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高齢独居の急増社会を支える「市民後見人」求む! 先進地・志木市の挑戦と課題

認知症など判断能力が十分でない人の身上保護や財産管理を行う「後見人制度」が注目されています。利用が増え続けることが見込まれる後見制度ですが、その需要を弁護士ら専門家だけではカバーできないため、市民後見人候補者の育成に力を入れている自治体があります。アクティブシニアの社会貢献活動の一つです。埼玉県志木市に住み、市民後見人の経験がある竹前栄二さん(74)と、最近、市民後見人に選任された鵜川京子さん(71)に、その魅力と課題について聞きました。

竹前栄二(たけまえ・えいじ)

74歳。子ども2人は独立し、現在は妻と2人暮らし。1971年、志木市内に戸建て住宅を購入して転入。60歳で会社員を定年退職。2006年、柳瀬川町内会長就任、2018年、町内会連合会長就任。市主催の市民後見人養成講座3期生。過去2人の被後見人の市民後見人になった経験がある。モットーは「誠実」。

鵜川京子(うかわ・きょうこ)

71歳。夫と2人暮らし。民間企業の事務職を経て、2010年から志木市社会福祉協議会の権利擁護支援員や訪問介護のヘルパーなどを経験。ファイナンシャルプランナー、話し相手ボランティアとしても活動している。市主催の市民後見人養成講座1期生。2020年10月に初めて市民後見人として選任された。モットーは「何事も一生懸命する」。

大きな正義感よりは少し地域貢献してみようという気持ち

高度経済成長時代に東京や大阪の郊外に建設されたニュータウンには、現在、同年代の人たちが多く暮らすことから、40%を超える高齢化率の地区がでてきています。独居世帯の増加や認知症の人の増加といった社会課題にどう立ち向かうか、問われる時代を迎えています。このような時代背景を受け、志木市が取り組んできたのが、市民後見人候補者の育成です。

家庭裁判所に選任される後見人は、被後見人の財産管理や身上保護を行います。弁護士や司法書士、社会福祉士など専門職が選任されるケースが一般的です。ただし、2025年には全国で認知症の人が約700万人に増加するという推計があるように、厚生労働省は2011年度から「市民後見推進事業」をスタートさせ、同じ地域で暮らす人たちがきめ細かな支援を行える市民後見人候補者の育成に力を入れてきました。なかでも志木市は、全国初の取り組みとして「志木市成年後見制度の利用を促進するための条例」を制定しています。

これまで2人の被後見人の市民後見人に選任されたことがある竹前さんは、定年退職後に始めた町内会長などの活動が市主催の市民後見人養成講座に通うきっかけになったそうです。

「町内会長になったことで志木市の地域福祉計画に携わるようになり、そこから福祉に関心を持ちました。地域の茶話会でも市民後見人制度の話を聞き、講習があるというので受けてみようかなと思ったんです」(竹前さん)

2007年から「話し相手ボランティア」の活動を続けてきた鵜川さんは、「何か地域の役に立つことができないかな」とずっと考えてきたそうです。

2人とも、大きな正義感よりは少し地域貢献してみようという気持ちからスタートしています。もう一つは、社会で話題になった高齢者を狙った詐欺事件があったからです。

「埼玉県内で高齢者宅を狙ったリフォーム詐欺事件がありました。それをきっかけに、2009年にNPO法人主催の市民後見人養成講座を受講し、その直後にあった志木市社会福祉協議会が当時開いていた養成講座にも申し込みました」(鵜川さん)

志木市で先進的に取り組みが行われてきた市民後見人の養成講座は、鵜川さんが受講した2009年度は志木市社会福祉協議会の自主事業として始まりました。2010年度~2012年度は市の補助事業、2013年度~2017年度は市の委託事業として社協が継続して担ってきましたが、2018年度以降は市が直接行っています。

養成講座は毎年、8月から9月にかけて週末に全5回開かれます(2020年度は新型コロナウイルス感染症の流行で開催されず)。現在は、講義のほか施設実習や家庭裁判所見学なども行っています。これまで各年14~32人が受講しています。その中から一部の人が、市民後見人の候補者として市に登録しています。

課題もあります。毎年、市が主催してきた養成講座は、募集定員50人の半分程度しか埋まらない状況が続いています。養成講座は2009年から始まり、これまで265人が受講しました。現在、市民後見人候補者となっているのは31人です。

活動報告書や金銭出納帳に細かく記録

では、実際に市民後見人としての活動が始まると、どのようなことをするのでしょうか。

市民後見人候補者は、家裁から選任されて初めて市民後見人となり活動が始まります。借金の整理や財産分与など権利関係が複雑に込み入った案件の場合は、受任調整会議で弁護士など専門職を推薦することになり、生活が安定している被後見人の案件が市民後見人候補者に託されます。

市民後見人として選任された後、具体的な活動はどのようなことをするのでしょうか。例えば、施設への入所や病気で入院して手術を受ける際には、家裁や親族による同意書のサインが必要になることがあります。市民後見人は、その関係者間を行き来して書類を集め、被後見人に代わって手続きをしていきます。スムーズにいく場合もあれば、なかなか理解が得られず、苦労することもあります。また、とても珍しいケースではありますが、被後見人の手持ちの生活資金が十分でなければ、本人からの依頼で不動産売却をして現金化することがあります。

こうした活動は、活動報告書や金銭出納帳に細かく記録し、家裁に報告していきます。年金受給額も預貯金も人によって違い、持続可能な方法は被後見人ごとに違います。

「一般的には1カ月に2、3回の頻度で被後見人の様子を見に行く程度ですが、病院の転院や、介護施設探しなどがあると一日中駆けずり回ることもありました」(竹前さん)

市民後見人は養成講座を修了してはいるものの、専門職とは違います。志木市では、市民後見人が孤立しないようにサポートをする「後見ネットワークセンター」を設けています。

「(選任されている間は)できるだけ細かく報告し、困っていることを相談しながら行き詰まらないようにやっていきました」(竹前さん)

「本人の生活と権利を守るために必要な契約や手続きを本人に代わって行うことの責任の重さを痛感しました。後見ネットワークセンターのサポートを受けているので心強く思います。ただし、養成講座を受けて登録された人は、社協時代のように法人後見人の支援員として経験を積んでから個人として活動する市民後見人を家裁から受けるようにした方が、よりスムーズに活動が行えると思います」(鵜川さん)

社協自体が法人後見人であることから、一部の人は法人後見人の支援員という形で活動をしてきましたが、市は法人後見人でないため、現在は支援員としての活動がなくなってしまったからです。

「地域で支え合うことで、より安心できる社会」目指して

市民後見人として気をつけなくてはいけないこともあります。鵜川さんは「本人(被後見人)の考えを受け入れることから始まります。信頼関係が重要で、自分の考えを押し付けてはいけません」といいます。竹前さんは「できるだけ寄り添うことで信頼関係が生まれていきます」と振り返ります。

報酬は、家裁で決められた額が支払われますが、高額ではありません。地域貢献という想(おも)いが支えになっているようです。竹前さんや鵜川さんが、毎年、市民後見人の候補者として登録を更新してきたのはなぜなのか聞いてみました。

「認知症の高齢者が増加して、親族が身近にいなかったり、頼れなかったりする人が増えています。『助けて!』『困っているんです!』と言葉を発することができない人たちの潜在的なニーズは高いと思います。身近にいる市民が市民を支える、地域で支え合うことで、より安心できる社会がつくられていくと思います」(鵜川さん)

「私の住んでいる町内も、高齢の独居世帯が多くなって、人と人とのつながりが薄れています。町内会で毎週、茶話会をしていますが、話をしていると、市民後見人が必要な人が地元にいることを感じます。市民後見人のニーズはこれから増えてくるでしょう」(竹前さん)

市役所内に設けられた「後見ネットワークセンター」のサポートを受けながら活動する鵜川京子さん(左)と竹前栄二さん

志木市共生社会推進課長からのメッセージ

まずは社会貢献したいという気持ちを醸成

中村修(なかむら・おさむ)

54歳。志木市共生社会推進課長。1989年、志木市役所入庁。児童福祉や高齢者福祉などの福祉部門を経て、現在は障がい者福祉を主とした福祉に係る横断的な役割の中で、共生社会の推進に努めている。モットーは「誰かがやらなければならないのなら、やる」。志木市の市民後見人制度について詳しく知りたい人は、ここから。

現在、市民後見人に選任されて活動しているのは5人。推薦するにも、慎重に見極めているという。

現在、志木市全体の高齢化率は24.5%で、全国平均と比較すればまだ低いのですが、一部の高度経済成長期に開発されたニュータウンなどでは40%を超えています。2025年には団塊の世代が75歳を迎え、10年先、15年先を見据えると、志木市は埼玉県内でも高齢化率が急速に高くなっていく地域です。独居や身寄りのない高齢者、親戚がいてもつながりがない高齢者が、これからもっと増えるとみています。

市民がお互いに支え合う街づくりを目指して地域包括ケアの考え方を進める中で、市民後見という制度も推進してきました。単身世帯の方で認知症が進んでいくと、自宅で一人暮らしをしていくことが大変になります。そういう高齢者を後見人によって守っていく必要があります。

市民後見人制度は、まだまだ市民への周知が不十分という課題があります。ボランティア活動より難しいイメージがあり、身近なものではないと感じる人が多いのかもしれません。私たちは、地域のために自分の力を役立てたいという人たちに、ぜひ活躍していただきたいと考えています。市としても、アクティブシニアの方々の力を様々な場面で借りながら、地域で住民同士の顔が見えるような関係のある街づくりを同時に進めていきたいと思います。

いま、市が力を入れているのは、いきなり市民後見人候補者になることを勧めるのではなく、地域住民が持つスキルと地域住民が求めているニーズをマッチングする事業を通じて、社会活動の活性化や地域に関心を持つことから始めています。その中で、近所付き合いが深まったり、高齢者サロンの活性化を通じたりしていく中で、社会貢献をしたいという気持ちを醸成していければと考えています。まずは、そこからです。

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