のある毛馬町は、区内でも高齢化率の高い淀川連合町会(通称:淀川地域)に属しています。
「毛馬コーポ」は1979年3月築の地上11階建てマンションで、総戸数198戸。2021年1月現在、426人が暮らしており、そのうち約半数の209人が70歳以上です。独居高齢者世帯も36世帯となり、近年、増加傾向にあります。
こんな中、住民同士が助け合える関係性を求めて、有志数人が2013年に、カフェ形式の集会をスタートさせました。「きっかけは、2025年問題を知ったことでした」と発起人の前田智希子(ちまこ)さん(75)が振り返ります。
「2025年には後期高齢者が増えて大変なことになる。私はそのとき80歳を過ぎる。在宅医療が進むというけど、自分たちはどう暮らせばいいのか皆目わからない。これは少し勉強しなければと思って、市や区、町会、マンションの管理組合などに相談したのですが、十分な答えはもらえませんでした。だったら自分たちでやろうと、まずは数人で遊びのグループをつくりました。仲良くなっておけば、いざというとき助け合えると思ったからです」
話し合いの結果、グループ名は「ゆうゆうクラブ」に決定。会長や会計など係を決めず、皆ができることをしながら参加することを約束し、住民が自由に使えるマンション集会室に集まってはおしゃべりをしたり、パーティーを開いたりするようになりました。参加者も徐々に増え、コーラスやピラティス、主に男性の参加を狙った囲碁・将棋などサークル活動も始まりました。
その後、活動の中心となる世話人会を組織し、前田さんが世話人代表に。また、立ち上げメンバーの1人である飯田和代さん(76)が副代表になりました。
専門職と一緒に「ちょっと楽しい在宅医療勉強会」を継続
2025年問題についてきちんと話し合うようになったのは、2018年からです。きっかけをつくったのはやはり前田さんで、かかりつけ医でいんべ診療所院長の忌部周さん(39)に「ゆうゆうクラブ」の話をしたところ、力を貸してもらえることになったのです。そのときのことを忌部さんはこう話します。
「私にはもともと、専門職と地域住民の方々との垣根を取り払いたい、地域に溶け込んで活動したいという思いがあり、自主的に地域を巡って人々の暮らしや困りごとについて調べていました。それもあって前田さんのお話にもとても興味が沸き、『なんでも相談』と称して、皆さんの相談に応えることから始めました」
しかし、ほどなくして自分のことは話しにくいという人が多いことがわかり、「なんでも相談」は忌部さんによる講義に変わります。このタイミングで前田さんは、住民で甲南女子大学看護リハビリテーション学部教授の青山ヒフミさん(71)に声をかけました。青山さんはそのときのことをよく覚えています。
「『若いお医者さんが在宅医療のことを教えてくれることになった。通訳してほしい。一緒にやってくれへん?』と、前田さんが私の家まで誘いにきてくれました。それで、看護師としての経験を生かせるなら、と思って参加したら、いつの間にか司会も年間計画も任されて。上手に巻き込んでもらいました」
こうして立ち上がったのが「ちょっと楽しい在宅医療勉強会」です。以来、年5回・3年間の計画で、高齢者の在宅生活に関して皆が知りたいことをテーマに、専門職と住民が対等の立場で学んだり、意見交換をしたりしてきました。専門職としては、忌部さん、青山さんのほかに、ケアマネジャーや、大阪市都島区社会福祉協議会生活支援コーディネーターの佐々木さやかさん(45)も参加しています。
「地域の課題を見つけ、解決策を探り、実際に行動するのは住民の皆さんです。生活支援コーディネーターである私の役割は、皆さんが決めたことをサポートしたり、忌部先生、青山さんにも相談しながらタイミングよく背中を押したりすることです。私たち専門職ができるだけ口を出さずに参加しているのは大きな特徴だと思います」
「理想の毛馬コーポ像」をブロックを用いて見える化
「ちょっと楽しい在宅医療勉強会」は、知識を得るだけでなく、新たな取り組みを生み出す場にもなっています。同会が始まって2年目のある回では、「将来、どんな毛馬コーポでありたいか」ブロックを用いて具体的なイメージを作り、意見を交換するワークショップを実施。特に認知症になっても暮らしやすいマンションを想像しながら、「皆で見守り合いたい」などの意見を共有しました。
このとき、意見は出たもののその後の展開の仕方がわからないでいる皆の様子を察知した佐々木さんは、「いまこそ新しい取り組みを立ち上げるチャンス」と背中を押します。そこでさっそく住民アンケートを行い、「身近な困りごと」について調査。安否確認、買い物、ゴミ出し、電球交換といったニーズを把握し、それに応えるための有償ボランティアグループ「お手伝いネット」を立ち上げました。
「お手伝いネット」には若い住民も参加しています。その1人、大学生の久保田晴貴さん(19)は、前田さんの友人の孫で、子どもの頃からのつきあいです。久保田さんが「ゆうゆうクラブ」とのかかわりを楽しそうに話します。
「クラブの存在は知っていたもののなかなか踏み込めずにいたのですが、ボランティアの仕組みができたことで力仕事などを手伝えるようになりました。コロナの問題があってグループ活動ができなくなったときには、Zoomの使い方を教えてほしいと言われて喜んで引き受けました。大学もオンライン授業になり、遊びにも行けなくなり、家にいる時間が長くなったことも、活動に参加できた理由です」
Zoomを使ったつながりづくりは、佐々木さんを中心に社恊の職員や久保田さんが手伝うかたちで進めました。わかりやすいマニュアルを作成し、個別に訪問してパソコンやスマートフォンの使用状況を確認。手取り足取り練習をサポートし、多くが使い方をマスターしました。そして「Zoomコロナ質問会」で活動を再開し、その後もZoomと、人数を絞った集会所開催と、インターネットとリアルを組み合わせた形で活動を続けています。さらに、世話人会のLINEグループも久保田さんにつくってもらい、頻繁に連絡し合っています。
「今後もできることは手伝いたい。将来、自分がマンションから独立することがあっても、きっと下の世代が引き継いでくれると思う」と言う久保田さん。その言葉に飯田さんは目を細め、「本当に心強いです。私は独り暮らしですが、こういう若い人も含めて、仲間が大勢いると思うと、ずっとここで暮らせると思えます」と話します。
「通いの場」がほしくなったときの選択肢の一つに
「ゆうゆうクラブ」の参加者は現在60人前後。いつでも誰でも参加できるように活動内容やスケジュールは掲示板などで周知しますが、強要はしません。「住民の誰かが通いの場がほしくなったときに選択肢の一つでありたい」というのが世話人会の思いであり、こうした寛容さが長続きの秘訣でもあります。
もう一つの強みは、「毛馬コーポ」が分譲マンションであることです。住民の大半が生涯ここに住むことを望んでいるからこそ目標を共有できるのです。前田さんが言います。
「このマンションはリニューアル工事のおかげで、この先45年は住み続けられます。住む家があるのだから、あとは仕組みを整えるだけ。サービス付き高齢者住宅のようなイメージで、安心して楽しく暮らせるマンションづくりを、これからも皆でしていきます」
- 毛馬コーポゆうゆうクラブ
- 歳をとっても、病気や障害があっても、明るく楽しく暮らせるマンションづくりを目指す、「毛馬コーポ」住民の有志グループ。住民7人、専門職3人からなる世話人会が中心となって、勉強会、サークル活動など、居場所や仕組みづくりに取り組んでいる。第9回健康寿命をのばそう!アワード(介護予防・高齢者生活支援分野)厚生労働大臣賞 最優秀賞受賞。
おことわり
記事は2021年1月24日にオンライン取材したものです。新型コロナウイルス感染症の流行状況によって活動内容が変わることがあります。
「地域がいきいき 集まろう!通いの場 厚生労働省」
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