「フレイル」を専門家が解説 認知症との関係や心の問題、チェック方法も

「フレイル」の意味をはっきりと答えられますか? それは病気? ほうっておいて平気? 東京大学高齢社会総合研究機構・未来ビジョン研究センターの飯島勝矢教授によると、「健康と要介護の中間状態」と定義され、なによりも早期発見が大切なのだそうです。認知症や、昨今心配される「コロナフレイル」との関係もあり、高齢者だけでなく若い世代も知っておきたいキーワードです。要因や進行、予防法などについて、詳しく教わりました。

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フレイルについて解説してくれるのは……

飯島勝矢 (いいじま・かつや)
東京大学高齢社会総合研究機構 機構長、未来ビジョン研究センター 教授
東京慈恵会医科大学卒業後、千葉大学医学部付属病院循環器内科入局。東京大学大学院医学系研究科加齢医学講座講師、米スタンフォード大学循環器内科研究員などを経て現職。内閣府の「一億総活躍国民会議」有識者民間議員。フレイル予防のための大規模コホート研究やシステム構築に取り組み、高齢市民フレイルサポーター主導型の健康プログラム(通称フレイル・チェック)を推進している。

フレイルとは?「老いの坂道」のくだり始め

「フレイル」とは、「虚弱」を意味する英単語「frailty(フレイリティ)」から生まれた和製英語。筋力、食べる力の衰え、社会的なつながりの減少や認知機能の低下など、まだ介護を必要とする段階ではないけれど、かといって完全に健康であるとも言えない、「健康と要介護の中間状態」と定義されています。老いや加齢による心身の衰えは誰しも訪れるものですが、フレイルはそんな「老いの坂道」の途中に表れる様々なサイン、兆候とも言えるでしょう=図1

図1 老いの坂道

飯島勝矢医師監修のもと編集部で作製

フレイルの大きな特徴は、衰えはじめた心身の様々な機能を健康な状態へ戻すことができる、「可逆的な」段階であるということです。つまり、予防や対策が可能です。一方フレイルが進み要介護の状態に近づくほど戻り幅は小さく、「不可逆性」が高まります。重度の要介護や死につながることもあり、フレイルにならないように予防すること、フレイル状態になってもできるだけ早い段階でそれに気づき、対策をすることが重要です。「もう年だから、しかたがない」ではなく、「あなた次第である」ということを知ってもらうための体のサインでもあるのです。

フレイルの種類、「ロコモティブシンドローム」「サルコペニア」との関係

フレイルはとても多面的で、表れたかたも一人ひとり違います。また持病や、薬の服用がきっかけになることもあれば、家に引きこもるなど社会とのつながりの減少がきっかけになることもあります。健康な状態からプレフレイルへ、そしてフレイル、要介護の状態へと移る際には、それらが歯車のように絡み合いながら進んでいきます=図2

図2 フレイルの種類と関連性

国立長寿医療研究センター荒井秀典先生のスライドより飯島勝矢医師監修のもと編集部で作製

例えば、ひざや腰が痛い、何か病気になってしまったなど、体の衰えに関することは「身体的フレイル」といいます。加齢や運動不足が原因となり、骨や関節、筋肉、神経など運動に必要な身体機能が低下する「ロコモティブシンドローム」や、筋肉量が減少する「サルコペニア」も身体的フレイルの一つ。サルコペニアは発症すると転倒や骨折のリスクが高まりますし、将来寝たきりになる可能性も高いとされ、認知症のリスクやうつ傾向が増すことも分かっています。フレイルのリスクを高める、いちばんの要因でもあるのです。

独り暮らしや一人きりでの食事、外出や人と関わる機会の減少は「社会的フレイル」、うつや認知機能の低下は「心理・認知的フレイル」と分類されます。しかし「身体的フレイル」も含め、これらは決して別々に存在しているわけではありません。人とのつながりが薄くなったことで、認知機能が下がり、そのせいで余計に身体的な活動も減り、ひざが動かなくなる――というように、生活習慣や社会性などが互いに関連しています。つまり、一つの歯車が悪い方向に向くと、ほかの歯車も悪い方向に動いてしまいます。逆に、頑張ればその分、歯車は良い方向にも動くのです。

フレイルと軽度認知障害(MCI)との関係

心理・認知的フレイルの一つとして、「コグニティブ・フレイル」の研究が進んでいます。これは、軽度認知障害(MCI)の初期段階に身体的なフレイルが加わり、自立度が落ちやすくなった状態のことを言います。MCIは多くの場合、アルツハイマー型認知症へと進行することが知られていますが、それだけでなく、身体機能の低下やロコモティブシンドロームを加速させることが分かっており、社会的フレイルとも深く関わり合っていると考えられています。

フレイルとコロナ禍の関係

コロナ禍の状況も、フレイルにとっては大きなリスクです。コロナ禍前と昨年の緊急事態宣言解除後に、フレイル・チェックを導入している各地の自治体が行った調査結果を東大の高齢社会総合研究機構で比較したところ、多くの側面でフレイルが進んでいることがわかりました。私はこれを「コロナフレイル」と呼び、注意を呼びかけています。

まず目立ったのは滑舌の弱まりです。自粛生活が長期化すると外出の機会が減り孤立しやすい。人との会話がなくなったのが原因と考えられます。また食事を抜いたり、前日の残り物やパンなど、粗食ですませたりする人が増えており、食生活が大きく乱れていることも分かりました。その影響もあってか、筋肉量も減っています。

メディアでは「コロナ太り」が大きく取り上げられましたが、高齢者に関しては「コロナ痩せ」という人もたくさんいます。特に腹筋や背筋、体幹部分、インナーマッスルの衰えが顕著でした。これらはバランス能力の低下につながり、転倒しやすくなります。コロナを恐れるばかりに外出や運動の機会が少なくなると筋肉が減少し、サルコペニアを発症してしまいますし、筋肉量が減ることで免疫力も下がるため、フレイルの負のスパイラルに陥ってしまうのです。

現在では効果的な感染予防策も分かってきています。3密や、人混みを避けながら、できる範囲で日常生活の活動量を維持し、向上させられるよう取り組んで欲しいと思います。

フレイルかどうかを知るには? セルフチェックの方法

フレイル状態にあるかどうかを知るには、「栄養」「口腔(こうくう)」「運動」「社会性・心」の四つの面からテストを行い、判断します。筋肉量や手の握力の数値、滑舌の状態を詳しく調べる「総合(深掘り)チェック」もありますが、まずは2種類の簡易テストでセルフチェックが可能です。

一つは「指輪っかテスト」です=図3。ふくらはぎの太さを測ることで、簡単に体の筋肉が減り弱っていないかを知ることができます。

まず両手の親指と人さし指で輪を作り、利き足ではないほうのふくらはぎのいちばん太い部分を軽く囲みます。すき間ができる人はフレイルになる危険性が高く、ちょうど囲める人、また囲めない人は筋肉量が足りている可能性が高いといえるでしょう。このチェックは、サルコペニアの危険度を知るものでもあります。

図3 指輪っかテスト

『フレイル予防ハンドブック』(Tanaka T, Iijima K. Geriatr Gerontol Int. 2018)より飯島勝矢医師監修のもと編集部で作製

もう一つが、「イレブン・チェック」です=表111の質問に「はい」「いいえ」で答えて、フレイルの兆候を総合的に調べることができます。例えば「ほぼ同じ年齢の同性と比較して、健康に気をつけた食事を心がけている」や「130分以上の汗をかく運動を週2日以上、1年以上実施している」「1日に1回以上は、だれかと一緒に食事をしている」などです。回答欄の右側、色つきの欄への回答が02個であれば正常群、34個でプレフレイルの可能性、5個以上でフレイルの可能性が高いと判断することができます。

表1 イレブン・チェック

『フレイル予防ハンドブック』より飯島勝矢医師監修のもと編集部で作製

色つき欄への回答が多いほど、健康な状態に戻ることが難しくなり、中には1~2年後に要介護になってしまう人もいます。しかし、バランスのよい食事を心がけたり、日常的に運動したりと、一つでも色つき欄の回答が減るよう生活改善に取り組めば、必ずフレイルの危険性から1歩、2歩と遠ざかることができます。「イレブン・チェック」は、フレイルの早期発見と同時に、予防や対策のためのガイドにもなるのです。

医学的な部分はかかりつけの先生とコンタクトをとる必要がありますが、本人次第で健康な期間を延ばせる可能性は大いにあります。そのためにもぜひフレイル・チェックを積極的に活用してください。自治体によっては、行政主体で行っているところもあります。そこではより詳細な「総合(深掘り)チェック」で自身の状態を知ることができ、対策や予防についてもアドバイスが受けられます。お住まいの自治体がそういった取り組みをしているかどうか、窓口に問い合わせてみることも一つの手でしょう。

フレイル予防のためには

フレイル予防には、よく食べて(栄養)、運動して(身体活動)、人とつながる(社会参加)ことが何よりも大切です=4。しかし、長年運動習慣のなかった人に「定期的に運動しましょう」「毎日歩きましょう」といっても、継続することは難しいですよね。自分の生活習慣と照らし合わせたうえで、無理なく取り組めることでなくてはなりません。運動以外の活動だってばかにはできません。家事や買い物など、暮らしの中にある細かな日課、あるいは文化活動や地域ボランティアで人と集まってわいわい過ごすことだって、それなりの運動量になります。方法は十人十色。いかに生活に取り入れて継続するかを考える必要があります。

例えば、カラオケが好きな人であれば、その活動の中で考えます。月1回から週1回に増やせないか、3曲から8曲くらい歌えるようにならないだろうか、お友だちと2人きりでなくもっと大勢で楽しめないか。カラオケを終えたら、そこで別れるのではなく、ファミリーレストランに寄って、食事をしながら余分に2時間くらいおしゃべりしてはどうか――。こういった風に考えれば、その人なりフレイル予防ができるのです。

図4 フレイル予防の3本柱

飯島勝矢医師監修のもと編集部で作製

また見過ごされがちですが、オーラルフレイルの予防も重要です。オーラルフレイルとは、口まわりのちょっとした衰えのこと。「せんべい、さきいかなど、かみごたえのある硬いものを食べるのが厳しい」「みそ汁やお茶でむせる、食べこぼしがある」「滑舌が悪くなった」など、一つひとつはさほど生活に困ることではないのですが、それらが積み重なると、オーラルフレイルとなります。オーラルフレイルの兆候がある人は、そうでない人に対して、死亡率や要介護認定を受ける割合が倍近くなるという調査結果が出ており、軽く見ることはできないのです。

口の中というのは専門性が高く、医師である私が鏡で自分の歯を見つめても、わからないことの多い分野だと感じています。最低でも朝と夜の歯磨きはもちろん、かかりつけの歯科医を持ち、不具合がなくても、年に数回定期的なメンテナンスを受けることをお勧めしています。

読者へのメッセージ

なかでも、全国に数多くいる認知症サポーターの方たちには、大きな期待を寄せています。フレイル予防のために必要な「栄養」「身体活動」「社会参加」は、認知症の予防にも有効なものです。認知症の初期段階に関していえば、コグニティブ・フレイルのようにフレイル自体ともオーバーラップしています。認知症についての知識を持ったサポーターの人たちに、フレイルの知識も得てもらい、できればフレイル予防を市民に広める「フレイルサポーター」としても、それぞれの地域で一役買って欲しいと思います。

医学用語としての「フレイル」は、高齢者を対象にしたものではありますが、50代、60代前半の人にも該当する言葉です。そして私の願いとしては、一般社会の会話の中にも「フレイル」という言葉が浸透してほしいと思っています。例えば「メタボ」というと、今ではみんなが知っていて、使っている言葉ですよね。医学的に「メタボリックシンドローム」であるかは別として、「メタボ体形になっちゃった」なんて言われています。フレイルも、若い学生さんが友人同士の会話で、あるいは中高年の人が職場の同僚との会話の中で、「最近弱々しくなっているかな」「頑張らなきゃ」といった意味合いで「フレっている」「フレっちゃったかな」なんて使ってもらえたら、日本のフレイル予防はよりリアルに浸透していくと思っています。

(イラスト協力/朝日新聞メディアプロダクション)

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