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認知症になったときの「買い物」。見守ることでトラブル回避 もめない介護6

買い物帰りの女性のイメージ
コスガ聡一 撮影

「さっきまで、お札が入っていたはずなのに小銭しかない」
「きっと、また“あの人"が勝手にお金を交換しちゃったのよ」

義母がそんなことを言い始めたのはたしか、アルツハイマー型認知症だという診断が下ってから1カ月ぐらい経ったころのことです。

財布を見せてもらうと、たしかに中には小銭がギッシリ。お札は1枚も入っていません。義母には「自宅の2階に知らない女性が住んでいて、大切なものを盗んでいく」という、“もの盗られ妄想”もあり、小銭についてもしきりに「女ドロボウのしわざに違いない」と訴えていました。

認知症というと「もの忘れ」や「徘徊」のイメージが強いですが、「支払いの際に計算がうまくできなかったり、小銭の出し方がわからなったりする」のも、症状のひとつです。いくら出せばいいのかはわからないけど、「お金を払う必要がある」とはわかるので、ひとまず1万円札など多めに出す。そうこうしているうちに、財布が小銭だらけになってしまうわけです。

認知症だった祖母の財布もやはり、小銭でいっぱいになっていました。さて、問題はこの状態をどうとらえるか、です。

「しばらく見守ってみませんか」

当時、引き落とし関連の手続きなど、お金の管理を少しずつ手伝い始めてはいました。ただし、日常の買い物などについてはノータッチ。月々の生活費は義両親が自分たちで管理していました。

ケアマネジャーさんに相談すると、こうアドバイスされました。
「いずれは、ヘルパーさんに買い物をしてもらうなどの対策も必要になるかもしれません。ただ、いまのところは『買い物』はできているご様子なので、しばらく見守ってみませんか」

たしかに「小銭をいくら払えばいいか」はわからなくなっていますが、お会計はきちんとできている様子です。しかも、義母は買い物に行くのが大好き。「スーパーに行くと、社会のことがよくわかる」と口癖のように言っていました。

義母には「良かったら、小銭をお札に両替しましょうか」と何度か声をかけました。ただ、義母はその都度「そうねぇ……」と迷った後、「そこまでしなくてもいいわ」と、にこやかにお断り。そのうち、お互いが小銭の話題を出さなくなって、それっきり。気づけば、義母も「ドロボウが小銭に両替した」とは訴えなくなりました。

結局、トラブルは一度もなく

小銭の計算ができないだけではなく、お会計を忘れて万引きになってしまったら……という不安が、ふと頭をよぎったこともあります。ただ、義母にひとりで買い物に行くのをやめてもらうという選択には至りませんでした。その代わり、義母がよく行く接骨院やスーパーなどに電話をして、「高齢で少しもの忘れもあります。もし何かあったら連絡をください」と私の携帯番号を伝えておくことにしました。

ちなみに、義両親の買い物事情は時間の経過とともに少しずつ変化し、最終的にはヘルパーさんに代わりに行ってもらうスタイルになりました。足が衰え、転倒リスクが高いため、付き添いなしでの外出は避けるよう、デイケアで言われたのがきっかけでした。

小銭騒動が起きてから約1年半。地元のお店からは結局一度も、相談や苦情の電話はかかってこないまま。義母としては、自分で買い物に行けなくなるのは相当不本意なできごとだったはず。渋々ながら受け入れてくれたのは、最初の時点で無理矢理禁止しなかったおかげだったかもしれないなと、いまになって思います。

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