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~「通いの場」からの便り~ 

住民が求めた多機能型通いの場を住民運営で実現 長期継続の秘密は保健師のサポート

向田ふれあいの里のレストランで食事をする参加者=2014年6月撮影、那須烏山市提供

~通いの場からの便り~ なすからすやま 高齢者ふれあいの里(栃木県那須烏山市)

高齢社会の進展に伴い、昭和時代には盛んだった自治会や老人クラブといった地域活動の衰退が各地で課題となっています。栃木県那須烏山市は、地域住民になじみがある廃校があった向田地区をモデル地区として多機能型の通いの場「向田ふれあいの里」をスタートさせました。その後、自治会単位でサテライト型の通いの場も加わったネットワーク「なすからすやま 高齢者ふれあいの里」が広がっています。関係者に運営のポイントを聞いてみました。

ポイントチェック

  • 住民が話し合いによって必要とした三つの機能を設けた
  • 住民同士がマイカーで送り迎えをする仕組み
  • 市が責任を持ちつつも活動内容は住民が考える
  • スタッフの若返りやメニューのマンネリ化防止のため、保健師がサポート
  • コロナ対策として市が休止や感染対策をしたうえでの実施の判断をしている
【運営のポイント】

市内15カ所で展開するネットワーク

2005年に烏山町と南那須町が合併して生まれた那須烏山市。東は茨城県境と接し、豊かな里山が広がる農村地帯です。2021年1月1日現在の人口は25567人、世帯数は10439世帯、高齢化率36.8%で、農村であっても高齢者のみの世帯や高齢者の独居世帯も多くなってきています。

向田ふれあいの里管理運営委員会で体操教室部門「ふれあい塾」を担当する平野久子さん(74)は、地域の事情についてこう振り返ります。

「昔の家は縁側があったので、お茶を飲んだり、おしゃべりしたりする場がありました。今の家はそういう気軽に寄れる縁側がないので、遊びに行くにしても『お茶菓子を持っていかないといけない』といった気遣いがありました」

「月1回の高齢者サロンに自分で歩いて公民館に行くのも大変という人が増えてきました」

「向田ふれあいの里は、気を使う必要がなく友だちと情報交換できる場なので、住民にとってとてもよかったと思います」

現在、ふれあいの里と呼ばれる通いの場は、向田地区のほか、体操教室のみを運営する自治会単位のサテライトが14カ所あります。ふれいあいの里は、市の委託事業ですが、住民が連絡協議会を設けてふれあいの里間の連携や情報交換を図りながら運営しています。

ふれあいの里を最初に企画したのは、那須烏山市役所で介護予防を担当する保健師たちでした。市が運営する「高齢者サロン」を自治会ごとに開いてきましたが、これだとマンパワーの関係で各地区月1回程度しか開けませんでした。また、自治会や老人クラブの活動が「役員になる人がいない」という理由などから活動を縮小したり、やめたりする動きが目立ってきました。介護予防に重要な外出やコミュニケーションの機会がどんどん減っていく状況と高齢化の高まりに危機感を募らせていたからです。

地域活動に熱心な人たちがいる向田地区をモデル地区に選定し、廃校を利用して三つの機能を設けた多機能型の通いの場「向田ふれあいの里」をスタートさせました。運営をサポートする保健師の海老原朋子さんはこう振り返ります。

「住民が主体となって運営していくため、準備期間に1年をかけました。三つの機能についても住民が求めるものとして絞り込んでいったのが特徴です」

多機能型というのは、三つの機能、つまり三つの通いの場がセットになっているからです。

  • 閉じこもり予防や食事支援を目的として住民がメニュー開発から調理までを担う「いきいきふれあいレストラン」(65歳以上1食300円)
  • 体の弱い高齢者がミニ・デイサービス的な利用ができる「地域の茶の間」(100円程度)
  • 運動機能低下や認知症予防を目的とした体操教室「ふれあい塾」(無料)

また、住民には利用者の送迎を住民同士がマイカーで行ってもらうこと、自治会とは別組織を立ち上げて運営してもらうことを条件にしました。これは体操教室のみを行うサテライトも同じです。

向田ふれいの里の「地域の茶の間」で体操をする参加者=2016年10月撮影、那須烏山市提供

市が責任を持ちつつも活動内容は住民が考える

向田ふれあいの里の活動は、毎週火曜日が「地域の茶の間」(午前9時30分~午後2時)、毎週金曜日が「ふれあい塾」(午前9時~午後0時30分)、そして両日に合わせて「レストラン」が開かれています。新型コロナウイルス感染症の流行前は、毎回、レストランに約40人、地域の茶の間に約10人、ふれあい塾に約10人強の参加者がいました。

向田ふれあいの里管理運営委員会副会長でレストランにも関わる石川陽子さん(72)は、住民の創意工夫についてこう語ります。

「一部の野菜は自分たちで育てています。農村地帯なので住民が『自分の畑で収穫した野菜を使って欲しい』といってくることもあります。メニューを決めたり、必要な食材を発注したりするのもレストランの調理を担当する住民スタッフたちの役目です。1食300円以内でできる昼食は何か、考えたり、工夫したりする楽しみがあります」

「いつも参加する人が出てこないので気になって訪ねたら家の中で倒れていた、という見守り効果もでてきています」

こうした活動が長期間継続されている点について、海老原さんは、市が責任を持って運営に関われる委託事業としている点を挙げます。

「常に保健師たちがバックアップをする態勢をとっています。各地区のサテライトにも、体力測定や出前講座として年数回出向き、スタッフの相談事にも一緒に考えていくようにしています。住民の運営スタッフも各地区で世代交代をしていくタイミングを逸しないことが重要です」(海老原さん)

市では運営スタッフの住民に向けた研修会を企画し、他の地域での事例を紹介することでマンネリ化を防ぐ工夫や特別なスキルや経験がなくても運営スタッフになれるようにサポートしています。また、運営スタッフには「なすから健康マイレージ」として年間5ポイントを付与するインセンティブの仕組みも組み込んでいます。健康診断受診で付与される50ポイントを含めて合計100ポイントたまれば500円分の商品券と交換できます。

サテライトとして開設された「中組ふれあいの里」の体操教室参加者=2020年9月撮影、那須烏山市提供

課題は男性の参加者をどう増やすか

こうした取り組みを通じて、参加者に変化もでてきています。市では、同じ参加者の行動を追跡しているわけではありませんが、2回、参加者に意識調査をしています。

2016年度は、参加後の生活面での変化についての質問(複数回答)には、「人のつきあいが広がった」(67.4%)、「日ごろから運動するようになった」(41.0%)、「外出することが多くなった」(31.9%)といったプラスの意見が目立ちました。

2019年度は、55%が参加歴5年以上で継続性が高いことがわかりました。参加後の生活面の変化についての質問(複数回答)には、「人のつきあいが広がった」(73.0%)、「日ごろから運動するようになった」(33.5%)、「外出することが多くなった」(27.0%)

石川さんや平野さんもこう感じています。

「週2回かもしれませんが、生活にメリハリがつきます」(石川さん)

「活動内容を自分たちで考えるのは大変ですが、すべて自分のためと考えるようにしています」(平野さん)

一方、課題もあります。例えば、向田ふれあいの里の体操教室の参加者は、現在、女性しかいません。レストランも女性が大半です。海老原さんによると、住民と話し合って立ち上げ準備をしている段階で男性が多く参加している地区では、スタート後も比較的男性の参加者が多い傾向があるそうです。

サテライトの「南大和久ふれあいの里」では、男性の参加者が多いという=2015年8月撮影、那須烏山市提供

コロナ対策は市が方針決めて対応策示す

新型コロナウイルス感染症の拡大で、2020年3月からふれあいの里は休止となり、感染対策の準備もできた昨年7月~12月の間は体操教室のみを開いてきました(2021年1月~2月は栃木県の緊急事態という判断に基づき全面的な休止)。

こうしたコロナ対策は、委託事業であることから市が方針を決め、体操教室を再開した際もチェックリストを作成するなどして住民の運営を支援してきました。例えば、体操教室のスタッフは早めに集まって会場の窓や扉を開けて換気をしながら、机や椅子などの消毒を実施。参加者には体温チェックを求め、マスク着用、建物に入る際に手指消毒、体操をしている間も30分ごとに窓を開けて空気の入れ替えなど、細かく定め、参加者も記録に残すようにしています。また、マスクを付けて体操しても無理のないメニューの提供や、ソーシャルディスタンスのための会場の椅子の配置などの情報提供もしています。

一方、昨年の緊急事態宣言時には、ふれあいの里の利用者のうち高齢者の独居世帯や高齢者夫婦のみの世帯を対象にメンタルケアのための調査を実施しました。海老原さんはこう振り返ります。

「コロナでうつ状態になっていた高齢者もいて、すぐ包括支援センターにつなげたケースもありました。高齢者は情報が届きにくいので過剰な心配をしてしまう人がいます」
「緊急事態宣言解除後、体操教室を再開しても家から出ない生活に慣れてしまった人たちがいます。そういう人にも定期的に声がけをするようにスタッフにお願いするなど気を配ることが大切だと思います」

新型コロナウイルス感染症対策として、那須烏山市では運営スタッフ向けの研修会を開き、ソーシャルディスタンスやマスクをしながら体操できるメニューに関する情報を共有しています=2020年6月撮影、那須烏山市提供
なすからすやま 高齢者ふれあいの里
向田地区に中核となる多機能型の「向田ふれあいの里」があるほか、サテライトとして市内14自治会に毎週体操教室を開く「ふれあいの里」がある。地域に住む高齢者を地域の人たちが支えるシステムで、社会的孤立の解消、自立支援の助長、介護予防を目的としている。厚生労働省「第9回 健康寿命をのばそう!アワード」(介護予防・高齢者生活支援分野)厚生労働大臣 優秀賞 自治体部門受賞。
那須烏山市の「高齢者ふれあいの里」に関する情報はこちら

おことわり

記事は2021年1月8日にオンライン取材したものです。新型コロナウイルス感染症の流行状況によって活動内容が変わることがあります。

「地域がいきいき 集まろう!通いの場 厚生労働省」

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この連載について

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