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そうだったんだ!「認知症とは?」基礎知識を網羅 専門家が解説します

認知症とは?あらためて知りたい基礎知識、原因、予防、初期症状について

高齢化社会において、認知症は身近な病気の1つですが、原因となる病気や症状はさまざまです。原因となる脳の病気や初期症状、治療など、認知症の基本について理解を深めるために、長年認知症の研究や治療に携わってきた専門家にうかがいました。

認知症について解説してくれたのは……

池田学・大阪大学大学院医学系研究科精神医学分野教授
池田 学(いけだ・まなぶ)
大阪大学大学院医学系研究科精神医学分野教授
1984年東京大学理学部卒業。88年大阪大学医学部卒業。東京都精神医学総合研究所、兵庫県立高齢者脳機能研究センター、愛媛大学精神科神経科、ケンブリッジ大学神経科、熊本大学大学院生命科学研究部神経精神医学分野を経て、2016年5月より現職。厚生労働省「認知症のための縦断的連携パスを用いた医療と介護の連携に関する研究」「認知症初期集中支援チームが直面している地域における認知症にかかる困難事例の類型化とその対応のあり方に関する調査研究事業」など、臨床のかたわら、認知症に関する多くの研究に従事。

認知症とは

認知症は、一度獲得した認知機能が脳の病気などによって低下することで日常生活に支障が引き起こされる状態を総称した言葉です。認知症の現状や、もの忘れとの違いについて紹介します。

65歳以上の5人に1人が認知症

現在600万人以上の日本人が発症していると推計されている認知症。団塊の世代が75歳以上になる2025年には700万人以上、高齢者の5人に1人が認知症になると見込まれています(平成29年高齢社会白書)。認知症は今後ますます、家族や知り合い、そして自分自身など、誰がなってもおかしくない身近な状態になっていくのです。

「もの忘れ」と「認知症」の違い

認知症の代表的な症状であるもの忘れは、加齢によっても増えていくものです。認知症によるもの忘れと加齢によるもの忘れは、どう違うのでしょうか?
一言でいうと、もの忘れによって日常生活や仕事に支障が出ているかどうかです。もの忘れがあっても、日常生活に支障がなければ認知症ではないですし、支障があれば認知症である可能性が高いといえます。

認知症にはさまざまな種類がありますが、当事者が最も多い「アルツハイマー型認知症」は、初期の典型的な症状がもの忘れです。この場合の特徴は、体験したできごとそのものである「エピソード記憶」を忘れてしまうことです。例えば、数日前に1年に1回の定期検診を受けたとしたら、認知症の場合は受けたこと自体を忘れてしまいます。後で誰かに指摘されても思い出せません。一方加齢によるもの忘れの場合は、一時は忘れていたとしても誰かにそのことについて指摘されたり、あとでよく考えたりしたら、思い出すことができます。

家族が気づきやすい認知症によるもの忘れのサインとしては、本人から何度も同じことを確認されるようになることです。例えば病院の予約について「いつだっけ?」と聞かれ、その23時間後に再び「そろそろ病院に行く日だっけ?」というように、繰り返し同じ質問をされることがよくあります。

 「病院いつ?」「明日病院?」「そろそろ病院だね」など何度も確認している様子の男性と、困り顔の家族
家族が気づきやすい認知症のサインは、何度も同じ確認をするようになること

認知症の原因

認知症は脳の病気や障害などによって認知機能が低下し、日常生活にさまざまな支障が出てきた状態です。認知機能の低下を引き起こす脳の病気には、どのようなものがあるのでしょうか。

どのような種類があるのか

さまざまな種類がありますが、代表的なのが「アルツハイマー型認知症」「血管性認知症」「レビー小体型認知症」「前頭側頭型認知症」です。

【アルツハイマー型認知症】

認知症の中でもアルツハイマー型認知症が最も多く、全体の50~60%を占めます。アミロイドβとリン酸化タウというたんぱく質が、脳に蓄積することで認知機能が低下すると考えられています。

【血管性認知症】

血管性認知症は、脳梗塞など脳の血管の病気が原因となって発症するため、障害を受けている場所によって症状は異なります。例えば、記憶に関わる「海馬」や「視床」に障害がある場合、アルツハイマー型認知症と同様にもの忘れの症状が出ます。前頭葉に障害がある場合、もの忘れの症状は出にくいですが、意欲や実行機能の低下が目立ちます。意欲が低下すると趣味の活動が減り、家でゴロゴロするようになるので、高齢者のうつと間違われることもあります。
日本人に多い、脳の小血管の病気の場合は、前頭葉の機能が低下する傾向があります。

【レビー小体型認知症】

レビー小体型認知症は、脳の神経細胞に「レビー小体」というたんぱく質のかたまりができることが原因となり、発症します。実際にはいないはずのものが見える幻視、注意力など認知機能の変動、手足のふるえや歩く速度が遅くなる、夢を見ている時に体が動いたり寝言を言ったりするレム睡眠行動異常症、嗅覚の異常、便秘などが出ることもあります。症状が多様で、診断が難しいのが特徴です。

【前頭側頭型認知症】

前頭側頭型認知症は、脳の前頭葉や側頭葉の萎縮がみられる病気で、社会ルールが守れなくなる、抑制がきかなくなる、同じことを繰り返す、過食や甘い物を好むようになる、進行性の言葉の障害といった症状が特徴的です。65歳までに発症する若年性認知症を起こす代表的な病気で、指定難病でもあります。

※ 各認知症の詳しい説明はこちらにも
「アルツハイマー型認知症を専門医がわかりやすく徹底解説します」
「血管性認知症を専門医が徹底解説 原因、治療、知っておきたい“予防法”」
「前頭側頭型認知症を専門医が徹底解説 家族へのアドバイスも」
「レビー小体型認知症を専門医が解説 知っておきたい前兆やなりやすい人など」

意欲が低下して何もやる気がせず部屋でゴロゴロしている女性と、それを遠くから見ている家族
もの忘れの症状がなくても、意欲が低下して家の中でゴロゴロしている場合も要注意

認知症の症状は?

認知機能の低下による「中核症状」と「精神・心理症状」、さらには「神経症状」に分けられます。

中核症状……記憶力の低下のほか、時間や場所、人の認識ができなくなる、段取りが悪くなる、場に応じた判断ができなくなるといった症状です。
精神・心理症状……意欲低下、うつ、幻覚、妄想、怒りっぽくなる、睡眠障害など、介護の負担が大きくなる症状です。レビー小体型認知症や前頭側頭型認知症では、認知症が軽いうちから目立ってきます。
神経症状……脳血管性認知症では手足の麻痺や歩行障害などが、レビー小体型認知症では手足の震えや動かしにくさなどが初期から目立つ場合があります。

認知症は治らない?

アルツハイマー型認知症など多くの認知症は、根本的に治す方法は今のところありません。しかし、一部の認知症は治療が可能ですし、進行を予防できるものもあります。

 正常圧水頭症、脳腫瘍など、治療で認知症が治るタイプも

認知症の原因となる正常圧水頭症、慢性硬膜下血腫、脳腫瘍などは、それらを脳外科的に治療することによって認知症も治る可能性があります。また、甲状腺ホルモンやビタミンの不足による認知機能の低下は、それらを補うことによって回復が期待できます。ただし、治療が遅れると効果を期待できないことがあるので、早期に適切な治療を受けることが大切です。

どのような症状があるのか

認知症の症状は、その原因となる病気(原因疾患)によって異なり、さらに同じ原因疾患でも症状の出方には個人差があります。ここではアルツハイマー型認知症の認知機能の低下による典型的な症状について紹介します。

記憶障害が多いがそれだけではない

アルツハイマー型認知症は、物忘れから始まるのが特徴です。特に初期は、記憶の中でも数分から数十日前くらいに覚えた「近時記憶」、記憶の内容に注目した場合は体験した出来事の記憶である「エピソード記憶」が失われていく傾向があります。そのほか時間や場所がわからなくなったり、咄嗟に物の名前が出にくくなったり、理解力や判断力、実行機能が低下したりするといった症状があります。

時間や場所がわからなくなる

今日が何月何日かわからなくなるといった「時の見当識障害」も比較的初期から出現します。今日がいつかわからないので約束を守れなかったり、予定通りの行動ができなかったり、生活に支障が出てきます。季節の感覚が薄れ、季節に合わない服装をすることもあります。また、「ここがどこかわからなくなる」といった場所の把握も難しくなり、慣れた道でも迷うことがあります。

 料理の段取りが下手になり銀行口座の開設ができなくなる

日常生活では、料理の際に段取りが悪くなったり、新しく銀行口座を開設することが難しくなったりします。これらは理解力や判断力の低下のほか、計画をして、順序立てて行う実行機能の低下によるものです。

若年性認知症の特徴

認知症の最も大きな原因は加齢です。このため一般的には高齢で発症しますが、65歳未満で発症することもあり、その場合に「若年性認知症」と呼ばれています。高齢の認知症と比べてどのような特徴があるでしょうか。

原因疾患は多彩

高齢の認知症と同様にアルツハイマー型認知症が最も多いですが、血管性認知症、高齢での発症は少ない前頭側頭型認知症や外傷性認知症が続きます。さらには、稀な神経難病なども原因となります。
若年性認知症は経済的な問題を抱えやすく、家族への影響も大きくなる傾向があります。また、症状が出ても年齢的に認知症を疑いにくく、受診や診断が遅れやすいのも特徴です。若い世代でも認知症を発症するケースがあることを理解しておきましょう。

軽度認知障害(MCI)なら進行を予防できる可能性

認知症は、発症すると健常な状態に戻ることはできません。しかし、軽度認知障害(MCI)と呼ばれる認知症の前段階を高頻度に含む状態であれば、例えば高血圧や糖尿病の管理を徹底することにより脳梗塞や脳出血を予防でき、ひいては血管性認知症への進展を予防できる可能性もあります。

早期診断が大切

多くの認知症は、早期に診断されたとしても根本的に治すことはできません。しかし現在は、症状を一時的に改善する認知症治療薬が増え、治療の選択肢が広がっています。早い段階で治療薬の服用を開始すれば症状が軽い状態をより長く維持できますし、早期のほうが効果を得やすいというデータもあります。
また、先に述べたように正常圧水頭症など治療によって治る可能性がある認知症は、早期に適切な治療を受けることが大切です。

検査の方法

認知症の診断には、医師の問診と診察が重要であることは言うまでもありませんが、認知機能検査、脳画像検査、血液検査なども必要です。

目的によって様々な認知機能テストがあります。認知症のスクリーニングの検査では、「今日は何年、何月、何日、何曜日ですか?」といった見当識のほか、記憶、言語、空間認知などを短い時間に検索します。日本では、「改訂長谷川式簡易知能評価スケール」や「MMSE(ミニメンタルステート検査)」といった検査がよく使用されます。

アルツハイマー型認知症、前頭側頭型認知症では、多くの場合、脳の萎縮がみられます。CT検査やMRI検査といった画像検査では、脳の萎縮の状態を調べると同時に脳梗塞や脳出血の有無などを調べます。大学病院などでは、脳の血流を調べる「脳血流SPECT検査」が、特に早期の認知症に実施されることもあります。また、アルツハイマー型認知症とレビー小体型認知症を鑑別するために、「MIBG心筋シンチグラフィ」などの検査が行われることもあります。

認知症の予防と治療

【予防】

近年は、科学的に信頼性が高い認知症の発症リスクや予防方法についてのデータが発表されています。発症リスクとしては難聴、教育歴、喫煙、抑うつ、社会的孤立、頭部外傷、高血圧、運動不足、過剰飲酒、肥満、糖尿病などです。これらの中には、生活習慣を改善することである程度リスクを減らせるものが多くあります。

【薬物療法】

現在、日本で承認されている認知症の治療薬は、「ドネペジル(商品名アリセプト)」「ガランタミン(商品名レミニール)」「リバスチグミン(商品名イクセロンパッチ、リバスタッチパッチ)」「メマンチン(商品名メマリー)」の4種類があります。いずれも、残っている神経細胞ができるだけ長く働くようにするものです。

※ 認知症の薬物療法の詳細に関してはこちらにも
「認知症4大タイプの特徴と薬物療法を専門家が徹底解説 気になる新薬も」

使用できる薬は原因疾患によって異なり、アルツハイマー型認知症は4種類を使用できます。ドネペジルはレビー小体型認知症にも使用が認められています。手足が震える、筋肉がこわばるといったパーキンソン症状に対しては、パーキンソン病の治療薬「ゾニサミド(商品名トレリーフ)」を使用することもあります。

血管性認知症は、抗血小板薬や脳代謝改善薬などを使用します。アルツハイマー型を合併している場合は、認知症の治療薬を使用することもできます。
まだ承認はされていませんが、現在は症状を改善するだけではなく、進行を抑える可能性がある薬も次々と開発されています。今後ますます治療の選択肢が増えていくことが期待されています。

【非薬物療法】

認知機能訓練、認知刺激、運動療法、回想法、音楽療法、日常生活動作訓練などがあります。こうした非薬物療法はデイサービスやデイケアなどで提供されますが、昼夜のリズムを整え、活動性を維持することによって、症状の悪化を緩和することができます。
 非薬物療法では原因疾患に合わせた対応も大切です。例えばレビー小体型認知症は、症状に変動があり、認知機能が低下しているときにリハビリをすると転倒などのリスクがあります。このため、症状が落ち着いているときにリハビリに取り組むことが重要になります。

 前頭側頭型認知症は、「常同行動」といって毎日同じ時間に同じことをするという特徴的な症状があります。この症状を利用して、例えば毎日デイサービスで同じ時間に入浴するといった習慣を初期のうちからつけておきます。認知症は進行すると入浴拒否がよくみられますが、初期から習慣づけておけば進行してもスムーズに入浴できるのです。

 できるだけ長く自立した生活を送れるように環境を調整することも、治療と同様に大切なことです。

※ 非薬物療法の詳細に関してはこちらにも
「治る認知症と、認知症を疑った時のポイントを専門家が徹底解説」

家族やパートナーが認知症かもと感じたら

「認知症かもしれない」と感じたとき、家族やパートナーは何ができるでしょうか。

かかりつけ医に相談する

まずはかかりつけ医に相談しましょう。アルツハイマー型認知症の場合は、比較的典型的な症状が出やすいので、かかりつけ医でも認知症に理解があれば診断、治療までしてもらえることもあります。うつ病などほかの病気との見極めや原因疾患の特定が難しい場合は、認知症専門の医療機関や専門医を紹介してもらえるはずです。認知症は原因疾患によって進行具合や治療法が異なるので、まずは原因疾患を特定することが極めて重要です。

認知症を診る診療科は精神科や脳神経内科ですが、大事なのは医師が認知症を専門としているかどうかということ。日本認知症学会日本老年精神医学会が認定する専門医資格が1つの目安になります。専門医資格を持つ医師は、それぞれの学会のホームページで検索できます。
また、各都道府県には「認知症疾患医療センター」として認定された医療機関があり、専門医が常駐しているほか、介護・福祉施設、自治体と連携しています。地域包括支援センターの窓口で相談すると、こうした地域の医療機関を紹介してもらえるでしょう。

病院へ行くことをいやがったら

受診は勇気のいることです。また、認知症が進行してくると物忘れなどに対する自覚が薄れてきて、本人が受診を拒否する場合もしばしばあります。ケースバイケースではありますが、本人が納得しやすいのは、信頼しているかかりつけ医から受診を促してもらうことです。かかりつけ医がいない場合でも、例えば腰痛で整形外科にかかっていたら、その医師から紹介してもらうと抵抗がなく受診できるかもしれません。

医師が男性患者とその妻に「アルツハイマー型認知症です」と告知
認知症であることを本人に告知するかどうか、家族も話し合っておくことが必要

告知について考える

本人に対する認知症の告知については、専門医でも意見がわかれるところです。若年性認知症で仕事や子育てをしている場合は、将来の見通しを立てるためにも病気がどのように進行していくのかといったことを詳しく知る必要があるので、告知されることが多いようです。

高齢の認知症の場合でも、「認知症」という病名まではわからなくても自分が病気であることを知っておくほうが、服薬など納得して治療に臨むことができます。いずれにしても本人への告知について、家族でも話し合っておくことが大切です。

一人で抱え込まないで

認知症は、家族だけが支える病気ではありません。医療従事者のほか、介護が必要になった段階ではケアマネジャーや介護福祉士なども加わって、チームで支えていく病気です。また、専門職だけではなく、同じ立場の人とのつながりも今後の支えになります。

地域包括支援センターや家族会などの相談窓口紹介

  • 地域包括支援センター

高齢者やその家族を支援するため、各市町村に設置されている総合相談窓口。医療機関や介護保険サービスの紹介、介護予防に関する支援、要介護認定の申請などを行っています。市区町村に問い合わせると、近くの地域包括支援センターを教えてもらえます。

  • 認知症疾患医療センター

各都道府県に設置されている認知症疾患医療センターでは、認知症に関する専門知識がある精神保健福祉士などが、医療相談に応じています。また、認知症専門医の診察を受けることができます。

  • 若年性認知症コールセンター、若年性認知症支援コーディネーター

若年性認知症は、高齢発症とは異なる特有の悩みがあります。各都道府県では、若年性認知症の人やその家族からの相談窓口「若年性認知症コールセンター」を設置し、若年性認知症支援コーディネーターを配置しています。

  • 認知症の患者会・家族会

認知症当事者が集まる患者会や認知症の人を介護している人が集まる家族会も、貴重な相談の場です。公益社団法人「認知症の人と家族の会」は全国に支部があり、電話相談にも応じています。ほかにも各地域にはさまざまな患者会や家族会があり、住まいの市区町村や地域包括支援センターで紹介してもらうことができます。

  • 認知症カフェ

認知症の人やその家族が、地域の人や専門職と情報を共有し、お互いを理解するために開催されています。介護サービス施設・事業者、地域包括支援センター、市区町村などが運営していて、誰でも気軽に参加できるのが特徴です。情報交換や専門職への相談、認知症予防のための活動など、カフェによってさまざまな活動を行っています。全国で開催されている認知症カフェは当サイトで検索することができます。

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