~「通いの場」からの便り~ 

移動販売×通いの場 相乗効果で外出機会やコミュニケーションを促す

通いの場終了後、移動販売で買い物をする参加者=2021年1月14日撮影、袋井市提供

~通いの場からの便り~ とれたて食楽部 Honey!ハニー!!(静岡県袋井市)

高齢者の外出機会やコミュニケーションの減少は介護予防に取り組むうえで大きな課題です。静岡県袋井市のファーマーズマーケット「とれたて食楽部(くらぶ)」とテナントのレストラン「Honey!ハニー!!」が手を組んで始めた移動販売は、市が推進する通いの場などの開催に合わせて巡回することで相乗効果を上げています。介護予防と食生活支援を組み合わせたこのモデルはどのようにして始まったのか? 関係者に運営のポイントを聞いてみました。

ポイントチェック

  • 地域の課題に取り組む人が結びつく
  • 自治体は地域住民による介護予防の促進の観点からアドバイス
  • 民間の事業ベースで持続可能なビジネスを考える
  • 通いの場参加者のニーズに応えることで他の地域にも広がる
  • コロナ禍でもできる事業スタイルを考える
【運営ポイント】

「社会課題を解決したい」という志が結びつく

マスクメロンの最高級ブランド「静岡クラウンメロン」の生産地として有名な袋井市は、「日本一健康文化都市」を宣言し、「健康」を柱としたまちづくりを進めてきました。また、妊娠期から子育て期までの切れ目ない子育て支援の充実やICTなどを活用した教育の実施などにより、若い世代が多く居住し、現在も緩やかな人口増加が続いています。しかし、袋井市でも高齢化は着実に進んでおり、誰もが住み慣れた地域で、健やかに自分らしく暮らしていける仕組みづくりが喫緊の課題となっています。これに加え、旧袋井市と旧浅羽町が合併し、南北に長い形となった現在の袋井市では、相次ぐ民間路線バスの廃止等により、移動手段の確保が地域の課題となっています。

このような中、「とれたて食楽部」と「Honey!ハニー!!」による取り組みは、自治体の補助金を受けずに始まり、長期間継続している点が特徴です。

JR袋井駅から徒歩10分ほどの住宅街に隣接する「とれたて食楽部」。2007年にオープンし、県西部の農家が生産した農産品が集積するファーマーズマーケットとフードコートがあり、地域住民の憩いの場になっています。「Honey!ハニー!!」は、2015年に出店したテナントです。地域が抱える社会課題の解決をビジネスで実現したいと考えていた、「とれたて食楽部」店長の村松英明さん(63)と「Honey!ハニー!!」店長の鈴木功三さん(42)の出会いが、今につながっています。

「最初に考えたのは、買い物に来られない高齢者などへの御用聞きでした。しかし、なかなか進みませんでした」(村松さん)

このような状況の中で新たにテナントに入った鈴木さんの想いを知りました。

「レストランを経営しつつも、どこかで社会課題を解決する仕事をしたいと考えていました。そこで高齢者向けに移動販売ができないかと考えました。個人事業主として取り組むにはハードルが高いと思っていたところ、村松さんも同じような考えを持っていることを知りました。この想いの合致から、とれたて食楽部から移動販売車や農産物の提供を受け、自分が運転、販売を行うという形ができ、2017年にスタートさせることができました」(鈴木さん)

しかし、最大の課題は、どこをどう回ればいいのかという点でした。

コロナ禍でも、高齢者の食生活支援や見守りのため、移動販売を休まなかったという=2020年7月撮影、袋井市提供

補助金なしの袋井市がとった支援とは

移動販売車の運営を担う鈴木さんは、まず近所の買い物に困っていそうな高齢者宅を回ることから始めました。ただし、民生委員からは守秘義務があるため、困っている家庭の個人情報を聞くことはできませんでした。試行錯誤を重ねる中で訪ねたのが、高齢者生活支援にかかわる市役所の地域包括ケア推進課や社会福祉協議会、地域包括支援センターでした。当初は高齢者宅への移動販売を通じて、見守りの役割を兼ねることを考えていたからです。

「地域包括ケア推進課からは『しぞ~かでん伝体操』(以下、でん伝体操)や居場所などを行っている各地の通いの場やサービス付き高齢者向け住宅を回ってみたらどうか、と開催場所や日時の情報を教えてもらいました」(鈴木さん)

でん伝体操は、米国国立保健研究所・老化医学研究所の50歳からの健康エクササイズを参考に静岡市が作成した介護予防体操です。袋井市では、高齢者が住み慣れた地域で暮らし続けることができるように地域全体で高齢者を支える施策を実施する地域包括ケア推進課や、高齢者自身も介護予防に取り組む施策を実施する健康づくり課などが連携し、関心がある各地区の住民にでん伝体操を取り入れるなどの通いの場の創設を働きかけていたところでした。

各地のでん伝体操などの開催日時に合わせてルートを組み立てることで、ビジネスとして成り立つような効率的な運行ルートができてきました。また、各地の通いの場にとっても、体操以外の楽しみが加わることによって参加者が増えたり、食生活のリズムができたりする効果が出てきました。地域包括ケア推進課の高橋史さん(40)は、地域の環境が整ってきたことも追い風になったと振り返ります。

「2018年に各地の公民館がコミュニティーセンターに変わりました。公民館は『社会教育的施設』ですが、コミュニティーセンターは『まちづくりの拠点』なので、地域の理解も得られやすくなったのです」

社会課題を解決しようとする民間の動きと、住民主体による介護予防が各地に展開、そして環境整備の後押しがあり、持続可能な取り組みに成長してきました。口コミとして広がり、ルート外の住民が、介護予防に関わる関係機関に「うちの地区にも来て欲しい」という要望を寄せる動きもでてきました。

通いの場のほか、子育て支援、居場所、移動販売などの開催日時がマッピングされた 「袋井市地域支え合いふれあい活動マップ 」が市民に公開されている

*「袋井市地域支え合いふれあい活動マップ 」はこちら

住民同士の会話も増え、見守り意識が高まる

通いの場に参加する人たちは、どう受け止めていたのでしょうか。2018年から「でん伝体操」の通いの場を始めた鈴木ミエ子さん(75)は、地域の事情についてこう話します。

「田園地帯に工場と集落が点在する農村地域です。車で7分ぐらいのところにホームセンターやスーパーがありますが、運転できない高齢者は誰かに乗せてもらって行くしかありませんでした。今、でん伝体操を開くと、ほとんどの参加者が終了後に移動販売を利用しています」

何よりも住民の変化が出てきたといいます。

「住民同士の仲が深まりました。道で出会ってもあいさつだけだったのが、立ち止まって話をするようになりました。一人暮らしの人への声かけも盛んになりました。表情や声の張りで『今日も元気だな』『何かあったのかな?』と相手の体調も感じられるぐらいの関係になってきています」

袋井市内には2019年度現在、通いの場が約180カ所あります。すべての通いの場を、移動販売がカバーしているわけではありません。

「この取り組みは行政機関からの発信で始まったわけではありません。移動販売にも通いの場にも市から補助金を出していません。行政機関の考えを押し付けず、地域課題に取り組む人たちの志をどう結びつけていくのかという観点で情報提供を行い、一緒に考えることでいい形で現実化することができました。これからは、他の事業者も含め、こうした取り組みが市内全域に面的に広がっていけば高齢者も安心して地域で暮らし続ける街づくりにつながっていくと思います」(高橋さん)

通いの場で体操をする住民=2021年1月14日撮影、袋井市提供

コロナ禍で通いの場自粛中も見守り兼ねた個人宅訪問で継続

新型コロナウイルス感染症の流行にはどう対応してきたのでしょうか。地域包括ケア推進課では、2020年4月の緊急事態宣言に伴い、通いの場の運営者に対して5月末までの自粛を要請しました。この中断をきっかけに、その後通いの場が再開されても来なくなったり、外出しなくなったりする人が出てきているといいます。

自宅での検温、マスク着用、椅子などの消毒、換気、ソーシャルディスタンス、おしゃべりを控えるといった点に注意をすることで、通いの場の自粛要請も6月に解除されました。地域包括ケア推進課は、体温計や運動や食事、健康状態を毎日記録するための「健康ノート」を作って配布し、不安で外に出られない状況でも自分自身の健康に気をつけてもらえるような工夫をしてきました。

一方、移動販売は通いの場関係者と連携し、自粛期間中に自宅に来て欲しいという人の自宅を巡回しました。買い物による食生活支援だけでなく、人が多く集まる外出を控えたいという高齢者の見守りにもつながり、事業の継続をしています。「Honey!ハニー!!」の鈴木さんは、この1年をこう振り返ります。

「コロナ禍で高齢者の外出の機会や生きがいが失われてきました。通いの場の楽しみと相乗効果が上がるような工夫をこれからも考えていきたいと思います」

「今後は移動販売車を少しずつ増やしていけたらいい」と話す村松さん(右)と鈴木さん(左)=2021年1月21日撮影、袋井市提供
とれたて食楽部
「とれたて食楽部」は、袋井市にある農機具メーカーの静岡製機が出資してできたファーマーズマーケット。県西部の農家約500人から野菜や果物、総菜などが集まる。店長の村松さんは、東京を拠点に全国のスーパーマーケットのコンサルティングをしていたが、故郷に戻り、この運営を任されている。
Honey!ハニー!!
「Honey!ハニー!!」は、お好み焼きや地場野菜を使用したお惣菜やサラダなどを提供する個人経営のレストラン。店長の鈴木さんは、20歳から5年間、京都の飲食店で調理を学んだ後、故郷に戻って出店した。移動販売は、鈴木さんのほか、妻、従業員2人の4人でシフトを組むことで、両立させている。
とれたて食楽部とHoney!ハニー!!は、厚生労働省「第9回 健康寿命をのばそう!アワード」(介護予防・高齢者生活支援分野)厚生労働大臣 優秀賞 企業部門受賞。

おことわり

記事は2021年1月14日にオンライン取材したものです。新型コロナウイルス感染症の流行状況によって活動内容が変わることがあります。

「地域がいきいき 集まろう!通いの場 厚生労働省」

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