近年注目の「オンライン診療」利用方法、メリット、注意点などを徹底解説
取材/中寺暁子
新型コロナウイルスの感染拡大でニーズが高まり、注目されるようになった「オンライン診療」。利用するにはさまざまな制約がありましたが、コロナ禍で一時的・特例的に規制が緩和され、利用しやすくなりました。条件や方法、メリット、注意点などについて、オンライン診療の整備づくりにも携わった専門家にうかがいました。
オンライン診療について解説してくれたのは……
- 宮田俊男(みやた・としお)
- 医療法人DENみいクリニック理事長
1999年早稲田大学理工学部機械工学科卒業、2003年大阪大学医学部医学科卒業。外科医として臨床に従事したのち、厚生労働省に入省、多くの医療改革に関わる。退官後、2017年から現職。地域医療を守るとともに生活習慣病の重症化予防、在宅医療にも取り組む。セルフケアアプリ「健こんぱす」考案者。早稲田大学理工学術院(大学院先進理工学研究科)教授。
オンライン診療とは
スマートフォンやタブレット、パソコンなどの情報通信機器を使って、離れた場所からリアルタイムで医師の診療を受ける「オンライン診療」。患者は医療機関に行くことなく、予約、診察、処方、決裁までをインターネット上で行うことができます。
オンライン診療は、以前は「遠隔診療」と呼ばれ、離島やへき地の患者など、必要な診療を対面で受けられない場合に限って認められていました。2018年にルールが整備され呼び方が「オンライン診療」に変わり、さらに2020年には新型コロナウイルスの感染拡大により、オンライン診療を受けられる対象が広がっています。
オンライン診療が進んだ歴史と背景
コロナ禍でニーズが高まったオンライン診療。どのように導入が進んできたのか、これまでの流れを説明します。
【1997年】
対面診療が困難である場合、例えば離島、へき地の患者の場合など、遠隔でなければ当面必要な診療を行うことができない場合に、電話や情報通信機器を用いた「遠隔診療」が認められました。
【2015年】
厚生労働省は「遠隔診療」の解釈を明確化し、遠隔診療の活用を広く認める方針を打ち出しました。具体的には、病状が安定していれば対象を離島やへき地の患者に限る必要がない、といったことです。
【2018年】
医療行為への対価が見直される「診療報酬改定」のタイミングで、名称が「遠隔診療」から「オンライン診療」へと変わり、「オンライン診療の適切な実施に関する指針」が作成され、明確に保険で使えるようになりました。ただし初診は原則、対面の診療が必要で、適切な例としては生活習慣病などの慢性疾患だけが挙げられ、導入は進みませんでした。
【2020年】
新型コロナウイルスの感染拡大により、院内感染を含む感染防止の観点で厚生労働省から通達が出され、医師の判断で初診からオンライン診療が可能になるなど、規制が緩和されました。また、処方薬に関しても規制が緩和され、薬局は医療機関からファクシミリなどで送付された処方箋をもとに、オンラインでの服薬指導を実施したのちに、患者の自宅に薬を配送できるようになりました。
こうした規制の緩和は時限的・特例的対応ではありますが、初診からのオンライン診療などについて、政府は恒久的に認める方針を打ち出しています。
オンライン診療の利用条件
規制が緩和されたとはいえ、オンライン診療はすべての人が対象になるわけではありません。利用の条件について説明します。
対応している医療機関を利用すること
オンライン診療に対応している医療機関は限られています。また、初診からオンライン診療に対応している医療機関はさらに限られます。対応している医療機関については、下記の厚生労働省のホームぺージで調べられます。
各医療機関で対応しているデバイスを持っていること
医療機関が指定するデバイス(スマートフォンやタブレット、パソコンなどの情報通信機器)を使用します。さらに医療機関が指定するオンライン診療用のアプリケーションをダウンロードし、ユーザー登録などの設定をする必要があります。
対応する疾患(病気)は医療機関によって異なるので確認が必要
オンライン診療に対応する診療科や疾患は各医療機関によって異なります。診療科については前述の厚生労働省のホームページでも確認できますが、疾患については電話やホームページなどで確認する必要があります。オンライン診療は患者の希望があってはじめて成立するものですが、実施できるかどうかについては医師が医学的な観点から判断します。
オンライン診療は、触診や聴診、血液検査、画像検査などができないことから、向いている疾患と向いていない疾患があります。例えば病状が安定している慢性疾患や視診で情報を得やすい皮膚疾患などは向いていますが、呼吸が苦しい、咳が止まらないなどの急性的な症状、触診が必要な腹痛、X線検査が必要な整形外科の疾患は不向きです。
オンライン診療では処方できない薬もある
医療用麻薬や向精神薬のほか、特に安全管理が必要な抗がん剤や免疫抑制剤などの薬は処方できません。
利用費用
オンライン診療の診療費や支払い方法について説明します。
診療費は対面よりも少し安い
診療費は対面に比べてオンラインのほうが若干安くなります。
支払方法の確認が必要
支払方法はクレジットカード決済、銀行振込、電子決済など医療機関によってさまざまです。事前に確認しましょう。
利用の流れ
オンライン診療の一般的な流れを紹介します。ただし、医療機関によって異なる部分もあります。
対応する医療機関を探す
受診したい医療機関がオンライン診療を実施しているかどうか、電話やホームページなどで確認します。または、前述した厚生労働省の「対応医療機関リスト」から探します。初診の場合は対応可能な医療機関がさらに限られるので、チェックすること。初診以降、来院を求められることもあるので、できれば通院しやすい医療機関がいいでしょう。
受診する医療機関が指定するデバイスやツールの準備
スマートフォン、タブレット、パソコンなど医療機関が指定する情報通信機器を用意します。多くの場合、事前にオンライン診療用のアプリケーションをダウンロードし、名前や連絡先、保険証番号など必要な情報を入力します。自分でできない場合は、家族やケアマネジャーなどの介護従事者がサポートします。
情報通信機器がない場合やアプリをダウンロードできないといった場合は、電話での診療も可能です。ただし、保険証の写しをファックスで送信しなければならない、視診ができないためオンラインに比べて診断の正確性が劣る、病状の変化に気づきにくいといったデメリットがあります。
予約する
アプリや電話で診察の予約をとります。
診察を受ける
予約した日時に医師からの着信があり、オンライン診療がスタートします。診察を受ける前に、お薬手帳や過去の検査結果を準備しておくとスムーズです。
会計、処方
支払いはクレジットカード決済や銀行振り込みなどで行います。処方箋は医療機関から薬局にファックスなどで送信され、オンラインで薬剤師の服薬指導を受けたうえで、薬を受け取ります。薬は配送してもらうことも可能です。
オンライン診療のメリット
対面診療と比べた場合、オンライン診療にはどのようなメリットがあるでしょうか?患者側、医師側からのメリットを説明します。
患者側のメリット
- 通院にかかる時間負担が軽減する
- 院内感染や二次感染の心配がない
- 会計の待ち時間や手間がなくなる
- 自宅など自分が希望する場で受診できる
- 診断や治療方針について遠方の専門医にも意見(セカンドオピニオン)を聞きたい場合などにも便利
医療機関側のメリット
- 遠方にいる患者のフォローが可能
- アプリ上で事前問診ができ、診察の効率化と質が向上
- サービス向上による新たな収益源の確保
オンライン診療のデメリット
対面診療と比べた場合、オンライン診療にはどのようなデメリットがあるでしょうか。患者側、医師側からのデメリットを説明します。
患者側のデメリット
- 情報通信機器、通信環境の準備が必要
- 医療機関ごとに使用するアプリなど、オンラインのシステムが異なる
- すべての疾患で対応してもらえるわけではない
- 初診からオンライン診療が可能な医療機関は少ない
- 薬が手に入るまでに時間がかかる場合が多い
- 自費診療の場合、処方される薬などに制約がない分、リスクがある場合もある
医療機関側のデメリット
- システム導入時に初期費用や手間がかかる
- 患者から得られる情報が制限されるので誤診のリスクがある
- 対面診療よりも診療報酬が少し低い
- 特に初診の場合、患者側の準備が万全ではないと、時間と手間がかかることがある