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地域とのコミュニケーションを重視する介護施設を訪ねたら地域福祉が見えてきた

京都市内でデイサービス(通所介護)を提供する介護施設が今、インクルーシブ社会の担い手として進化してきています。地域社会とシームレスでつながる京都福祉サービス協会の高齢者福祉施設「西院」で取り組まれている「sitteプロジェクト」を中心に、スタッフと地域住民の両側から話を聞いていくと、「地域福祉」の姿が見えてきました。(ポートレート用写真の撮影のとき、マスクを外して撮影しました)

現場職員が語り尽くす介護の未来の記事「京都から考えるⅠ 紫野編」はこちら

「要介護状態でも何もできなくなったわけではない」

西院は、京都市右京区の京福電気鉄道嵐山本線の西大路三条駅近くにあります。三条通りを東に行くと大正時代から続く京都三条会商店街のアーケードがあり、京都の中でも住みたい街ランキング上位の人気エリアです。

2021年12月20日、西院のデイサービスを訪ねると、スタッフやボランティアのアドバイスを受けながら木工をする人たちがいました。sitteプロジェクトのメンバーです。この日は、紙ヤスリで、スティック状に切り分けられた地元の北山杉の木片を加工し、sitteブランドのツボ押し棒を作っていました。

毎週月曜日に行われるsitteの木工の作業の様子

社会から求められていると実感できる「役割」

2018年8月のsitteスタート時から参加する海老愛子さん(94)は、「無心になって仕事をさせてもらえるので、何も雑念がわかないので楽しいです。ちゃんと仕上がったときはうれしい」と語ってくれました。

夫婦でクリーニング店を切り盛りし、夫が病気で倒れた後は娘夫婦と一緒に、計40年余り仕事を続けてきました。「引退」した後は、編み物をするなどして過ごしてきたそうです。一人暮らしでちょっと腰が痛くなるとベッドで横になることも増えてきました。

「その日が無事に過ごせたらいい。先のことは考えていない」

こう感じる日もありますが、毎週月曜日のsitteの木工は気分も違うそうです。

「生活に張りがでてくる。することがあることがうれしい」

丁寧にヤスリをかける海老愛子さん

「仕事をしていると、前向きになれます」

sitteプロジェクトの木工には、段本徳久さん(61)も参加しています。4年前、脳出血で倒れ、体に障害が残りました。染色の仕事は廃業せざるを得ませんでした。そんなとき、介護支援専門員(ケアマネジャー)に紹介してもらったのが、西院デイサービスのsitteです。2年前から利用しています。

「仕事をしていると、前向きになれます。ずっと家にいても、やることがない状態でした。家族からは何かやった方がいいと言われていました。デイサービスで仕事ができるなんて想像もつきませんでした。こういう取り組みをするデイサービスがもっと増えたらいいと思います」

「サービスを利用するだけでなく、sitteの仕事を通じて社会の役に立っていること、そしてその作業に対して対価がもらえることも大きいですね」

デイサービスを利用する人たちが、社会からサービスを受ける側でなく、社会に価値を提供できる側になれる点が、従来のデイサービスのプログラムと大きく違う点で、やりがいの喚起にもつながっています。

ボランティアのサポートを受けながら作業をする段本徳久さん(右)

「喫茶店でコーヒーとケーキをみんなで食べたときは楽しかった」

デイサービスという場は、高齢者が通いで介護や機能訓練を受ける場にとどまりません。sitteプロジェクトの特徴は、実社会につながる社会経済活動をすることです。作業の対価を地元の京都三条会商店街で100円単位で使えるsitteオリジナルの商店街の金券でもらえます。

新型コロナウイルス感染症のパンデミック前は、デイサービスの外出としてスタッフが同行し、sitteの金券を持って京都三条会商店街のアーケードに買い物に出掛ける光景が日常的でした。海老さんも、楽しい思い出を語ってくれました。

「野菜買って、焼き芋買って、靴下買って……。喫茶店でコーヒーとケーキをみんなで食べたときは楽しかった」

シルバーカー(高齢者手押し車)が欠かせないものの、「歩きたい」という意欲は、今も失っていません。

「地域を支えている」人たちがつながった

sitteの金券を発行し、メンバーが買い物に行く地元商店街の人たちは、このようなプロジェクトをどのように見ているのでしょうか。

明治41年の創業の馬場商店を両親と営む京都三条会商店街振興組合専務理事の馬場雅規さん(48)は、スタート当初をこう振り返ります。

「三条会は元々多くの金券を発行してきたので、難しいことはありませんでした。金券はsitteの事務局が買い取ってくれます。こちらは商店街の会員に『sitte金券が出回るので、快く使用してもらって』と伝えることと、週1回、三条会組合事務所で各商店から持ち込まれた金券を現金に換えることだけです。何より、それで買い物に来てくれるのですから、私たちが断る理由はないでしょう」

「普通なんです。地域密着の商店が多いので、買い物のお客さんの中にデイサービスに通う人やその家族がいるのは当たり前です。総菜を販売するうちの店では、95%が常連客、リピーターなんです。だから、高齢者の一人暮らしや二人暮らしが多いってことも知っています」

馬場商店がある地区だけでも、一人暮らしの高齢者が100人ほどいるという。長さ約800メートルある三条会商店街の商圏でいうと、1000人単位になると推測されるという。歩くのが不自由な高齢者もおり、馬場さんは数百円の買い物でも配達をしているそうです。

「買い物に来ていた一人暮らしの常連さんが、足を悪くして来られなくなりました。毎日のように配達し、5分ほど立ち話をすることで見守りをしてきたこともありました。また、頼まれれば、代わりに他の商店に買い物にも行きます。私の母親は店先で、常連さんだと30分も話し込んでいることがあります。非効率だと思うでしょうが、『地域を支えている』という気持ちで商売をしているんです」

馬場さんは30代のとき、「インターネットとパソコンがあれば生きていける」「アマゾンには何でもあるんだから」と考えていました。そのとき、母親からは「80歳になったとき、注文できるの?」、「(老いたとき、パソコンとインターネットだけで)生きていける?」と言われたそうです。その意味が、最近、分かってきたと言います。

「商店街にはコミュニケーションがあります。(リアルな)コミュニケーションは人生に欠かせません」

通常のデイサービスにない「今の私でも誰かに役立っている」感

「社会福祉法人がやっているデイサービスなので、介護だけでなく、福祉の仕事、つまり地域福祉の仕事もしなくてはなりません」

こう語るのは西院デイサービスセンターの田端重樹さん(43)です。介護支援専門員のほか、機能訓練指導員、作業療法士の資格を持ち、実務経験があります。sitteプロジェクトのコンセプト作りから携わってきたスタッフの一人です。

「ご利用者は、家族と暮らしていると介護される側です。sitteプロジェクトに参加するとご利用者に『今の私でも誰かの役に立っている』と感じてもらえている点が良いところです」

デイサービスに登録している人は約150人いますが、siiteプロジェクトに参加しているのは20人ほどです。西院が「働くデイ」に特化しているわけではありません。

「参加されている方々は、『自分の仕事』『自分の役割』と感じてくれています。自己肯定感が高まったり、少人数で行うことでチーム意識が醸成されたりしていています。そこが普通のデイサービスと違うところです」

地域の人たちにとって風通しのいい場所でありたい

西院は、地域の介護に関する総合的な窓口である「地域包括支援センター」(京都市からの運営委託)を設置しています。

コロナ禍の前は、月1回、西院が共催して「おいでやす食堂」が催されてきました。「赤ちゃんからおじいちゃんまでみんながワイワイ言いながらご飯を食べられる場所」として、毎回100人ほどが多世代交流を楽しんでいました。

この運営にも関わってきた西院デイサービスセンター生活相談員の頼尚美さん(54)はこう考えます。

「介護施設が地域の人が普段から入れるような、風通しのいい場所であったら、介護の仕事を目指す人も増えると思います」

おいでやす食堂はボランティアによる運営で、西院は共催という形ですが、毎回、カレーとサラダの下ごしらえは、sitteプロジェクトの参加者の役割として前日のデイサービスの中で行っています。

sitteプロジェクトのメニューは、木工のほか、刺し子、梅干し・みそづくり、洗車といったように多岐にわたります。

「ご利用者も最初はレク(レクリエーション)の一貫として考えていても、だんだん生き生きしてきます。働くということより、自分が何か社会に貢献しているということの実感がポイントだと思います」

実習で経験した自立支援を一緒にしたいと就職

2021年4月に入職した西院デイサービスセンターのケアワーカーの勝見祥平さん(23)は、社会福祉学部の学生時代に1カ月の実習をして魅力にとりつかれ、その後1年半、西院でアルバイトをしてきたそうです。

キーワードは「自立支援」。介護の仕事には「しんどいのかな」というイメージを持っていたそうですが、西院で実習したことで払拭されたそうです。

「実習、アルバイトを通じて、私も西院で自立支援というご利用者の生活を支える仕事をしたいと思うようになりました。できないことを少し助けるのが介護であり、それを実践している西院のスタッフの人たちと働きたいと思ったからです」

そんな勝見さんが考える理想の介護は、コロナ禍前に西院デイサービスセンターで実施していた、ご利用者の生まれ育った場所に行ってみたり、旅行をしたりといった「夢や希望をかなえる介護」をしたいという。

「病気や体の衰えで外出がしづらくなります。認知症のご利用者でも、生まれ育った地域を訪ねると、思い出したり、表情が良くなったりすることがあります。そういう小さな感動をご利用者と一緒に感じる介護を目指したいです」

「介護施設をまだまだ理解されていない人もいます。『何もできなくなった人が行くところ』といった誤ったイメージを持つ人もいます。家族が、地域の人が、ふらっと立ち寄ることができる介護施設になっていけばいいと思います」

 

西院の施設長、森賢一さんに聞く

現在の規模感でsitteを続けていきたい

sitteプロジェクトのような社会とのつながりがある取り組みは、これからもご利用者に歓迎されていくでしょう。現在は、デイサービスのご利用者を中心に実施しています。もっと地域の方に参加してもらったり、他施設に横展開もしていったりしたいところですが、まずは現在の規模感で継続していきたと考えています。

職員の中には「なんでそこまでしなくちゃいけないの?」と思う人もいます。そうした職員にも理解を促すため、異業種研修も採り入れています。そうすることで、マインドが外に向いていきます。企業や地域の人とのコミュニケーションが苦手な職員もいますが、窓口になれる職員もいます。少しずつ地域福祉の仕事に取り組んでいると理解してもらえるようにしていきたいと考えています。

地域づくりのきっかけになりたい

デイサービスのご利用者の中には、ご自宅でお風呂に入れなくなったり、一人で銭湯に行けなくなったりした人もいます。例えば、地域の「お風呂」に、日中空いている私たちの車の活用で送迎ができれば、ボランティアと一緒に地域の「お風呂」に入ることができるようになります。

最近は、地域住民の方たちが、「こんなことはできますか?」と声を掛けてくれるようになりました。「買い物や敬老会へ行けない人たちの送迎をしてくれませんか?」という相談もあります。

地元に「コミュニティ・カフェ」があれば、認知症を発症しても、デイサービスに通うより認知症カフェの運営に携わり、コーヒーをお客さんに出すような日常生活を送る方が生きやすいかもしれません。

私たちのような高齢者福祉施設は、地域作りのツールになると考えています。地域福祉を進めるためのきっかけ、拠点になると思います。

現場職員が語り尽くす介護の未来の記事「京都から考えるⅠ 紫野編」はこちら

『GO!GO!KAI-GOプロジェクト』は、年間を通じてさまざまなイベントを実施し、福祉・介護の大切さや未来の可能性を発信していきます。
本事業は、厚生労働省補助事業「令和3年度介護のしごと魅力発信等事業(体験型・参加型イベント)」を活用して、テレビ朝日映像が主催します。

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